ミュージシャンが手掛けた映画音楽!

2008/04/16掲載
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 4月26日から公開される、ダニエル・デイ・ルイス主演の映画『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』。本年度のアカデミー賞にて8部門にノミネートされ、主演男優賞など2部門を受賞したこの映画のスコアを、イギリスを代表するロック・バンド、レディオヘッドのメンバー、ジョニー・グリーンウッドが担当。映画ファンだけでなく音楽ファンからも注目を集めています。このようにミュージシャンが音楽を担当した映画は、古くから数多く存在しています。今回は、そんな映画の数々をご紹介いたします。
■『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』オフィシャル・サイト
http://www.movies.co.jp/therewillbeblood/


■ビートルズと映画音楽
 サイレント映画の時代から音楽と映画は常に密接な関係にありました。作品の世界観をより効果的に、より深く伝えるのに、音楽は必要不可欠なものでした。そんな映画音楽をミュージシャンが手掛けた作品の元祖となると、60年代に公開されたこの2作が挙げられるのでは? 若い夫婦が家族と同居することになって起こる騒動を描いたコメディ『ふたりだけの窓(原題:Family Way)』と、ジェーン・バーキン主演のサイケデリック・ムービー『ワンダーウォール』。前者はポール・マッカートニーが音楽を担当し、ジョージ・マーティン・オーケストラが演奏。後者はジョージ・ハリスンが映画音楽を担当、アシッドかつサイケデリックな世界観を見事に演出するインド音楽が使用されています。サントラ盤はジョージ最初のソロ・アルバムとしても発売されました。ミュージシャンが自身の出演映画で音楽を手掛けたものはありましたが、映画のスコアのみをミュージシャンが手掛けたのは、これが最初の作品だったのではないでしょうか?


■プログレッシヴ・ロックと映画音楽
 ドラッグ・カルチャーのど真ん中を突き進む『モア』や女性の“生”の歓びを描く『ラ・ヴァレ』など、バルベ・シュローデル監督の映画2作品で映画音楽を担当したのがピンク・フロイド。白昼夢を見ているかのようなサイケ感で映画を演出しています。イタリアン・ホラーの巨匠、ダリオ・アルジェントの代表作『サスペリア』ジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』などを手掛けたゴブリンは、『サスペリア』で、囁くような声や太鼓の音を活かした音響効果的な楽曲で恐怖感を倍増させ、映画をより印象づけました。キース・エマーソンも同監督のホラー『インフェルノ』シルヴェスター・スタローン主演のアクション映画『ナイトホークス』の音楽を制作しています。意外にホラー映画とのつながりも多い、プログレッシヴ・ロック。やはり劇的に展開されるその音楽性が映像にマッチするのでしょうか。


■ソロ・アーティストによる映画音楽
 ヴィム・ヴェンダースの映画『パリ・テキサス』が有名なライ・クーダー『ストリート・オブ・ファイヤー』『ジョニー・ハンサム』『ラストマン・スタンディング』など数多くの作品を手掛け、ノラ・ジョーンズ主演、ウォン・カーウァイ監督最新作『マイ・ブルーベリー・ナイツ』(現在公開中)でもその手腕を発揮し、印象的なスコアを披露しています。ピーター・ガブリエルは、アラン・パーカー監督の映画『バーディ』マーティン・スコセッシ監督の『最後の誘惑』、ノンフィクション小説を映画化した『裸足の1500マイル』でスコアを担当。どことなく社会性の強い映画を手掛けているところがピーター・ガブリエルらしいところですね。


■近年のロック・バンドと映画音楽
 モグワイがサッカーの元フランス代表、ジダンを描いた映画『ジダン 神が愛した男』、また、マッシヴ・アタックリュック・ベッソン製作の『ダニー・ザ・ドッグ』で映画音楽を制作し、映画とともに話題になりました。他にも、ベル&セバスチャントッド・ソロンズ監督の『ストーリーテリング』(音楽を手掛けるも、劇中ではほとんど使われなかったとか……)、エールソフィア・コッポラの初監督作『ヴァージン・スーサイズ』などで音楽を担当しています。ソフィア・コッポラの映画では、元レッド・クロスのブライアン・レイチェルやマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン・シールズも音楽に携わっているので、ロック・ファンにはおなじみかもしれませんね。

 日本映画でも海外同様にロック・バンドやアーティストが映画音楽を手がける機会が増えています。妻夫木聡主演の映画『ジョゼと虎と魚たち』ではくるりが音楽を手がけ、ギター・バンド的な音楽性とは違ったダブ的要素を交えた音楽を制作。9人の脱獄囚がとある目的のために連帯感を強め、自分を見出していく、原田芳雄松田龍平主演の映画『ナイン・ソウルズ』ではdipが音楽を担当。その独特なギター・サウンドで映画の世界観をより際立たせています。この他にも、『水曜どうでしょう』でおなじみの鈴井貴之初監督作品『man-hole』でカーネーション直枝政広が、昨年公開された新垣結衣主演の映画『恋するマドリ』ではスネオヘアーが音楽を担当。曽我淳一トルネード竜巻)は、人気マンガの実写映画 『魁!男塾』で音楽を手掛けています。


■中田ヤスタカと映画音楽
 「space staion No.9」「空飛ぶ都市計画」などのショート・ムービーやハウスのCMなどでスタジオジブリとタッグを組むなど、映画の世界ともつながりがある中田ヤスタカcapsule)。2001年に公開された、佐藤浩市大塚寧々宮沢りえ出演のサイコ・スリラー『うつつ』で音楽を担当しています。現在のエレクトロ・サウンドとは違った、不安感を呼び起こすようなスコアは、初期capsuleにも通じるクールなサウンド(ちなみにアルバム『ハイカラガール』に収録されている「うつつ」は、この映画で使用された楽曲の別ヴァージョン)。この映画で使用された音楽は、劇中でしか聴くことができないので、ファンの方はDVDをチェックしてみてはいかがでしょうか?(DVD特典映像には、舞台挨拶に登場するデビュー当時の中田氏の姿も!)


■映画音楽で賞を受賞した国内ミュージシャン
 やはり最初に思い浮かぶのが、ベルナルド・ベルトルッチ監督の『ラスト・エンペラー』で1987年度アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞した坂本龍一。これによって、坂本龍一という名前がミュージシャンとしてだけでなく、映画音楽家として世界中に広がったといっても過言ではないでしょう。その後もベルナルド・ベルトルッチ監督の『シェルタリング・スカイ』『リトル・ブッダ』や、ニコラス・ケイジ主演のハリウッド映画『スネーク・アイズ』、最近では『シルク』など数多くの映画音楽を制作しています。音楽の世界だけでなく、映画の世界でも第一線で活躍するミュージシャンの代表格として挙げられるでしょう。

 また、国内の映画賞を受賞したミュージシャンもいます。松田岳二Cubismo Grafico)は、妻夫木聡主演の大ヒット映画『ウォーターボーイズ』で、2001年度の日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞。『軍隊を捨てた国』『アナライフ』などの映画でも音楽を担当しているレイ・ハラカミは、2007年に公開された夏帆主演の映画『天然コケッコー』で、第62回毎日映画コンクール、第3回大阪シネマフェスティバルにて音楽賞を受賞しています。自身の音楽性をしっかり生かしたスコアで映画を彩り、映画賞を受賞した彼ら。今後もこのように映画賞を受賞するミュージシャンが増えていくかもしれませんね。


 今回、紹介した作品のほとんどはサウンドトラック盤が発売されていますが、アーティスト自身のオリジナル・アルバムとして発表されているものもあります。映画という媒体を取り外した状態で、そのサウンドトラックを聴いてみると、あらためてアーティストの違った一面、引き出しの多さに気づくかもしれません。映画という媒体を通して、アーティストが新たな表現活動を行なった作品、それが映画音楽。そう考えることもできるかもしれませんね。
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