細野晴臣プロデュースによるコンピ
『プロムナード・ファンタジー』、
星野源のソロ作
『ばかのうた』に続く、「Labels UNITED」の第3弾は、アート・アクティビスト、
青柳拓次の本人名義による2作目
『まわし飲み』となった。前作『たであい』で行なった日本語歌詞での表現をここでも継続させ、中国〜アジアの伝統楽器をフィーチャーしたオリエンタルなムードをまとったナンバーが詰め込まれているが、陽性の気質が濃く表れたしなやかで軽やかなサウンドを奏でているのが特徴だ。
――『たであい』は“静”のアルバムで、一方『まわし飲み』は“動”のアルバムだということですが。 青柳拓次(以下、同)「『たであい』は、弾き語りに少しサポートが入っているような作品にしたくて、スタジオの進行も静かだった。それを作りながら“次はこうなるだろう”って見えていて、“お祭り”ってものがここら辺(頭の上を指して)にあったんですよ」
――アジアのさまざまなテイストが絡み合ったリズミカルなサウンドがとにかく心地良くて、スマイリーな空気に溢れている。
「前回は、(プロデューサーの)
鈴木正人が横に付いていて、俺はなるべくギターと歌に集中するという役割分担があったけど、彼が忙しいこともあり、今回は人選やアレンジを自分でやることになって。前回使ってなかったチャンネルを働かせて、アジアの人々がいっしょに賑やかにワイワイやっている感じを想像しながら進めていった結果、こうなった」
――チャンチキ・フォークといった風情の「猫空(マオコン)」や「今日が終るころに」とか、何というか、ご近所の寄り合いでの飲み会で流したいような和気藹々とした曲が揃っているんだよなぁ。 「居酒屋でかかっていてほしいと思う。『たであい』は、たまたま入ったカフェで流れている感じだよね(笑)。歌詞の面では、日本語詞を歌うスタイルは2作のワンセットで一区切り付けられたって達成感はあるかも。これから先、書く内容が変わってくる気もするし」
――それにしても『まわし飲み』とはまた絶妙なタイトルで。
「一時期、お茶に凝っていろんな文献を読んだりしていたんだけど、昔の武将たちが戦に出る前に茶室に入り、お茶をまわし飲みして気持ちをひとつにしていたって話を知って。それから、アルゼンチンではマテ茶をみんなでまわし飲みするって話とか耳に入ってきたり、言葉との不思議な出会いがあったんです」
――レコーディング参加者たちの合いの手も絶妙で、なかでもつるとかめの木津茂理さんとの掛け合いはアルバムの肝ですね。 「たまたま細野(晴臣)さんの絡みで彼女の存在を知って。二台の太鼓を使って日本中の民謡を歌う人がいると。シンプルで凛としていて、声の力にビックリさせられた。彼女がカーンとした声を出してくれたことで自分は違うふうに歌おうとコントラストをつけたり、いろいろと考える機会になった。民謡とか黒人音楽とかガーッと歌うものにも憧れがあるんだけど、今回、自分はこういう歌い方ができるんだな、ってことも発見できた。とにかく、いろんな人やいろんな言葉との出会いがあって、生まれた作品なんですよ」
――唐津や尾道、それから台湾の猫空(マオコン)など各地を旅したことの影響がこの新作に反映されているとのことだけど、最近、旅に対する意識に何らかの変化があったりする?
「より人との関わりを大事にしたいようになったかなぁ。以前は旅先で音楽を客として観る、というようなことも多かったけど」
――まさにまわし飲み体験を欲している、と。
「そうそう(笑)。ここ数年、家の中にいらないものが多くあるって気付いて、どんどん身軽にしていきたいと思うようになって。それと生の音楽の大切さにも気付いた。もっと音楽を身体で体験したいし、コミュニティ音楽を作りたいって意識も強くなっているかな」
――なるほど。ところでクリエイターとして年齢を重ねることの良さってなんだと思います?
「うちの子供は2人とも自宅出産で生まれたんだけど、そういう体験から人間の根源的なものに出会ったりして、作る音楽が“ソウル・ミュージック”に向かうようになったというか。理屈で固められた音楽が身体からボロボロこぼれ落ちてしまって、世界のロックでも民族音楽でもソウル・ミュージック的なものに向かってしまうというかね」
――1971年生まれだし、そろそろ人生が有限だと意識し始める……。
「……お年頃だよね(笑)。もう人生、半分生きたかなって感じだもんね。大事なものを選択しようって意識は、例えば旅にも反映してくる。だからいかに濃く、どれだけ開放的な人生を送れるかって考えると、みんなでもっと“まわし飲み”をしていかなきゃって(笑)」
――個人的に『まわし飲み』の一番の面白さは、青柳拓次の、いい意味での得体の知れなさが発揮された点にあると思っていて。お祭り的サウンドに独特の色彩感覚を溶かし込んで不思議な景色を浮かび上がらせている。佇まいはある意味でナゾの東洋人的でもあり……。
「そうなのかも。実際は、日本の音楽に拘ってやりたいわけでもないんだよね。自分が使っている言語ということで日本語の歌詞を書くけれども、日本的な括りの音楽よりもアジアの国境が滲んだような音楽を惹かれている。そういう目線はこれまでずっと変わっていないのかも。対象とする地域がいろいろ変わっただけで」
――なのでこの路線を突き詰めて欲しい気持ちもあるんです。
「先日、
大工哲弘さんといっしょにライヴをやらせてもらったんだけど、“あなたはもっとたくさんのソウル・シンガーたちと出会うべきだ”って誰かに言われているような気がしていて(笑)。だから、これからもやりなさいって言われているような気もするし。まぁ、この路線でやるかどうかは、お天道様のみぞ知るって感じかな」
取材・文/桑原シロー(2010年8月)