ホラーなだけがゾンビじゃない! 5つの角度から観るゾンビ映画!

2007/12/12掲載
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死人がよみがえり、人々を襲うというシンプルな設定ながらも、熱狂的なファンが存在するゾンビ映画。そんなゾンビ映画の金字塔、ジョージ・A・ロメロのゾンビ3部作『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』『ゾンビ』『死霊のえじき』のDVDが、12月21日に再発売されます。ホラー映画としての側面が強いゾンビ映画ですが、数多く製作された作品を俯瞰してみると、いくつかのタイプに分けることができます。今回は「社会派映画」「コメディ、ファミリー映画」「純粋なホラー映画」「アクション映画」「こんな人も製作していたゾンビ映画」といった5つの切り口から、ゾンビ映画の数々をご紹介。
 「社会派映画」としてのゾンビ映画の代表で紹介するのは、今回、再発売されるジョージ・A・ロメロのゾンビ3部作。こちらにはベトナム戦争や人種差別、資本主義への批判などの社会的メッセージが盛り込まれていると言われています。黒人を主人公にした第1作『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』は公民権運動とリンクし、2作目の『ゾンビ』ではスーパーマーケットを舞台にすることで、資本主義への痛烈な批判が盛り込まれています。3作目の『死霊のえじき』ではゾンビが地球を覆い尽くし、地下基地を舞台に軍、科学者、民間人の対立なども描きつつ、軍や核に対して警告。もちろん、本物の牛や豚の内臓を使ったそのゴアな描写も満載ですが、製作当時の時代背景を反映している社会派映画としての側面もあるこの3作品。視点を変えて観ると、物語の意味合いが変わって見え、ホラー映画の枠を超えた、その時代を象徴する社会派映画と感じることもできるはずです。

 「コメディ、ファミリー映画」として楽しめるゾンビ映画を次にご紹介。まずは、『THE RETURN OF THE LIVING DEAD』という原題からもわかるように、実は『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』の権利上の続編である『バタリアン』。本格的なゾンビ映画として製作されているものの、ゾンビのパロディ映画になっているこの映画は、強烈な個性を放つ“オバンバ”“タールマン”といったキャラクター(ゾンビ)や、マイケル・ジャクソン「スリラー」のコスプレをしたゾンビなどが登場し、恐怖を上回る笑いを呼びます。また、この秋に劇場公開された50年代のアメリカを舞台にペットとして飼われるゾンビと少年の物語『ゾンビーノ』(公式サイト : http://zombino.jp/)。ゾンビ映画なのに観る者をなごませてくれるこの作品は、人種問題などの社会的な面もさりげなく盛り込むなど、ロメロ作品に通じるところも。また、80年代に人気を博したキョンシー映画は、家族で楽しめるアットホームなゾンビ映画かもしれませんね。

 「純粋なホラー映画」としてのゾンビ映画は、あのタランティーノもファンと公言する、ルチオ・フルチ監督の『サンゲリア』を紹介。目を背けたくなるようなシーンが続出し、観る者を恐怖のどん底へと突き落とします。フルチ監督は続く『地獄の門』『ビヨンド』でもゾンビを描いていますが、ストーリー展開を無視した壮絶なる残酷描写は健在。腐敗臭が漂ってきそうなゾンビと想像を絶する残酷描写が、フルチ監督によるゾンビ映画の特長と言っていいでしょう。物語なんてどうでもいい、視覚的な刺激が欲しいという人にオススメします。

 「近年のゾンビ映画」はというと、サバイバル・アクション映画としての一面も持つものが多く、人気ゲ−ムを映画化した『ハウス・オブ・ザ・デッド』『バイオハザード』などが挙げられるでしょう。また、ダニー・ボイル監督による『28日後…』ザック・スナイダー監督によるロメロ監督の『ゾンビ』のリメイク『ドーン・オブ・ザ・デッド』では、ゆっくりノソノソ徘徊するというゾンビのセオリーを根底から覆した、走るゾンビが登場。全速力で主人公たちを追いかけてくる映像は、緊張感と恐怖感を高め、ゾンビの新たな手法を提示したエポックメイキング的な作品として捉えることができるでしょう。そうやってみると、ホラー的要素はもちろんですが、アクション要素をふんだんに盛り込み、ゲームやアニメのようにスピーディーな展開で進むものが、近年のゾンビ映画の特徴かもしれません。

 最後に「こんな人も製作していたゾンビ映画」を紹介しましょう。今ではハリウッド大作を手がける有名監督も、昔はゾンビ映画を製作していました。トビー・マグワイア主演の大ヒット映画『スパイダーマン』で知られるサム・ライミ監督のデビュー作『死霊のはらわた』は、壮絶なスプラッター描写によるゾンビ映画の傑作として名高い作品。また、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズでアカデミー賞を受賞したピーター・ジャクソンは、ハリウッド進出前にゾンビ映画『ブレインデッド』を製作。ダークなトーンで描かれるその独特な世界観とブラック・ユーモアに満ちあふれたこの作品は、これでもかというほど飛び散る血と肉の塊による一大スプラッター作品。その過剰なまでの描写は怖さを超えて、爆笑を呼んでしまうほど。両監督の近年の作品では観ることのできない、その過激な作風に驚く人も多いことでしょう。

 上記の5つのキーワードの共通項を分析してみると、“怖い”という印象だけに留まらない、さらに深い味わいが読み取れます。観ている者に何かを訴えてくる、メッセージ性も持ちあわせた映画であることにも気付くはずです。そう考えてみると、ゾンビ映画をさらに楽しむことができると思います。

 個人的な印象を述べれば、ゾンビに襲われるという極限状態での人間の行動や発言、また、心の奥底に潜む欲望をむき出す姿の方が、ゾンビよりも怖い存在に感じました。みなさんはどう思われますか?
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