2010年にミックステープで注目を集め、2012年にアルバム『THE PACKAGE』でデビュー。日英西トライリンガルならではのユニークなフロウやライミングとセルフ・ボースト(自己賛美)で圧倒的な個性を発揮してきた“レベチ”ラッパーAKLOが、3作目の『Outside the Frame』でついにメジャー・デビューする。BACHLOGIC率いるO.Y.W.M.による渋いトラックに乗って躍動する彼のラップは軽快にして重厚。ちなみにレベチとは「レベルが違う」という意味のギャル語。AKLOは「ギャルだけに使わせるのは勿体無いので俺がヒップホップ用語の辞書に載せました」と笑ってみせた。
「ちょっとセンチメンタルな気持ちだったんですよ、そのときは。2Pacが殺されたのって、考えれば考えるほど納得いかなくて。夢に向かって突っ走ってて、シーンにもすごくいい影響を与えていた人が、誰かのエゴで殺されて、未解決のまま時間が過ぎるって、物語としてえげつないじゃないですか。未解決事件について考えるって風の中に答えを探すようなもんだなって思って、まず“風に吹かれて”っていうラインが出てきたんです。言いたいこと言うやつってそういう運命なのかな、って思ったら、そういえばボブ・ディランってすげえ言いたいこと言ってて今も現役バリバリだなって思いついて、“風に吹かれてLike Bob Dylan”っていいな、と、言葉遊びから出てきました。初めて歌のなかで社会的なテーマをかっこよく提示した人だし、人名を列挙する曲が面白いなって思ってたのもあって。実はそのときはあんまりボブ・ディランのこと知らなかったんですけど、後からドキュメンタリー見たりして、“かっけー!”ってどんどんハマっていきました」
――アルバム・タイトルの『Outside the Frame』についてですが、ここでアウトしたいのはどんなフレームですか?
「先にタイトル曲の〈Outside the Frame〉があったんです。そのときは“怒り”でした。ムカつくやつがいて、“この70億の人がいる地球上 / のたった何人かにDisられちゃったぐらいで / Don't Give a F*ck About It”って、すごい怒ってグレてるんですけど(笑)、なんか、社会から外れていく感じがしたんです、自分が。アウトロー感というか、思い切ったことをする勇気って必要だなって思って。枠のなかでフラストレーションを感じて生きるより、うまくいかなくて後悔するかもしれないけど、はみ出すことをもっとするべきだと思うんですよ。はみ出たい人は実はいっぱいいるんじゃないかと思うし、そういう人のためのBGMになれば……って、セルフ・ボーストで聴く人にパワーを与えるという自分のスタイルにマッチしたんですね。で、〈Your Party feat. JAY'ED〉を書いたのがちょうど俺がインターネットをあんまりしなくなった時期で、それもブラウザのフレームから飛び出た感じがあったりして、これもある意味“Outside the Frame”だな、とも思ったりして」
「マジですか! よかったー。途中でバレたら恥ずかしい!って思ってたんで(笑)。最後の一行でなんで言っちゃうの?って人もいるんですけど、コモンの〈I Used to Love H.E.R.〉って有名な曲があるんです。ヒップホップを女性になぞらえたラブ・ソングなんだけど、最後の最後に“君はヒップホップ”って言うまでわからないんですよ。初めて聴いたときすごい衝撃を受けたんで、それをどうしてもやりたいなって思ったんですけど、ヒップホップだとありきたりなんですよね。ミックステープで出てきた俺にとってはインターネットって人生を変えてくれたものだったりするから、インターネットへのラブ・ソングにしてみようと思って。最近なんか性格悪いなインターネットさん、って思ってたんで(笑)、その愛憎を書きました。そしたらパソコンも使いたくなくなっちゃって、リリック帖で書いたんですけど、それがすごくフレッシュだったんです。アナログ=古い、デジタル=新しいみたいな考え方をしてたけど、実はアナログこそ究極に新しいんじゃないか、って思って。そもそも俺は声という超アナログな楽器を使って最新の音楽を作ってるわけだし、実はアナログがいちばんデジタルが追いつけないものなんじゃないかって考えてて。だから今回のアルバムは初めて全部リリックを手書きで書いたんですよ」
――〈McLaren〉も痛快だし、冒頭の〈Fly Like a Dragon〉から、俺は鳥じゃねえ竜だ、って歌っていますね(笑)。
「笑っちゃいますよね。バカ見つけましたよ〜、みたいな(笑)。俺、平気でこういうこともやっちゃうんですよ。笑ってほしいですしね。でも曲はかっこいいですから。いい環境で聴けば聴くほど良く聞こえると思います。そこはすっごくこだわって作りました。クォリティよりアイディアだってよく言われますけど、クォリティにもめっちゃくちゃこだわってるんで、いいヘッドフォンでCDで聴いてほしいです。そしてアルバムを最後まで聴いてくれたら、俺の言いたいことはわかってもらえると思います。例えば最後の〈3D Print Your Mind〉って、自分でもすごく気に入ってるんですけど、俺のまわりにはクリエイターが多いんですね。そういう人って、自分は他の人より優れてると思ってるし、自分が作ったらもっとやばいものが作れるって思ってる人が多いと思うんです。でも、実行しなきゃ意味がないんですよ。俺がいつも思ってるのは、アイディアって空気に触れて化学反応して初めて出来上がるものだってことなんです。頭の中に真空パックしているうちは誰もが天才なんだけど、空気に触れた瞬間に、その真価がわかる。3Dプリンターで空気に触れさせて見せてみろよ、おまえがずっと言ってたそのアイディア俺はすっげえいいと思ってたけど、前にその話したのってiPhone 4か3GSの時代だったんじゃねえか?って」