エスカレーター・レコード期待の新鋭、AVALONがついに1stフル・アルバム『LABYRINTH』を完成! 世界の音楽最前線の動きと同調するかのようにカッティング・エッジな世界観を展開するAVALONのサウンドについて、バンドの中心人物である小谷洋輔に話を訊いた。 2000年以降の大局的な流れとして、ハウス・ミュージックにインスパイアされたディスコ・パンクから、ロックを取り込んだ
JUSTICEに象徴されるニュースクール・エレクトロへと、音楽の最新トレンドは目まぐるしく移り変わってきたが、ここに来て、Metronomyや
Late Of The Pier、
Ratatatなど、再び、英米バンドへの注目が集まっている。彼らの音楽性は、大きく捉えると、ダンス・ミュージックの影響を受けつつも、ビルド・アップするのではなく、逆にいびつに崩していくのが大きな特徴だ。そんな世界の音楽最前線の動きと同調するかのようにカッティング・エッジな世界観を展開しているのが、元
HARVARDの小谷洋輔率いる4人組バンド、AVALONだ。
「HARVARDのときはライヴをやってませんでしたけど、AVALONでは、まず、ライヴがやりたかったんですよ。デスクトップPCで出来る一人の音楽なんて、巷に溢れてるじゃないですか。 それにPCだと曲は組み立てられても、書くことはできないから演奏するしかないし、もっとフィジカルなものを表現したかったんです。ちなみに作品ではギターも弾いてるんですけど、ライヴではもっと極端なことがやりたくて、キーボード4台とパーカッション、サンプラーだけを使ってます」
「個人的には、もう、エレクトロはないなって思います。ああいうものはJUSTICEで打ち止めだなっていうところからアルバムを作り始めたんです。
DAFT PUNKからJUSTICEの流れって、サウンド的には一つの型があって、猫も杓子もその音になっているんですけど、このアルバムではその型を抜きに自分の感覚を優先させて、たとえば、ハイハットの音を抜いたり、楽曲的にはいびつなものになっているんですけど、そうやって、“あれ?”って思える仕掛けをあちこちに散りばめました」
音楽シーンの国境が消失しつつある昨今、世界各地の動きが連動しながら、その最前線は大人を置き去りにして驚くべきスピードで日々更新されている。彼らは所属レーベル、エスカレーター・レコード経営のインポート・レコード・ショップに入荷する新譜で、そうした最新の動きをいち早くキャッチ・アップしつつも、情報に惑わされない審美眼に非凡な才能がうかがえる。
「今回のアルバムは“ファンタジー”がテーマです。分かりやすく言うと、たとえば、映画『ネヴァー・エンディング・ストーリー』とか、ああいうファンタジー感が大好きなので、それを僕たちなりに咀嚼したうえで、一枚を通して表現したいなって。今回、アルバムを作るにあたっては、迷宮の中で繰り広げられる一つの物語を書いて、それを歌詞やタイトル、アート・ワークに反映させたんです。今はネットで検索すれば、いろんな情報が出てきてしまう時代なので、みんな想像しない頭になっているだけに、今の若い子にはファンタジー映画って言っても分からないかもしれませんけど、自分たちの作る音楽は聴き手の想像を喚起するものであってほしいなと思うんです」
ファンタジーなき時代の新しいサウンド・ファンタジー。今秋以降に海外デビューも控えている彼らの眼差しは新しい夢の風景を捉えるために、あらゆるものを貫いて真直ぐ前にだけ向けられている。
取材・文/小野田 雄(2008年8月)