【特別企画】フランス電子音楽シーン最前線

2011/12/27掲載
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フランク・ヴィグルー(c)Ina/Rene Pichet
 新たな実験が日々繰り広げられているパリの電子音楽シーン。今回は、11月に開催されたイベント<レトロ・アクティフ/昔の機器・今日の音楽>のレポートを中心にお届けします。

 IRCAM(フランス国立音響音楽研究所)とともにパリの電子音楽センターの1つとして知られるINA(フランス国立視聴覚研究所)内のGRM(フランス音楽研究グループ)。今年はGRMの本拠地ラジオ・フランスのメシアン・ホールが改築中のため、サン・ジェルマン・デ・プレのオーディトリアムなど外部でコンサートが開かれ、いつもとは異なるリスナーを引き寄せるいい機会となっている。11月12〜13日は、デジタル・アート、エレクトロニカの新しい発信地として昨年オープンしたゲテ・リリックで<レトロ・アクティフ/昔の機器・今日の音楽>と題し、コンサート、1960〜75年の実験音楽・映像の短編フィルム上映、ワークショップを含むイベントが行なわれた。

 まず12日の2つのコンサートでは、オンド・マルトノ、テレミン、アナログ・シンセサイザーやダブルネック・ギターなど、20世紀に登場した“古い”電子楽器を、デジタル機器とあわせて用いるアーティストたちによる演奏が繰り広げられた。

 とくに会場を沸かせたのは、ジェローム・ネタンジェとリオネル・マルケッティのデュオ。2人ともルヴォックスのオープンリール・テープレコーダーB77に、コンタクトマイクやラジオ、ハーモニカなどさまざまな器具を用いて、その場でノイズを録音する。それを速度・音色を変えたり、ループさせたりしながら再生。さらにクラクションなどのサンプリングや、テープのキュルキュルと回る動物の鳴き声のような音などが加わる。せわしなく絶え間ない動きと、多様な変化の印象的な2人の掛け合いが、非常にエネルギッシュな空間をつくりあげていた。ネタンジェはグルノーブルで、ミュージック・コンクレートのレーベルと、その他の実験音楽レーベルのディストリビューターも兼ねる“メタムキン”(http://www.metamkine.com/ 英語ページもあり)を主催しており、フランス実験音楽界では重要な人物の1人。マルケッティとは定期的にデュオを行なっており、録音も多数ある。たとえばピアニスト、ソフィ・アニエルも加わった『Rouge Gris Bruit』(Potlatch・P401/2003年)はお薦めしたい1枚。

<アンビエント・サンデー>でのジェローム・ネタンジェ&リオネル・マルケッティ(c)Ina/Aude Paget

 また、ギターでポストロック系の即興演奏をするかと思えば、ミニマル・アンビエントなエレクトロニカを聴かせるフランク・ヴィグルーは、コンサート第1部のトリを大胆かつアグレッシヴに務めた。前衛的でありつつも、リズムが一定で耳なじみのよさもあるのが面白いヴィグルー。今回はモーグ(Moog)を中心にいくつかのアナログ・シンセサイザーを用いて、かなり耳障りなハーシュ・ノイズを轟かせた。とはいえ同時に協和音が調性を響かせるかと思えば、規則的なパルスがテクノ風に響く箇所もあり、どこか不思議なポップ感が漂うのが彼らしい。日本では無名だがフランス国内ではよく知られるアーティスト。主なCDは自主レーベル“ドートルコルド”(http://www.dautrescordesrecords.com/)からリリースされている。

フランク・ヴィグルー(c)Ina/Rene Pichet


ベアトリス・フェレイラ&クリスティーヌ・グルー
(c)Ina/Rene Pichet
 ただ1人、フランソワ・ベルらと同世代のヴェテランとして気を吐いたのはベアトリス・フェレイラ。首にたくさんテープをぶら下げ、やはりルヴォックスのオープンリールデッキで、ラップトップのクリスティーヌ・グルーと音の動きの気持ちのよい即興デュオを聴かせ、大きな拍手を浴びた。

 特筆しておきたいのは、1930年代初期のグラモフォン(蓄音機)を使ったドイツのシュテファン・マテュー。マイクで増幅された4台のグラモフォンの手動のゼンマイ式モーターが止まらないように、ハンドルをつねにぐるぐる回しながらの演奏。78回転レコードに録音されたヴィオラ・ダ・ガンバの合奏のミキシングはドローン・アンビエントで、ヴェールに包まれたような独特な静けさを描いた。


<アンビエント・サンデー>でのティエリー・バラス
(c)Ina/Aude Paget
 コンサート出演者が各々コーナーをかまえ、デモンストレーションを行なった13日のワークショップ<アンビエント・サンデー>も大盛況。質問をするミュージシャン志望の学生や、デモンストレーションに参加する親子連れなどでにぎわった。テクノロジーの進歩が直に反映される電子音楽だが、必ずしも最新機器、最新ソフトウェアだけが新しさとクリエイティヴィティをもたらすのではないことを確認させてくれた良質の企画といえよう。

 その他、ネタンジェはパリ近郊で、実験音楽ライヴ・ハウス“アンスタン・シャヴィレ”とともに<オーディブル(聴取可能な)・フェスティヴァル>第1回を開催している(10月21〜23日)。ミシェル・シオン、リュック・フェラーリ、eRikmから領域横断的なミュージシャン、無名の若手まで幅広く具体音楽・電子音楽を紹介するとともに(主にネタンジェの演奏)、マルケッティ、エドウィン・ファン・デル・ハイデやジュゼッペ・イエラシなど国際的に活躍するアーティストが自作品の演奏を行なった。マニア向けだけではない興味深いプログラム、顔ぶれに人の集まりもなかなかよく、ぜひ今後定着することを期待したいイベントである。

 <フェスティバル・ドートンヌ>が、すでに大御所となっている、ないしはあまり前衛・実験的ではない一部の作曲家に集中しがちな昨今、今秋のパリの電子音楽界は外に向かって開かれた“新しい音の場”を提供してくれた。
取材・文/柿市 如
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