周りとは違うやり方で、どれだけ存在感を示していけるか 18scottとSUNNOVAの見つめる先とは

18scott   2018/12/26掲載
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 神奈川県藤沢市出身にして24歳のラッパー / ビートメイカーの18scottと、DAOKOJinmenusagi泉まくらへのトラック提供やロック・バンド、downyのサポートも務めるビートメイカーのSUNNOVA。世代や活動フィールドの異なる2人がキャッチーにしてスキルフルなラップと先鋭的なトラックの融合によって、シーンにフレッシュな新風をもたらすアルバム『4GIVE4GET』がリリースされた。18scottと同じ20代のラッパー、NF Zessho、Pitch Odd Mansionのサトウユウヤ、リスペクトする韻シストBASIに加え、ビートメイカーのAru-2Ramzaのリミックスをフィーチャーした作品のその先で、果たして彼らは何を見ているのか。
――今回のプロジェクトは、作品リリースよりもYouTubeでのMV公開が先行していましたよね。
18scott 「そうですね。2人の間では作品リリースを念頭に置いていたんですけど、明確には決まっていなかったので、1年ほど前からMVを合計4本アップしたのかな。その間に制作を進めて、2018年の年末にようやくリリースの運びになったという」
――その作品を紐解く前にお二人のバックグラウンドをおうかがいしたいんですけど、まず、18scottさんは、DLiP RECORDSの拠点でもある神奈川県藤沢出身なんですよね?
18scott 「はい。藤沢のラッパーというとほとんどはDLiPが起源と言っても過言ではない位影響力が強いんですけど、僕の場合、藤沢では1回くらいしかライヴをやったことがなくて、DLiPの方々を知ったのもラップを始めてからだったりするし、自分のルーツは東京で活動しているラッパー、例えば、KREVAさんとかRHYMESTERさんだったりするんです」
――年齢が近いところだと、THE OTOGIBANASHI'Sのin-dくんも確か藤沢だったような。
18scott 「実は、in-dは中学が一緒で、BIMとin-dとは、ラップを始めた当時一緒にクルーを組んでて、かなり古い仲なんですよね。そういう縁もあって、CreativeDrugStoreに誘ってもらって1、2年は活動していたんですけど、もともと、僕はソロ指向だったこともあって、CDSは抜けて。ちょうど、そのタイミングでSUNNOVAさんと出会って、自分の活動のエンジンがかかった感じですね」
――一方、SUNNOVAさんはLOW HIGH WHO? PRODUCTIONの一員として、ソロをリリースしたり、DAOKOやJinmenusagi、泉まくらにトラックを提供したりといった活動をされていましたけど、それ以前はハードコアパンク・バンドで活動されていたとか。
SUNNOVA 「高校生から2010年くらいまではバンドで活動していたんです。その間、RAW LIFEというイベントにSTRUGGLE FOR PRIDEを観に行った時に出ていたK-BOMBさんだったり、アンダーグラウンドのヒップホップは格好いいなと思っていたんですけど、メインストリームのヒップホップをがっつり聴くことはなく、それはLOW HIGH WHO? PRODUCTIONに入ってからも変わらず。2012年にアルバム『FLIP STONER』を出した後、2、3年くらい音楽をやってなかった時期があり、もう一回、音楽をやろうかなと思った時にようやくメインストリームのヒップホップを聴くようになったので、そんなにヒップホップは詳しくないかもしれないです(笑)」
――つまり、アウトサイダーの視点でヒップホップに携わっていると。
SUNNOVA 「そうですね。自分はミニマルテクノがすごい好きなんですけど、それと同じノリで聴いてて、J.Dillaを初めて聴いた時も同じループミュージックというか、テクノと一緒じゃんって思いましたし、それ以前にPrefuse 73のようなWARP系のビートミュージックをヒップホップとは違う耳で聴いていた自分にとっては、J.DillaMadlibだったり、Stones Throwがヒップホップの入り口になったんです」
――なぜ、SUNNOVAさんのBandcampにテクノ寄りの作品が多くアップされているのか、今の話を聞いて納得しました。
SUNNOVA 「ヒップホップのトラックって、構造的にそこまで難しいものではないと思うんですよ。シンプルだし、ラップが乗って、初めて成立するところが面白く感じたんですよね。ヒップホップを通ってなかった僕にはそれが出来なくて、Prefuse 73がそうだったように、ラップがなくても完結するようなトラックを作ってしまう癖が今もどこかにあるんですけど、ラップを乗せた時に自分の想像を超えた完成度に高まるところに可能性を感じますね。僕はラップをやらないですけど、同じことがリリックにも言えると思うんですよ。リリックにそのラッパーが活動しているエリア、同じ年齢やライフ・スタイルの人にしか通じないスラングが入っていたりするのも、かつてはその音楽を広く伝えるうえでマイナス要素だと思っていたんですけど、ここ最近はその謎めいた部分が逆に面白いじゃんと思うようになりましたし、バンドとは異なるマナーに今は惹かれていますね」
――では、バックグラウンドが大きく異なる18scottさんとSUNNOVAさんはどのようなきっかけで出会ったんでしょうか?
18scott 「きっかけは恵比寿BATICAでのイベントですね。僕はライヴ、SUNNOVAさんはビートライヴで出演して、その時のビートライヴがめちゃめちゃ格好良かったんですけど、SUNNOVAさんの方から“一緒に何か作ろうよ”って言ってくださったのが最初ですね」
SUNNOVA 「その時の18scottは自分のビートでラップしていて、そのビートも格好良かったんですけど、ラップのフックが何より良くて。自分でフックが作れるんだって思って声を掛けさせてもらったんですよ」
18scott 「そうだったんだ。その話は初めて聞きました(笑)」
――SUNNOVAさんのトラックはいい意味でメインストリームから外れたところに個性があると思うんですけど、ご自分でトラックを作る18scottさんにとって、SUNNOVAさんのトラックの魅力はどこにありますか?
18scott 「自分でビートを作ることもあって、いわゆるヒップホップ然としたビートは……もちろん、自分には出来ない、格好いい曲を作る人は沢山いるんですけど、その上でラップをしたいとはあまり思わなくて。でも、SUNNOVAさんのビートは自分には絶対作れないタイプのものですし、僕はビートよりラップの方が自信があって、生半可なラップでは乗りこなせないSUNNOVAさんのビートは俺なら出来るし、なおかつ、それをヒップホップのど真ん中に持っていって、みんなをぶちアゲられると思ったんですよ。実際、SUNNOVAさんから送られてくるビートはどれもラップを乗せるのがめっちゃ難しくて、どうやって乗せようって、ずっと考えて試して……その時間が自分の成長に繋がったんですよね。一般的にラッパーはラップしやすいビートでラップしたいと考えて、どうしても似たようなビートになりがちですし、そういうトライアルは避けがちだったりするので、自分としてはそこを攻めていくことが作品を作るうえで大きな原動力になりました」
――今回のアルバム『4GIVE4GET』は、音楽的にはSUNNOVAさんのオルタナティブなトラックとメインストリーム感のある18scottさんのラップ、その2つの絶妙なバランスのもとで成立している作品ですよね。
18scott 「そうですね。今回はそのことをずっと考えていました」
――アルバムには、Aru-2が手がけた「FOREST」のリミックス、Ramzaが手がけた「MONEY TALX」のリミックスを収録していますが、その両極のリミックスの間に位置づけられる作品でもあるのかな、と。
18scott 「確かに」
SUNNOVA 「Ramzaくんは2人共やりたかったビートメイカーというか、個人的には嫉妬するくらい好きで、世界的にみても他に代わりがいない音楽性だと思ったし、上手くハマったら格好いいんじゃないかなということでお願いしました。Aru-2は、誰が最初に提案したんだっけ?」
18scott 「僕じゃないですかね。Aru-2は僕と同い年なんですけど、最初に知ったのは今回の客演でも入ってるNF Zesshoという同い年のラッパーがYouTubeに何曲かアップしている動画のビートがAru-2のものだったんですね。それで2人のことを同時に知って、さらにSUNNOVAさんはAru-2と知り合いだったこともあって、オファーさせてもらいました」
SUNNOVA 「僕のなかで、譜面に起こせないような音、音楽の12音階にハマらない格好いいことをやっているのがRamzaくん、譜面に起こせて、格好いいことをやっているのがAru-2だと思っていて、そういう意味で対極にいるビートメイカーですし、18scottの方からAru-2の名前が挙がった時点で納得がいったし、大賛成でしたね」
――そして、アルバム本編の制作は2人にとって新しいトライアルだったということですが、その進行はいかがでしたか?
18scott 「前半はSUNNOVAさんから送られてきたトラックから選んで録音して、後半は僕の方からのリクエストで作ってもらった曲も数曲あったかな」
SUNNOVA 「一番最初に出来たのは〈MONEY TALX〉だったんですけど、お互いの関係性も出来ていなかったし、制作方法もお互い探り合っていた感じだったので(笑)、もともと違うトラックに乗せてたラップのアカペラにビートを当てはめて作ったんですよ。その後、YouTubeにアップした〈ALLRIGHT〉、〈LOVELESS〉を制作の初期段階で作ったんですけど、その辺の曲はビートの作り方も似ているかもしれない」
18scott 「途中からビートの制作アプローチが変わりましたよね。なにせ、制作期間が一緒にやろうと話してから3年くらいかかっているので、その間にお互いが変わっちゃっているんですよ(笑)。その後、作った〈PHONE CALL〉以前、以降で自分のラップも変わってるし、SUNNOVAさんのビートも最初の頃とは全然違うものになっていますね」
SUNNOVA 「ラップも録り直したもんね」
18scott 「そうですね。〈PHONE CALL〉以前に録った曲も沢山あるんですけど、大半はボツにしましたし、最初の頃とはアプローチが変わったので、ラップも録り直しました。他のラッパーのインタビューを読むと、作品が出る頃にはフレッシュさがなくなってるっていう話がよくあるじゃないですか? 今回、自分がそれを体験することになったというか、ただ、フレッシュさにこだわっていたら、一生かかっても作品は完成しないと思ったので、ある程度のところで区切りをつけて、昔の曲も入れることにしたんです。〈BLUe〉って曲なんかは、当初、アルバムに入れるつもりはなく、制作を進めていくなかで、入れようということになったんですけど、そうしたら、周りではこの曲の評判が良かったりして(笑)、作ってる当人とは感覚が全然違うんだなって思いましたね」
SUNNOVA 「“この曲をアルバムに入れようと思います”って、初めて、ラップを入れた曲のデータをもらった時、“え、これ、俺が作った曲だっけ?”っていうこともありました(笑)。1日1曲のペースで曲を作っているので、分からなくなっちゃうんですよね。ただ、そうやって曲を作り続け、18scottとやり取りをするなかで、トラック単体では音を詰め込まず、引き算して、7、80%の完成度に敢えてとどめて、そこにラップを乗せた時に、100%、120%の完成度になるような制作プロセスに変化していきましたね」
――18scottさんにとって、このアルバムを制作するうえでは「PHONE CALL」が一つの鍵になったというのはどういうことなんですか?
18scott 「大きな変化として、この曲を作っていた辺りからフックをしっかり歌うようになったんですね。そもそも、自分はヒップホップの入り口がKREVAさんだったので、学生の頃はバチバチにフックを歌ってる曲ばかりを作っていたんですけど、その後、DOWN NORTH CAMPの作品をはじめ、ドープなヒップホップに傾倒して、メロディアスなラップから長らく遠ざかっていて。でも、今のUSもそうですけど、ラッパーが歌ってもいいという流れが出てきて、それに触発される形で昔の歌心が再び出てきた感じで、それによって、ヒップホップは全然聴かないけど、何かいい音楽を聴きたいというリスナーに自信をもって聴いてもらえる作品、その完成形がイメージ出来たし、最終的には〈ALLRIGHT〉や〈LOVELESS〉のようなバチバチにラップした曲と〈PHONE CALL〉のように歌心が蘇った曲が混在していて、自分のスタイルが変化していく境目の作品になったと思いますね」
――そして、韻シストのBASIさん、18scottさんと同じ20代のサトウユウヤさん、NF Zesshoさんをフィーチャーしつつ、リリックに関しては、日々の精神的な葛藤がアルバムタイトルにもなっている『4GIVE4GET』に帰結する一つの大きな流れとして描かれていますね。
18scott 「自分が信頼していた人、大切に思っていた人から裏切られることが何度もあって、一時期は相当オチてたし、逆に攻撃的になったり、マインド的に良くない状態が続いていたんです。物事は時間が解決するってよく言うじゃないですか? 僕はそんなわけないだろと思っていたんですけど、時間が解決するというのは、時間が経っても、そのことに悩み続けている状態がイヤだから、頑張って忘れようとするからなんじゃないかなって。だから、『4GIVE4GET』、つまり、FORGIVE(許す)、FORGET(忘れる)という気持ちを持たなきゃなって思ったんです。そう考えながら、初期段階から『4GIVE4GET』というアルバム・タイトルを決めて、その制作は自分にとって救いになりましたし、完成したアルバムは一つの生き方を提示した作品になったと思いますね」
SUNNOVA 「だから、このアルバムは通しで聴いて欲しいんですよね」
――このアルバムは、サンプル・オリエンテッドなオーセンティックなヒップホップともUSの最新トレンドに呼応したヒップホップとも異なるオルタナティヴなアプローチに挑んだ作品でもありますが、この作品に向かわせた、お二人の原動力は?
SUNNOVA 「僕もデジタル・ネイティヴと呼ばれる世代なんですけど、18scottより全然年上だし、アナログとデジタルの両方を経験して、それぞれのいいところ、悪いところは自分なりに理解しているんですけど、今の20代、それより若いラッパーはYouTubeやストリーミングなんかを通じて、リファレンス出来る音楽は沢山あるし、そういうところでの勝負は大変ですよね。ただ、この二人でやってる音楽に関して、僕はいまdownyというバンドでサポートもやっているんですけど、バンドしか聴かない人にもヒップホップは格好いい音楽だと提示、提案出来たらいいなと思いますし、ヒップホップしか聴かない若いリスナーにとっても、バンドだったり、それ以外の音楽を紹介出来たら、音楽シーンが一つ上のステップにいけるんじゃないかと思いますし、音楽をやる意味があるんじゃないかなって」
18scott 「自分の根底にあるのは、周りと同じことをやってもしょうがないということ。本場USの流行りがあって、それをどうやって日本で形にするかというのはもちろん大切なことだし、その先駆者はすごいと思うんですよ。でも、その後に続いていく人は、時流に乗りつつも、何かしら自分の色を足していかないとやる意味がないと思うんですよ。それを形に出来ている人が果たしてどれだけいるのかなっていう。USのトレンドをトレースしたスタイルが主流になっている今の日本で、それとは違うやり方で、どれだけ存在感を示していけるかがこれから問われていくんじゃないかなって思っていますね」
取材・文 / 小野田 雄(2018年12月)
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