final audio design PANDORA HOPE VI
ダイナミック + BAの芯が通った美しい響きに思わず息をのむ
「Piano Forte」「Heaven」など独創的な切り口からイヤフォン界にたびたび新風を巻き起こしてきたファイナルオーディオデザイン。今回、満を持してリリースした同ブランド初のヘッドフォン「PANDORA HOPE VI」も、決して一筋縄ではいかなかった。最大の特徴は、ダイナミックドライバーに、高級イヤフォンではスタンダードとなっているバランスドアーマチュア(BA)を搭載したハイブリッドドライバーを実現。イヤフォンではBAが苦手とする低音域をカヴァーすることを目的として、従来のダイナミックドライバーを併用するモデルがすでに実用化されている。それはあくまでも、より本物に近い音質に近づけるための必要な手段にすぎなかった。
しかし、PANDORA HOPE VIについては、誤解を恐れず言うならば、ハイブリッドドライバーにすることなく高品質なサウンドを鳴らすポテンシャルがあったと思われる。耳を完全に覆うことのできる50mmの大型ドライバーに対し、重量感あふれるステンレス切削ハウジングは共振を抑える十分な硬さと強さがあるので、それだけでも競合のヘッドフォンと渡り合える実力があった。そこに、BAを埋め込んだことは、想像以上の革新を生みだしたのである。マルチドライバーのイヤフォンの音をある程度想像できるマニアであればあるほど、その予想は良い意味で大きく裏切られることだろう。単に、帯域を広げるためだけのBAではなく、これまでのヘッドフォンでは実現できなかった音質、そして音場の形成を実現しているのだ。
大型のダイナミックドライバーは、圧倒的な音の厚みと、耳周辺の空気全体を大きく包み込んで振動させるような豪快なサウンドを与える。その音の大きなうねりから、ピンポイントでこれ以上なく明瞭に聴こえてくる、高音域の旋律。どんなに音数・楽器数が増える壮大な楽曲であっても、確実に聴きたい音が前面に出て聴こえてくる。それは、物理的にはっきりと聴こえてくるというかつてない衝撃なのだ。ただ音が前に出てくるだけではなく、ホール録音のクラシックを聴けば、最後の一音が終わり、ホール内に反響する音。最後の最後、音が収束しきるまで芯が通った美しい響きに思わず息をのむ。
新しい試みから生まれたこのヘッドフォンは、ユーザーにとっても多大に新しい体験をもたらしてくれるだろう。ぜひとも、カタログ上のスペックからいろいろと想像した上で、この機種の第一音を聴いてほしい。その想像を超えた未知の音質に驚き、ほどなくして虜となってしまうこと請け合いである。