2008年のソロ作『
REBUILD 』をはじめとするクラシックを残すものの、たびたび活動休止。2016年から活動を再開し、徐々にギアを上げつつある
BES 。ラッパーとしてだけでなく、
16FLIP 名義のビートメイカーとしても多忙を極める
ISSUGI 。国内最高峰のラッパー2人によるジョイント・アルバム『
VIRIDIAN SHOOT 』がついに完成した。これまでも幾度となく共演を重ねてきた2人は、がっぷり四つに組み合った本作で何を描き出そうとしたのだろうか?
――2人が初めて会ったのはいつごろだか覚えてます?
BES 「俺が22、3歳のころにはヒデオ(
仙人掌 )が家に遊びに来てたんですよ。
メシア (THE FLY)がまだDOWN NORTH CAMPにいたぐらいの時期で、周りの連中からISSUGIの話はずっと聞いてたんですよ」
ISSUGI 「俺からしてみると、BES君はラップのヤバい先輩っていう感覚。初めてライヴを観たのもBEDで、それまでの日本人のラップとはすべてが違ってましたね」
BES 「俺は、ある時期から日本人のラップを聴くのをやめたんです。外人だけひたすら聴いて、フロウとか全部を身につけようと。当時は日本語の意味深さをそれほど意識してなかったし、今とは違うスタイルだったと思いますね。方向性は一緒なんだけど……いや、今とたいして変わらないのかな(笑)。あと、一緒にBEDでやってた3 ON 3のMCバトルに出たこともあるよね」
ISSUGI 「そうっすね。仙人掌やメシアと出たこともあったし、いろんな組み合わせで2、3回は出てるんじゃないかな」
――そのときの3 ON 3はどうだったんですか。
ISSUGI 「いやー、ヤバかったですよ。フリースタイルも曲同様にあのフロウでキレキレだし、バトルでもかなり心強いチームメイトだなと思いました(笑)。BEDの楽屋で俺とBES君、仙人掌でバトルのウォーミングアップじゃないけどフリースタイルをしていたら、DJが
BLACK MOON の〈I Got Cha Opin〉をかけたんですね。そうしたら、その時丁度BES君がフリースタイルしてる時で。今でも覚えてるんですけど、それまで曲と関係なくラップしてたのに、バックショットの“Herbal verbal lead is givin' the mic contact”のフレーズが来た時に、同じフロウを完璧に日本語で突然合わせてきたんです。それを聴いて、うおーイケてんな と思いました(笑)」
――BESさんが出所されたのは2016年4月のことでしたけど、出所してすぐに早いペースで活動を再開した印象があるんです。当時のBESさんはどういう心境だったんですか。
BES 「身体を作って出てくればよかったなと思いましたね。最初の3ヶ月は身体作り。ODの後遺症が残っちゃってるんで、体調も波があるんですよ。イライラが止まらなくて、眠れないこともあって。ま、出てきた当初に比べたらだいぶよくなったとみんな言ってくれてますけどね」
――ISSUGIさんとは出所後すぐに連絡を取り合ってた?
ISSUGI 「そうですね。ビートを渡したり、一緒に曲を作るという作業は早い段階からやってて、たぶん一番最初にやったのが〈How Ya Livin〉(ISSUGI & GRADIS NICE名義の『
DAY and NITE 』収録)。多少間が空いた時期もありますけど、コンスタントに作ってましたね」
BES 「早く復活しなきゃって感じですよね。自分のラッパーとしての寿命を考えるとあんまり残された時間もないので、できるうちにやれることはやろうと」
――それで『THE KISS OF LIFE』=起死回生がタイトルになった、と。
BES 「そうです、そうです。『REBUILD(建て直す)』とか『THE KISS OF LIFE(起死回生)』とか、そんなんばっかり(笑)」
ISSUGI 「BES君から話をもらったんですけど、2つ返事でやりますって言いました。BES君のラップは左から右に流れていくようなリリックじゃなくて、常に引っかかるポイントがあって、パンチがある。フロウにも中毒性があって、何より聴いていてとにかく気持ちいいんですよね、音的に」
BES 「あざす(笑)」
――今回のアルバム『VIRIDIAN SHOOT』の計画はいつぐらいからあったんですか。
ISSUGI 「1年半ぐらい前にはありましたね。最初はBES君から“外人のビートをジャックしてストリート・ミックスを作ろうよ”という話がきたんですよ。
M.O.P. や
MOBB DEEP 、BOOT CAMP CLIK〈And So〉なんかのビートをジャックしようと」
BES 「とあるところから出るっていう話だったんですけど、ある程度できあがった段階で持っていったら“流通しかできない”と。それでガビーンとなって……」
ISSUGI 「もう結構作ってあったし、出さないのももったいないなと思って。で、そこから他のビートに差し替えたりしながら、新たに作っていったんですね。でも、アカペラとビートをブレンドしただけだとアルバムとしての強度が弱い気がして、オリジナルのビートを聴いて新たに書いた曲も入れようと思ってやってました。〈247〉〈WE SHINE〉〈BOOM BAP〉〈VIRIDIAN SHOOT〉〈HIGHEST〉っていう5曲が新たに書いた曲です」
――じゃあ、結構変則的な作り方だった、と。
ISSUGI 「そうですね。〈GOINGOUT 4 CASH〉なんかはMOBB DEEP〈Give Up The Goods(Just Step)〉のビートで書いてたんで、“Queens get a money”というMOBB DEEPのリリックを真似して“Tokyo get a money”にしていたり、フロウも合わせたりしてて遊び心があちこちに入っている。分かるやつには分かると思いますね」
――BESさんのラップも『THE KISS OF LIFE』のときよりさらに調子が戻ってきてる感じがしましたね。
ISSUGI 「それは俺も感じました。それこそ『DAY and NITE』の〈How Ya Livin〉に比べたら滑舌も良くなってるし、昔ほど複雑なフロウではないけれど、今は今のフロウがあると思うし」
BES 「今回は録った環境も良かったんですよ。やりやすかった。いつものレコーディングでは(モニターの)ヘッドフォンのヴォリュームをデカくしてたんですけど、音を下げてやってみたら、すごく楽だったんです。なんで今まであんなにデカイ音でやってたんだろう?と思いましたね(笑)」
――「SPECIAL DELIVERY」のBESさんのラップにはやっぱり圧倒されましたよ。ガンガン押していく感じで。
BES 「今回は苦なくサラサラ書けましたね。リハビリ中なんで、ブレスしないで言葉をガンガン詰め込んでいく昔のスタイルとは違うと思うけど」
ISSUGI 「まずBES君は声が超デカイんですよ(笑)。今までレコーディングに立ち会ったラッパーのなかで一番デカイと思う。あと、デカイだけじゃなくて、声に膨らみがある。俺はちょっとハスキーな感じだけど、BES君はちょい声高くて、だけど太い。声が違うから2人の順番でノリを作れるんですよ」
――ISSUGIさんはどちらかというとプロデューサー的立ち位置だった?
ISSUGI 「そうですね。もちろんジョイント・アルバムではあるんだけど、とにかくBES君のいいところを200%出したかった。REFLECTION ETERNALの
TALIB KWELI とHI-TEK、じゃないけど、一歩引いたスタンスで的確にそのラッパーを配置するというか。今回はラッパー兼プロデューサーて感じで。“俺が知ってるBESのヤバさはこれだ”という自信もあったし」
――今回ISSUGIさんはBESさんのどういう“ヤバさ”を引き出したかったんですか。
ISSUGI 「一番はラップの気持ちよさ。フロウの気持ちよさ。そこがないと始まらないっすね。あとはリリックにもヤラれてほしい。ビートに関しては、“こういうビートにBESが乗ったらヤバいはず”というものを集めたんですよ」
――今回はニューヨークのGWOP SULLIVANのビートが9曲で使われていますね。
ISSUGI 「ソロのプロジェクト用に使おうと思って、GWOP SULLIVANのビートは10曲以上持ってたんですよ。でも、俺も俺で常に何かを作ってるんで、どんどんやりたいことが溜まっていっちゃうんですよね。それでさっきのストリート・ミックス作ってる時アカペラだけ残っちゃったなっていうタイミングで“BES & ISSUGIのアルバムにGWOPを全部ブチ込んでみよう”とひらめいて」
――結構大量投下ですよね。
ISSUGI 「大量投下っすね(笑)。即これやったらヒップホップ的に新鮮で良い空気を聴く人に与えれるだろうって気がして、こないだ“16FLIP VS BES”でリミックス・アルバム出したばっかりだったし自分のビートはポイントでいいなと感じてたから、GWOP中心に予想してないような角度からブチ込んだらみんなアガるんじゃないかと思って。そういうことを出来たらなと思ってました」
――BESさんはどうですか、GWOP SULLIVANのビートは。
BES 「格好いいっすね。オーヴァーグラウンド / メジャー とは違うけど、確実にツボを突かれるところはあって。俺もトラップよりはこっち系のほうが好きなんですよ」
――彼のビートって音数がすごく少ないですよね。「BIL pt3」のビートなんてほとんどドラムとベースだけで構成されている。
BES 「あれは格好いいっすよね」
ISSUGI 「こういう感じの音の出し方してくるプロデューサーは、日本にはなかなかいないと思う。感覚で伝えたいけど、聴いたら言ってる感じがすぐわかると思います。GWOPのビートは、オレがBOOM BAPのヒップホップに求めているものが詰まってる感じがしますね」
――では、その“ヒップホップに求めているもの”をあえて言葉にすれば?
ISSUGI 「まずかかった瞬間“ノレる”ってことですね(笑)。基本的にはノレるか、ノレないかだし。一音一音のタイミングもバッチリだし、キック、ベース、スネアの配置のバランスも自分にとっては完璧。だから、すごくシンプル、それでokみたいな」
VIDEO
ISSUGI 「そうですね、俺は今までもGWOPやBUDAMUNK、DJ SCRATCH NICE、GRADIS NICEのビートでやってますけど、BES君はまだやったことがなかったんですよ。だから自分的にその3人のビートに乗ったBESを聴いてみたかったんですよね」
BES 「彼らのビートはやりやすいっすね。乗せやすい。あと、俺が自分でやったら集まらないようなビートばっかりだったんで、自分でも新鮮だった。とにかく、自分のなかではあっという間にできたんですよ。こんなにスムースに作れることはなかなかないと思う」
ISSUGI 「それぞれの作業もあるから制作期間としては途切れ途切れなんですけど、2人で集まった回数としてはすごく少ないんですよ。1日で3曲ぐらいのペースで録ってたし、リリックもあんま書かないでスタジオいってたんすけど、順番にRECしてたらまた曲出来たっすねみたいな感じで。自分としても今までのアルバムのなかで制作期間はかなり短いと思いますね」
――今後のコラボレーションについてはどう考えてます?
ISSUGI 「タイミングが合えばまたやってみたいっすね。すぐにやるんじゃなくて、お互いのことをやりつつ、どこかのタイミングで“BES君、こんなビートあるんすけど”って持っていきたい」
BES 「お願いします(笑)。……今回、やっぱり音楽を作るのは楽しいなと思って」
ISSUGI 「マジ嬉しいっす(笑)」
BES 「今までのアルバムは産みの苦しみがすごくあって、『REBUILD』もすげえ時間がかかった。でも、今回はとにかく楽しかったんですよ」
取材・文 / 大石 始(2018年3月)
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