特別対談: KREVA×津野米咲(赤い公園)

赤い公園   2014/10/15掲載
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特別対談: KREVA×津野米咲(赤い公園)
 2ndアルバム『猛烈リトミック』において、赤い公園の“熱烈”なオファーにより実現したKREVAとのコラボレーション曲「TOKYO HARBOR feat.KREVA」は大きなトピックのひとつだ。赤い公園では珍しいシティポップ的なサウンドとラヴ・ストーリーを受けて、KREVAはその全体像を鮮やかに浮かび上がらせる巧みなラップを乗せている。この記念碑的な楽曲はどのような流れを経て完成に至ったのか。また、互いの音楽性にどのようなシンパシーを感じているのか。真摯な音楽談義からくだけたトークまで、おおいに盛り上がった津野米咲とKREVAの初対談をここにお届けする。
「俺なんかは自分がいいと思ったら“ヤベえ、いい!”みたいな感じで、そのままの勢いで作っちゃうんだけど、彼女はちゃんと自分の曲が俯瞰で見えてると思う。(KREVA)
KREVA 「(『CDジャーナル』本誌最新号の表紙を見ながら)この“チーム・負けん気”ってなんですか?」
津野 「アップアップガールズ(仮)THEポッシボーというグループと吉川 友さんで構成されていて。みんなハロプロエッグっていうハロー!プロジェクトの研修生出身なんですよ」
KREVA 「詳しいね(笑)」
津野 「ファンなんで(笑)」
――今日はよろしくお願いします。個人的にも念願の対談が実現しました。まず、いきなりですけど、『猛烈リトミック』を聴いたKREVAさんの感想から訊きたくて。
KREVA 「2回通しで聴いたんだけど、自分が感じたことをうまく言葉にできないかなと思ったときに、画家の人の本に書いてあった言葉を思い出したんだよね。それは“理性を内包している直感もある”ということで。このアルバムからもそういう印象をすごく受けた。すごく複雑なこともやっていて、それは一見突拍子もない思いつきのようにも思えるんだけど、そこにはちゃんと理論や理性が働いていて。コントロールが利いてるなって思った。破綻してないというか」
津野 「うれしいです……」
――それはまさに津野米咲がクリエイトする楽曲のアバンギャルドさとポップセンスの絶妙なバランスだと思うんですけど。
KREVA 「うん。やっぱり彼女が作る曲は世に流れてる一般的なポップスとは違うじゃないですか。それを考えたときにその言葉が近いと思った。俺なんかはもう、自分がいいと思ったら“ヤベえ、いい!”みたいな感じで、そのままの勢いで作っちゃうんだけど、彼女はちゃんと自分の曲が俯瞰で見えてると思う」
――KREVAさんも俯瞰で見てるでしょう?
KREVA 「ないない。“ヤベえな”しか言ってない(笑)。まあ、常にいろんなリスナーに届けたいと思ってるという意味では俯瞰して見てる部分もあるかもしれないけど。彼女は一生音楽の仕事ができる人だと思うから。逆に音楽から離れられないことを心配したほうがいいと思う(笑)」
津野 「そのとおりだと思います(笑)」
KREVA 「ずっと仕事もあると思うし、曲も作れると思う。俺みたいな直感型の人間は思いつかなくなったら終わりだから。羨ましいよ」
――だからこそKREVAさんは止まらないし。
KREVA 「そうだね。俺の場合はとにかくいっぱい作らなきゃいけないし、いつも音楽に興味を持ってなきゃいけないというか。でも、彼女はリスナーとしても音楽に興味を失うことがあっても、自分はなんで興味を失ったかを理解できて、そこから“じゃあ私はこっちに行く”ってできる人だと思うんだよね。俺の場合はそんなとき“ふざけんじゃねえ!”ってなるから」
一同 「(笑)」
――「基準」のリリックですね(笑)。彼女はメジャー・デビューから半年で体調を崩して活動休止するという経験をしたんですけど、自宅療養してるときも曲だけはずっと作ってたんですよね。“音楽だけはやめられなかった”と言っていて。
津野 「そうなんですよ。何もしてないより曲を作ってたほうがラクだったんですよね」
KREVA 「それは曲を聴いてもわかる。それはね“逃避”って言うんだよね。俺も逃避することがよくあって。でも、それは“グレイトエスケーピズム”って言葉があるくらいで、“偉大な逃避”なんですよ。逃避すればするだけレコード会社の人も“よし!”ってなるから(笑)。どんどん逃避していいと思うよ」
津野 「はい!」
――米咲さんは、さっきKREVAさんが言っていた直感と理性のバランスという話を受けてどうですか?
津野 「自分ではあまりわからないんですけど、バンドで音楽をやってるというのも大きいと思うんですよね。自分はどこまでもつまらないくらい生真面目にいろいろ想像して“こうしたらこうなってしまうんじゃないか、じゃあそれはやめよう”とか、直感的な発想を通すことってほぼないんです。でも、ほかの3人のメンバーは基本的にふざけた人間なので」
KREVA 「うん、それは映像(『猛烈リトミック』の初回盤のDVDに収録されているオフショット・ドキュメンタリー〈情熱公演〉)を観てわかったよ。はしゃいでんなって(笑)」
津野 「そうなんですよ(笑)。極端に固い私と極端に柔らかい3人のバランスがいい具合になってるのかなと。いい具合じゃないときもかなりありますけど(笑)」
――3人がプレイヤーとしても奔放な立ち居振る舞いができるから、自分は安心して固くいられるという。
津野 「どんなに柔らかくなりたいって憧れても私はあんなふうになれないから。でも、まずは私が形を1回作ってみる。で、みんなは作るよりも壊すほうが得意だから。だから、あえて(曲を)ガチガチに作ってみんなに渡しますね」
――壊されてから新しい扉が開いていったりすると。
津野 「そうですね。でも、あんまり壊されると怒りますけどね(笑)」
KREVA 「だろうね(笑)」
津野 「結成当初はもっと固い部分と柔らかい部分を分かち合えるんじゃないかと思ってたんですよ。でも、1年、2年一緒にやってきてわかったのは“あ、わかりあえないな”っていうことで(笑)。宇宙人と接してるみたいな感覚なんですよね。私の想像どおりには絶対にならないし、でもそれが面白くもあり。だから、まずは自分の役割を想像してそのとおりにならなくても一度しっかり曲を組み立てることが大事だなと思ってます」
KREVA 「どの程度壊してくるの? たとえば“こういうふうに弾いて”って言ったことが全然違って返ってくるとか?」
津野 「譜面的には壊れてないんですけど、ベースの音色が異常に歪んでたり」
KREVA 「ああ、そういうことか」
津野 「ベースの音色が悪魔みたいになることがあって。みんなで“ちょっとそれやりづらいんだけど”ってなることがよくあって。うちのベース(藤本ひかり)は演奏面以外でもクラッシャーなので」
KREVA 「そうなんだ。人の彼氏を好きになるとか?」
津野 「あ、これは公言してるんですけど、ベースとドラム(歌川菜穂)は高校時代の彼氏が被ってるんですよ」
KREVA 「なんだと!?」
津野 「ははははは。ドラムがすっごい好きだった男の子にベースが告白されて付き合った時期があって。で、ベースと別れてからドラムとも付き合ったっていう」
KREVA 「ホントはリズム隊には仲よくしてほしいんだけどね」
津野 「そうですね。性格が真逆なので」
――でも、仲はいいよね。
津野 「あれって仲いいんですかね? うちはみんながみんなに興味ないから(笑)」
――けど、そういうバンドのいびつなバランスも含めて、今回はすごく開けたアルバムを作ることができましたよね。
津野 「フレンドリーになりましたよね。前作までは、自分たちは宝物を持ってることを把握してるし“これはとんでもなくいい音楽なんだぜ”って自慢したいのに、立ってる場所が孤島で。そこを出る舟がないみたいな状態だったと思うんですよね」
KREVA 「“なんでみんなわかってくれないんだろうね?”って言いながら」
津野 「そう。“なんで誰もここに来ないんだろう?”って。川の向こう側にある陸は見えてるのに橋は架かってないし、舟も出てなかったのが、『猛烈リトミック』では1曲目の〈NOW ON AIR〉をはじめ向こう側にある陸に渡れる曲ができたと思います」
――多くのリスナーがいる場所と往来できるようになった。
津野 「そう思います」
「KREVAさんの歌詞ってツッコミどころがないって言ったらおかしいですけど、“ん?”って疑問に思うことがないんですよ。一筆書きで書いてるような趣もあるのに。(津野)
――改めてになりますけど、今回、赤い公園とKREVAさんのコラボレーションが実現した経緯を米咲さんに語ってもらえたら。
津野 「あの、私がKREVAさんを好きな理由を3つに分けて話してもいいですか?」
KREVA 「あはははは。いいよ」
津野 「まず、高校のときにH君っていう同級生がいたんですけど。そのH君が、ホントにKREVAさんのことが大好きで。彼は放送委員だったんですよ。それで、毎日お昼の時間にKREVAさんの曲が流れるようになって」
KREVA 「ありがてえ」
津野 「H君のおかげでKREVAさんの曲をたくさん知ることができて。その時点でいいなと思ってたんですけど、さらに好きになったのはバンドで歌詞を書くようになってからで。KREVAさんの歌詞ってツッコミどころがないって言ったらおかしいですけど、“ん?”って疑問に思うことがないんですよ。一筆書きでバッと書いてるような趣もあるのに。そこに私はずっと参りましたと思っていて。私がこんな歌詞を書けるようになりたいって思うのが、KREVAさんとユーミンさんで。それが1つ目。2つ目は私、ギターなんですけど、リズムフェチで。ドラムとかのほうがこだわってるんじゃないかっていうくらいリズムが好きなんですね」
KREVA 「いいね」
津野 「歌のリズムにも自分なりにこだわってるんですね。KREVAさんは言葉のリズムと音程をすごく大事にされてるのがよくわかる。たとえば“CD”だったらシー↑ディー↓って音が下がるニュアンスの部分もすごく意識されてると思うんです。意識的に崩してることもあると思うし。だから、歌詞カードを見なくても何を言ってるかわかる。もちろん、滑舌のよさもあると思うんですけど。それと、たとえば4拍の中に何パターンものリズムの詰め方があって。KREVAさんは小節をまたいでいくんですよね。そういうことを歌でやられてしまうともう、ズッキュンってなる(笑)」
KREVA 「これを読んでるファンの人たち、ゴメンな」
津野 「あはははは。で、3つ目は顔がタイプ。その3大要素が私がKREVAさんを好きな理由です」
KREVA 「もう一度言うけど、これを読んでるファンの人たち、マジでゴメンな」
一同 「(笑)」
KREVA 「いや、うれしいね。さっきの“CD”の発音の話で言うと久石譲さんが同じようなことを言ってた。ポ↓ニョ↑じゃないじゃん、絶対。でも、俺はラッパーだからあるべき発音を無視してねじ伏せるときもあれば、正しい発音どおりに寄り添うときもあって。そういうポイントに気づいてもらえるのはうれしい」
――リズムの美学というのは、ビートメイクにおいてもフロウにおいてもずっと追求しているところですよね。
KREVA 「そう、久保田利伸氏が言うところの“グルーヴピーポー”ね。俺はその言葉がちょっと照れくさいんだけど、そのニュアンスがよくわかる。それこそ久保田利伸氏と一緒に曲を作ってライヴもして“あ、リズムってこんなにうしろまでノっていいんだ”って思ったんだよね。ラッパーでもうしろにノれるヤツとユニゾンすると自分のリズムポケットがどんどん広がっていくのね」
津野 「ああ、そういう意味でも今回の〈TOKYO HARBOR〉もすごく気持ちよかったです」
KREVA 「うん、そこは意識したところでもあって」
津野 「大人の余裕を感じました」
KREVA 「だから、米咲ちゃんももっと“グルーヴピーポー”と一緒にやるといろいろ勉強になると思うよ。MIYAVIも新曲(〈Real?〉)でジャム&ルイスっていうジャネット・ジャクソンとかを手がけたプロデューサーを迎えていて。MIYAVIと話したときに“この人たちどんだけうしろでノるんだって思った”って言ってたんだよね。スピード感だけを求めると前に前にいっちゃうけど、その中でうしろにノるポイントを見つけたら新しい引き出しが生まれるから」
津野 「それこそKREVAさんがMIYAVIさんと一緒にやられていた〈STRONG〉はあえて前に前にノっていく感じがすごくカッコよくて」
――ロック然とした直線的なリズムのとり方。
津野 「そう。一方で〈TOKYO HARBOR〉はリズムのポケットが広くて。それを使い分けられるのがホントにすごいなって思いました」
KREVA 「〈TOKYO HARBOR〉のアプローチはソウルっぽいと思うんだよね。これはこういう曲を作ろうと思ってできたの?」
津野 「なんとなく作ったんですよ」
――けっこう前からある曲なんですよね。
津野 「デビュー前に作った曲で。こういうリズムの曲がやりたいなって思ってた時期があって。で、なんとなくちょっと半笑いな感じで作ってたんですね。“この曲の女の子は絶対幸せになれないだろうな”とか思いながら(笑)」
KREVA 「そっちの笑いか(笑)」
津野 「でも、そもそも自分が好きな音楽のルーツとして筋が通ってる曲でもあると思うんです。ソウルやファンク、AORを吸収したJ-POPみたいな」
――いわゆるシティポップの文脈にも引っかかるサウンドですよね。
KREVA 「オファーを受けてこの曲を最初に聴いたときにシンプルにいいなと思ったのね。ただ、歌詞のストーリーの設定を読み取るのが難しいなと思って。で、実際にメンバーみんなと直接話して、そこで自分が描いていたイメージと華麗なまでにズレていたことが発覚したんだよね(笑)。だから、ちゃんと会って話してよかったなと」
――確かにKREVAさんのラップが乗る前の段階ではすごく余白のあるストーリーですよね。
KREVA 「俺は、主人公の女性がもっと悪女で、“女と一緒に住んでるんでしょ? で、私と今日会って飲むの、飲まないの?”みたいな感じかなと思ってたの。じゃあ俺も悪い男になってやろうと思って。でも、実際に赤い公園のみんなと話したら“そうじゃないんです”って言われて」
津野 「私が“悪気はない男性像がいいです”ってお願いしたんですよね。でも、KREVAさんから上がってきたラップをメンバーみんなで聴いたときに口をそろえて言ったのが“悪い男だな!”って(笑)」
一同 「(笑)」
――まあ、カッコよすぎるという意味でズルいですよね。
津野 「そう、カッコいいし、ズルいし、悪い。最初に私の中で描いていたストーリーは女の子の思いだけで止まっていて。男の人がこうだから女の子がこういう状態になってるという設定を描くのが難しくて。具体的にストーリーを広げるには男の人の存在が必要になってくるから。そこにKREVAさんのラップが入ったことで見事にストーリーが完成して感激しました」
KREVA 「最初はストーリーが破綻してたんだよね。“会社の人と飲んで帰る”って言ってんのにクルマに乗るっていう」
――飲酒運転の疑いっていう(笑)。
津野 「そうそう、KREVAさんとの打ち合わせのときにわかったのは“そうだ、私たち誰も免許持ってないからクルマのこと全然わかんねえわ!”って(笑)」
KREVA 「ね。“おい、これはマズいぞ”ってなって、解決するにはどうしたらいいんだって考えて。男が女の子をピックアップして、一旦クルマを置いて、そのあと飲んで帰るような間柄を想像したんだよね。男は江東区にある会社に務めてる営業マンで。営業車で“何時におまえのいるエリアを通るからそこでおまえを拾えるわ”みたいな。で、レインボーブリッジを渡って、江東区にある会社にクルマを置いて、飲んでから京葉線に乗って帰るみたいな。だけど、クルマで走ってる途中で“こっちに曲がったら羽田まで行けちゃうよ?”っていう。そこで女の子はハッとするみたいなね」
津野 「もう、大人!!」
――このKREVAさんのヴァースでまずすごいなと思ったのは“営業車”っていうワードを出したことで。そこでリアルな設定がグッと浮かび上がる。
KREVA 「90年代のシティポップ的なJ-POPって、きらびやかで憧れの世界みたいな感じもあると思うけど、赤い公園のほかの曲の歌詞を読んだときにもっとリアルなワードがバン!って入ったほうがいいと思って」
津野 「カッコいい……」
KREVA 「車のボディに“●●印刷”って書いてあって、全然カッコよくないんだけど、そこにドラマがあるというか」
――あと、“冗談半分”というフレーズの使い方ね。この1フレーズでラヴ・ストーリーとしての深みが一気に生まれる。
KREVA 「そうなんだよね。そこに気づいちゃったんだよね(笑)」
津野 「悪い男だな!」
一同 「(笑)」
「KREVAさんからいただいたこの曲の歌詞を読んだときに“ああ、絶対的に経験値が足りないな”と思い知りましたね。で、いい恋をたくさんしようと思いました。(津野)
――オファーを受けたときのKREVAさんはかなり多忙だったから、僕が言うのはなんですが、よく受けてくれたなと思って。
KREVA 「かなり多忙だったよ(笑)。でも、いくら忙しいときでも受けたほうがいいと思ってやる仕事ってこれからもあると思うのね。自分のアルバムを作ってるときにすごい大御所からオファーが来るみたいな。しかも“3曲!?”みたいなことだってあると思うし。でも、いけるなら絶対いったほうがいいと思うんだ」
――まさに「アグレッシ部」の精神ですね。
KREVA 「そう。今回、俺の中では赤い公園からのオファーは受けたほうがいいと思ったから。実際にやってよかったと思ってるし」
――米咲さん、うれしいね。
津野 「いやあ、ホントに……。私たちは東京の郊外で生まれ育って、いつもみんなスッピンで、寝癖もヒドいままチャリで50分くらいかけて高校に通っていたんですよ。デビューした当時は三宅さんにも“もれなく全員ブス”って思われていたみたいで」
一同 「(笑)」
――いや、今はみんなもれなく素敵な女性になったなって思ってます。
津野 「(無視して)全員ブスだったんでチヤホヤされることもなく。高校時代のままでここまできたから、自分たちが想像できる範囲の恋愛が少女マンガの世界なんですよね。それでも歌詞は書かなきゃいけないから、映画を観たりいろいろ勉強してるんですけど。でも、KREVAさんからいただいたこの曲の歌詞を読んだときに“ああ、絶対的に経験値が足りないな”と思い知りましたね。で、いい恋をたくさんしようと思いました」
――この曲に似合う女になるっていう。
津野 「ホントそうなんですよ!」
――いい宿題をもらいましたよね。
津野 「まあ、でもこの曲の女の子も冗談半分の関係なんで(笑)」
KREVA 「でも、まったく気がないわけじゃないからね」
津野 「もう、ズルい!! 私は“好き”と“嫌い”しか知らない(笑)!」
一同 「(笑)」
――あとは、今回KREVAさんのコーラスが入ってるのも大きなポイントですね。
津野 「そう!」
――なかなか聴いたことのないKREVAさんのキーと声色で。
KREVA 「ラップの入ったデモを渡すときに“とにかく俺の声を小さくしてくれ”ってリクエストしたんだよね(笑)。ちょっと恥ずかしかったから」
津野 「でも、逆に私たちはミックスのとき“KREVAさん上げてくださーい”って頼んで(笑)」
KREVA 「あははははは」
津野 「入ってる楽器が少ないから、KREVAさんの声もちゃんと立ったほうが聴こえ方として広がるなと思って。自分たちの曲で男性の声が入ったことってなかったので。素敵でした。あと、最後の“冗談半分”のところを小さくするか大きくするか悩んで。私たちが“もっと大きくしたい”って提案したときにエンジニアの井上雨迩さんが“いや、これくらいのほうがロマンあるんじゃないか”って提案してくれたんです」
KREVA 「正解。俺の中で“冗談半分”って男が自分に言い聞かせてる感じがあって。でも、聴こえないとダメだから許せる範囲で自分で上げといたの。そこを大きくすると、相手の女の子に対する主張みたいになっちゃうから、このバランスでよかった」
――当然、いつかライヴでもコラボレーションが実現するのを期待してるんですけど、KREVAさんが寄せたオフィシャルのコメントには“でっかいステージに御呼ばれするのを楽しみにしてます”と書かれてあって。これは次のツアーでは実現しねえんじゃねえかっていう牽制にも思えるんですけど(笑)。
KREVA 「いやいやいや(笑)。それかあれでもいいよ、対バンにめっちゃ嫌いなヤツがいたらビビらせたいから俺を呼ぶみたいな」
――おおっ。
津野 「そのために嫌いなバンドと対バンしなきゃいけないのかあ(笑)」
KREVA 「めっちゃ赤い服着ていくよ」
津野 「怖い(笑)」
KREVA 「それは冗談として、よきタイミングがきたらいつでも。あとね、思うのはたとえば俺はひとつ前のアルバム(『GO』収録の〈蜃気楼 feat.三浦大知〉)で三浦大知くんを呼んで、最近の曲(ベスト・アルバム『KX』収録の〈全速力 feat.三浦大知〉)でも三浦大知くんを呼んだんだけど、そのときは2曲できたりして。そうやってコラボレーションを重ねるのもありだと思うんだよね。もしみんなが自分たちで〈TOKYO HARBOR〉が似合う女になったなと思ったら、もう1回呼んでくれたらうれしい」
――おおっ!
津野 「ああ、もうぜひぜひぜひ!!!」
KREVA 「そしたら俺がもっと悪い男になってね」
津野 「そしたら、私たちが絶対追いつけないような大人な感じを毎回出していただいて、KREVAさんがただのダメな男になるくらいまでこのシリーズを続けたいです(笑)」
KREVA 「間違いない(笑)。みんなの音楽的な趣味もどんどん変わっていくだろうし、そしたらどんどん面白くなるよ」」
「赤い公園は他流試合みたいな場に出たときに、意識して勝ちにいかなくてもみんなが触れたいと思う曲を持ってるから。そのままでいったほうがいいと思う。(KREVA)
――話は変わりますけど、KREVAさんはこの10年、ずっと世間と対峙してきたし、自ずと誰よりも日本語ラップシーンの外にある舞台にも出ていって。そのひとつがロックフェスだったりすると思うんですけど。よくフェスのバックステージでロック・バンドの人に「ファンなんです」って言われるって言ってましたよね。自分ではその要因ってどこにあると思いますか?
KREVA 「それがホントにわかんないんだよね」
津野 「でも、それはさっきのリズムに対するアプローチやトラックの面白さもあるんじゃないですか?」
KREVA 「かなあ? そこに反応してもらえてたらうれしいんだけど」
津野 「トラックも聴いていて純粋に刺激的だから。ハッとするような展開もあるし、コード感もたぶんポストロックとかやってる子たちが引っかかりやすい感じがあると思うんです。意外とポップと縁遠い音楽をやってるようなバンドが“このコードきれい!”って思うフックがたくさんあるんじゃないかと。さっきの小節をまたいでいくリズム感もアレンジが好きな人には一発で音楽的だと思うはずで」
KREVA 「ありがたいね。うれしい。もっとがんばろう。フェスとかでもいろんなところに出ていったから引っかかってもらえたのかなとは思う。だから赤い公園にもどんどん意外性のある場所に出ていってほしい。たまには“えっ!?”っていうオファーもあるとは思うけど、積極的に出ていくとその分返ってくるものもあるから。“水着でワニと戯れてくれ”ってオファーだったら速攻で断ったほうがいいけど」
津野 「あはははは!」
――赤い公園はバンドの中でもけっこう意外性のあるイベントに出たり、コラボレーションをしてるほうだと思うんですよ。ヒップホップでいえば、米咲さんはSKY-HI氏の作品(コンピレーションアルバム『SKY-HI presents FLOATIN' LAB』収録の〈糸〉にコーラスで参加)に参加したり。
KREVA 「あ、それは知ってる」
――あと、THA BLUE HERBと対バンしたりね。
KREVA 「へえ! ヤバいね、それ」
津野 「緊張しすぎました」
KREVA 「それは“青と赤”つながりでってことなの?」
津野 「新宿レッドクロスっていうライヴハウスがあって、私たちは毎年夏に2マン企画をやらせていただいてるんですね。対バン相手をハコのブッキング担当の方と一緒に決めていくんですけど。2年前に“THA BLUE HERBが決まったよ!”って言われたときにはひっくり返りましたね。THA BLUE HERBもずっと好きで。まさかBOSS(THE MC)さんに会える日が来るなんて思ってなかったから、正装しようと思って」
――あの日、葬式みたいな格好だったよね(笑)?
津野 「そう(笑)。当時、私が持っていた正装って卒業した高校の制服か喪服しか持ってなくて。私、喪服を着ていっちゃったんですよ」
KREVA 「褒め言葉かわからないけど、喪服が似合いそう(笑)。ちょっと喪に服してるところ見てみたいもん」
津野 「誰も死んでほしくないです(笑)!」
KREVA 「でも、赤い公園は他流試合みたいな場に出たときに、意識して勝ちにいかなくてもみんなが触れたいと思う曲を持ってるから。特に音楽を作ってる人にはすぐに伝わると思うし。だから、そのままでいったほうがいいと思う。俺がソロになりはじめのころは“ビッグになってやるぜ!”ってひたすら勝ちにいってたけど。赤い公園はそういう必要がないと思うよ」
――ソロ・ラッパーという意味ではライバルと呼べる存在がいないなかで、KREVAさんはずっとポップ・フィールドに立ってるじゃないですか。だからこその孤独もあると思うんですけど。今、KREVAさんがポピュラー・ミュージック・シーンで戦う上で最も意識していることはなんですか?
KREVA 「今はポピュラー・ミュージック・シーンで戦ってるとは思ってないかな。いろんなフェスに出演したりすることでそういう部分が出てくるなら、最近いちばん気にしてるのはアティチュードだと思う。最終的に曲がカッコいいと思わせたい、多くの人に聴いてもらいたいっていう気持ちがあるとしたら、昔は曲を研ぎ澄ませてそれをいかにぶつけられるかってことばかり考えてたんだけど。でも、今はさっきの架け橋の話で言ったら、MCや立ち振る舞いが架け橋になると思うんだよね。思わず渡りたくなっちゃうような橋を架けてあげるというか。そういうことのほうが今は気を遣ってると思う」
――なるほど。
KREVA 「最近はインプットの時期で。ずっとアウトプットばかりしていて、何も入れてなかったからいろんなことをインプットしようと思って。普段はあまり観ないような映画を観に行ったりね。そこで、映画館によってこんなに満足度が違うんだって思ったの。家電量販店のビルの上階にある映画館じゃ満足できないんだよね。やっぱりデッカいシネコンみたいなところに行って、ベタにポップコーンを買って、階段を上って、自分が入る劇場はこっちかなあっちかなって探して、チケットを切って中に入るっていうその体験がすごくいいわけ」
津野 「ああ、そうですね」
KREVA 「音楽でいえば、ライヴやジャケットのデザインにも置き換えられると思うし。俺はこの10年ひたすら曲を作って出してきて、認知もある程度してもらってっていう状況になったから、あとはいかにそういう橋を架けられるかだと思ってる。街を歩いていても、見たことはあるのに中に入ったことのない店のほうが多いでしょ。そこに入ってもらうためにどうするかを今はすごく考えてる」
津野 「サービス精神であったり」
――ホスピタリティの提示の仕方だったり。
KREVA 「そうだね。でも、今の赤い公園はまだそれを周りにいるスタッフにやってもらえばいいと思うんだよね。とにかくいい曲を作ってほしいなって」
津野 「そうですね。これからツアーが始まるんですけど、演奏も歌もちゃんと準備していって、本番はいかにお客さんに楽しんでもらうかということに集中できたらいいなと思っていて。ツアーが終わったら新しい曲もどんどん作っていくと思いますけど、そこで360度カメラを置いて“次はどの角度で見せようか?”って考えると思うんですね。一度置いたところには二度とおかないと思うし。でも、それをあまりに考えすぎると息が詰まっちゃうのかなって。だから1回、何も考えないでやってみようとも思ってます」
KREVA 「いっそのことカメラを飲んじゃえばいいんじゃない?」
津野 「“中を見て!”って(笑)」
KREVA 「“これでも好きになってくれるか!”ってね」
津野 「ずっとやりたいことをやるのが怖かったんです。“自分のやりたいことがつまらなかったどうしよう?”って思うから。自分がすっからかんな人間だって露呈するのも怖かった。ホントにそれだけが怖かったんですけど、今はその恐怖心がなくなってきていて。生理現象みたいな曲ができてもいいかなって思えるようになったんですよね。『猛烈リトミック』はこんなに学んで、考えて、雰囲気もいいアルバムにすることができたので。次はもっと生々しくてもいいのかなと今の時点では思ってます」
KREVA 「あとはさ、SMAPに提供した曲(〈Joy!!〉)とかもあったけど、米咲ちゃんの曲が欲しい人はいっぱいいるんだから、生々しいゾーンはあえて人にあげるかビンに入れとくみたいな感じでもいいんじゃない? 今回、亀田(誠治)さんや蔦谷(好位置)くんにプロデュースしてもらったように、ビンに入れて取っておいたものがそのときどきでいい形にアレンジしてもらえば活きてくることもあると思うし。そうやって赤い公園の新たなポップスが生まれてくると思うんだよね。だから、どんどん作ったほうがいいと思うよ」
津野 「活動休止してるときも“どの時代のどこの国の誰の音楽?”みたいな曲ばっかり作ってたんですよね。その中で〈Joy!!〉もできたりしたから。だから、 KREVAさんがおっしゃるようにどんどん吐き出したほうがいいんですよね。ありがとうございます」
KREVA 「俺も、誰も絶対にシングルにしようとは言わない曲もできたりするけど、一応ある程度形にするんだよね。そうしないと、ポンと弾けた曲は出てこないから」
津野 「そうですね。励みになります」
――今度は逆にKREVAさんの曲に赤い公園が参加したら面白いだろうなと。
津野 「ぜひぜひ。なんか“ゴーッ!”っていう音が欲しいときとか呼んでください(笑)」
KREVA 「わかった(笑)。俺が呼ぶんならPVとかに出てほしいわ。女優として」
津野 「出たいです! うちのヴォーカル(佐藤千明)がこの間、スペースシャワーTVのドラマ(〈THREE PIECE〜とあるクソバンドが自然消滅するまで〜〉)で女優デビューしたんですよ」
KREVA 「それに負けない感じでいこうよ」
津野 「私、いけますかね(笑)? あ、私が今まで1回だけ演技したことある話を最後にしてもいいですか?」
KREVA 「うん」
津野 「小学校5年の学芸会のときに森さんっていう役をやったんですよ。で、森さんはセリフが1つしかないんです。森さんはいつもシャベルで穴を掘っていて。“森さん何してるの?”って訊かれたときに“お墓を掘ってるの!”って言うんです」
一同 「(笑)」
――似合いすぎる(笑)。
KREVA 「じゃあPVに出演してもらうときも喪服で(笑)」
津野 「この対談、喪服オチかあ(笑)!」
取材・文 / 三宅正一(2014年10月)
撮影 / 相澤心也
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