ひところは比較的地味な存在と目されていた60〜80年代の日本のジャズが、にわかにクローズアップされています。旧譜の復刻が相次ぐ“昭和ジャズ”の魅力に迫りました。
現在、各レコードメーカーが積極的に日本のジャズ復刻企画を展開中。主なものだけでも「DEEP JAZZ REALITY - Japanese Rare Groove -」(コロムビア)、「RE-Jazz SWING」(キング)、「日本のジャズ・ジャイアンツ・シリーズ」(BMG)、「昭和ジャズ復刻シリーズ」(DIW/THINK!)、「TBM紙ジャケ&ハイブリッド復刻シリーズ」(ソニー・ミュージックダイレクト)、「J-Jazz Legend」「日本のジャズ名盤コレクション」「昭和ジャズ・レジェンド」(以上ソニー・ミュージック)など、名盤・珍盤入り混じっての再評価の波はもはや津波状態。昭和のジャズは花盛りといった様相を呈しています。
その和洋折衷のいなたいグルーヴ感がウケているのか、“和ジャズ”と称されクラブ・シーンでも人気がある(らしい)60〜80年代の日本のジャズ。復刻される作品群を今の耳であらためて聴いてみると、斬新なアプローチに目を見張り、新鮮な響きに耳を奪われること必至のアルバムが目白押しです。昭和という言葉がそのものが記号化され、カルチャーの一ジャンルとして成立するようになったことが、リスナーに広く受け入れられるようになった要因のひとつでもあります。「アメリカと比べたらやっぱりまだまだ」的な聴き方ではなく(実際は当時の日本ジャズは高度なプレイの連続です)、時を経て、海外モノにはない日本ジャズ独自の奥ゆかしさが聴こえてくるようになりました。
ただし昭和のジャズと一口に言ってみても、60年代から激動の時代に突入するジャズは、何がジャズなのかわからないほどにスタイルを激しく変えていきます。そこで今回は4ビートからフリー、フュージョン、モンド系まで特異なオリジナリティを放つ復刻作の中から、近日リリースのオススメCDをピックアップして以下にご紹介。日本でしか生まれ得ぬ、多面的な魅力を備えた“和のグルーヴ”をお試しあれ!
<昭和ジャズ再訪! 近日リリースおすすめCD選>
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白木秀雄/モダンでツイストイカすファンキーな昭和ジャズ! 絶頂期の白木クインテットが1962(昭和37)年に録音した10インチ盤を初CD化。ジャケ写もタイトルも痛快です。このグルーヴ感は現在では再現できない種類のもの。ちなみに前年作の
『祭りの幻想』も昭和ジャズの傑作と呼ばれる名盤。
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宮沢昭/フォー・ユニッツテナー・サックスの
宮沢が1969(昭和44)年に吹き込んだ緊張感あふれるスピリチュアルな一枚。こういうテンションの高さが激動の昭和ジャズの本流だったのかもしれません。
サイモン&ガーファンクルの「スカボロー・フェアー」を圧巻のインタープレイで昇華させる場面は奇跡的な美しさ。
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杉本喜代志クヮルテット/カントリー・ドリーム杉本の初リーダー作。1969(昭和44)年録音。のちに
ルー・ドナルドソンらと共演しソウルフルなギターを聴かせる杉本ですが、この時代のとんがり方はハンパなし。時代の空気をとらえた刺激的な作風に心地よささえ覚えます。ギターの情緒的なフレーズはいかにも日本風。
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タイム・ファイヴ/ディス・イズ・タイム・ファイヴヴォーカルものも順調に復刻されております。こちらは今も健在のコーラス・グループ、
タイム・ファイヴの1971(昭和46)年のデビュー作。スタンダードをいかにもの“和製風味”でカヴァーした昭和気質な一枚。ブラジルありスウィングありという節操のないとことろがまた良し! 初CD化。
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金井英人グループ/Q70年に発足した日本ジャズの名門レーベル、TBM(スリー・ブラインド・マイス)に残された1971(昭和46)年録音作。ベーシスト
金井の真摯な姿勢が伝わる前衛的な作品。重厚でヘヴィな音の群れ、タイトル通りに謎めいた雰囲気を醸すアルバム。当時のジャズを語るならTBM作品は外せません。
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鈴木勲トリオ/黒いオルフェTBMから1976(昭和51)年に出た人気アルバム。
鈴木のベースも気合いが入っていてビリビリくるけど、ファンキーなピアノの山本剛がまた最高! 昭和のジャズの中でも指折りのピアニストといっていいでしょう。TBM最大のヒット作
『ミスティ』(
山本剛)も日本ジャズの必聴盤。
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VA/ジャズ・イン・ジャパン Legends of 70'sナベサダ、
ヒノテル、
増尾好秋、
笠井紀美子、
菊地雅章……日本ジャズ界にスターが現れた70年代のメインストリームを俯瞰できるコンピ盤。混沌と静寂の中で熱風が吹き荒れた熱き昭和のジャズが結集。
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坂元輝トリオ/海を見ていたジョニー1980(昭和55)年録音、通称“海ジョニ”。激レア盤として有名な作品を初CD化。
テリー・ハーマンの名で活動する
坂元輝が盛岡のジャズ喫茶で録音した郷愁感いっぱいの逸品。
五木寛之がライナーノーツを寄せている点も昭和度高し。
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土岐英史とサンバ・フレンズ/ブラジル70年代にエッジのきいたシャープなジャズを展開していた
土岐は、80年代に入るとフュージョンに傾倒。これは現地のミュージシャンと組んで1981(昭和56)年に発表したブラジルもの。ライト感覚の昭和の香り漂う初CD化作品。