今年の夏にソロ・デビュー10周年を記念したセルフ・カヴァー集
『Smile...♥』をリリースしたかと思うと、間髪を入れずに
『光へ -classical & crossover-』を完成させた
安倍なつみ。本作は、安倍のミュージカルで培った経験にスポットを当てた作品で、クラシカルな要素をふんだんに盛り込んだ意欲作に仕上がっている。重厚にして壮大な『光へ -classical & crossover-』はいかにしてできていったのか、その背景に迫る。また今回は、CD音源とハイレゾ音源との聴き比べも行なった。
――これまでの作品と歌唱がかなり違うと思うのですが、それはどうやって身につけていったのでしょうか。
「モーニング娘。を卒業して10年になりますが、在籍中から舞台の経験をさせていただくなかで学んでいきました。作品によって歌唱指導の先生が違って、その都度身につけてきたものが出ているんだと思います。最初に自分の中で新しい歌唱法だなって思ったのはミュージカル『ドラキュラ』でミーナ役をやったときです。ソプラノと喋り声のミックスのような声を使ってほしいと言われて。舞台の役の中で必要な声ということでレッスンしましたね」
――新しい歌唱法を取り入れるときに戸惑いなどはありましたか?
「戸惑いはないですね。作品の中ではその役をやり切るという気持ちで挑んでいるので、全然違う人であっていい、むしろそうでありたいと思っているくらいなので。お芝居の中での歌なので、普段の自分の歌い方という意識はしていないですね。ストーリーがあって、歌うときはそれにそって感情を伝える。歌っているというより語っているような感じです」
――アルバム制作はどのように進んでいったのでしょうか。
「スタッフのみなさんとコンセプトや方向性をイチから決めていきました。リクエストをいただいたり、逆に私からチャレンジしたい曲の案を出したりもして、選曲からスタートして、キーもいろいろと試していきました。さらに今回は、初めてオケ録りにもすべて参加させてもらいました」
――どうしてオケ録りに参加されようと思ったのですか。
「一緒に紡いでいくように、みんなでアンサンブルをしたくて。舞台の上だと、指揮者が私たちの演技を見ながらテンポを変えてくれたりするんですね。でもレコーディングではべつべつに録ることが多いですよね。今回は呼吸を合わせて歌うことが何より大事だと思ったので、オケ録りから参加したいと伝えました」
――オケができていくプロセスはいかがでしたか。
「"これ、本当に私の現場なのかな?"って思うくらいでした(笑)。"スタジオ間違えちゃったかな?"って(笑)。プロのオーケストラの重厚感は本当にすごくて、夢心地でした。それはそれはすごいものでしたよ」
――ミュージカル・ナンバーの収録はいかがでしたか。舞台上とスタジオではまた違うのではないでしょうか。
「〈夢やぶれて〉や〈私だけに〉、〈オン・マイ・オウン〉は感情のコントロールが本当に難しかったです。舞台で歌うために書かれた曲ですから、レコーディングだと、どのくらい感情を込めたらいいものなんだろうと。その加減がわからなくて、スタッフとちょうどいいところを探りながら歌入れしていきました。舞台だと、劇場の空間の中で表現した歌、姿、振る舞いすべてで伝えるものですが、アルバムだと、音だけで伝えなければならない。みなさんの聴く環境もそれぞれ違いますし。私が"やり切った"と思った歌が、みなさんにとって押し付けがましいものになるのがイヤだったんです。(舞台で)涙があふれすぎて歌えなくなってしまうような経験もしたんですけど、そういった感情を大事にしつつ、いい着地点を見つけられたかなって思います」
――難しかった曲はありますか。
「やっぱりオリジナル・ナンバーの〈光へ〉ですね。今の自分の状況を代弁してくれているような、夢と希望にあふれた力強いナンバーになりました。生きること、人生において大切なことをこの曲を通して教わっているような感覚もあって。歌いながら自分の中に響いてきました。ようやく、こういう曲をいただける年齢になったのかなって思います。これだけスケールの大きな曲は初めてだったので」
――今作はハイレゾ音源でリリースされますが、CDとハイレゾ音源とを聴き比べてみていかがでしたか?
「CDもすごくよかったのですが、ハイレゾの場合は、まさに目の前で演奏しているんじゃないかっていうくらいクリアですね。重厚感も増した気がします。まるでスピーカーの周りの空気が震えているような、そんな感覚すら感じます。ここまで印象が違うとは、ハイレゾ音源ってすごいなと思いました。初めて聴きましたが、これは昔からあるものなのですか?」
――レコーディング現場では従来からCDよりも大きなデータを扱っている場合がほとんどで、CDに収めるときに圧縮してるんです。それはずっと以前からやっていたのですが、その大きなデータを受け手側もそのまま聴いてしまおうというのはここ数年の流れだと思います。
「たしかにレコーディング・スタジオで聴いている音ってすごくいいですよね。それに近い音質で聴けるとはすごいですね。しかも、今回のアルバムのようなアコースティックのサウンドだと、その魅力がさらに増す気がします。こういうふうに改めて聴き比べたりすると、やっぱり違いますね」
取材・文 / 南波一海(2014年9月)
撮影 / 永峰拓也
ハイレゾ音源を試聴したハイレゾ対応ポータブルプレーヤーとイヤフォン
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