「この前、神保町の書泉グランデで本を探していた際、階段踊り場の壁をふと見たら、刺さっている画鋲が文字になっていて『ここから出して』と助けを求めていたんですよおおおお!!!」
これ、漫談家・街裏ぴんくのネタじゃないんです。3月7日から千代田区神田神保町の老舗書店、書泉グランデで開催されているイベント〈嘘の本屋〉での一コマです。
リアル異変探しゲーム「嘘の本屋」とは一体どのようなイベントなのか。通常営業している書泉グランデの書店内に、合計70個の「異変」が仕込まれています。参加者は本を探しにきているお客さんたちが集う書泉グランデ内を、その「異変」を探してさまよい歩くという、一種の間違い探しイベントです。
CDジャーナルから2024年10月に発売された街裏ぴんく著『虚史平成』。そのもととなったTBS PODCAST『虚史平成』制作チームが考案した「異変」が仕込まれていると聞き、3月7日、イベント初日に行ってまいりました。
参加者はまず7階のイベントフロアに集合します。我々取材班が訪れた17時からの回の参加者はおよそ30人。フロアは満員に近い混み具合です。
運営から一連のルール説明を聞いたあと、参加者は書泉グランデに解き放たれます。この本編イベント用に仕込まれた「異変」は56個。この「異変」には見つけるための難易度に合わせて点数が振られており、見つけにくいものほど高得点。本編終了後、運営からQRコードが配られ、答え合わせをする流れです。
まずは7階へ。事前に渡されたチェックリストには「異変」の概要を一文にまとめた題名が一覧でまとめられています。この題名を頼りに店内を見渡すのですが、まあ見つからないこと見つからないこと。
というのも、書泉グランデは7フロアもある巨大書店。見渡す限りの本、本、本。そしてポップ、著者のサイン、ポスター。そしてまた本、本、本。「異変」がさまざまなプロダクトに紛れて「自然」な光景になってしまっています。
加えて、通常営業もしていますので、本を探して訪れたお客さんやその応対をする店員さんももちろんいる。彼らの迷惑にならないよう、大声を出したりぶつからないように注意して店内を徘徊することになり、ますます注意も散漫に。
そのうち「お、これは」という違和感に体が反応し始めます。日常の中に埋もれた「異変」を見つけられるとニヤリと笑ってしまうのはなぜなんでしょう。同行者に「あったあった」と小声で伝えたくなるのはなぜなんでしょう。イベントなんだから、そこに「異変」があるのは当たり前なのに、なぜか湧き立つ感情にテンションが上がります。
とはいえ見つかるのは難易度低の「異変」ばかり。なんとかしてそのフロアに仕込まれた「異変」をすべて見つけてから次の階に行きたいのですが、粘っているとあっという間に30分が経過。ほんとに全然見つからねえ。慌てて別フロアへと向かいます。
本イベントの難易度を上げている理由のひとつが書泉グランデの特異性です。もともと書泉グランデは全国の書店の中でも「クセ強」で知られる本屋さん。鉄道・バス、アイドル、格闘技(プロレス)、オカルト、占い……。各フロア、各コーナーにその分野をとことん愛する担当者がおり、異常な愛情を持って選書・陳列しています。
占いコーナーに並ぶ大量のタロットカード。本屋なのに。「書店にこんなにたくさんのタロットカードが並んでいるなんて異変だろ」。残念、書泉グランデの通常営業です。
なぜか平置きされているパンやお酒。「本屋なのにパンって(笑)。もちろん異変だろ」。残念、それもまた書泉グランデの「日常」です。
かように、通常の書店なら「異変」にあたるような出来事も、書店グランデでは「日常」だったりして、異変と日常の境目がどんどん曖昧になっていくんです。
だって、全身西洋の甲冑を着た店員さんがフロアを練り歩いていたら、そんなの「異変」だと思うじゃん!(※甲冑関連書コーナーがあり、古今東西の甲冑関連書が充実していて、コーナー担当者は日頃から自前の鎧を着て店員業務を行なっているんだそうです)
そんなこんなで、あっという間に探索時間は終了。館内放送が掛かり、参加者は7階に集合します。その場で運営から答えがまとめられたPDFへと遷移するQRコードを渡され、手土産をもらって終了となります。
本編では56個の「異変」が仕込まれていましたが、本編外に14個の「異変」も用意されています。参加者は、本編終了後にそのおまけを探して店内を自由に探索できます。こちらの時間制限はありません。
本イベント、「異変」を探す、練り込まれた「異変」の面白さを愛でる、これが本質であると思います。しかし、参加者はやがて、この本質以外の面で新たな発見があることに気付かされます。
参加者は「異変」を探すために目を皿のようにして書店内を歩き回ります。そうすることで、これまで出会わなかった、発行されていることも知らなかった本と出会えます。
「へー、こんな本出てたんだ」
ついついページをめくってしまう、これも時間が足りない原因のひとつになりますが、参加者はみんな悔いはないでしょう(僕も帰りに1冊買って帰りました)。
知らなかった本と出会えるのもこのイベントならではの体験です。
書泉グランデほどの巨大書店は、ジャンルごとにフロアが分かれています。
通常、本を探すときにはぶらっと「なんか面白い本はないかな」と訪れた場合も、具体的な目的をもって本を探す場合も、特定のフロアにしか足を運ばないことがほとんどでしょう。
本イベントでは「異変」が複数のフロアに仕込まれているので、これまでの人生で訪れることのなかったコーナーやフロアにも必然的に足を運ぶことになります。そこで新たなジャンルや新たな本と出会います。僕はこれまでアイドルの写真集コーナーに足を向けたことはなかったのですが、「異変」を探しに向かった先で「広末涼子の写真集、ちょっと欲しいな」と思わされました(広末世代)。
本編終了後、14個の「異変」を自由に時間制限なく探せるように設計しているのも、参加者に新たな本と出会ってほしいという運営からのメッセージなのでしょう。
巨大書店と異変。この奇妙な組み合わせが美味しいハーモニーを醸し出すリアル異変探しゲーム「嘘の本屋」。ゴールデンウィーク期間中にも開催されていますので、ぜひ参加してみてください。日常の見え方がほんの少し変わって見えて、楽しくなること請け合いです。ぜひあなたも「異変」を「体験」してみてください。
取材・撮影・文/富岡蒼介
リアル異変探しゲーム「嘘の本屋」2025年4月29日(火・祝)、30日(水)、5月3日(土)〜6日(火・祝)
東京 神保町 書泉グランデ
・参加費用 3,500円(税込)
・各回、70分。完全入れ替え制です。
・各回、スタート時間15分前から受付を開始します。
[実施時間]
㈰11:20〜12:30
㈪13:10〜14:20
㈫15:00〜16:10
㈬17:00〜18:10
㈭18:50〜20:00
https://note.com/manianananika/n/n282494f7be62