フロアに映える強いビートと歌謡然とした丁寧な詞曲、凛としていて人懐こい歌声。唯一無二のエレクトロ・ポップスで人気を博す宅録シンガー・ソングライター
AZUMA HITOMIが、
矢野顕子のアルバム
『飛ばしていくよ』への参加、いつになくアグレッシヴな「食わずぎらい」の配信リリースを経て、1年2ヵ月ぶりにミニ・アルバム
『CHIIRALITY』をリリースする。最新作についてはもちろん今後の驚きの(!?)展望についても大いに語ってもらった。
(撮影を終えて) 「これから撮影があるたびに服とか考えないとな……」
――あはは。もうよく聞かれているかもしれませんが、どうして顔を出すようになったんですか?
「うーん、逆に“どうして今まで顔を出さなかったんですか”って聞かれる方が自然というか。普通、女の子のシンガー・ソングライターだったら自分が歌っているところ含めて外に出したいと思うんです。本名で活動しているし、自分で作詞作曲していて、顔だけ出していない方が不自然だと思うんですよ」
――はい。
「なんでそうしたかっていうと、テクノっていうジャンルで身体性みたいなのを考えたときに、顔って自分の一番肉体的な部分でもあるから、そこをちょっとずつ出していくのが面白いんじゃないかっていうのがあったのと、
西島大介さんのイラストをビジュアル・イメージに使ったらどうかなっていうレコード会社のアイディアとうまく合致したんです。顔を出したくないわけではなくて、アー写がイラストっていうのが面白かった。今回アルバムを作るにあたって、新作でどういうものを歌いたいか考えたときに、“顔出していいんじゃないかな”っていうモードになれたんです。それと、矢野(顕子)さんのトラックメーカーをやらせてもらったときに取材が入ってテレビに映ったので、それをひとつのきっかけに捉えて、次のステップに進もうと思いました」
――なるほどよくわかりました。では新作についてのお話を聞かせてください。1stアルバムはそれまで作ってきたものの集大成じゃないですか。その次の作品は、音楽人生が始まってからの作品になると思うんです。『CHIIRALITY』はその第一歩になるわけですよね。
「まさに。一枚目の
『フォトン』は本当にベスト盤的なもので、全部シングルを狙って書いてきた曲だったりするので。ジャケットも自分の名前のロゴだけだし、ある意味20何年間の集大成っていう感じでした」
――『CHIIRALITY』を作るにあたって、どういうところからスタートしたんですか?
「最初はこういうのが作りたいっていうのは明確にはなかったんです。とにかく作りたい曲を作っていて。で、矢野さんのアルバムに参加したこともあるから、早いうちに新しいリリースをしたいなと思って、今何が歌いたいかを考えて、作った中から選んだり、新しく作ったりもしました。頭の中では候補が15曲くらいあったんですけど、ミニ・アルバムをさっと出したい気持ちがあったので7曲入りになりました」
――スピーディに出すことにしたんですね。
「はい。軸になる曲が2つあって。〈free〉と〈プリズム〉なんですけど、魚さん(共同アレンジャーの
細海魚)もその2曲が新しい感じがするっていうことで意見が合致したので、それを中心に他を並べていくことになりました。それと、先に配信でリリースした〈食わずぎらい〉は、矢野さんとコラボした後にすぐ作ったんです。矢野さんからもらったエネルギーをそのまま出してできた曲で。これはゴリゴリのダンス・ミュージックという感じで、アルバムとの整合性を無視して作ったんですよ。今一番歌いたいことが入ってるその2曲と、〈食わずぎらい〉は入れるだろうから、その周りを作りながら作品全体の流れができていったらいいなと。最終的にはストーリー性もできたし、並び方もいい感じになりました。聴いた人にとって〈free〉と〈プリズム〉がポイントになるんじゃないかなと予想はしつつ、自分の中で歌いたい方向性は全体的に決まっていました」
――その方向性というのは?
「簡単に言うと、自分と世界がどういうふうに関わっているのか。それを私はどういうふうにわかろうとしているのかということ。その中に男女の恋愛の話もあるし、2014年の東京を意識した曲もあるんですけど、全体的には今を生きてる私が歌わなきゃいけないことが出てきていると思います」
――それでタイトルが『CHIIRALITY』になった?
「鏡に映った顔って、実際の自分とは違う顔じゃないですか。その映った方をキラルって言って、(片方の手の甲にもう一方の手の平を重ねて)こういう状態をキラリティって言うんですね。一見同じだけど決して重なり合わない。ひとつの事柄に対して一緒くたにはできない二面性だったり、自分の中も別の自分だったり、悲しいっていう言葉の中に喜びがあったり。そういうのを全体的に表したかったんです」
――「スイマー」の歌詞なんかに顕著だと思うんですけど、“対自分”の要素がとても強いですよね。どうしてそういうモードになっていったんですか?
「対自分であるっていうことは、本当は自分はどうでもいいっていうことでもあるんです。本質的に自分っていうものはなくて、ただ体を借りて息をして存在してる私と、世界があるだけというか。その中にたまたま生きている私が、世界をどう見てるかっていうのを歌うときに、対自分にならざるを得なかったんです。自分のことを歌いたいわけではないんですけど、“あなた”に向かって歌うよりも、私を見つめた方が、結果的に“あなた”に対する歌になるような気がしていて。対世界を自分に置き換えてる感じです」
――発想がすごく都会の人っぽいですよね。音楽を通じて自分を聴いてもらおうという発想と真逆かもしれない。
「たしかに。生まれも育ちも東京なんですよ」
――「これを聴いて欲しい!」みたいな気持ちがあまり前に来ない?
「全力で前向きになると、諦めが滲み出てくるというか(笑)。心の中ではガツガツしてるんですけど、なぜかニヒルな感じに受け取られたりとか」
――それはわかります。
「すべてのいろんなことを肯定しすぎると“しょうがない”に集約されるじゃないですか」
――あはは。“しょうがないよね”って態度を取っているように見られがちだと。そもそもAZUMAさんって自分に興味があるタイプなんですか?
「自分探しとか、中学生の時に“なんだそれ”って思ってました(笑)。でもそこをあえて、私の中にもう一人の私がいて、どうしても別れられないし、私は私のことをもっと知っていきたいっていうのを口にしてしまうというか。自分探しとか信じてないからこそ、そういうふうに言っちゃうんですよね。それが世界を知る入り口のような気もするし」
――宅録を始めた当初からこういう歌詞を書いていたのでしょうか。
「根本的には変わってない気がします。〈free〉は中学生のときに書いたんですけど、あのときは思いつきで書いた感じだったんです。いろんな刺激がある中でフリーとはどういうことかなって。そのときは自分にしっくりきてなくて寝かせておいたんですけど、今回掘り出したときに、これは今歌いたいなと思いました」
――じゃあ歌詞は変えてない?
「ほぼいじってないです。いじったら逆に大人っぽいいやらしさが出ちゃったので、戻したりして。漠然と
ユーミンみたいなシンガー・ソングライターになりたいと思って打ち込みを始めた頃は、男女の他愛ない恋愛の風景をいかに見せるかとか、いかに共感を寄せてもらうかって研究したりして。でもそれより前は、男女のこととかじゃなくて、現実はなんたらとか、私って……みたいなことを書いていたと思います。ただそれだとポップスとして成り立たないというか、人に景色を見てもらって、新しい風が吹いてくるような歌を作りたいと思ったので、君に会いたいとか君が好きだっていう方向にシフトしたんですね。『フォトン』ではそれをやったので、じゃあ次はというところで、もっとプリミティヴな、曲を書き始めた頃の衝動を呼び戻してもいいんじゃないかと思ったんです」
――昔書いたものが後になってしっくり来るっていうのが面白いですね。
「書いたそのときは100%だし、気持ちに嘘はないんですけど、後になってそれがもっとわかるというか。今書いてる歌詞も、10年後に聞いたら150%わかるんじゃないかなって思うのかもしれないですよね」
――曲の作りがすごく丁寧ですよね。テクノのイメージがあると思うんですけど、それはビートと音色がそうなだけあって、構造自体はもっと歌謡曲然としてますよね。
「嬉しいです。弾き語りになったときにも良さが伝わる曲を作りたいんですよね。逆に、弾き語りで作ったような曲を4つ打ちにして、コード感無視したシーケンスをつけるのとか面白いんですよ。それを行ったり来たりして、“今日はゴリゴリのテクノチューンを弾き語りで!”みたいなこともやりたいんです」
――じゃあ、テクノの要素を取っ払って作るのもありだと思っている?
「はい。いずれは4つ打ちをやめてバンドもやりたい。ダンス・ミュージックであること、4つ打ちであることは目的ではないので」
――おお。でもその一方で、一人でコントロールしたい気持ちもあったりする?
「今は結局ライヴも一人でやってるんですよね(笑)。でも完全に委ねたいと思ってはいるんですよ。歌うだけでよかったらめっちゃ楽じゃんって思うんですけど、それじゃ観てる人がつまらないだろうから、変なことしたいなって気持ちがあって。結果として一人でたくさんの機材を操る形になりました。でも人とやることに対して抵抗があるわけじゃないです」
――足でベースを鳴らしながら歌うの大変そうですもんね。
「歌とベースのリズムが違うし、浮かせるから足に重心がかけられないんですよ。その状態で腹式呼吸の練習とかしてます」
――どう踏ん張るんだみたいな(笑)。それにしても、プレイヤーに委ねたい気持ちがあるというのが意外でした。
「はい。というか気持ち的には委ねてますよ!」
――なんですかそれ(笑)。結局、全然委ねてないじゃないですか。
「あはは。でも一人で全部やりたいオーラは出したくないですね」
――サウンド面は4つ打ちじゃなくてもいいとのことですが、じゃあなんで今は4つ打ちのフォーマットを使っているんですか?
「もう5年くらい前なんですけど、アレンジを一緒にやってくれている魚さんに『フォトン』の曲を見てもらったときに、初めて4つ打ちのアイディアが出たんですよ。そのときに“こういう手もあるんだ”と。魚さんってエレクトロもやるし、ノイズもやるし、バンドでハモンドを弾く人だしっていうところで、生楽器を弾くのと同じようにパソコンで音楽ってできるんだなって知って。デスクトップミュージックでも、クオンタイズされないノリのグルーヴがちゃんとわかっていれば反映されることがわかったので、躊躇なく4つ打ちをやってみようって思えたんです。それと、一人でライヴをやるときにいろいろ試したんですけど、グルーヴを出すにはベースを弾くのが現実的に一番よくて。4つ打ちの上で自分でベースを弾くのがパフォーマンスとして一番伝わることがわかったので」
――それこそ一人でやらないのであれば何でもいいと。
「はい。なんならフルートとデュオとかでも」
――それもすごい距離感ありますけど(笑)。「スイマー」はビートのない曲でしたね。
「はい。リズムなしの曲を最後に入れたいと思って作りましたね」
――『フォトン』に入っている「walk」が3拍子の曲だったじゃないですか。そういう、他のアプローチももっと聴いてみたいなと思って。
「そうですね。前回の〈walk〉の位置付けの曲が今回の〈スイマー〉だと思います。私もこういうのがもっと増えてもいいと思ってます」
――今度のレコ発ライヴも一人ですか?
――マジですか!!
「そうなんですよ! 自動キックマシーン使ったライヴの演出もハジメさんリスペクトで、いつか一緒にやらないわけにはいかないって思ってたんです(笑)。私的には“もしブレイクダンス養成ギブスが家にあったら……”とかお願いしたかったんですけど、最初に“あれは錆びてます”って言われました(笑)。でもやっぱりガジェットはやっぱり面白くて、TR-606とSpeak & Spellをリンクさせてパフォーマンスするアイディアがあったります。やっぱり誰もやってないようなことをやるんだなと」
――それは楽しみです。しかし大物との共演が続きますね。
「同世代の方とも普通に仲良くしたんですけど、やり方がわからない。すごいなって思う人はいっぱいいるんですけどね」
――それは今後に期待というところでしょうか。次の作品でやってみたいことはあるんですか?
「できるうちは新しい曲を作っていきたいと思ってます。やってみたい曲かあ。なんだろ……ネオアコとかですか」
――ちょっとそれは随分な変化ですよ(笑)。
「でもちょっとエキスは出してるんですよ。アコギのループ使ってみたりとか。でもアルバム一枚ネオアコだったらやばいですよね。“誰?”って感じですよね」
――4つ打ちにこだわらなくなった結果、そんなものが出てきたらひたすらびっくりしますよ。
「逆にすごいループしてる曲とか。全然ポップじゃないみたいな。ブルースのコードでリズムがドタドタしていて、ノイジーなループ。フル・アルバムだったらそういう捨て曲があっても」
――捨て曲って言わないでくださいよ(笑)。
「あはは。今回も捨て曲作るぞって思ったけど、そうならなかったんですよ(笑)。いつか捨て曲を作りたいんですよね。やってみたい、捨て曲!」
取材・文 / 南波一海(2014年6月)
撮影 / 山田 薫
2014年6月27日(金)東京 渋谷 TSUTAYA O-nest〒150-0044 東京都渋谷区円山町2-3 6F / 03-3462-4420ゲスト: 立花ハジメ
VJ: コバルト爆弾αΩ + なかうちゆきえ + 大橋 史
開場 18:00 / 開演 19:00
前売 3,000円 / 当日 3,500円 (税込 / 別途ドリンク代)一般発売: 4月19日(土)〜
ローソン(L: 77004) / e+ / TSUTAYA O-nest店頭※お問い合わせ: TSUTAYA O-nest 03-3462-4420