全10曲、33分。格別の熱量と技術と創意が注ぎ込まれたロック・ミュージックが疾走し、高鳴る。
9mm Parabellum Bullet、1年半ぶりの3rdアルバムにして完全セルフ・プロデュース作となった
『Revolutionary』が完成。“革命的な”という意味を持つタイトルが冠された本作は、彼らの音楽世界がもはや“異端の刺激物”ではなく“未曾有の王道”になっていることを威風堂々と告げるような凄みに満ちている。メンバー全員に話を訊いた。
――これまでは日本のロック・シーンにおける異端の刺激物として存在していた感があったけど、このアルバムは9mmが未曾有の王道になったことを告げるような凄みがある。
菅原卓郎(vo、g / 以下、菅原) 「自分でも堂々としたアルバムができたなって思いますね。僕個人的にはもっといろんな人に聴いてほしいという思いがあって。前作
『VAMPIRE』が多くの人に届いて何万枚売れたとか、そういう数字はあるんですけど、でもそれはただ数字なだけで。その前にしっかりリスナー一人ひとりに自分たちの音楽を聴いてほしいなと思って」
滝善充(g / 以下、滝) 「曲と本当に向き合って、なりたい自分になれたし、なりたい9mmになれたような充実感がかつてなくあります」
中村和彦(b / 以下、中村) 「いい曲が10曲そろっていて、正直なアルバムだと思います、雑念がないというか」
かみじょうちひろ(d /以下、かみじょう) 「完成したときは、もうこれ以上のことはできないなって思いましたけど、あれから4ヵ月経ったいまはもうちょっとがんばれたなと思いますね。それが次の課題にもなるし、こういうことを思わないと次のアルバムがさらにいいものにならないので」
――かみじょうくんは4曲目の「3031」で初の作曲に挑んでいますが、これがまた9mmのいまのテンションの高さをそのまま表わしているような曲で。
かみじょう 「はい、シーケンスソフトをいじりだして、テンションのみで作った曲です(笑)。人生初作曲のわりにはうまくまとまったなと思います。ワンフレーズつくってメンバーに聴かせたら“これ、曲にしなよ”って言ってもらって」
――曲の世界観に滝くんのメタル感満載のギターが炸裂していますよね。
滝 「(ニヤリとして)はい、いい感じですよね。ギター・フレーズもかみじょうくんがつくったんですよ」
――セルフ・プロデュースという自由度がすごくいい方向に転がっていますよね。
菅原 「セルフ・プロデュースは(2009年の6月に出したシングル)<Black Market Blues>のときからなんですけど、すごく自然な流れでそうなったんですよね。スタッフからアイデアが出て、そのときに“いやいや、プロデューサーがいないとダメです”みたいな感じは一切ならなくて、“はい、大丈夫です、僕らでやります”という感じで」
――自然に受け入れられた。
菅原 「うん。アルバムのレコーディング現場では、曲ごと、フレーズごとにメンバーそれぞれがプロデューサー的な役割を果たしている局面が何度もあって。おもしろいなと思いましたね。アレンジメントをやる時間がかなり短くてハードだったんですけど、みんなすごく集中してこのアルバムに向かっていたと思います」
――そのなかで制作の方法論などの変化はありましたか?
菅原 「僕はいつも曲から受けたイメージをもとに歌詞を書いているんですけど、今回は仮で書いた歌詞を1回みんなに見てもらって“俺はこの曲からこういうふうに感じたんだけど、どう思う?”という確認作業をスタジオにいるときとかにして。そうやって曲のなかにある感情をしっかり統一していきましたね」
――滝くんは今回の作曲作業はどうでした?
滝 「武道館ライヴのあとすごく脱力感があったり、アルバムとは関係ない細々としたほかの用事がいろいろバンドに入ってきたりしてなかなか作曲に集中できなかったんですよね。だからその分、制作が本格的にはじまってからはタイトな時間のなかですさまじい集中力とやる気を注ぎ込みました」
――最終的に何曲ぐらい集まったんですか?
菅原 「きっかり、この10曲です」
滝 「選ぶ余地なしです!」
――じゃあ、生まれた音楽をすべてここに出し切りましたと。
かみじょう 「はい。もう出し切って、宿便も出ないぐらいです(笑)」
――(笑)結果論だけど、この10曲33分という濃密な熱量と疾走感はパッケージとしても大成功だと思う。
菅原 「うん、気持ちいいですよね」
――そのなかにあって8曲目「Finder」はスカっぽいリズム感とスウィングするグルーヴ感、9曲目「キャンドルの灯を」も同じくスウィングするジャジーなアプローチがかなり新鮮だった。
滝 「ちょっと前からこういうアプローチを9mmでやってみたいなと思っていて。僕が曲のネタを出したときから、すでにジャズっぽいスウィング感がありましたね」
――菅原くんが描く歌詞もこれまでと同様に独特の終末感に満ちているんだけど、今作では“その先”を捉えようとしている気がする。
菅原 「うん。その先にいってやろうという感じは、自分たちの音楽をもっといいものにしようという気持ちの表れでもあって。あと“いいことない”みたいな歌詞はもういいやと思って。そうじゃなくて、そこでちゃんと人が生きている感じを描きたかったというか。例えば<Black Market Blues>のなかで生活している人の感情がわかるようにしたいなって思ったんです。俺が想像のなかでつくった虚構の世界の感情なんだけど、それを本気で唄うとその感情は嘘にならないから」
――最後に『Revolutionary』=“革命的な”というタイトルについて。
菅原 「何かを変えるというより、俺たちはやりたいことをやるぜって感じですかね。それを堂々と言うよ、ということです」
取材・文/三宅正一(2010年3月)
アーティスト写真/野村浩二
ライヴ写真/橋本塁