津軽三味線の上妻宏光とピアニストの塩谷哲が結成! 世界に発信できる“AGA-SHIO”の1stアルバム

AGA-SHIO   2009/12/04掲載
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 現代を代表する津軽三味線の演奏家であり、正統を伝える一方で可能性も追求する上妻宏光オルケスタ・デ・ラ・ルスのピアニストとして名を高め、以降、ジャズ、ポップ、クラシックなどジャンルの壁を越える活動で存在感を放つ塩谷哲。2人が組んだユニット、AGA-SHIOの1stアルバム『AGA-SHIO』がリリースされた。異色のコラボレーションだが、表層的な新しさに終わらない、豊潤な音楽性が素晴らしい。スリルの先に研ぎ澄まされた美が存在し、世界に発信できる日本発の音楽となっている。


――どのような経緯でAGA-SHIOの結成に至ったのですか?
上妻宏光(以下、上妻)「ソルト(塩谷)さんと初めて共演したのは、僕のアルバムに参加していただいたときです(2004年作『beyond』収録の「君への想い」)。プレイヤーでありながら音楽を俯瞰で見ることのできる方かなと思っていて、三味線を生かしていろいろやっていただけるんじゃないかと考えたんです」
――塩谷さんはそのとき、どんな印象を持ちましたか?
塩谷哲(以下、塩谷)「デュオの曲だったんですけど、一緒に演奏してみると“この人って大きいな”と思ったんですね。民謡というバックグラウンドがありながら、すごく外側を見ている。ミュージシャンの直感として、“なんかあるな”と思いました。それで自分のコンサートにも来てもらうようになり、オーチャードホールでのイベント〈スケッチ・オブ・ニューヨーク〉(2007年)では〈じょんから〉(青森県民謡)を思い切り弾いてもらったんですよ。僕は映画音楽のようなストリングスを書いて、指揮をしました。ストリングスの音色と三味線の即興が、離れたり近づいたり、ときには融合しながら、最後はバーンと一緒に終わる。実験的な試みではあったけれど成功したんです。感動したんですよね。そのとき、2人が組むといいものが生まれるという確信が持てました」




――即興でストリングスと共演することに、とまどいはありませんでしたか?
上妻「ミュージシャンとして、男として、信頼がないとなかなかできないことだと思うんですよね。絶対的な信用があったので、終わりのキメの部分をはずさなければうまくいくと信じていました。ストリングスに触発されて、ソロで弾く従来の即興とは途中から変わっていくわけですが、その化学変化が新鮮でした」
――アルバムに収録した「じょんから」は激しい三味線の即興演奏にピアノが加わることで、不思議なことに静寂を感じます。歌とピアノによる「田原坂」(熊本県民謡)にも当てはまることですが、民謡の美しさを知る驚きがありました。
塩谷「民謡を民謡として、オリジナルで聴くのが一番いいのかもしれないですけど、深いがゆえに好きな人しか聴いてくれないようなところもある。ピアノが入ることによって耳を傾けてくれる人がいたらいいなと思います。民謡の本質が浮き上がってくるようなアレンジにしたいと思いました」
上妻「民謡は伊達に残っていません。先人たちが知恵を出してつくり、苦しみや歓びの中からつくってきたかけがいのないものです。僕は使命感をもって表現していかなければいけないと思っています」
――塩谷さんのオリジナル「バロック風狂想曲〜三味線とピアノの為の」は西洋と東洋の要素が拮抗しています。
塩谷「対位法的な音楽です。三味線もピアノも一つの旋律楽器と設定して作りました。ただ三味線は三味線で、バッハみたいに弾いてほしいとは言わなかった。ピアノはバッハのような感じで弾いていて、三味線はいつものニュアンスで、だんだん自由な即興演奏になっていって、このアルバムで表現したかったことを凝縮しています」
――西洋音楽を象徴するような楽器であるピアノと共演しながら、パーカッシヴな弦楽器としての側面や繊細な音色など、三味線の多彩な魅力を伝えるアルバムにもなっています。
上妻「2人とも変なところで妥協していないのがいいんです。自分の世界を出しながら、どこかで歩み寄っている。バランスがすごくよかったと思います。今回のアルバムはいい感じに仕上がったなと自負してます」
――1月から全国ツアー、春にはヨーロッパ・ツアーが控えています。ピアノが触媒となって、民謡の美しさ、三味線の魅力がヨーロッパの人にも伝わると思います。
塩谷「ドイツ、イタリア、チェコ、フランス、スペインなどを3週間くらいで廻る予定です。上妻くんと演奏して僕が感じた感動を、日本の人にも海外の人にも同じように感じてほしいという欲求が高まってきました。こういう素晴らしい音楽があるということを伝えたいですね」
上妻「いま自分が考える、生活から出る、自分にとっての民謡がどのように海外の人に聴いていただけるのか、受け入れてもらえるのかということを楽しみにしています」
取材・文/浅羽 晃(2009年11月)
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