浅利史花  気鋭のジャズ・ギタリストが、伝説のギタリスト、エミリー・レムラーに捧げる新作を発表

浅利史花   2023/04/18掲載
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生理的に真っ直ぐ、そしてキラキラしている。浅利史花を前にして、すぐそう思った。彼女がセカンド作『Thanks For Emily』のカヴァー写真で手にしているのは、日々愛用している1957年モデルのギブソンES-175。それは、ロックやR&B、現代ジャズの奏者が用いないフル・アコースティックのエレクトリック・ギター。かような楽器を愛用していることに示されるいように、彼女はオーセンティックなアコースティック・ジャズを志向するギタリストである。その様、清々しくも、快活。基本をきっちり押さえつつ、瑞々しくもある。浅利はどのようにジャズやギターと出会い、我が道を進まんとしているのか。自分のワーキング・バンドで録音されたその新作はどんな意図のもと、みずからのアドバンテージを出そうとしたのだろう? 率直に答える彼女に、いろいろ訊いた。なお、このジャケット写真で身につけている衣服は用意していた衣装でなくそのとき着ていた私服だそう。
――生まれも育ちも福島市ですか?
「そうなんです。大学に入るまでです」
――まずは、少し経歴をお聞かせください。どんな子どもだったのでしょう?
「幼稚園児の時とかは何か新しいことにチャレンジするのが好きだったと言われました。音楽面で言うと、けっこう兄姉も親も音楽が好きだったのでいろんな音楽に触れる機会は多かったのかなと思います。親はカーペンターズ、もちろんビートルズとかクイーンとかが好きだったり、ボサ・ノヴァとジャズも聴いてましたね。お姉ちゃんはBLANKEY JET CITYとかTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTといった邦楽ロックが好きでした。私は高校生のときは木村カエラがすごい好きで、ポルノグラフィティのファン・クラブにも入っていました」
――バイオを見たら、高校に軽音楽部がなかったために、ジャズ研(大友良英はその先輩となる)に入部したと書いてありました。もし高校に軽音学部があったら、今ジャズ・ミュージシャンになっていないのでしょうか。
「もちろん、そうですね(笑)」
――親御さん流れでちょっと聴いていたかもしれませんが、ちゃんとジャズと向き合うのは、高校のジャズ研に入ってからですか。
「はい。そして、市内にあるジャズ喫茶にも行くようになって、そこでレコードでおすすめのものを聴かせていただいたりとかしてました」
――いろいろと聴き、演奏するようになると、ジャズってどういう音楽だと思いましたか?
「やはりアドリブが曲の中で9割を占めるような音楽で、自由だなあって思え、衝撃を受けましたね」
――クラシック・ピアノをやっていたそうですが、なぜジャズ研に入ってギターを持ち楽器にしたのでしょう?
浅利史花
「消去法です。ピアノじゃない楽器をやりたいなって思いました。でも、高校から管楽器を始めるのもちょっと大変だと思え、なんかベースとドラムはどこか男性的なイメージが当時ありました。そしたら、残ったのがギターしかなかったんです(笑)」
――ジャズっていう表現とともに、ギターという楽器との出会いも大きかったわけですね。
「そうです。最初はギターとの出会いの方が大きかったかもしれないです」
――大学は音大ではなく、普通の大学ですか。
「はい、プロを目指していたとかではなかったので。でも、すぐにジャズ研に入りました」
――そして、もっとジャズにめり込んでしまうわけですか。
「そうですね。やっぱり環境が福島と全然違って、プロの人と接する機会もすごい多く、受ける刺激が違いましたね。いろんな大学とも交流があって、放課後はほかの大学のサークルにセッションをしに行ったりとか、お店のジャム・セッションに行ったりとか、セッション三昧でした。そして、あれよあれよという間にライヴ活動をするようになりました」
――そのころ、いちばんどういうジャズが好みだったのでしょう。
「高校生のときから大学1〜2年ぐらいの頃までは、いわゆるハード・バップと言われる1950年代ぐらいのジャズにすごい夢中でした」
――そういえば、資料の好きなミュージシャンの項目にけっこうサックス奏者の名前が載っていました。デクスター・ゴードンとかハンク・モブレーとか。
「はい、その2人がすごい好きです。高校生のときによくコピーしました。ただやっぱりいろんな人と接して刺激を受けるうちに、その年代以降のジャズも聴くようになり、マイルス(・デイビス)とかも最近はすごい好きですね。ギターだと最近は、ジム・ホールとかめちゃくちゃリスペクトしてます」
浅利史花
――いつ頃から、プロになりたいという気持ちが芽生えたのでしょう。
「大学2年生の後半くらいから、そっちに行こうかなって思いました。だから、就活もしませんでした。自信はなかったんですが、ダメだったらダメでいいから、やってみようという感じでした」
――親は文句言わなかったんですか?
「言わなかったんです(笑)。親は自由にさせてくれますね。そのかわり、自分で責任とってという感じでした」
――今振り返ると、デビュー作『Introducin'』(2020年)はどんなアルバムだなと感じています?
「当時できる精一杯のことをしたアルバムかなと感じています。そのファーストをきっかけにすごい成長するきっかけもたくさん得ましたし、2枚目に対する抱負もいろいろ出てきましたね」
――セカンド作を作るにあたり、まず演奏する曲や一緒にやる人をピックアップしていった、という感じでしょうか。
「2作目のお話をいただく前に、ちょうど新しいカルテットを組んだんです。それまではスタンダード・ジャズを演奏することが多かったんですけど、新しいプロジェクトではオリジナルもやってみたいと思いました。ちょうどコロナ禍でインプットする時間や作曲する時間が増え、それを受けてオリジナルをやりたいなと思うバンドも組み……。ちょうどいいタイミングで、レコーディングができたと思います」
――ダブル・ベースの三嶋大輝さんは竹村一哲(渡辺貞夫や藤井郷子のお気に入りでもある)さんのバンドの演奏を複数回見て、大人(たいじん)風の太くいいベースを弾く人だなと感心していたんです。コアとなるカルテットのほかのメンバーはどんな人たちでしょう。
「(壷阪)健登くんはいろんなジャンルで活動していて本当に何でも弾けてしまい、自分にはない要素をもたくさん持ってる多彩なピアニストで、刺激とアイディアを受けますね。ドラムの(山崎)隼くんはまだ21歳。すごく感性が鋭く、アンサンブルの変化とかをキャッチするのがめちゃくちゃ早いんです。本人はモダン・ジャズはそんなに長くやってないから、あまり自信がないみたいなんですけど、逆にそれがすごい新鮮な発想につながっていると思います」
浅利史花
左から、三嶋大輝(b)、壷阪健登(p)、曽我部泰紀(ts)、浅利史花、片山士駿(fl)、山崎隼(ds)
――そして、タイトルにあるように今作は女性ギタリストのエミリー・レムラー(1957〜1990年。コンコード・ジャズからリーダー作群をリリースした)に捧げたアルバムです。当然、彼女が好きなんですよね?
「もう、高校生のときからずっと聴いてました」
――エミリー・レムラーが女性であったというのは、大きな理由であったのでしょうか?
「あると思います。トリビュート・アルバムにしようというアイディアが出てきて、対象は誰にしようかなと考えた際に彼女しかないなと思いました。やっぱりまだ誰も取り組んでない人がいいかなって思いもありましたし、高校生のときからずっと憧れ続けているギタリストでありましたし」
――ジャズって女性奏者の比率が低く、ロック以上に男性社会みたいなところがあるじゃないですか。
「そうそうそう。今でこそたくさん女性ミュージシャンがいますが。なんかおこがましいですが、みんなに彼女のことを知ってほしいという気持ちもありました」
――それから、アルバムを聴くと、グラント・グリーンが大好きだとすごいわかる曲がありますよね。
「(笑)。根っこにあるのが、グラント・グリーンですね」
――コロナ禍で書いた曲を演奏する一方、アントニオ・カルロス・ジョビンの曲「How Insensitive」も取り上げています。やはり、ボサ・ノヴァはお好きなんですか。
「ボサ・ノヴァは大好きですね。それと、〈How Insensitive〉はエミリー・レムラーも取り上げていたので、とくに好きな曲でした」
――今作について、総体としてどういう内容に仕上がっていて、どういう自分が出たなと感じていますか。
「コロナ禍があり、それまでなかなか取り組めなかったハーモニーの勉強ができたんです。コロナ禍で自分のなかに積み重ねたことが出たアルバムなんじゃないかと思っています」
――ギター奏者としては、新たにこんな面が出たなと感じる部分はどんなところでしょう?
「やっぱり、ハーモニーでしょうか。グラント・グリーンが好きで、シンプルなハーモニーばかりやってきたので、いろいろなスケールとかテンションとかを学ぶようになって、そのサウンドが出てきていると自分では思います」
――今後はどんなふうに進んで行けたらいいなと思っていますか。
「とにかく、ストイックに音楽に向き合っていけたらと思っています。それから、ちょっと音楽的なことはべつにして、もっと若い世代もジャズを聴くようになったらいいなと。そのための貢献もできたらいいなと思いますね」


取材・文/佐藤英輔
information
〈Fumika Asari “Thanks For Emily” Release Tour〉

6月9日(金)静岡・藤枝 Body&Soul
6月10日(土)愛知・名古屋 JAZZ CLUB“Mr.Kenny's”
6月11日(日)三重・松阪 Jazz 茶房 サライ
6月12日(月)大阪・Mr.Kelly’s
6月21日(水)東京・コットンクラブ

https://fumikaasari.com/
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