作曲、編曲、演奏や歌を担当するアレックス・シルヴァーマンと、誘いを持つシンガーであるサム・シドリー……。高校時代からの知己でもあるという、LAをベースとする男女デュオが
アレックス・アンド・サムだ。二人が微笑みとともに送り出すのは、なんとも洒脱なポップ表現。それは幸福な時代のウエストコーストの淡い輝きを思い出させるものであり、今だからこそのしなやかな機微を持つものでもあり。二人による“密かな愉しみ”的なアダルト・ポップの求めるところは? アレックスに話を聞いた。
――LA生まれですよね? どんな環境で育ったのでしょう?
アレックス(以下、同)「生まれはNYなんだ。でもすごく幼いときにLAに越して、ヴァリーという街で育った。父はミュージシャンで、母は広報の仕事をしていたよ」
――子供のころから、やはり音楽は一番の存在だったのでしょうか?
「音楽はいつも最大の関心事だったね。5歳の時からチェロを演奏しているんだ。物心ついたころからずっと音楽を演奏しているし、作り続けているんだよ」
――あなたとサムは、同じアート専門高校に通っていたそうですが、それはどんな学校なんですか?
「僕らは、“L.A. County High School for the Arts”という高校に通っていた。素晴らしい学校で、たくさんのことを学んだよ。そこを出た後に、僕もサムもバークリー音楽大学に入学したんだ」
――あなたはちゃんとクラシックも学んでいるそうですが、アルバムでのリッチな弦や管の使い方はその経験が役立っていますか?
「たしかに、僕のバックグラウンドにはクラシック音楽がある。今でもクラシックのチェロを学んでいるし、教えてもいるんだ。アレックス・アンド・サムとして音楽を作る時も、アレンジする際の道具としてチェロはすごく重宝している。ポップ・ミュージックの中に、ストリングスやホーンを使うのが本当に大好きなんだ」
――サムとはどんなきっかけで、ユニットを組むことになったのでしょう?
「高校時代からサムと僕はとても親しい友だちだったんだ。大学に通うためにボストンへ越した後、彼女が歌うために曲を書き始めた。そのうち、二人で歌ったほうがいいと思い始めて、アレックス・アンド・サムが生まれたんだよ」
――彼女の美点はどんなところにあると思いますか?
「サムのヴォーカルは、まさに僕の好きな声なんだ! それに、彼女の歌声はスムースで、フレージングに関してとても優れたセンスを持っている。彼女のために曲を書くことはとても幸せなことだよ」
――あなたもサムも、それぞれ個人の活動もしているようですが、それとデュオでの活動はどんなところが一番違いますか? また、男女デュオのメリットはどこにあると考えますか?
「男性のための曲も女性のための曲も書くことができて、両方の視点を見せることができるところかな。男性の曲だけだったり女性の曲だけだったりだと、オーディエンスはときどき飽きてしまうと思うんだ。僕らはその両方を駆使しながら、つねにエキサイティングな状態を保てればいいと思っているよ」
「人々の心に染み渡り、また人々をワクワクさせるような音楽を目指したんだ。同時代のほかのグループと同じような音にはしたくなかった。それと、サムのシンガーとしての才能をちゃんと示せるような音楽を作ろうとしたよ」
――アルバム1曲目の「ファウンド・アワ・ウェイ」は、ドラムや弦の音の感じなど、
ザ・ビートルズへのオマージュが入っていると思いましたが。
「そのとおり、ザ・ビートルズが大好きなんだ。このアルバムで書いた曲は、基本的にはすべて彼らから教わったことだよ。まるで子供のように、ザ・ビートルズのアルバムのすべてのパートからたくさん学んだし、勉強した。僕にとって、彼らのアルバムは、ポップなソングライターのための教科書のように思えるよ」
――また、「ローラ」などからはアフリカ音楽の要素も感じ取れますが。
「サムの父親は南アフリカの出身なんだ。僕らは二人とも南アフリカの音楽が大好きだよ。この曲をサムのために書いたとき、たしかに南アフリカを意識していたね」
――アルバムを通して聴くと、どこか懐かしく、甘酸っぱい感じも受けました。レトロな雰囲気は狙っていますか?
「僕らは古い音楽にどっぷり浸かっているからね。そういった雰囲気や感情をレコードに焼き付ける方法を知っていると自負しているよ」
――ほんわかしつつ視野の広い音を聴いて、“ミレニアムのバーバンク・サウンド”、なんて言い方もありかなと思ったんですが。(注:バーバンク・サウンドとは、バーバンクにオフィスを置いた70年代初頭のワーナー・ブラザーズ/リプリーズ発のしなやかなロック系表現を指す)
「全体的に言えば、僕らは70年代にバーバンクから生まれた音楽が大好きなんだ。リプリーズ・レコードの作品はどれも素晴らしいよね。今回のアルバムでは、ベースやドラムに関して、リプリーズに通じるサウンドを作ろうとしたよ」
――ともあれ、メロウな『サウンズ・ライク・ジス』を聴いていると、ゆったりした気分になれたり、とても満たされた気持ちになれたりします。それは、意図するところですよね?
「そうだね。とてもリラックスできるアルバムを作りたいと思っていたから。そして、本心から楽しめるのが、僕の理想の音楽なんだ」
取材・文/佐藤英輔(2010年8月)