2015年末に惜しまれながら解散した
PE'Zのサックス・プレイヤー、門田“JAW”晃介が新バンド
BARBを結成。1stアルバム『Brew Up』とともに本格的な活動をスタートさせる。メンバーはジャズ・シーンを中心に多方面で才能を発揮している
宮川 純(Key)、
Yasei Collectiveのリズム・セクションである中西道彦(b)、松下マサナオ(dr)。メロディアスなフレーズと先鋭的なサウンド、ジャズの伝統と革新がせめぎ合うような音楽性からは、このバンドがすでに確固たる独創性を掴み取っていることが伝わってくる。
今回はバンド・リーダー、門田にインタビュー。バンド結成の経緯と『Brew Up』の制作について聞いた。
――PE'Zの解散が2015年12月末。2016年の初めにはBARBの活動がスタートしていますが、結成の経緯はどんなものだったのでしょうか?
「PE'Zをやっているなかで自然な形で集まったメンバーなんですよね。解散を発表したのが2014年の終わり頃なんですけど、その数ヵ月前の夏に主催イベントに参加してくれたのがYasei Collectiveで。そのときに中西くん、松下くんのふたりには“またセッションしましょう”と話していたんです。PE'Zが解散したのが2015年の12月なんですが、やっぱりその1ヵ月くらい前に、鍵盤に宮川くんを入れた4人で初めてライヴをやって、“来年(2016年)はこのバンドで活動します”ということを発表して」
――偶然が重なっているとは言え、すごいメンバーが揃いましたね。
「そうですね。BARBを始めるに当たっては“PE'Zでやってきたことを自分なりに昇華して表現する”ということと“この先の自分がやりたいことを発信する”というふたつのコンセプトがあって。それがエレクトリックなサウンドだったり、サンプラーなどを使った音作りなんですが、このメンバーだったらそういう尖ったこともやれるという確信はありましたね」
――今回のアルバム『Brew Up』の楽曲はBARBのために書いたんですか?
「PE'Zをやっているときに書いた曲が中心ですね。PE'Zの後半から自分で曲を書くようになって、もちろんPE'Zでやることを想定して書くわけですけど、“これはバンドでは出来ないな”というメロディもいっぱいあったんです。そのうちに“これは個人でカタチにしたい”という欲求が大きくなって、宅録で音源を作って。アルバムに入っているインタールードはそのときの音源ですね。以前からライヴでやっている曲もあるんですよ。〈Blue〉は最初のライヴからやっているし――そのときの音源は“まだまだ”過ぎて聴けないですけど(笑)――ボーナストラックとして入っている〈Prayer〉(
矢野顕子 /
パット・メセニー作曲)のカヴァーもライヴのイントロとしてやっていたので」
――制作はどんなふうに進めているんですか?
「自分で打ち込んでデモと譜面を渡して、曲のイメージを伝えてからメンバー全員で作っていくんですが、最初のデモは8〜9割解体される感じですね(笑)。“そのままの感じでいこう”ということも稀にあるんですが、かなり変わることが多いです。3人ともエッジのあるセンスを持っているので、“普通の感じは許せない”というか、何か違うふうに持っていきたいという感じがあって。それを期待して声を掛けているところもあるんですよね。僕の曲は基本的にコード感もメロディもシンプルなので、それをいい意味で壊して、尖らせてくれるっていう。今回のアルバムにもそれがいい具合に出ていると思います」
――メンバーから音楽的刺激を受けることも多そうですね。
「すごくありますね。PE'Zの16年間はほとんど他のミュージシャンと絡んでいなかったから、どんどん外に出て、いろんな人と関わりたいという気持ちもあるんです。メンバーの3人はいまの音楽に対するアンテナの張り方もハンパないんですよ。ジャズだけではなくて、エレクトロやポップスも詳しいし、J-POPのミュージシャンと交流があったり、交友関係も広い。日々勉強ですね、ホントに」
――「Blue」はBARBのバランス感がうまく出ている楽曲ですよね。メインとなるテーマはすごくメロウで、リズムはかなり攻め込んでいて。
「確かに。この曲はいちばん最初に手を付けたんですけど、いちばん手を焼いた曲でもあるんです。さっきも言いましたけど、“PE'Zの良さを昇華したうえで先に進みたい”という思いがあったんですよね。解散までの1年間(2014年末〜2015年末)はそれを考える時間もたくさんあったし、メロディ・ライン、キャッチーなところ、間口の広さはこれからも追求していきたいな、と。リズムのアプローチも含めて、BARBでやりたいことが出ている曲だと思いますね」
「Blue」 360°視聴が出来るVRカメラで撮影
――「Sweet Scent」にも同じスタンスを感じます。楽曲自体はバラードなんだけど、BARBならではの実験性も感じられて。
「もともとは“ひとりで吹きたいメロディ”という感じで書いた曲なんですよね。コード進行もシンプルだから、ジャズのセッションにもピッタリなんですよ。でも、バンドに持っていったらどんどん解体が始まって(笑)、サンプラーや打ち込みの音も加わって。普通にやればベタなバラードなんだけど、この4人ならではのサウンドになりましたね」
――軸にあるのは門田さんのメロディなんですね、やはり。
「そうなってますね。メンバーのなかでいちばんメロウに寄っているのは僕だし、他の3人とのミスマッチも当初の目論見だったので。柿ピーにチョコをかけたら美味しかったというか(笑)、他にはないバランスを大事にしたいというのは確かにありますね」
――門田さん自身のルーツもメロディがしっかりある音楽なんですか?
「そんな気がします、いま考えてみると。中学生のときに初めて
チャーリー・パーカーを聴いたんですよ。『On Savoy Years』を聴いたんだけど、同じ曲が4〜5テイク入ってるんですよね。当然、アドリブの良さなんてわからなかったんですけど……」
――アドリブを聴き比べるためのレコードですからね。どうして『On Savoy Years』から聴いたんですか(笑)?
「ジャズ研のお兄さんみたいな知り合いが貸してくれたんです(笑)。“何だこれ”ってアドリブを飛ばして聴いてたんだけど、メインのテーマはすごくいいなって思ってたんです、そのときから。たぶんメロディ・ラインに惹かれてたんだと思うし、それはいまのひとつの軸になってますね。その後、音大に進んで“パーカッション10人とサックスひとり”みたいな現代音楽的なのもやったりして、そういうのも凄く好きだったんですが、今までそういう引き出しをあける機会がなかったのでBARBでは前衛的、フリーキーなこともやりたいし、それが可能なメンバーなんですよね」
――なるほど。「Over, Come-On」のようにアドリブに近いプレイが楽しめる曲もあって。BARBは門田さんのバンドだし、サックス・プレイヤーとして主張したいという部分もあるのでは?
「自分にとってもチャレンジなんですよ、それは。PE'Zはそこ(アドリブの要素)を削ぎ落としていたし、それがバンドのカラーだったわけですけど、これからはサックス・プレイヤーとしてさらに磨いていきたいし、曲のなかにそういうシーンも作っていきたいな、と。メンバー3人とも手練れのミュージシャンだから、自由に暴れてほしいんですよね。そこをメインにして、余った余白で“俺にもやらせてくれよ”っていう(笑)」
――今後のライヴ活動のなかでメンバー同士の化学反応も活性化しそうですね。
「そうですね。宮川くんはジャズを突き詰めている人だし、Yasei Collectiveからも“いままでのジャズを吸収して、自分たちの表現をやる”という気概を感じていて。3人に教わることも多いし、そのうえで自分なりの表現を提示していけたらいいなと思っています」
BARB 1st Album“Brew Up”Release Tour