【特別企画】『アンヴィル! 〜夢を諦めきれない男たち〜』公開記念 ANVIL(リップス&ロブ)×監督インタビュー!

アンヴィル   2009/10/29掲載
はてなブックマークに追加
 カナダのベテラン・ヘヴィ・メタル・バンド、アンヴィル(ANVIL)を追いかけたドキュメント映画『アンヴィル! 〜夢を諦めきれない男たち〜』が話題だ。80年代にちょっとだけ注目を浴び、来日公演も何度か行なうものの、結局は成功を掴み損ねたアンヴィルは、今や細々と活動を続ける、言わばロートル・バンド。しかし、決して運命に屈することなく、自らの信ずる道を行くその姿は、勇ましくもあり、まるで道化のようでもあり……。

 同映画の日本公開に合わせて来日し、大型メタル・イベント〈LOUD PARK 09〉にも出演を果たした、中心メンバーのスティーヴ・“リップス”・クドロー(g、vo)&ロブ・ライナー(ds)、そして、アンヴィルの大ファンである監督のサーシャ・ガバシに話を訊いた。




「確かに大金持ちにはなれなかった。でも素晴らしい家族や友人に囲まれ35年もバンドを続け、13枚もアルバムをリリースした。それって“成功”じゃないのかい?」
──〈LOUD PARK 09〉でのショウはいかがでしたか?
ロブ・ライナー 「出演は2006年以来だったけど、本当にアメージングだ。凄く盛り上がったし、俺たちにとって、また新たなターニング・ポイントになったよ」
──リップスは出てくるなり、観客の中へ飛び込んで行きましたね?
リップス 「ああ、そうだよ。オーディエンスは友達だし、俺は彼らを愛しているからな!」
──会場では、ライヴの最中だけでなく、サイン会でも“アンヴィル・コール”が起こって驚きました。
リップス 「あれは凄かった。みんな叫んでて、“一体何が起こったんだ?”って思ったよ」
──ショウは、もう少し演奏時間が長いともっと良かったのですが……。
ロブ 「同感だ」
サーシャ・ガバシ 「どうせなら、アルバム13枚から全曲プレイしてほしいね!」
ロブ 「いつも演目を決めるのは大変さ。いろんな曲をやってくれと言われるんで、なかなかみんなを満足させることができない」
リップス 「入手困難になっているアルバムも多いからな。近作からもっとプレイしたいけど、どこにも売ってなくて、みんな知らないんだよ。だから、どうしても初期3枚からの代表曲と、最新作『This Is Thirteen〜夢を諦め切れない男たち〜』からの曲になっちまう」
サーシャ 「でも、観客を完全に満足させたらダメだよ。ちょっと物足りないぐらいがイイんだ」
──ところで、監督とバンドはどのようにして再会したのですか?
サーシャ 「2005年の夏だった。メタリカを聴いていたら、“そういえば、このメタリカに影響を与えたアンヴィルはどうしてるんだろう?”と、ふと思ったんだ。
“もうとっくに解散しているかな?”と、ネット検索してみたら、何と……まだ活動しているじゃないか!」
リップス 「俺たちもことある毎に、“ティー・バッグ(=サーシャの愛称)は何してんだろう?”なんて、よく話していたんだ」
ロブ 「ああ。そしたら、突然“俺のこと憶えてる?”というメールが来て、ビックリした!」
──監督は、彼らと再会してすぐに映画を撮ろうと思いましたか?
サーシャ 「ああ。彼らとは20年ぶりにLAで会ったんだけど、全然変わってなくて、一緒にいた友人のライターが、“このイカれたオッサンは誰?”と言うから、彼らとのエピソードを話したら、もうすぐに“映画にしよう!”ということになったんだ」
──撮影中、リップスやロブはプライベートもすべて曝け出すのに抵抗はなかったですか?
ロブ 「全然」
リップス 「今さら失うものは何もないよ!」
──家族からの反対は?
ロブ 「みんな気にしていなかったし、もう“何でも撮ってくれ”という感じだった」
──お二人とも素晴らしい家族に恵まれて幸せですね! だからこそ、バンドも続けてこられたのでしょうけど……。
リップス 「よく思うんだ。“成功って何だよ?”ってね。確かに俺たちは大金持ちにはなれなかった。でも、素晴らしい家族や友人に囲まれて、35年もバンドを続け、13枚もアルバムをリリースしたんだ。それって“成功”じゃないのかい?」
ロブ 「ああ、俺もそう思うよ」


「もしメタリカとボン・ジョヴィがバックステージで鉢合わせしたら殺し合いになるかもしれない(笑)。でも、アンヴィルがそこにいれば、みんなひとつになれる」


(C)Ross Halfin /ANVIL! THE STORY OF ANVIL
──リップスとロブの友情も素晴らしいと思いました。でも、映画の中では大ゲンカするシーンもありましたね?
ロブ 「いつもキッカケは些細なことなんだ。これまでの35年間で、5〜6回は大ゲンカをしたよ」
サーシャ 「俺はラッキーだったよ。あのシーンが撮れてね。でも、それだけじゃない。この映画の場合、製作に乗り出したタイミング、撮影を始めたタイミング──そのすべてがちょうど良かったんだ」
──あの時、本当に解散していたら、映画はどうなったんでしょう?
サーシャ 「それはそれで面白いんじゃない(笑)?」
──ところで、この映画を観て真っ先に思い浮かんだのが、『スパイナル・タップ』でした。意識はしましたか?
サーシャ 「もちろんさ。避けられないと思っていたよ。(スパイナル・タップの監督の名前は)ロブ・ライナーだしな! でも、あっちは役者が演じているけど、アンヴィルは本物だ。現実のバンドなのさ」
──アンヴィルの日常は、毎日が“まるで『スパイナル・タップ』”なのでは?
リップス 「うん、いつだってそうさ。日本に着いた時も、(空港の)税関でギター・ケースを調べられて、女性係官が開けたら、ちょうどそこにヴァイブレーターが入っていたんだ(笑)!」
──アンヴィルにとっては大事な“楽器”のひとつだと言いましたか(笑)?
リップス 「いや、恥ずかしそうにしてたから……。女だったら誰でも、アレが何か知ってるだろ?」
サーシャ 「実際に、ずっとそんな調子だよ。クレイジーな事件が次々と起こるんだ。撮影が終わっても……ね」
リップス 「だから楽しいんだよ。ガキの頃からずっとそうさ!」
──この映画をキッカケに、若いファンが増えているそうですね?
サーシャ 「アメリカでは、映画を観た子供たちが、“あのメタリカに影響を与えた伝説のバンド”として、どんどんファンになっているよ」
──元ガンズ・アンド・ローゼススラッシュも絶賛していたし……。
ロブ 「彼は、俺たちの2nd『Metal On Metal』(82年)と3rd『Forged In Fire』(83年)を聴いて育ったのさ」
リップス 「成功するかどうかも分からないこの映画に、ノー・ギャラで出演してくれたしね」
サーシャ 「スラッシュには何も指示を出さなかったよ。単に“アンヴィルについて話してくれ”と言っただけだ。まぁ、もし台本があったとしても、彼は自分で思ったこと以外は話さなかっただろうけど。スラッシュのルーツは、セックス・ピストルズクラッシュデヴィッド・ボウイと……アンヴィルなのさ!」
リップス 「俺たちは常に20年先を行ってたからな。メタリカにも、ボン・ジョヴィにも影響を与えた。『Metal On Metal』にはメタルのすべてがある。これは20年後のメタルの青写真であり、20ものバンドのエッセンスが入っている。今日のメタルは、ここから細胞分裂していったのさ! もし、メタリカとボン・ジョヴィがバックステージで鉢合わせしたらどうなる? 殺し合いになるかもしれない(笑)。でも、アンヴィルがそこにいれば、みんなひとつになれる」
サーシャ 「そうか、アンヴィルはメタル界の中立国なんだな(笑)!」
取材・文/奥村裕司(2009年10月)
アンヴィル
Profile:
1973年、カナダでスティーヴ・“リップス”・クドロー(vo、g)とロブ・ライナー(ds)によって前身バンドを結成。80年、アティック・レコードと契約しアンヴィルに改名。クリス・タンガリーズ・プロデュースの『Metal On Metal』が日本でも認知され、84年、西武球場で行なわれた〈SUPER ROCK 84〉で初来日。87年のアルバム『Strength Of Steel』が米ビルボード・チャート191位にランクイン、一番売れたアルバムとなる。その後もブレイクすることなく活動を続け、2007年に13枚目の最新アルバム『This in Thirteen』(写真)を発表。2009年、彼らのドキュメンタリー映画『アンヴィル!〜夢を諦めきれない男たち〜』が全米・全英で社会現象となる大ヒットを記録。現在、日本でも映画が公開され、最新作も日本盤化された。

■オフィシャル・サイト:http://www.anvilmetal.com/
■オフィシャルMySpace:http://www.myspace.com/anvilmetal
サーシャ・ガバシ

(C)Brent J. Craig/ANVIL! THE STORY OF ANVIL
Profile:
1966年、ロンドン生まれ。15歳のときアンヴィルに出会い、翌夏、カナダ・ツアーのローディーとなる。80年代、アンヴィルの3度のツアーに参加し、ドラム演奏をロブ・ライナーから習得し、バンド活動を始めるも挫折。その後メディアへの寄稿をしながら95年、カリフォルニア大学の脚本養成を受講。2004年、スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『ターミナル』を脚本化。ニコール・キッドマン主演の『百万長者と結婚する方法』などを手掛け、人気脚本家になる。2009年、『アンヴィル! 〜夢を諦めきれない男たち〜』を監督し大ヒット。来年には、ピーター・ディンクレイジを起用し、小人俳優エルヴェ・ヴィルシェーズの最期の一週間を描いた映画を製作予定。



Column
素材を超え得る“映画”としての魅力
〜アンヴィルを通じて紡いだ監督の“ドラマ”


(C)Brent J. Craig/ANVIL! THE STORY OF ANVIL

 ドキュメンタリー映画の面白さと、そこに映し出される素材の面白さは、往々にして混同されやすい。話題を集めたドキュメンタリー映画が、実は映画そのものが面白いのではなく、単に素材が魅力的だった、ということは少なくないのだ。料理に譬えると、食材が素晴らしければよほど下手な調理をしない限り、それなりの料理が出来上がる。つまりはそういうことだ。

 この『アンヴィル! 〜夢を諦めきれない男たち〜』でいえば、まず素材は文句なしに面白い。かつてささやかに脚光を浴びたものの、その後は25年も鳴かず飛ばずのメタルバンドが、給食の宅配や建築作業員として働きながら、今なお成功のチャンスを求めて活動を続けている。どうにも不器用で、でも愛すべき男たちの日常からヨーロッパ・ツアーのドタバタまで、これは紛れもなく“アンヴィルの魅力の詰まった映画”ではあるのだが、一方でサーシャ・ガバシという監督が作ったドキュメンタリー映画として、存分に面白い映画でもある。

(C)Brent J. Craig/ANVIL! THE STORY OF ANVIL
 そもそもの出発点は、監督のちょっとした感傷だった。ガバシは高校生の頃、アンヴィルのツアーにスタッフとして同行したことがある。ファンだったバンドと夏休みを共に過ごすという体験は、ほとんど夢のような話だろう。しかし青春は移ろいやすく、彼は別のバンドに夢中になり、いつしかアンヴィルのことは忘れてしまう。かくて20年後、ふと思い出して連絡を取ってみたら、彼らが未だ現役だと知る。そこから映画の企画は始まったのだ。


(C)Brent J. Craig/ANVIL! THE STORY OF ANVIL
 アンヴィルが雌伏の時を過ごしていた間、ガバシはバンド活動で挫折するも大学へ行き、やがてスピルバーグの『ターミナル』などを手掛け、脚本家として成功する。すっかり大人になった彼が、遥か昔に憧れたアンヴィルの今の姿に何を想い、何を見つけたのか。圧倒的な時の流れの中で、否応なく変わっていくもの、無くしたもの、見失ったもの……ガバシを映画製作へと突き動かしたのが、愚直なまでに前向きなアンヴィルの情熱であったことは間違いない。

 そう、この作品はアンヴィルというバンドの波瀾万丈なドラマを映しながらも、そこにはカメラの向こう側とこちら側、アンヴィルを通して作り手であるガバシのドラマをも紡ぎ出すのだ。失われた時は二度と帰って来ない、というのは、ある意味とても残酷なことではあるのだが、それでも今という時間と向き合いながら、ガバシは“何か”を取り戻そうとするかのように、2年にもわたってカメラを回し続ける。そしてあるバンドの再生の物語は、作り手ばかりか観客をも巻き込んだ再生の物語へと膨張していく。確かにアンヴィルの存在感は魅力的である。しかし彼らに負けないくらいに、このドキュメンタリーは“映画”としても、また魅力的なのである。

文/高井克敏
『アンヴィル!夢を諦めきれない男たち』
http://www.uplink.co.jp/anvil/
監督:サーシャ・ガバシ 
出演:スティーヴ“リップス”クドロー(ANVIL)、ロブ・ライナー(ANVIL)、ラーズ・ウルリッヒ(メタリカ)、レミー(Motorhead)、スラッシュ(ガンズ&ローゼス)他
提供:ソニーミュージックエンタテインメント
配給・宣伝:アップリンク
TOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて公開中
最新 CDJ PUSH
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] 人気ピアノYouTuberふたりによる ピアノ女子対談! 朝香智子×kiki ピアノ[インタビュー] ジャック・アントノフ   テイラー・スウィフト、サブリナ・カーペンターらを手がける人気プロデューサーに訊く
[インタビュー] 松井秀太郎  トランペットで歌うニューヨーク録音のアルバムが完成! 2025年にはホール・ツアーも[インタビュー] 90年代愛がとまらない! 平成リバイバルアーティストTnaka×短冊CD専門DJディスク百合おん
[インタビュー] ろう者の両親と、コーダの一人息子— 呉美保監督×吉沢亮のタッグによる “普遍的な家族の物語”[インタビュー] 田中彩子  デビュー10周年を迎え「これまでの私のベスト」な選曲のリサイタルを開催
[インタビュー] 宮本笑里  “ヴァイオリンで愛を奏でる”11年ぶりのベスト・アルバムを発表[インタビュー] YOYOKA    世界が注目する14歳のドラマーが語る、アメリカでの音楽活動と「Layfic Tone®」のヘッドフォン
[インタビュー] 松尾清憲 ソロ・デビュー40周年 めくるめくポップ・ワールド全開の新作[インタビュー] AATA  過去と現在の自分を全肯定してあげたい 10年間の集大成となる自信の一枚が完成
[インタビュー] ソウル&ファンク・ユニットMen Spyder 初のEPを発表[インタビュー] KMC 全曲O.N.Oによるビート THA BLUE HERBプロデュースの新作
https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015