世界で最も素晴らしいジャズ・ベーシストのひとりであるアヴィシャイ・コーエン。最新作
『Continuo』は、彼の特徴であるジャズと中近東の旋律の融合がさらに進化し、熱情的で真摯なアルバムとなっている。その情熱はいったいどこからくるのだろうか?
「自分の内部、自身の一部からなにかスピリチュアルなものが生まれる。自分の中で最も真摯であるのは、自分の創る音楽なんだ。情熱的な性格だと思っているけれど、それが音楽を通してリスナーに伝わるんだろうね。音楽は、小さい頃から心を鷲づかみにするものだった。自分に音楽という奇跡を与える才能があると確信した時から、ずっとそれを外に伝える必要があると感じていた。だから今、こうして音楽を通して人々にその情熱を与えるのは、恩返しだと思っている」
―― 自身のレーベル“ラスダズ”を設立してから、音楽的に自由になったという感覚はある?
「実はストレッチにいた時もかなり自由にやらせてもらっていたんだ。でも、自分のレーベルを持つというのは、誇りでもあるね。若いアーティストの手助けができるのはすばらしいことだ。ラスダズではそれぞれの国の売り上げをはっきりとつかんでいるから、その分コントロールがしやすくなった。最近ではジャズ・ミュージシャンが自分のレーベルを持つのは普通になりつつあるしね」
―― 12年間住んだニューヨークを離れ、2年前にイスラエルに帰国したのはなぜ?
「その理由の一つは、自分のルーツにもっと近くあるべきだと感じたからなんだ。今までと違ったプロジェクトも始めたかったし、新しい音楽の方向性を探していたんだね。自分の家族の近くにいたかったというのもある。ツアーから戻ってきた時には、やはり安らぎがほしいからね。ニューヨークはそういう意味では相応しい場所ではないね」
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チック・コリアに見い出され、2003年まで彼のサイドマンとして活動していたアヴィシャイ。アヴィシャイにとってチックとは、どんな存在なのだろうか?
「チックは自分のキャリアを違うレベルに押し上げてくれた恩人なんだ。自分がベーシストで作曲家であることをプロモートしてくれたのは彼で、彼とプレイすることによって自分の音楽も世界的に知られるようになったんだ。彼にはとても感謝している。これからもずっとね」
―― 現在のワールドツアーを今後も続けていく予定?
「以前と比べると今は静寂を求める気持ちが強くなってきているけれど、ツアーはいまだに好きだね。世界中の観客に自分の音楽を聴いてもらえるチャンスなんだから、ツアーはミュージシャンの義務だと思っている。世界中を旅して、いろいろな人に会うのはすばらしいことだね」
子供ができるまでツアーを続けていきたいが、その前に結婚してくれる女性を見つけなきゃ、と笑うアヴィシャイ。少年のような笑顔とその受け答えから醸しだされるインテリジェンスに私は完全にノックアウトされてしまった。
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アヴィシャイ・コーエン『Continuo』取材・文/落合真理
(2006年10月収録/Photo by Mari Ochiai)