11月5日のステージ
パリのすぐ近郊(レ・リラ)にある“トリトン”は、70年代にオルタナティヴ・ミュージック、実験音楽のアマチュア・ミュージシャンだった兄弟が、かつての情熱を形にすべく10年前に設立したライヴ・ハウス。ジャズを中心に、ワールド・ミュージック、フュージョン、プログレッシヴ、ダンサーとミュージシャンとの即興デュオなど、興味深いジャンル横断的な催しで知られる。
なかでも斬新な企画は、2008年秋にアンサンブル・アンテルコンタンポラン(以下、EIC)とトリトンとのコラボレーションによって始まったシリーズ・コンサート“アンテルセッション(Intersessions)”だ。EICのソリストとジャズ・ミュージシャンがフリー・インプロヴィゼーションのセッションを行なう。60年代のフルクサスなどのアヴァンギャルドな即興パフォーマンス・ブーム以来、現代音楽の演奏家によるピュアな“器楽即興”コンサートというのは数少ない。だからこそ、こういった特殊な音楽の場は貴重と言えよう
(*注)。
エリック=マリア・クチュリエ(vc)と
エマニュエル・オフェール(fl)
ソフィア・ドマンシッチ(p)
これまでには、ディミトリ・ヴァシラキス(p)、アラン・ダミアン(cl)、
ルイ・スクラヴィス(cl、sax)らが参加している。通算6回目の11月5日は、ジャズ畑から
ソフィア・ドマンシッチ(p)、
ジョエル・レアンドル(cb)、EICからエマニュエル・オフェール(fl)、エリック=マリア・クチュリエ(vc)という豪華なメンバー。ジャズ畑といっても、2人ともクラシックの音楽教育を受け、レアンドルは現代音楽の方でも活躍している。またEICの方では、たとえばクチュリエはeRikmとときどき共演しているというから面白い。
まずは4人全員で始めた演奏。実験音楽にありがちな長い即興をイメージしていたところ、1曲が意外に短く10〜15分程度。毎回、デュオ、トリオと組み合わせを変える。そのつど、何らかのテーマ、ないしはモティーフのようなものをベースに、それをゆがめ、広げ、つぶし、交わし合い、変形させていく。あらかじめ決めてあったであろう構成・バランスもよい。全員での激しく速いパッセージでの大騒音、マイクを通して聞こえる微かなチェロの指板をなでる音やバス・フルートのかすれた息、かと思えばピアノとチェロのデュオでは叙情的に歌う場面もあり、多様な音の形をつくる。全体的にラッヘンマン風の特殊奏法など非常に現代音楽的ではあるが、ところどころ規則的なリズム・和音によるジャジィな雰囲気も見られた。また各々が素晴らしくエネルギッシュなソロを披露。とくにレアンドルの、非常にノイジーで迫力のあるぎゅうぎゅうと弦を擦る音、印象的なハーモニクス、存在感のある声は際立っていた。
次回の“アンテルセッション”は2011年2月3日。
ブルーノ・シュヴィヨン(cb)、ギヨーム・ロワ(va)、ピエール・ストローク(vc)、フレデリック・ストクル(cb)の低音弦楽カルテットも面白そうだ。
取材・文/柿市 如(2010年11月)