12月16日に、初の音源となるミニ・アルバム
『anew』を発表するロック・バンド、
androp。デビュー前からその音楽性が話題になり、すでに2010年のブライテスト・ホープの本命候補として挙げられている彼ら。しかし、バンドの全貌はいまだベールに包まれている……。ここでは、デビュー作『anew』から解る彼らの魅力を分析。
MySpaceのプロフィールの再生回数は39万を超え(もちろん、この瞬間も回数を増やし続けている)、CD音源がまったくリリースされない時期からJ-WAVE「TOKYO REAL EYES」で何度も楽曲がオンエア、さらにほとんど無名にも関わらず〈SUMMER SONIC 09〉へも出演。2009年の春頃から、感度の高い音楽リスナー、音楽メディアに携わる人の間で大きな話題を集め、早くも“2010年のブライテスト・ホープ”の呼び声も高い“androp”。〈SUMMER SONIC〉、2009年7月に行なわれた代官山UNITでのライヴ以外は人前に姿を現したこともなく、バンド名とアーティスト・ロゴ、MySpaceにアップされている音源の他に情報は皆無。全貌がベールに包まれたこのバンドが、12月16日、初の音源となるミニ・アルバム『anew』をリリースする。結論から言うとこのアルバムは、2010年代の日本のロック・シーンの方向性を決定づける、凄まじい可能性を持った作品である。このアルバムを聴けば、穿った見方もすべて吹き飛んでしまうだろう。それくらい魅力的な作品なのだ。
『anew』を聴いてまず感じるのは、この作品が90年代後半以降に登場したロック・バンドたちの系譜にあるということである。
ASIAN KUNG-FU GENERATION、
BUMP OF CHICKEN、
RADWIMPS、もちろん、それ以前には
NUMBER GIRL、
SUPERCARといった優れたバンドがいたわけだが、洋楽からの影響を取り入れ、さまざまな試行錯誤を繰り返しながら、じつは世界のどこにも存在しない、豊かでユニークなロック・ミュージックを確立しつつある日本のシーン。メンバーの年齢もわからないので断言するのはどうかと思うが、彼らはおそらく、90年代以降のバンドたちを物心ついたころから(“これは新しい”とか“画期的!”なんて感じることもなく)ごくフツーに聴き、楽しんでいたのではないだろうか。
もうひとつの特徴は、J-POPというタームに象徴される、きわめて親しみやすいポップ感覚だろう。カッティングエッジなバンド・サウンド、意外性に満ちた楽曲展開を持ちながらもandropの音楽は、まっすぐに言葉を届け、心地よい共感を生み出すというポップスとしての高い機能を備えているのだ。“たくさんの人に聴いてもらうため”という美辞麗句のために音楽的な個性を失ってしまったり、逆に独自性にこだわったあまり、閉じたコミュニケーションに終始してしまうバンドは少なくない。だが、彼らは“ロックとポップ”というバランス、そこに生じる構図や議論から、初めから別の場所にいるように映るのだ。真に革新的な存在とは、既存のフォーマットを軽々と超え、まるで“ずっと前から、こうだったよね?”と言わんばかりにまったく新しい風景を見せてくれるものだが、まさにこのバンドもそういうものなのだと思う。
何はともあれ、『anew』に触れてみてほしい。清々しいまでの透明感をたたえた音像、イノセントな疾走感を軸にしたビートによって“見せてよ/悲しい日々はこれでもう終わり”“見せてよ心に抱いてる全てを”というフレーズが解き放たれる「Roots」、緻密に組み立てられたバンド・アンサンブルとファルセットを多様した軽やかでダイナミックなヴォーカル・ラインがひとつになった「Tonbi」、フォーク・ソング的な叙情性を持った歌から始まり、爆発的な高揚感を響かせるロック・チューンへと昇華していく「Image World」。ここに収録された7曲を体感すればきっと、このバンドが持つポテンシャルに気づいてもらえるはずだ。優れたバンドは数多く存在しているものの、ジャンルやシーンの細分化が進んでいる印象は否めない現在。もしかしたらandropは、そんな壁をブチ壊し、オーディエンスたちの幸せな一体感を生み出してくれるかもしれない。つい、そんな光景を想像してしまうのだ、『anew』を聴いていると。
文/森 朋之