俺は自分が変わるんだったら今しかないと思ってる――BES『CONVECTION』

BES(Scars / Swanky Swipe)   2018/08/01掲載
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 “ポスト・ハスリング・ラップ”とでも言えるのだろうか。2016年に再始動してからのラッパー、BESの表現はそう形容するのがふさわしいようにも思える。7曲入りの最新作『CONVECTION』を聴くと、その感想はますます強まる。再始動後の約2年間、BESは精力的に作品を発表し続けている。ミックステープにはじまり、『UNTITLED』(2016年)、『THE KISS OF LIFE』(2017年)という2枚のソロ・アルバムを発表、今年に入ってからISSUGIとの共作『VIRIDIAN SHOOT』も出した。その上で客演仕事も行っている。ラッパーとしてハードワークをこなしていると言っていいだろう。

 『CONVECTION』でのBESの発声、リリック、言葉はこれまで以上に率直になり、また一曲一曲を丁寧に構成していることが伝わってくる。I-DeAが全面バックアップを務めるものの、若手のビートメイカーとの共作にも挑戦している。ベテラン・ラッパーは今次のステップに進もうとしている。
――まず、ここ数年のBESさんの、客演も含めたリリース量を考えると、かなり精力的に活動されていますよね。曲数までは調べられていないですが、アピール度で言えば、SCARSが活発に活動して、『CONCRETE GREEN』も頻繁に出ていた頃に匹敵するのかなとも。心境の変化はありますか?
 「このペースで曲を作ったりリリースしたことは今まででやったことないですね。最近はこの作品を作り終えたのでのんびりしてますけど。仕事しよっかなーって(笑)。自分も40をむかえて歳も歳ですし、大事にしたい人もいますし、生活が幸せになるような地盤作りじゃないですけど、そういう方向に向かえばいいなって思います」
――I-DeAが全面バックアップとはいうものの、これまで一緒にやってこなかったビートメイカーたちと共作していますね。
 「新しいことにチャレンジしたかったので、ビートメイカーの名前を伏せて400〜500曲ぐらいのビートを聴いてそこから選んでいきました。これまでやったことのないビートメイカー、ビートでやりたかったんですよ。だから、選んでいる時はこのビートを作ったのか誰なのか、どの世代なのかもわからなかった。〈Rhyme Train〉と〈What's Up〉を作ったhokutoも若い世代なんだってあとで知ったぐらいでしたし、〈デジャヴ〉のLil'Yukichiさんも、NOAHさんも知らなかった。VIKNくんと一緒にやってる〈Push〉を作ったnabeproはVIKNくんに紹介してもらいましたけど。nabeproはまだ20いくつなのに、若い人が作ったとは思えない重厚感のある音を出せるんですよね」
――前作『THE KISS OF LIFE』もそうでしたが、発声、リリック、言葉がこれまでより率直になった印象を受けました。例えば、「ラップが巧いと言われて売れなかった 金が無かった やるしかなかった」(「理由はSWANKY」)と過去を振り返るラインにも後ろ暗さがない、というか。
 「当時、SWANKY SWIPEをやってた頃にラップのスタイルが変わったとかいろいろ言われたんですよ。要は“ぽっと出のプッシャーが何言ってんだよ”みたいなディスもされて。だから、そうなった“理由”とか他にも今言いたいことを言っておこうかなって思ってこの曲を作りました。例えば、“パクられたなら誰もチクらずに”とか、そういうのは基本じゃないですか。それとか、ある方に不幸があった時に、ぜんぜんその人と知り合いじゃないのに“どうしたんですか?”って連絡してくる人とかもいますよね。いちいち人の不幸に触るなよ、と。今はそういう基本がなっていない人もいるんで。だから言っておきたいなって。この曲に対しては賛否両論あると思うんです。俺の中の辛辣さを書いてると思うから。でもその上で〈デジャヴ〉で、“全てのハスラーに栄光あれ”って歌ってはいるんですよ」
――その一方で、「Rhyme Train」には、「遊びのHUSTLING止めとけBITCH 時間があるなら磨けよSKILL」っていうラインがあったりしますよね。おそらく若い人に向けた言葉でもありますよね。
 「月10万も儲からないんだったらラップのスキルを磨いたほうがいいよって。リリックの通りですね。もちろん10万でも助かりますけど、今だったらラップでなんとかできる可能性も広がってるじゃないですか。今はそういう時代ですよね。まあ、でもただの嫌味ですね(笑)」
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――今年に入ってからだと、KANDYTOWNのビートメイカーのMIKIの『137』や、同じくKANDYTOWNのラッパーのKIKUMARUの『711』といったアルバムにも参加してます。そういう、自分よりひと回り近く年下の人たちと共作する経験はどうですか?
 「やっぱり若い人はすごいですよね。勢いがあります。自分たちが彼らと同じ年齢の時にできていなかったことができているなって感じる瞬間もありますよ。KIKUMARUとの曲(L-VOKALも参加した〈MARCH〉)のレコーディングの日は、他のいろんな人もレコーディングしてたんですよ。それを見てて刺激をもらいましたね。あとオシャレっすよね。みんなカッコイイ。俺がSWANKY SWIPEの『Bunks Marmalade』(2006年)を出したのは27、28歳の時でしたからね。それが自分名義の初めてのCDだった。それまではフィーチャリングだけだったから、ラップをやり始めて10年ぐらいでやっと出せた感じでした。やっぱり若い時には若い時にしか出せないものがある。何か欠けている部分があるんですけど、それが味になったりもするし。で、少しずつ歳をとって周りの人を見たりいろんな経験をして変わっていく。俺に関して言えば、今やっと自分に対して客観的になれているのかもしれないです。リリックを考えて書くことが増えましたね。〈デジャヴ〉のリリックで、“絶望 欲望 希望 ペンで描く 盲目の朗読じゃいけないと書く”ってありますけど、そこは今の自分にとってすごく大事なことです。実はこのラインは、T.A.K THE RHYME HEAD(のちにT.A.K THE RHHHYME、RIMA GREENと改名)の〈偽装工作〉の“道徳失った盲目が貪欲に計算する損得”っていうリリックを意識してるんですよ。俺、RHYME HEADさんが好きだったんで。レコードも持ってましたね(〈偽装工作〉は1996年にリリースされたコンピレーション『続・悪名』に収録)」
――少し話は横道にそれるんですけど、リリックの単語に関して気になったのが、「Push」で使われてる警察を意味する“5.O.(ファイヴ・オー)”ってスラングなんです。日本のラップでこのスラングが使われているのにあまり心当たりがなかったので、ハッとしまして。
 「俺らの周りではスケーターが最初に言い出しましたね。普通に使いますよ。それかまあ“P.O.(ポー)”ですよね、ポリス・オフィサー(笑)。でも、渋谷の人はP.O.って言いますけど、池袋の人はあまり使わないですね。5.O.は、これまで俺もラップで使ったことがなかったから使ってみたんじゃないですかね」
――なるほど。話を戻すと、先ほど語られた「リリックを考えて書く」というのは具体的にどういうことでしょうか?
 「リリックはいろんなことに惑わされてわけわからない状態で書くものではないと思ってますね。ちゃんと曇りを払ってからクリーンな状態で書いた方がいいです。自分もまだ暗中模索はしていますけど、そこまでワーッとわけわからない状態では書いていない。客観的に物事を見て書いた方がいなって」
――NORIKIYOSTICKYとの「人生は甘くないから」はいわゆる過去について綴る、ヒップホップで言う“バック・イン・ザ・デイ”ものですよね。『UNTITLED』に収録されている「Back In The Day feat. SEEDA, 5lack」はハスラー時代にどこか後ろ髪引かれる思いがあるように感じるんですけど、「人生は甘くないから」はそういう過去をより客観的にとらえていますよね。
 「そうですね。前よりそういう書き方になっていると思います。だから、今回の作品のリリックには時間がかかりましたね。フィーチャリングとかだとまた違ったりするんですけど、自分の作品でテーマがある曲とかは時間かかりますよね」
――フィーチャリングでは、ワン・ヴァースをキックして殺してやる、と。レゲエ調の「What's Up」の仙人掌はまさにそれをやってますよね。客演ではそこに集中する、みたいな感じですか。
 「ははははは。そうですね」
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――ところで、ラッパーの人によってはリリックの内容が活字になるのを好まない人もいますけど、今回も歌詞がしっかり載ってます。BESさんはそのことに関しては抵抗がないですか?
 「前作の『THE KISS OF LIFE』では時間の関係で付けられなかったんですけど、『Bunks Marmalade』にも『REBUILD』(2008年)にも付けてましたからね。最近の人たちのラップはわかりやすくて聞き取れるし、必要ないかもしれないけど、たまに読まないとわからないことがあるから、俺は付ければいいのになって思いますね。やっぱりリリックがわかった方がいいですよ」
――このEPの最後の7曲目、NOAHがビートを作った「Takeoff」は、月並みな言い方をすると、未来を見据えた曲ですよね。「戻りたくない泥沼のGAMEとJAIL」というラインから始まりますし。
 「だって、めんどくさいんですもん、腹の探り合いとか(笑)。“ホントはいくらなんじゃないか?”とか考えながら人と話したり交渉したりするのはイヤですね。そもそもラップでいつまでも同じことを言っていても意味がないし、俺は自分が変わるんだったら今しかないと思ってるんです。だから、〈Takeoff〉みたいな曲は書けるときに書いておかないと。もう捕まれないですしね。次行ったら、もう周りの人たちから見放されるんだろうなって。余計なことはしたくないんですよね。音楽で行ったほうが俺は合ってると思うんです」
――『THE KISS OF LIFE』収録の「Check Me Out Yo!! Listen!! feat. 仙人掌, SHAKU」では、「ラップ・ビジネス、幸か不幸か性に合う」ってラップされてますよね。
 「それは、やり始めた頃にここまで来れるとは正直思ってなかったんで。いろんな人の力があってここまで来れましたね。幸か不幸か、ハスリングと、このラップで一番お金を稼いできましたから」
――最後になりますけど、今後はどのように?
 「ライヴのオファーも来てるんでライヴはしていきますね。作品を出したあとのライヴは、その作品がみんなに浸透してからの方が良い感じになりますよね。まずは、この新作がみんなに届けばいいなって」
取材・文 / 二木 信(2018年7月)
BES & ISSUGI LIVE SCHEDULE
issugi.tokyo/
2018年8月10日(金)
heavysick ZERO 16th Anniversary
Special Session.1

東京 中野 heavysick ZERO
開場 / 開演 23:00
当日 3,000円 / with flyer 2,500円(税込 / 別途ドリンク代)
※24:00までの入場: 2,000円(税込 / 別途ドリンク代)

[LIVE]
BES & ISSUGI / OMSB & DJ ZAI(SIMILAB) / MUD & MIKI(KANDYTOWN) / Mid-S & Leo Iwamura / RepYourSelf

[BEAT LIVE]
ALTO / Leo Iwamura(Blueworks / meltin'spot)

[DJ]
BOZMORI / DIG-IT / Oh My God / Shoki a.k.a. Yakult Dealer / OG from Militant B / DJ YOSUKE / にっちょめ / 110.jp

[FOOD]
KUSUDAMA




2018年8月17日(金)
THE CITY LIGHTS vol.3

大分 Club FREEDOM
開場 / 開演 22:00
前売 2,500円 / 当日 3,000円 / Girl 1,000円(税込 / 別途ドリンク代)

[RELEASE LIVE]
BES & ISSUGI / WAPPER & YMG

[RELEASE DJ]
BUDAMUNK

[出演]
TAKUSHI / YUKINO / SLOPE / UNDER SOUTH STUDIO / B.S.E.C./ ILLMORE / ROSSY / PES / KIYOHARA




2018年8月18日(土)
Dogear Records Presents
BES&ISSUGI“VIRIDIAN SHOOT” / BUDAMUNK“Movin' Scent”

Double Release Party supported by Carhartt WIP

福岡 STAND-BOP 5F
開場 / 開演 22:00

[RELEASE LIVE]
BES & ISSUGI

[SPECIAL GUEST DJ]
BUDAMUNK

[GUEST DJ]
SHOE / GQ ほか

[GUEST LIVE]
FREEZ

[LIVE]
WAPPER / PEAVIS / REIDAM

[DJ]
RYUHEI(DOWN NORTH CAMP) / MAJESTIC


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