生ピアノとは違った、独特の温かい音色を持つエレクトリック・ピアノ。そんなエレクトリック・ピアノを代表する機種であるフェンダー・ローズとはいったいどんなものなのか? 今回はその歴史などに触れながらフェンダー・ローズを紹介していきます。
■年代によって変化するフェンダー・ローズ
フェンダー・ローズはウーリッツァーやホーナーと並ぶ、エレクトリック・ピアノの代表機種。その名前からもわかるように、ストラトキャスターやテレキャスターといったギターを世に送り出し、世界的に知られるアメリカのギター・メーカー、フェンダー社から発売された鍵盤楽器になります。といってもフェンダー社が独自に開発したものではなく、1940年代にハロルド・ローズなる人物によって開発されたもの。元々はアメリカ陸軍在籍時に、航空機の部品を使用してシロフォンを製作したローズ氏が、その経験を活かし、ピアノの練習などに使用できる鍵盤楽器を製作したことが始まり。50年代になると、ギターのようなピックアップと独自に開発した調律できる棒“ティン”を搭載した最初のエレクトリック・キーボード“RHODES Bass”を完成させました。その後、フェンダー社がローズ氏の会社を買収し、60年代はじめにボリュームやトーン・コントロールを搭載したエレクトリック・ピアノ(33鍵仕様のピアノ・ベースなど4機種)を発表。そして、65年に73鍵仕様による“フェンダー・ローズ”を発表し、後に多くのアーティストに使用されることになるモデルが登場となりました。
そんなフェンダー・ローズは、アンプやスピーカーがスーツケース型のトランクにセットされたタイプと、別途アンプやスピーカーを用意する鍵盤のみのタイプの2種類に大きくわけられます。構造は通常のアコースティック・ピアノと同じように、鍵盤と連動するハンマーによって音を鳴らすもの。弦状のトーン・ジェネレーターと呼ばれる部品と一体化した音叉のような金属の板が、ハンマーで弦を叩くことによって共鳴し、その音をピックアップを通して出力する仕組みとなっています。また、弦とピックアップはネジの調節によりその位置を調整でき、音質や音量に変化を加えることができるようになっています。
70年代に入ると演奏者からの注文で73鍵仕様から88鍵仕様になったり、ハンマーがフエルト製からゴム(プラスチック)製のチップに変更されたりとモデルチェンジが行なわれます。チップの変更は音色にも変化を与え、メロウで温かみのある音からアタック強めのハードな音色(硬い音色)を奏でる鍵盤楽器へと変わっていきます。また、60年代(初期型)のフェンダー・ローズがモノラル仕様のトレモロ(ビブラート・ノブ)が搭載され独特のゆらぎを出していたのに対し、70年代になるとステレオ仕様のワイドなトレモロ・サウンドとなり、より明るい音色へと変わっていきました。
■さまざまなアーティストに愛される温かみのある音色
使用したアーティストを挙げると、
チック・コリアをはじめとするジャズ、フュージョン系や、
スティーヴィー・ワンダーや
ダニー・ハサウェイらソウルやファンクなどのジャンルで、数多く使用されています。ロックやポップスの世界でも数多く使用され、
ビートルズ「ゲット・バック」「ドント・レット・ミー・ダウン」、
ビリー・ジョエル「素顔のままで」などが代表的な楽曲として挙げられます。
近年では
レディオヘッドが
『KID A』などのアルバムにて使用し、昨年行なわれた来日公演でも使用していたのでご存じの方もいるのではないでしょうか?
最後にフェンダー・ローズにスポットをあてた作品をいくつかご紹介。まずは12月に発売されたコンピレーション盤
『ジャズ・シュープリーム:フェンダー・ローズ・プレイヤー』。こちらは“フリー・ソウル”シリーズや“カフェ・アプレミディ”シリーズでおなじみの橋本徹が監修したアルバムになり、フェンダー・ローズの甘美的でメロウな音色をフィーチャーしたジャズを楽しむことができる一枚になっています。
日本のクラブ・ジャズ・シーンでも人気を集めるアーティストの
INO hidefumiも、フェンダー・ローズをメイン楽器として使用。2008年のフジ・ロック・フェスティバルにも出演した彼のアルバム
『Satisfaction』では、オリジナル曲はもちろん、
マイケル・ジャクソン「ビリー・ジーン」のカヴァーなどをメロウかつグルーヴィーに披露しています。ライヴDVD
『INO hidefumi LIVE SET』ではフェンダー・ローズを弾く姿が映し出されているので、こちらも要チェックです。
また、数多く登場している邦楽のヒット曲のカヴァー・アルバムの中にも、フェンダー・ローズをフィーチャーしたアルバムがあります。それがSALLYのアルバム『City Lovers』。
松任谷由実「やさしさにつつまれたら」や
木村カエラ「リルラ リルハ」などの楽曲をフェンダー・ローズをバックに使い、ラヴァーズ・ロック調にてカヴァー。温かみのある音色とゆったりとしたアレンジが絶妙にマッチした一枚になっています。
現在では入手困難なヴィンテージ楽器のひとつですが、数多くのシンセサイザーや音源モジュール、サンプリングCDなどで手軽にその音を再現することもできるフェンダー・ローズ。一度聴いたらはまってしまう人も多い、その優しい音色に耳を澄ましてみてはいかがでしょうか?