――まず、グリン・ジョンズをプロデュースに招いた経緯を教えてください。
ベン「今回のアルバムは自分たちだけでやるんじゃなくて、プロデューサーと一緒にやろうと思っていたんだ。そしたら、マネージャーが“グリンはどう?”って提案してきて、ぴったりだと思ったんだ。“伝説”と一緒に仕事ができるのは楽しみだったよ」
――今回、アナログのテープ録音でレコーディングしたそうですが、それはグリンの起用と関係ありますか?
ベン「そうだね。グリンは“ナマっぽいエネルギーを捉えたい”という気持ちを持っていて、それに沿ってシンプルでロウなサウンドを目指したんだ。前作がプロトゥールスを駆使して作り上げたアルバムだったから、その逆の方向に行くのも面白いかなって」
ビル「これまでもライヴ・レコーディングみたいなところはあったけど、“ちょっとここはイマイチだから、そこだけオーヴァーダビングして直そうよ”っていう感じだった。でも今回は気に入らなかったら全部録り直さなければいけない。そういうレコーディングから学ぶことは多かったよ」
――オープニング・ナンバー「Knock Knock」からライヴ感あふれるサウンドですが、この曲や「Feud」のダイナミックなギター・サウンドは、バンドの初期を思わるところがありますね。
ベン「そうだね。〈Knock Knock〉はスタジアム・ロックへのトリビュートというか、そういう雰囲気を楽しむ曲だ。〈Freud〉はアルバムでいちばんアグレッシヴな曲。怒りに満ちているロック、スタジアム・ロック、あるいは、ちょっとスウィートな感じとか、自分たちの好きな要素を詰め込んだんだ」
――一方、「Dumpster World」は穏やかさと激しさが交互に現れる不思議な構成な曲です。まるで二重人格みたいな。
ベン「ツアー中に書いた曲なんだけど、なかなか歌詞が思い浮かばなくて困ったよ。すごくメロウで静かなところから、突然アグレッシヴになる極端な曲だからね。この曲をグリンが気に入ってくれたのにはビックリしたな」
――ソングライティングやバンド・アンサンブルに加えて、美しいハーモニー・ワークもバンドの魅力ですね。
ベン「ラッキーなことにバンドにはシンガーが3人いて、それぞれソロでも歌っているけど、みんな自然にハーモニーを見つけることができるんだ。コンピュータでダビングしてハーモニーを作ることもできるけど、僕らは一本のマイクをみんなで囲んで歌って録っている。それはグリンのやり方でもあるし、僕らが聴いて育った音楽もそうだったからね。今回、そういうアナログなやり方でパーフェクトにでできたことはすご嬉しいよ」
2013年2月2日〈Hostess Club Weekender〉Zepp DiverCity Tokyo
(C)古溪一道
――グリンが活躍していた60年代のロックにあって、今のロックにないものがあるとしたら何でしょう?
ベン「難しい質問だけど、人間性というか、生きた人間の雰囲気かな。今って機械が全部やってくれて、すべてが正確でジャストだろ」
ビル「コンピュータがベストな状態にしてくれるから、ベストのプレイをする必要がないというか。必死な気持ちでレコーディングに打ち込まなくても、なんとかなってしまうんだよね」
ベン「でも、60〜70年代っていうのは、今ここでベストの演奏をしなければ後がない。その瞬間に向けた精神力や集中力が作品に込められているから、その音楽を聴いた時に“生きた人間が音楽をやっている”という雰囲気があるんだと思う」
――まさに『ミラージュ・ロック』には、そうした生きたロックが詰まっていると思います。まるで野生馬みたいに生き生きとしていて。
ベン「(馬が走るマネをして)次のアルバムまで全力疾走し続けるよ(笑)。とにかく、バンドは今とてもいい状態なんだ。前作が“真のデビュー作だ”と言ったことがあるけど、このメンバーで演奏するのはとても快適だし、お互いいろんなことを学び合っている。これからも俺たちは、日々成長していくと思うよ」
取材・文/村尾泰郎(2013年2月)