『24』『プリズン・ブレイク』など海外ドラマがブームとなっている今、その先駆けともいえる伝説のテレビ・シリーズ『ツイン・ピークス』の全エピソードが収録されたボックス・セット『ツイン・ピークス ゴールド・ボックス』が11月9日に発売。これを記念して海外ドラマ・ブームの先駆け的な作品といえる、この『ツイン・ピークス』を特集いたします。
『ツイン・ピークス』は1990年から91年にかけてアメリカ・ABCテレビにて放送された、
デヴィッド・リンチ監督によるテレビ・シリーズ。アメリカの北西部に位置する田舎町“ツイン・ピークス”を舞台に、川岸でビニールに包まれたローラ・パーマーの死体が発見されたことから、住民や町の実情が浮き彫りになり、事件は思わぬ方向へ進んでいく……といったミステリー・ドラマ。次々と増えていく登場人物、謎が謎を呼ぶ展開に多くの人が魅了され、世界中に多くのファンを生み出しました。ドラマは、エミー賞では14部門にノミネート、91年のゴールデン・グローブ賞では最優秀テレビ・ドラマ賞をはじめ4部門で受賞。
アンジェロ・バダラメンティによるテーマ曲は、1990年のグラミー賞にて“Best Pop Instrumental Performance”を受賞しました。(写真は
オリジナル・サウンドトラック)
放送当時は、映画関連の書籍(公式本)なども次々に出版されました。劇中にも登場する、ローラ・パーマーが12歳から書き始めた『ローラの日記』(デヴィッド・リンチの娘・ジェニファー・リンチ著)、FBI捜査官のデイル・クーパーがテープ・レコーダーに吹き込んだ言葉を書籍化した『クーパーは語る』(ドラマ脚本を手掛けたマーク・フロスト著)、ツイン・ピークスの街のガイドブック『Welcome to TWIN PEAKS ツイン・ピークスの歩き方』などが発売。日本未発売ではありますが、デイル・クーパーを演じた
カイル・マクラクラン自身が朗読する、デイル・クーパーのカセット・テープ『Diane…The Twin Peaks Tapes of Agent Cooper』なんていう商品も発売されました。そうやってみると、テレビ、書籍、カセット・テープ、あらゆる媒体を使ったメディア・ミックスが大々的に行なわれた画期的なドラマであったのかもしれません。
1992年には、ドラマ劇中にもチラッと登場するテレサ・バンクス事件とローラ・パーマーが殺害されるまでの7日間を描いた劇場版
『ローラ・パーマー 最期の7日間』も製作されました。一部キャストの変更はあったものの、ほぼ同じメンバーで製作され、こちらには
デヴィッド・ボウイもゲスト出演していたことでも話題になりました。
日本では、まだ開局したてのWOWOWにて放送(WOWOW試験放送の最後を飾った番組が『ツイン・ピークス』の序章)され、のちに地上波でもTBSで放送を開始。また、日本テレビの深夜番組『EXテレビ』などでは特集が何度も組まれ、TOKYO-FMでは『ツイン・ピークスへようこそ』なる番組が放送開始。と、メディアはこぞって『ツイン・ピークス』を取り上げました。上記の本が発売されたのはもちろんのこと、コーヒー好きのデイル・クーパー捜査官(カイル・マクラクラン)が、缶コーヒー「ジョージア」CMに出演。ツイン・ピークス観光ツアー、ローラ・パーマーの葬儀開催など、テレビ・ラジオといったメディアを超えた社会現象として盛り上がったのでした。
そんな『ツイン・ピークス』の魅力を挙げるならば、デヴィッド・リンチ特有の世界観が、ドラマという枠組みの中でしっかりと活かされていることでしょう。
『イレイザーヘッド』のようなインダストリアルな質感、
『ブルー・ベルベット』のような日常にひそむ狂気とエロス。存在そのものが謎だらけの登場人物。あらゆるところに伏線を引き、登場人物のすべてが怪しく見えてくる展開などは、まさにリンチの真骨頂。
軸となるローラ・パーマー殺害事件では超常現象やオカルト要素を盛り込み、トルーマン保安官をはじめとする登場人物の恋愛模様は昼メロ・ドラマのごとく進んでいく。『ツイン・ピークス』の後に製作されたテレビ・シリーズ『オン・ジ・エア』(なんと7話で打ち切り!)でも見られるナンセンス・コメディの香りもちらほらと顔を出し、リンチ本人が登場するシーンでコメディ要素が一気に膨れ上がるところもご愛嬌。
また、過去のドラマや映画の引用も多いと言われるこの作品。随所にちりばめられたネタを探しながら観るのも、ファンの楽しみの一つかもしれませんね。
さて、今回の
DVDには、5.1chサラウンドによる英語音声(日本語吹替音声はドルビーデジタル・モノラル)によるファースト・シーズン、セカンド・シーズン全話をはじめ、別エンディングのパイロット版、人気番組『サタデーナイト・ライヴ』にカイル・マクラクランが出演した際の映像などのほか、未公開シーンやメイキングなども収録。デヴィッド・リンチとキャストによるトークや先に挙げた「ジョージア」のCMも収録と、『ツイン・ピークス』の世界に足を踏み入れてしまったファンにはたまらない一品になっています。
ただのミステリー・ドラマでは片付けられない、デヴィッド・リンチにしか表現できないであろうこの『ツイン・ピークス』(ちなみにリンチ自身が監督を手掛けたのは全29話中6話ですが)。放送当時からその世界にどっぷり浸っているマニアも、今回初めて観るという人も、ブラック・コーヒーとチェリー・パイ、そしてたくさんのドーナツを用意して、このツイン・ピークスの奥深い世界を堪能してみてはいかがでしょうか?