“8ビット・サウンド”を探る 〜“MSX音楽家”araki kenta INTERVIEW

荒木健太   2007/10/17掲載
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技術がどれだけ進化しようと、幼な心に焼き付いたあの“MSX/ファミコン熱中時代”は今も夜空に輝く! 2007年にして大ブレイクの兆しをみせる8ビット業界。チープだからこそ忘れられない、制約があるからこそ奥深い“8ビット・サウンド”を追求するアーティストも世界中に出現。聴けば聴くほどにハマってしまう魅惑の世界へと、貴方を誘います。
 細野晴臣が監修をつとめた、世界初のテレビゲーム・サウンドトラック『ビデオゲーム・ミュージック』(写真・アルファレコード)の発売から23年。飛躍的なハードの進化にともない、容量という“制約”から開放されたゲーム・ミュージック。大規模なオーケストラ、ムービーとともに流れ出すタイアップ・ソング、入念に作りこまれた効果音……。映画スコアに並ぶほどのクオリティの作品がある一方、あえてゲーム・ミュージックの根源である“ピコピコしたミニマル性”を追求する動きも急速に広がっています。

 ファミコンやゲームボーイ、MSXなど、80'sに発売されたゲーム機/パソコンに内蔵されている音源チップを利用した、チープでありながら心惹かれる電子音楽。かつてのゲームの黎明期の雰囲気をも彷彿とさせる“8ビット・サウンド”の世界を覗いてみましょう。

 “スウェディッシュ8ビット界をリードする”噂のゲームボーイ・ミュージシャン、COVOX(コーヴォックス)。70'〜80'sのシンセ・ヒーロー/インダストリアル/パンク(ライヴ写真では手にバッテン!)より多大なる影響を受けた、メロディック・ハイエナジー・ロマンティック・ゲームボーイ・ミュージックを展開している彼。昨年にはFantabulous Musicより『DELETE THE ELITE』がリリース。RAM RIDERのリミックス・アルバム『PORTABLE DISCO 8bit edition』に参加するなど、日本×スウェーデンの交流を8ビットから推し進めている。10月末には再びの日本公演も決定、それに合わせ会場では新作「INFILTRATOR EP」(11月3日発売/1,000(税込))の先行販売も行なわれるとのこと。

 時は2002年……。放射能防護服を身にまとい、宇宙からやってきたAnti-Log、Robo-T、Spacy K、Le Frost(女性)の4人からなる“ロボティック・オールドスクール・ニンテンドウ・ラップクルー”こと8BIT。彼らと地球人との唯一のコモン・センス「Nintendoとギャングスタ・ラップ」を頼りに、80年代コンピュータ・ゲームとラップ・カルチャーが絶妙にミックスされたサウンドをカリフォルニアより発信しているとか(タコス片手に)。日本完全独占発売となったアルバム『ユー・エイント・ノー・ロボット』では、聴けば納得のNINTENDO音源の上で自在にリリック(割と下品)をくゆらすお茶目なロボコンを確認できます。

 テクノ/エレクトロニカがもっぱらな8ビット界隈において、異彩を放つのが“ゲームボーイ・デスメタル”なる異名の持ち主、NEXT LIFE。ノルウェーはオスロ出身のHai Nguyen Dinh/Katrine Bolstadによって1999年に結成、激重ヘヴィ・メタル・リフとゲームボーイを使った8ビット・サウンドが織り成す嵐の中を、ド迫力スクリーミングが駆け抜けるその衝撃たるや。公式サイトで観ることのできるパフォーマンスも、とにかくアグレッシヴ。ヘッド・バンキングどころか、ウインドミルにモッシュ・サークルまで出現してしまいそうな、狂気をはらんだ動きを目撃しましょう。(写真は『ELECTRIC VIOLENCE』)

 チップ・チューンにトイトロニカ……その呼び名もさまざまに、音源チップからはじまったミニマルな音は、今やひとつの音楽ジャンルとして確立。確かに制約はあれど、その制約を越えた不思議な魅力を持つ8ビット・サウンド。ピコピコなのに最先端、“復興”とは言わせない唯一の魅力を貴方もぜひ。




1. 留学生
2. オーディナリーデッド
3. ジャンボスライダー
4. リピートアフターミー
5. ゲーム2007
6. 旧街道2
7. スペースインバーター
8. ひふみ伝4
9. やえちゃん No.49
10. はてなMIX1
11. 男なら-山口民謡- (イントロ)
12. ホームステイアフター
13. オベリスク
14. ドラゴン
15. 4×8=32
16. アイメイクユー
17. 12月の雨
18. 外道
19. NWO
20. サービスエース-予告編-


 デビュー作『MSX TYPHOON』に続く、約2年ぶりの新作『MSX HURRICANE』を10月14日に発表した“MSX音楽家”araki kenta(荒木健太)。ヴィンテージ・パソコン“MSX”一台のみで制作された、8ビットのエレクトロニカ・サウンドを披露している彼に話を聞いた。

■MSXについて
――MSXとの出会いは、いつ頃ですか?

「小学生の頃ですね。80年代まっただ中でした。MSXに限らずファミコンが社会現象だった時期で、私はゲーム・センターとか、パソコンすべてのコンピュータ・ゲームが面白いと思ってました。MSXというパソコンは松下、ソニー、三洋、カシオ、日立、ビクターなどがハードを出してましたね。小学生当時は、将来ゲーム・プログラマーになろうと思ってました。音楽をやろうとしたきっかけは、MSXのプログラミング入門書に、ゲームのBGM作成で楽譜を打ち込むところがあったんです。姉が買ってた『明星』という雑誌の付録に最新歌謡曲の楽譜があって、それを打ち込んで、ちゃんとコンピュータが演奏してくれたのには感動しましたね。南野陽子の〈はいからさんが通る〉でしたけど(笑)。初めてちゃんと音楽を作ったのは、高校生の時だったと思います。電気グルーヴを真似してテクノを作ろうと。20〜30秒くらいの短い曲をたくさん」


――なぜ今でもMSXを使い続けるんですか? 他の機材などを使用しようと思ったことはありますか?

「他の機材に魅力がない、というか他の機材では個性的なサウンドを得られるとは思ってないところがあります。他の機材も20歳前後の頃に購入して、いろいろ試して何曲か録音しましたが、やはりMSXだけのほうが自分には向いてます。でもこの前、永田一直さんという音楽家の先輩にカオスパッドというエフェクターをライヴで使ったほうがいいとアドバイスがありました……。クラブDJっぽいライヴでは使ったほうが盛り上がるのかなあ? あと自分は“MSX1台だけでライヴをする”と昔のCDの解説などに書いてありますが、今は2台でやってます。MSXは80年代当時のゲームの“ワクワク、ドキドキ”していた感覚を蘇らせてくれます」


■ご自身の音楽性について
――音楽に目覚めた時のエピソードを教えてください。

「それは、90年春……14歳のときにオールナイトニッポンで“たま”“有頂天”のスタジオ・ライヴがあって。有頂天のサウンドに驚きました。シンセサイザーがゲーム音楽みたいなんです! 後頭部を張り手でおもいっきり叩かれた様な衝撃(笑)がありました!!!」


――影響を受けたアーティスト、シンパシーを感じるアーティストは?



――ご自身の音楽性をどのように分析されていますか?

「ゲーム・ミュージックみたいだけど、ゲームがないからゲーム・ミュージックではない。それを近年はチップ・チューンと呼ばれたりするけど、他のアーティストと比べれば、チップ・チューンっぽくないし……。いろいろな影響を受けて表現してるので、一つのことに留まれず飽きっぽい音楽家なんですけど、機材はMSXだけを飽きずに使ってる。他のアーティストに比べればへそ曲りなのではないでしょうか」


■ニュー・アルバム『MSX HURRICANE』について
――制作中のエピソードなどはありますか?

「東京から広島に移り住んだ数ヵ月後に、音源をレーベルの虹釜さんに渡したんですけど、東京で作った曲と広島で作った曲の比率は半々くらいです。CD-R一枚だけだったんですけど、虹釜さんの判断で1曲だけ未収録にして曲順そのまんまで出来上がりました」


――アルバム制作で苦労した点などありますか?

「曲名をつけることですかね……。例えば1曲目〈留学生〉なんて名にしなければよかったなんて少し思います。ただ思いつきで留学生にしたので、留学生に纏わる私のエピソードなんて何一つないんです。東南アジアのポップスの影響がある曲なんですが、外国というだけで、思い起こせば留学生に連想したと思います。あと〈ゲーム2007〉とか名前は適当ですね。そんな適当っぽさも好きなんですが、すべてをひっくるめて曲名を考える行為自体が好きなんです」


――今回のアルバムでリスナーの方に注目してもらいたい点は?

「“別に……。特にないです”と、どこかの女優みたいなことは全曲を制作した自分からはいえません(笑)が、〈男なら〉という山口民謡のイントロだけをカヴァーしたのがありますが、楽譜を打ち込んだだけで、後から市販の民謡のCDを聴いてみたのですがぜんぜん違ってましたね。若干メロディが似てるだけでした。でも山口県生まれの私としてのアイデンティティにもなるかもしれません。あっ! 注目してもらいたい点ですね……、70分くらいあるので、無理せずに途中で休憩を挟んで聴いてもいいと思います。もちろんipodなどではなくて、CDをぶっ続けで聴いてもらいたいですね」


――アルバムの聴きどころをひとことで言うならば?

「ニッポンの電子音楽!」


――今後のご活動で、インフォメーションがありましたら教えてください。

「CD-Rでリリースしていた『人間』というアルバムのCDによる再発。たまにライヴで流すMSX映像のDVD発売。2つともいつ出るのかはまだ決まってません」


■ 公式サイト :
http://k.fc2.com/cgi-bin/hp.cgi/kentaaraki/?pnum=0_0
■ 公式MySpace :
http://myspace.com/kentaaraki
■ リリース・レーベル“360゜records”公式Blog :
http://blog.goo.ne.jp/360records
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