女性ピアノYouTuberの第一人者、朝香智子がクラシックの名曲をアレンジしたアルバム『ASAPI CLASSIC NOVA』をリリース。レーベルの後輩であるkiki ピアノとジョイントでインストア・ライヴも開催した。kiki ピアノは今年1月にジャズ・ピアノ・アルバム『kiki LOUNGE』でデビューした新鋭。世代とスタイルは違うが、嗜好は重なるところもあるふたりに、“ピアノ女子”のあれこれを語り合ってもらった。
――kikiさんは4歳からピアノを始めたそうですが、自分からやりたいと?
kiki 「そうです。習いごとは水泳やバレエなどいろいろやっていて、その中のひとつでしたけど、私から“やりたい”と言いました。教室では小さい子が集まって一緒に教わるグループ・レッスンから始まって、“私はほかの子よりうまいかも”と思いました(笑)」
――幼少期から自分の才能に気づきましたか。
kiki 「ほかの人は誰もそうは思ってなかったみたいです(笑)。自分だけは得意なつもりで小6まで習っていましたけど、家庭は4人きょうだいで、経済的に音大に行くことを良しとされなくて。“プロにならないならピアノはやめたら?”と言われて、その時点で一度諦めたんです」
――中高生時代はどう過ごしていたんですか?
kiki 「音楽とは離れた生活をしていました。部活でバスケをやったり、バイトをしたり」
――でも、4年前にはホテルのラウンジでBGMの演奏をしていたとか。
kiki 「作曲を勉強したくて教室に通おうとしたら、そこの先生に“ピアノの仕事をしてみない?”と言われたんです。ピアニストは小6で諦めて、指も短いので向いてないと思っていて。でも、自分の中ではやっぱり得意なことだったので、挑戦したいなと。仕事は1ヵ月後に控えていて、長いブランクもありましたけど、ピアニストとしてやっていく覚悟を決めて、すごくたくさんの練習をしました」
――それまで6年以上、ピアノに触れていなかったわけですか?
kiki 「作曲をするために触っていたくらいです」
――そんなブランクを1ヵ月で埋めたのは、やっぱり才能があったんでしょうね。
kiki 「いえいえ。でも、“耳がいい”と言われることは多いです。一度弾いた曲、聴いたことのある曲なら弾けて、ストリートピアノでも小さい子に“これ弾ける?”と言われた曲を、すぐ耳コピしたりもしています」
――作曲は当時もしていたわけですね。
kiki 「していましたけど、すごく暗い曲ばかりできて、発表はしていません(笑)」
――当時のkikiさんの何かを反映していたんですか?
kiki 「そうですね。めっちゃ引きこもっていました。高校を卒業したくらいで、人間関係とかで悩んで闇落ちしていて(笑)。その頃にたくさん曲を書いてはいました」
――影響を受けたアーティストはいました?
kiki 「菅野よう子さんが大好きでした。10代で引きこもって昔のアニメを観ていることが多くて、『マクロスF』の〈ダイアモンド クレパス〉でブワッと鳥肌が立って。音大に行けなくて独学で作曲やDTMを勉強していたので、クリエイターの方に憧れがありました」
――流行りのJ-POPやクラシックは聴いていませんでした?
kiki 「作曲家になりたくて、ヒャダインさんが“ありとあらゆるジャンルを勉強した”と話されているのを聞いたんです。それで私もアニソンだけでなく、ロック、ソウル、プログレに北欧メタルまで、全部聴いていました」
――ちなみに、“kiki”にはどんな由来があるんですか?
kiki 「サックスプレイヤーの梅津和時さんという方のKIKI BANDから取りました」
――梅津さんはRCサクセションのサポートもされていましたね。
Kiki 「1970年代から80年代に日本のジャズを築いたレジェンドの方が好きなんです。梅津さんや小山昇太さんの演奏をよく聴いています」
kiki ピアノ
――地元の福岡でストリートピアニストとして活動していて、JIMSレーベル主宰のジェイコブ・コーラーさんに見出されたんですよね。
kiki 「あさぴさんがジェイコブさんに私を推してくれたそうです」
朝香 「レーベルに女性ピアニストが私しかいなくて、仲間が欲しかったんです。ジェイコブさんとそんな話をしていた中で、“kikiピアノちゃんはどうでしょう?”と言いました。ちょうどkikiちゃんと繋がり出した頃だったので」
kiki 「2年前に、私が親の転勤で関東に引っ越してきて、みなとみらいのストリートピアノであさぴさんと偶然出会ったんです。私が弾いていたら“連弾しようよ”と誘ってくれて、〈イッツ・マイ・ライフ〉を一緒に弾きました。ずっと九州にいて、あさぴさんの動画を観ていたので感動でした」
朝香 「私もkikiちゃんの動画は観ていました。女性ピアニストのオンラインフェスを仕切っていたので、ネットで頑張ってらっしゃる方には常にアンテナを張っていたんです」
――kikiさんの演奏にどんな印象がありました?
朝香 「カメラを見ながら、ずっとニコニコ演奏しているのがいいなと思ったのと、ジャズのコードをサッサッサと弾いているんです。同じコードでも展開で響きが全然変わって、テンションコードのチョイスとか、私はジャズを通ってないから即座にできません。あのチョイスをパッパッとするのは、ちゃんと積み重ねたものがあってこそのスキルで、羨ましいなと」
――でも、先ほどの話だと、kikiさんがジャズ・ピアノに取り組んでから、当時でまだ2年くらいだったんですよね?
kiki 「そうなんです。いろいろコピーしていた中で、ジャズはあまりできませんでした。リズムがどうしても再現できなくて、なんでこんなに難しいんだろうと、逆に興味を持ってジャズに打ち込んだんです。関東ではとくに音大出身の方が多くて、すごく差を感じていました」
朝香 「それを後から聞いて、ずっと弾いていたんじゃないんかい! と驚きました(笑)。きっと吸収がめちゃくちゃ早いんでしょうね。ということは、これからまだまだ進化すると思うんです。その過程を間近で見てみたいです」
kiki 「お母さんのように(笑)」
朝香 「大きくなりや〜みたいな気持ちになっています(笑)。ヒビキpianoくんやみやけんくんもそうですけど、レコーディングで進化していく過程を見られるのは、私の特権。kikiちゃんはレコーディングをしたこともなくて、始めた頃と出来上がったアルバムでは、別人のようになっていました。自分もボヤボヤしているとあっという間に抜かれるので、学びたいところもいっぱいあります。若い人の感覚を吸い上げて、自分もスキルアップしたいです」
――kikiさんのピアノには繊細さや透明感があって、お姫様っぽい感じがします。
朝香 「今まで等身大で積み上げてきたところから、次の一歩へ。たぶん今ちょうど、かわいらしさから進化する時期なんです。そこがお姫様というか、生まれ変わる初々しさがありながら、ガッツリとプロの高みに行く。過渡期の一番おいしいところですね(笑)」
kiki 「うまい人が多くて、くやしい想いをすることはたくさんあります。この前、“りんごあめ三姉妹コンサート”で、全曲ジャズを弾く試みで難しい曲を選んだんですけど、自分で納得できなくて号泣してしまいました」
――家に帰ってから?
kiki 「いえ、出番の合間に楽屋にいたときに(笑)。涙を拭いて、その後は普通に出ました。でも、そういう想いができることも嬉しいですし、周りから伸びしろはあると言ってもらえます。1年後や2年後はまったく別人になっていると思います」
朝香智子
――kikiさんから見ると、朝香さんはピアニストして、どんなところが魅力ですか?
kiki 「演奏にリズムがすごく出ていて、打楽器みたいな感じもします。女性ピアニストは男性より筋肉が少ない分、繊細な音になるそうですけど、あさぴさんはすごくダイナミクスがあって、タッチが男性的。バンド・サウンドの要素も入っていて、ほかのピアニストにないカッコ良さだと思います。作曲やアレンジも素晴らしいし、本当に尊敬しています」
――2人でごはんに行ったりもするんですか?
朝香 「私が高知から上京したとき、泊めてもらうこともあります。kikiちゃんのおうちの猫とジャレています」
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――世代は違っても、女性ピアニスト同士で盛り上がる話題はありますか?
kiki 「ふたりとも菅野よう子さんが好きなんです」
朝香 「“えっ、kikiちゃんも好きなの?”みたいな話になりました。あの変幻自在な音楽! 〈星間飛行〉みたいなアイドル曲も〈Tank!〉みたいな超渋い曲も書けて、振り幅がすごくて!」
――朝香さんも『マクロスF』から?
朝香 「私が菅野よう子さんの曲で初めてカヴァーしたのは(『マクロスプラス』の)〈VOICES〉でした。和音がすごくきれいな曲です」
kiki 「音の広がりがありますよね」
朝香 「こんなに繊細に音を紡ぐんだ……と大好きになって、その直後に『カウボーイビバップ』の音楽でイエーイ!となりました。カッコいいですよね。この曲も菅野さん?あの曲も?といろいろわかって、感動が追い付かないくらいでした」
――朝ドラ『ごちそうさん』や大河ドラマ『おんな城主 直虎』の音楽も担当していました。
朝香 「菅野さんの音楽と出会って、ジャンルに捉われてなくていいんだと思いました。“朝香さんって結局、何をやりたいの?”とよく言われた時期があったんです。“カテゴリー分けができてないと売りづらいんじゃない?”とか。でも、“変幻自在なんです”と言い切れるようになれて、生きやすくなりました」
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――朝香さんの最新作『ASAPI CLASSIC NOVA』はクラシックのアレンジがメインのアルバムになりました。2017年のデモ音源収録の曲もありますが、前々から温めていたテーマだったんですか?
朝香 「いつかやろうと思っていました。ジェイコブさんとヒビキくんがクラシックとジャズを融合する話をしていて、私もクラシック盤を出すタイミングかなと。たまたまレコーディングと、2人が練習でスタジオに入るのが同時期だったので、直前にお願いして1曲目の〈ハノンが愛した雨の午後〉に連弾で参加してもらいました」
kiki 「本当の雨音を録ったんですよね?」
朝香 「レコーディングしたのがザンザン降りの雨の日で、山梨の民家で録ったので、“絶対に雨の音が入るんじゃない?”と話していたんです。でも、“雨の曲だからいいんじゃない?”となって、録った音源を聴いたらなんとなく入っている感じだったので、どうせならちゃんと入れようと、ジェイコブさんがICレコーダーを持って外で録音してきたんです。“良い雨の音が録れたよ”と言っていて、雨の音に良いとか悪いとかあるのかなと思いましたけど(笑)、ちょっと鳥の声も入っていて」
――kikiさんはこのアルバムを聴いて、どんな印象がありました?
kiki 「クラシックをアレンジするって、めちゃめちゃハードルが高いと思っていたんです。楽曲に歴史がありますから、ちゃんと勉強してないとできないというか。だけど、聴いたら“こんなやり方があるんだ!”という驚きの連続でした。曲の成り立ちを理解して弾かれていて、本当にすごいです」
朝香 「自分の中でテーマがしっかりあって、軸ができていればアレンジできます。この曲はこうなりそうとピンと来たら、勢いで行けちゃう感じですね。そこがぼんやりしたまま取り掛かると、どこに辿り着けばいいんだろう……となってしまう。たとえば、去年のクリスマス時期に“演奏会で〈軍隊ポロネーズ〉を弾きます”と言ったんですけど、練習すればするほど、私がやる必要性がないように感じてしまって。クラシックのピアニストでない私が〈軍隊ポロネーズ〉を無理やり弾くより、自分らしさが出たほうがいい。どうせならノリのいいクリスマス曲とガッシャンコしてしまおうと。クリスマスの曲によく出てくる和音を入れていこう。ウォーキングベースでワチャワチャした感じが出ればいいなと考えていたら、今回の8曲目の〈陽気なサンタの軍隊ポロネーズ〉というタイトルがパッと浮かんだんです。じゃあ、〈ジングル・ベル〉を入れよう。シャンシャンした感じも欲しいと、だんだんアレンジが固まっていきました」
――「トロイメライ」と「赤とんぼ」、「ト長調のメヌエット」と「ふるさと」、「悲愴」第二楽章と「荒城の月」のドッキングも、ひらめきがあったんですか?
朝香 「〈変わらぬ光〉は最初、ベートーヴェンのピアノソナタ〈月光〉と滝廉太郎の〈荒城の月〉を月同士でくっつけたい、というところから入りました。〈荒城の月〉はマイナーキーで、どうしようか迷って、ふとメジャーキーに変えたら繋がるかもと思って。〈悲愴〉の第二楽章が途中1回マイナーになるので、〈荒城の月〉にマイナーテイストの箇所を作れば被さるかなと。どこに入れて重ねるかで試行錯誤しました」
――ほかはもっとスムーズに繋がりました?
朝香 「〈トロイメライ〉は小学生の頃に初めて聴いたときから、〈赤とんぼ〉だと思ったんです。ターンターンタララ〜と行くのがタタタータ〜になっただけ。音程が一緒だし、キーを合わせてしまえば、ドッキングというより行き来できそうで、〈夢見る赤とんぼ〉を作ってみました」
――「変わらぬ光」では、耳が聞こえなくなっていくベートーヴェンに月の光が注ぐイメージがあったそうですね。
朝香 「もし自分がそういう状況になったら……と重ねたところがありました。と言うのも、私は左耳の突発性難聴を患ったことがあって、今も特定の周波数が聞こえないんです。人ごとではないという意味で、親近感を持ちました」
――「ハノンが愛した雨の午後」もハノンが雨を眺める昼下がりのイメージだったり、物語や情景を音で表現できるのが、朝香さんのスペシャリティですよね。
朝香 「感覚が自分の中でピアノの音に変わっていく。これは昔から得意でした。雨っぽいフレーズを弾いたり、キラキラした光や川の流れを表現するのは、すごく好きですね。自分のイメージを曲に置いて、聴いた皆さんがどんな景色を思い浮かべてくれるのか、楽しみにしています」
――アルバムのラストに収められたオリジナル曲「Close to Your Heart」は「いつでもそばにいるよ」という気持ちを込めたそうですが、そんなメッセージにも言葉は要らないと。
朝香 「言葉は時に強すぎることがあって。言葉がない曲だと、受け手側が自分のさじ加減で聞けますよね。“このメッセージがめっちゃほしい!”というときはギアを上げてワッとなればいいし、ちょっとエネルギーがほしいくらいならサラッと聞き流せばいい。この曲は、たまに思い詰めてしまう仲間がいて、“大丈夫だよ。なにかあったら電話してね”という気持ちで、その子のことを考えながら書きました。なにも見えなくなってしまったときは、ひと呼吸置いたら意外と見えないところに光が差しているよ、みたいな」
kiki 「闇落ちしそうになったら、この曲を聴きます(笑)」
朝香 「クリエイターは闇落ちしがちですよね。私も極限まで行っちゃうと、起き上がれなくなるときは全然あります。心にガンと来ると体が動かなくなってしまう。でも、そんなときこそ、溺れるものが掴む藁に自分の音楽がなればいい。その藁を掴んだら、自分が泳げることを思い出して、クロールを始められるかもしれない(笑)」
――朝香さん自身にもそんな経験が?
朝香 「あります。高知が好きで移住したものの、よく考えたら、ここに音楽で繋がっている仲間は誰もいなくて。“うわっ、どうする?”となったんですけど、とりあえず(小声で)“高知で音楽をやりたいんだよね”と言っていたら、“仲間いるよ”と教わって、そこからバーンと扉が開きました。気づけば高知のテレビにも出させていただいて、今は突き進んでいます。世の中、あと1ミリ頑張ってみたら、変わるものかもしれません」
――「Niyodo Summer Adventure」や「きてみぃや高知」は、高知に根付いて生まれた曲ですよね。
朝香 「4月から、NHK高知放送局のラジオ番組『とさらじお』のオープニングとエンディングに、私の前作の曲が使われていて。6月からは『あさぴの高知を聴かんかね!』というコーナーができました。私が高知の景色から曲を書いていて、最初に出したのが〈Niyodo Summer Adventure〉でした」
――仁淀ブルーで知られる仁淀川の情景がモチーフになっていて。
朝香 「先日は帯屋町商店街をイメージした〈きてみぃや高知〉を流していただいて、シリーズ化しています」
――そちらは商店街をウキウキ歩いていてメロディが浮かんだり?
朝香 「商店街を歩いたのを思い出して書いた感じです。その中のひろめ市場には、ビニールカーテンを開けて入るんです。中が見えなくて、おっかなびっくりで開けたら、和気あいあいとドンチャン騒ぎをしていて。昼間から飲んでいる人もいれば、高校生が宿題をしていたりもする。老若男女に関わらず賑わっていました。商店街が本当に元気。私が地方をいろいろ回ってきた中で、シャッター商店街も目につきましたけど、高知はこんなに大都市から離れているのに、めっちゃ活気があって」
――仁淀川の青さも感動的でした?
朝香 「すごかったです。わーっ、きれい!という。地元の高知県民はみんな、夏は飛び込んで遊んでいます。海より川で遊ぶ人が多くて、SUPとかいろいろなアクティビティをやっていて。生活と共に川があるのが新鮮でした。今年の夏は、私も川にドボンと入りました!」
――「Niyodo Summer Adventure」は川を上っていくのをドローンで上空から映しているような感じがしました。
朝香 「橋だとか、川を上から見られる場所がいっぱいあるんです。川沿いの道で上から眺めながら運転もできるので、俯瞰した印象はありました」
――川面がキラキラしているような音は、朝香さんのピアノならではですね。
朝香 「それはお家芸です(笑)」
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――kikiさんはこのアルバムで、とくに好きな曲はありますか?
kiki 「全部好きですけど、〈モルダウ・アパッショナータ〉はとくに好きです。(スメタナの)〈モルダウ〉は誰でも知っている曲なのに、こんなにもあさぴさんサウンドになるのが本当に面白くて、感動しました」
朝香 「これはアニソンっぽい仕上がりを目指しました。今年は『ガンダムSEED』の映画もありましたし、私が『ガンダム』の曲を書くなら……という妄想から始まって。〈モルダウ〉のフレーズを書きながら、頭の中では、歌ってくれるのは西川貴教さんがいいかな、森口博子さんもいいなと思い浮かべていました」
――今のお話を聞く前から、この曲は『ガンダム』っぽいと感じていました。CDのセルフライナーに「祖国への熱き思いを胸に独立運動を戦い抜いた彼らの姿を思い描き」とあって、そこが『ガンダム』シリーズの世界観と通じたのかなと。
朝香 「逆なんですよ。スメタナのことを調べたら、オーストリアからの独立運動をしていた時代のチェコの方で、愛国心から交響詩〈我が祖国〉を作っていて。『ガンダム』の世界とも遠くないなと確信に変わって、ズバーッと行った感じです。曲を構築していてアップダウンを作るとき、自分の中でストーリーの伏線がほしくて。いろいろ遡ってみたら、そんなスメタナの逸話があったのでオーバーラップさせて、Wミーニングになりました。悲しいところもあり、楽しいところもあり、劇場型に仕上がっています」
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――ところで、ふたりのコラボ・ライヴは、どんな経緯で開催したんですか?
朝香 「私がアルバムをリリースして、kikiちゃんとまだ一緒にイベントをしたことがなかったからお誘いしました。告知用にアップした動画では、JIMSレーベルならこの2曲という〈ルパン三世〉と〈銀河鉄道999〉の連弾をしましたけど、知っている曲にはそんなに世代差がなくて。“kikiちゃん、なんでその曲を知ってるの?”という」
kiki 「本番でも昭和の名曲を一緒に弾きました」
朝香 「〈SAY YES〉と〈Get Wild〉。生まれる前の曲だよね?」
kiki 「知らなかったんですけど、3ヵ月くらい前に福岡に帰ったとき、ストリートピアノでリクエストを取ったら、〈SAY YES〉と言われました。ストピあるあるで、お客さんにリクエストをいただいた昭和の曲を、自分が好きになることは多いです。〈SAY YES〉も聴いてみたら名曲。CHAGE and ASKAさん、最高です!」
朝香 「ASKAさんの楽曲のクオリティはどれもエゲツないですね」
――ふたりでピアノを弾く手応えはどんなものでした?
Kiki 「あさぴさんのトップレベルのリズム感に支えられています」
朝香 「私は基本、セコンドで支えたいんです。ストピで連弾しても、“ボトムを支えるからメロディ行っちゃって”みたいなことが楽しくて。だから最近、いろいろな曲のベースラインばかり聴いています(笑)。そのままピアノで弾くと微妙なフレーズを、左手でどこまで遊べるか。そんなことばかり考えているんです」
――今後も何らかの形でコラボはありますか?
朝香 「来年はもうちょっといろいろできたらいいね」
kiki 「あさぴさんのグルーヴが本当に素晴らしいので、それを活かせる曲をやりたいです。小室哲哉さんのほかの曲を一緒に弾いてみたいです」
朝香 「良い曲がいっぱいありますからね。私はglobeが大好きです」
kiki 「ストリートピアノで、〈DEPARTURES〉のリクエストをいっぱいいただきます」
朝香 「あの曲はずっと頭の中でコードが鳴っていましたけど、ベースラインをちゃんと聴いたら、思っていたコードと全然違っていてビックリしました。全然ルートでないところに行っていて」
kiki 「小室さんにしか出せない個性的なサウンドで、リクエストをいただくことが本当に多くて、その世代の方にめちゃくちゃ根強く残っているんだと思います」
朝香 「一世風靡どころの騒ぎではなかったですから」
kiki 「そういう方たちに楽しんでいただけるように、弾きたい気持ちはあります」
――ピアノ女子部はいっそう盛り上がりそうですか?
朝香 「男子部に負けないように盛り上げたいですね!JIMSフェスも今年は開けなかったので、来年はやりたいですし。みんなが忙しすぎるんですけど、私がどれだけけしかけられるかに掛かっている感じです(笑)」
kiki 「お願いします。私は作曲とジャズ・アレンジに力を入れていきます。ジャズは聴かない人には敷居が高いので、自分が本格的に学ぶのとは別の形で、皆さんに楽しんでもらえたら。流行りの曲や誰もが知っているポップスをジャズアレンジにしたら、聴いていただけるのは実感しているので、そういう活動を増やしていきたいです」
取材・文/斉藤貴志