隠れた名盤に光を!「この作品そんなに悪いですか?」特集!

2006/07/07掲載
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世間一般の記憶から遠ざかること早幾年。代表作の陰に隠れて、ついつい忘れてしまいがちなディスクをクローズ・アップ! CDJスタッフがこっそりとレコメンドする味のある作品の数々をご賞味ください。
 なんとなく地味、決して代表作とはいえない、発売当時の評価が低かった、ジャケがダサい、中古で買ったせいかブックレットが付いていない、中古で買ったせいかカビが生えている、中古で買ったせいか中身が違っていた……そのほか諸々の理由にて、世間一般の記憶からすっかり忘れ去られた1枚。これを聴かなきゃ死刑! とはいかないものの、聴いてみてもいいんじゃない? なんてCDJスタッフが気弱に薦めます「この作品そんなに悪いですか?」ディスク特集! 貴方のCD/レコード棚で寝かされ続けているあの作品も登場するかも?


 微妙な色のインディゴジーンズに刺繍で描かれているタイトルが少しダサい、1971年にリリースされた『マッドマン』。エルトン・ジョンの作品の中でも埋もれてしまっていて有名ではないが、実はハズレ曲も少なく聴きやすい一枚となっている。美しいピアノが印象的な名曲「可愛いダンサー(マキシンに捧ぐ)」から始まるところがなんとも憎い。映画『あの頃ペニーレインと』(監督キャメロン・クロウ、出演ケイト・ハドソン他)でも使われているので、好きな人も多いハズです。ジャケ買いはやはり考えられませんが、中身勝負ということで発掘してみては。(酒)



 1st発表から3年の時を経て、98年にリリースされたMenswe@rの2ndアルバム。ルックス先行のチープな小物感がわざわいしたのか、ブリット・ポップ・ブーム終焉後にいち早くシーンから抹殺された彼らですが、人々が忘れた頃にひょっこり2ndを出してます。しかも、しっとり落ち着いたフォーク・ロック風のアルバムを。これがよくできたB面集みたいにジワジワ効いてきて、ブーム期に調子に乗りすぎたのを反省してんのかなあと余計な心配までさせてくれる逸品です。「デイドリーマー」(95年)あたりで見せたニューウェイヴ風のポップ・センスは皆無。ビシッと決めたタイトなスーツと前髪もどこへやら。ほぼ全曲がザ・バーズを思わせるアコースティック・ギター主体のミディアム・ナンバーで、なにやら謎めいた神秘性をうかがわせる作風に仕上がっております。起死回生どころかこれを最後に自然消滅したことを考えると、自身に捧げたレクイエムに聴こえる観もあり。ブリット・ポップのあだ花バンド面目躍如の一枚、と個人的には勝手に決め込んでます。(吉)



 極彩色なスライドが広がるサイケ感とはなんか違うんだけど、混沌としてて、煙は漂ってて、猥雑な感じがして。でもやっぱりカラフルで。そうやってみるとこれって、マッドチェスター・ミーツ・渋谷系? つまりはヘッド博士? このアルバムを聴くと、タンバリンとかマラカス持って、お花畑に飛び込んで柔らかい時間を過ごしたくなっちゃうのです。67年前後は多くのバンドが名盤と呼ばれるアルバムを発表してるから、これはホントに分が悪いアルバム。そのうえ、ストーンズでは『ビトゥイーン・ザ・バトンズ』『ベガーズ・バンケット』の間に位置するアルバムだから、そりゃもうハンデ背負いまくり。作ったのがストーンズじゃなければポップ・サイケの名盤と言われたんじゃないかな? なんて思ったり……。でも、あれですよ、ストーンズがサイケを作っちゃったところに面白さがあるんではないかと。明らかに時代に乗っかった一枚だし。いい感じにクレイジーだし。でも大好きだなあ、このアルバム。(千)



 独特の“スラッジ”感はストーナー・ロックの源流となり、モーターヘッドMC5が正面衝突、ブルーチアーが看病したような音楽性は“グランジ”の雑食性・時代性を如実に表している……と筆者が信じるバンド、マッドハニー。バンド自体も不当評価だ! と声を荒げたいところですが、本作『Piece Of Cake』は、なかでも特に評価が低いと思われるメジャー盤。ニルヴァーナ『NEVERMIND』発売の翌年リリース。1曲目は当時日本でも猛威をふるった“デス・テクノ”(ジュリアナズ・トーキョー! と絶叫するレジデントDJ ジョン・ロビンソンでおなじみ)を人力でプレイ、最後に「Piece Of Cake(=スラングでちょろいの意味)」とヒトコト。痛快。これがグランジ・ムーヴメントだったと断言します。響きわたるファズ・ギターの疾走感と骨抜きヴォーカル。マーク・アームがカート・コバーンにならなかった理由は、すべてこの1曲目に現れていると思う、歴史的名盤。(服)



 北欧のヘヴィ・メタル・バンドが2002年にリリースした6作目。発表された当時、一部のファンから“変わってしまった”と評されたようだ。“アメリカナイズされた”“今風になった”etc……。確かにその意見は外れていない。米国を意識したのは間違いないし、サウンド・メイキングは明らかにモダンだ。ただ、楽曲はいずれも素晴らしい。ブルータリティと叙情性のバランス、デス声を用いないコーラス、北欧トラッド調のバラード風ナンバーなど、改めて聴いてみると、新たなる傑作『カム・クラリティ』(2006年)の原型は、すべてこのアルバムで作り上げていたということがわかる。ギター・メロディよりも必要以上にリフを前面に押し出したミックスが、楽曲の良さを覆ってしまったという印象はあるにせよ、世界進出を目前にしたバンドの意欲に満ちた作品だと思う。当時、今作が気に入らなかったけれど『カム・クラリティ』は好きだ、というファンはもう一度聴いてみて欲しい。(敬)



 ポスター・サイズのブックレットに記載された「この音源に対する一切の批評を拒否する」なる名文句を読んで、うおおおパンク! と一人納得したネオ・パンク真っ盛りのあの日。東芝EMI移籍後にリリースされたなかでも、ついつい忘れてしまいがちなライヴ・アルバム(オリジナルは1988年リリース/再発は1994年)。ちょっぴり……どころか、だいぶ気恥ずかしさを醸し出すMCはさておき、『MEAT MARKET』発売後の充実したテンションのままに披露されるセット・リストはまさしく涙もの。ラストを飾る「GET THE GLORY」「LONDON NIGHT」「PARADISE」にて、青少年の心をペチャンコにした罪は重し! チャーミー、PON、NAOKI、MARU、黄金ラインナップのド渋なステージングが目に浮かぶよう。JICC出版・刊行『イースター』読みながらガーゼ・シャツに身を包みたい今日この頃です。(星)



 “エコバニ再編のキッカケとなったバンド”のみで片付けられることも多い、イアン・マッカロックとウィル・サージェントによるバンドの唯一作。再結成後のエコバニがベテラン・バンドらしい安定した叙情派ロックを刻むのに対し、ここでは緊張感のあるヴォーカルと硬質なギターが絡むハード・エッジなスタイルを披露。“コワレモノ”のようなバランス美を追求していた、かつての路線に近い作風は素通りしてしまうには、あまりに“もったいない”はず。メンバー自身は“忘れたい過去”といった感じの発言を以前にしていましたが、“いやいや、もったいないから!”と、ケニアの副環境相ワンガリさんが提唱する「もったいない」運動にもぜひ取り上げて欲しい、そんな好作であります。(徳)
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