――ニュー・アルバムの制作にあたってインスパイアされたものがありましたら教えてください。
アドロック「とくにこれといったものはないな。でもたとえばおかしなものを見たら、そういうムードになって雪だるま式に盛り上がったりはしたよ。映画
『スーパーバッド 童貞ウォーズ』なんて最高だった。ああいう映画を観たあとに仕事をしたとしたら、いい混合物が生まれるだろ?」
MCA「あえてルールを設けなかったりなんでもトライする姿勢、それから全体的なサウンドの傾向は『チェック・ユア・ヘッド』にも共通してるかな? でも、むしろこれはデビュー・アルバムの
『ライセンスト・トゥ・イル』(1986年)の前身になるような作品なんだ。時間軸的にもあのアルバムの前に位置づけられる。俺たちの作品を順番に聴いてみようってことになったら、まずはハードコア・レコードの『Pollywog Stew』(1982年)を聴くだろ? それから『Cooky Puss』(1983年)の12インチにいく。そのあとに今回の新作を聴くべきなんだ。それから『ライセンスト・トゥ・イル』だね。全体像やストーリーを知るためには、『ホット・ソース・コミッティー』はまさにこのポジションにはまるわけさ」
Photo by PMKen
――グラミー賞にノミネートされた「トゥ・メニー・ラッパーズ」では
NASとのコラボレーションが実現していますね。
マイク・D「実は『トゥ・ザ・5ボローズ』(2004年)をつくっていたころからNASとは一緒に仕事をしたいと思っていたんだ。でも、理由はおぼえてないけど実現しなかった。で、いざニュー・アルバムの制作に取り掛かるタイミングになって、NAS本人だったかマネージャーだったかから連絡がきたんだ。“ちょうどいま俺たちは新作をつくってるんだけど、なんか一緒にやれないかな?”って言ったらすぐに“やろうぜ!”ってことになって一瞬で決まったんだよ。それでいままでのNASのイメージとはちょっと変わったトラックを送ることになった。彼が仕上げてきたものにはとても満足しているよ」
――
サンティゴールドをフィーチャーした「ドント・プレー・ノー・ゲーム・ザット・アイ・キャント・ウィン」ではスカに挑んでいて驚きました。
マイク・D「あの曲は俺たちの好きなダブやダンスホールやスカをベースにしたものにしたかった。オールド・スカっぽいものができるといいなって思いながら、そこに俺たちのライムが乗ったらおもしろいんじゃないかと思って進めていったんだ。正直、なかなか作業的には大変だったんだけど、サンティゴールドにいろいろ聴かせていくうちにハマるものが出てきて全体をまとめたって感じかな」
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――今作をつくりあげたことはビースティ・ボーイズにとってどんな体験になりましたか?
MCA「このアルバムの制作は、俺にとってはなによりも楽しかったってことが重要。あまりにも楽しかったから、アルバム2枚分の素材が完成したってわけなんだ。この調子でまだまだ制作を続けることになると思うよ」
――あなたたちは
L.L.クールJとともに最も息の長いヒップホップ・アーティストになるわけですが、25年もの長きにわたって活動を続けてきて、いまもなおヒップホップという音楽に惹かれる理由を教えてください。
マイク・D「俺たちはヒップホップで育ったからね。深く聴いたり聴かなかったりする時期はあったけど、ヒップホップだけは特別なんだ。ロックにはつねに一箇所に落ち着いているイメージがあるんだけど、ヒップホップはつねに時代に合わせて進化している。それはこれからもそう。そこがヒップホップのエキサイティングなところで、つねにチェックしなくちゃって気持ちにさせられるんだ」
取材・文/高橋芳朗(2009年5月)