2001年、カール・クラックの死をきっかけに事実上解散した
アタリ・ティーンエイジ・ライオット(以下、ATR)。そんなデジタル・ハードコアの雄が、 CXキッドトロニックを新たに迎えて復活。当初は2010年のロンドン公演1回限りのはずが、同年8月の〈SUMMER SONIC〉出演、さらには今年6月8日にニュー・アルバム
『イズ・ディス・ハイパーリアル?』までリリースしてしまった。新作に対する手応えもあるのだろう。中心人物の
アレック・エンパイアは、ATRの過去、現在、そして今後について饒舌に語ってくれた。
――再結成のきっかけは?
アレック・エンパイア(以下同)「2009年10月にハニン(・エライアス)がFacebookにメッセージを送ってきたことだった。彼女とコンタクトを取ったのは10年ぶり。1999年、ハニンがロンドン・ブリクストン・アカデミーでの重要なショーをすっぽかして以来、彼女とはまったくと言っていいほど連絡を取っていなかったんだ。当時を振り返ると、ハニンの行動こそが解散の大きな要因だったかもしれないと思うね」
――カールが亡くなる以前からATRは、そんなにいい状態とは言えなかったわけですね。
「とはいえ、ハニンからのメッセージを受け取って、またATRをやるもの悪くないなって思ったんだ。それでアレック・エンパイアとしてのショーを、ATRに切り替えたんだ。ハニンはまたしても、会場に姿を現さなかったけどね(笑)。当日はハニンのパートをニック(・エンドウ)がやることになって叫んだりダイヴしたりしていたし、オーディエンスにはCXの存在も新鮮に映ったと思う。カールの代わりは誰にも務まらないと思っていたけど、CXはATRに自身のカラーを新たにプラスしてくれたんだ。とにかくあのショーの反響が大きかったから、事がどんどん進んでいったんだ」
――なるほど。
「楽曲のアイディアはあったし、全員にやる気もあった。だったら、新しいATRとして活動しない理由はないからね。これまでATRは90年代の出来事について語ってきたけど、今も語るべきトピックはいろいろある。実際、俺たちが90年代に語った戦争は、2000年代になって現実になった。音楽を通して社会で何が起こっているかを伝えるという意味では、ニュー・アルバムはウィキリークスによる政府の崩壊といったことをテーマにしているよ」
――ハッカーの活動や政府、企業によるインターネット規制が、ネットの自由を奪う。その側面を追求したのが今作だそうですね。
「もちろんネットには自由があるし、多くの情報を手に入れることも可能だ。リビアの反政府運動もそうだし、福島の原発事故もそう。表では知ることのできない声に触れられるんだ。でも、その状況を逆手に取って人をコントロールすることもできるわけだし、そもそも情報が正しいのか、そうでないのかを判断するのは自分自身なんだ。そのためにも、1つの情報を鵜呑みにしてはいけないし、一瞬で判断してはいけない。ちょっと待て、何でそうなんだ? 根拠はなんだ? って常に疑問を持たないと。そしてさまざまな場所から情報をゲットして多角的に判断しないと、自分たちコントロールしようとしている人々に騙される恐れがある。ATRではネットにいろいろな情報が飛び交う中、どこで線を引くべきかってことを言っているよ。今日のような環境で何をすべきか。多くの情報を得たのなら、それを踏まえてどう行動をすべきかってことをね」
――サウンド面ではよりテクノ、エレクトロなベクトルヘ向かうとともに、円熟味というか、深化した姿が刻み付けられていますよね。
「たしかにテクノは昔からATRの一部だったけど、以前より大きな役割を果たしていると思う。なぜだかわからないけど、今作の歌詞には合っているのかも。実際、テクノの持つ冷徹な雰囲気は今の曲にはピッタリだと思うしね。それに深化という部分は、ニックのアプローチが関係しているのかもしれない。彼女には日本人の血が流れていることもあって、ハニンとフォーカスを当てる対象が違うんだ。細部や実質的ところに気を配るというか」
――今作を作り終え、あらためてATRというグループに関して抱いたことは?
「そうだなぁ。以前と変わらないのは、政治について語っている部分。あとは機材かな。未だにアタリ・コンピュータ(※8ビットのホーム・コンピュータ)を使っているし、容量もたったの2MB(笑)。アタリはバンドのアイデンティティだから、これからも使い続けるさ。逆に変わったのは、メンバー全員がソング・ライティングとプロデュースの経験を持ち、ヴォーカリストであること。それこそCXはカニエ・ウェストなんかも手がけている。ニックも自分のレコードをリリースしているし、俺にもアレック・エンパイアというプロジェクトがある。CXの持ってきたアイディアを俺が編集したり、自分のアイディアに組み入れたりと、曲作りのアプローチもまったく違うんだ」
――ATRは今後もパーマネントな活動を続けていくんですよね?
「俺自身、昔から常にそう思っているんだけどね(笑)。イエスと言うとまた予期せぬ出来事が起こるかもしれないから、あえてノーと言っておこうかな(笑)」
取材・文/兒玉常利(2011年5月)