昨年末に発表されたシングル
「新世紀のラブソング」から、すでに予兆はあった。リズミカルなブレイクビーツに乗せて、後藤正文がラップともトーキン・ブルースともつかない独特のヴォーカル・スタイルで諦念の先にある希望を堂々と歌い上げたこの楽曲で、
ASIAN KUNG-FU GENERATIONは間違いなくバンドとしての第2章に突入した。そして迎えたニュー・アルバム
『マジックディスク』。そこには伊達や酔狂ではなく、音楽の力をとことんまで信じ、それによって閉鎖した時代をブレイクスルーしようという後藤正文の真摯なアティトゥードが力強く漲っている。それは
根本敬言うところの「でも、やるんだよ」の精神にも合い通じる、赤裸々なまでに生々しいエナジーすらも同時に感じさせるところがあって。いわゆる文系ギター・バンドの代表格といったイメージで彼らのことを捉えている人にこそ声を大にして伝えたい。今、アジカンが確実に面白い。
――今回のアルバム、最初に聴いたとき、表現者としてのエゴを強烈に感じたんですよ。“俺は今、こういうことをやりたいんだ!”という後藤さんの衝動が作品全体から生々しく感じられて。
後藤正文(vo、g / 以下、後藤) 「そうですね。エゴは今までで一番強く出てると思います。楽曲を持っていった時点で、ここは譲れないという部分に関しては、メンバーと徹底的にやりあおうと思っていたんで。エゴってネガティヴに捉えられがちですけど、何かを表現する上では絶対に必要なものだと思うんですよ」
――僕もそう思います。エゴって要するに表現欲だと思うし、そういう何かイビツな部分にこそ、表現者の業(ごう)みたいなものが現れると思うんですよね。つまるところ、そういうところに受け手はグッとくるわけだし。で、今回のアルバムで僕がグッときたのも、そういうところだったりするんですよ。
後藤 「うん。表現って最終的にはエゴそのものだと思うし、その芯にあるものって、ある種、作り手の性癖にも似たドロッとしたものだと思うんですよね。僕もやっぱり、音楽を聴いていて、そういう部分に魅力を感じるし、どんなにテクノロジーが進んでも、それだけは絶対に作れないから。要するに、エゴや衝動を音楽に込められない人たちは、これからどんどん消えていくと思うんです。だから、そのあたりに関しては、すごく意識しましたね。本当に強く“自分自身であろう”って。そのぶん、よくわかってないんです、今回のアルバムは。あまりに、のめりこみすぎちゃって」
――ある種、天然で作ったというか。
後藤 「そうそう。本当に天然ですよ(笑)。“こういう曲を、こういうふうに鳴らしたい!”っていう。今まではセッションしながら曲を作っていくことが割と多かったんですけど、今回はバンドで再現することを考えずに、最初に自分が鳴らしたい音をイメージしながらデモを作っていったんです。これまで5枚アルバムを出してきて、ある程度、曲作りのやり方が固まってしまったところがあって。バンドが自家中毒を起こさないためにも、あえて今回は今までと違うやり方を取ろうと思ったんです」
喜多建介(g、vo / 以下、喜多) 「これまで何度かデモから曲を作るということはしていて、そういうやり方でもいい曲が作れるということはわかっていたので、やり方としては可能性があるなと思いました」
山田貴洋(b、vo / 以下、山田) 「デモがあがってきた段階でかなり曲のイメージが固まっていたので、僕らも、ある意味、そのイメージに乗っかった方がいいものができると思ったんですよね。ある種、サポート的な役目に徹するというか。今回はひとつの方向に向けて全員が集中して向き合う感じでしたね」
――歌詞にも後藤さんの内面が色濃く表れてますよね。すごく物言いもストレートだし。
後藤 「頭がいいふりして政治とか社会に対してシニカルなジョークを言うようなやり方って、2010年の今、すごくダサいものだと思うんですよ。性格上、“楽しくて、めちゃくちゃポジティヴです!”とは歌えないけれど(笑)、それでも音楽を通じて、暗い中にも、かすかな光を見つけていけたらいいなと思っていて。今は本当に悲しいことばかりが目に付くけど、そういう状況を真正面から受け入れた上で、少しでもポジティヴな方向に向かっていけたらなと思うんです」
――そういうメンタリティが歌詞にモロに反映されてますよね。根本敬先生言うところの「でも、やるんだよ」精神というか。
後藤 「ははは。“でも、やるんだよ”(笑)。うん……本当にそのとおりですよ。マジでやるしかないって思います」
――あと、今回のアルバムって、全体的にすごく“開いてる”イメージがあるんですよ。
後藤 「そうですね。今回は開いてると思います。デビューした頃は、格好つけて、ちょっと斜に構えてたところがあって、テレビ出たときとか、小難しい顔してインタビューに答えてたり。こないだ当時の映像観て、“なんだ、こいつ!”って思いましたけど(笑)。なんでしょうね……今は1周しちゃって、人と話しているときとかも、単純に面白い話がしたいなと思うんですよね。こうやってインタビューを受けるにしても、楽しみたいなと思っているし。自分自身、随分マインド的に開いたなと思いますよ」
――Twitterでも、興味を持ったミュージシャンと積極的にやりとりしていますよね。
後藤 「もともと幅広く音楽を聴くタイプなので、自分が興味をもった人たちと交流を持てるのはすごく嬉しいんですよね。Twitterを通じて、“アジカンのことよく知らなかったけど、本当は面白いことやってたんだね”とか言ってもらえるようなこともあったり。そうやって、いままで交流のなかったミュージシャンと繋がれるのが面白いなと思って」
――ちなみに最近、興味があるのは?
後藤 「
S.L.A.C.K.とか、日本のヒップホップをよく聴いてますね。僕は歌詞を書く人間なので、ヒップホップのアーティストには憧れだとか嫉妬のような気持ちが強くあって。でも一方で、メロディの力を信じているところもあるし。そのあたりの感覚が今回のアルバムには割と出てるんじゃないかと思います。でも、今、日本の音楽、面白いですよ。リスナーとしても本当にワクワクしてるし。そういう素晴らしい音楽をもっとたくさんのリスナーと共有したい気持ちがあるんですよね」
――でも、たとえば2009年の年末にやったツアー<Tour 2009〜酔杯リターンズ〜>でneco眠るを初めて知った人とか、けっこう多かったと思いますよ。 後藤 「そうですね。去年のツアーにゲストで出てくれたneco眠る、
ウリチパン郡、
group_inouとか、みんな血が通った音楽を演奏していて本当にリスペクトしています。ゆくゆくは<NANO MUGEN FES.>にも、もっとヒップホップのアーティストとか、いろんなミュージシャンに出てもらえるようになると面白いんですけど」
――逆に今回のアルバムみたいな方向性を突き詰めていって、アジカンがこれまで出ていなかったようなフェスやイベントに違和感なく出て行くようになっても面白いなと思うんですよ。
伊地知潔(ds) 「そうですね。僕らは最初、“ライヴハウスじゃなきゃやらないぞ”みたいなスタンスで始まったんですけど、そのうちホールやアリーナでやることの面白さにも徐々に気付いていって。視野を広げていくことで、得たものもたくさんあるし。自分たちが面白いと思える所にはこれからも積極的に出て行きたいなと思っていて」
後藤 「そうやって、いろんなミュージシャンと実際に混じりあっていくことで新たに生まれてくるものもあるし。ジャンルに関係なく、ミュージシャン同士が刺激しあうことで、日本の音楽文化は今よりもさらに面白くなっていくと思うんですよね」
取材・文/望月哲(2010年6月)