Blan( 成田忍と横川理彦からなるダークウェイヴ・ユニットが待望の1stアルバムを発表

Blan((成田忍 + 横川理彦)   2020/03/11掲載
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成田忍(アーバン・ダンス / 4-D mode1)と横川理彦(4-D mode1 / ex.P-MODEL)。日本の80'sニューウェイヴ / エレクトロ・ポップを牽引してきた二人の新ユニット、Blan((ブラン)が初のフルアルバム『ブルー・アンド・ヴェール』を完成させた。ニューウェイヴと最新のビート・ミュージックが合体した内省的なサウンドは、聴く者の内宇宙 / 想像力をダンスさせる唯一無二のものだ。最近海外で再評価が高い和製ダークウェイヴの最新形であると同時に、人生の経験値を積んだ人たちのためのインナーダンス・ミュージックと言ってもよいだろう。その独自の音楽性を語ってもらった。
――今回の1stアルバム発売を機に名前の表記がBlancからBlan(に変わりましたね。まずはその理由を。
成田忍「天津さん(4-D時代から作品の視覚芸術面全般を手掛けてきたアート・ディレクター)から提案がありまして。“Blanc”でネットを検索するといっぱい出てきますよね。でも“Blan(”だと、これしか出てこないからということで」
――もともとの表記の“Blanc”は、フランス語で“白”という意味がありましたよね。命名したのは横川さんですか?
横川理彦「うん。本当は定冠詞をつけないといけないんで、“Le Blanc”なんだけど。アルバム・タイトルの『ブルー・アンド・ヴェール(Bleu & Vert)』もフランス語表記だから“&”は使わないんですよ。“Bleu et Vert”のはずなんだけど、はなから間違えたまんまというか。もとから和製というか。我々は何をやっているのかということですね。輸入文化の上に立った旧世代ですから。マレーシア生まれで台湾で活動するタレント、Namewee(黄明志)が2020年のオリンピックにあわせてジャパンイングリッシュをテーマにPVを作っていて(「Tokyo Bon 2020」)。来日したNameweeがおばちゃんにいいレストランがないか聞くんだけど、(日本語発音で)「マクドナルド(MakuDonarudo)」って答えられるの。明らかに(発音が)間違ってるから、何を言ってるのか分からないっていう曲。だから“Blanc”や“Bleu & Vert”は(最初から間違えがわかっていながら、あえて間違ったまま使っているという点で)それとは逆なんですよ」
成田「伝わるかなあ(笑)」
横川「それも含めて、真実を伝えるためのジョークというか。かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろうという。これは早川義夫ですけど(笑)。そういう長い歴史の上に我々は立っているわけですね」
Blan(
――そのもそもBlan(を始めたきっかけは?
横川「3年ぐらい前に“二人でライヴどうですか?”という話がイベンターから来て。じゃあプロデューサーとして成田忍の持っている可能性をしっかり伝えたいと。4-Dとのつながりでいうと、コンセプトが違うっていうので、ちゃんと名前を別につけてやろうということですね」
――そこから“成田忍のソロ・アルバムを横川理彦がプロデュースするダンス・ミュージック・ユニット”というBlan(のコンセプトができていったわけですね。
成田「(Blan(をやる前は)ソロをやろうとしていて、今の音楽と自分の接点を模索していたんですけど、横川からいろいろなサジェスチョンがあって方向もだいぶ様変わりしてきた感じで。他に比べるものがないものにはなっていると思うんですけど、それは横川のおかげかなと思いますね。この年になると一般的な音楽シーンのどこに位置するかとかあんまり関係ないというか。作りたいものを純粋に作るっていうことが今はできつつあるかなと」
横川「大きく括ればダンス・ミュージックというかビート・ミュージックの中で作っていきたいというのは、僕がBlan(というユニットにプロデューサーという名前で関わっているところでの一応のスタンスなので。ライヴのMCで僕が“(Blan(は)ダンス・ユニット”と言いまくっているのは、そういうふうになるといいなという僕の願望ですけども」
成田「ダンス・ユニットにはならないね(笑)」
横川「俺は踊ってるけどね(笑)」
――曲のクレジットを見ると、作詞を横川さん、作曲を成田さんがされている曲が多いですね。
横川「そのスタイルに落ち着きつつある感じ。曲が成田で詞が僕っていう。〈Fireworks〉とかうまくいったね。僕がオケ作って成田がメロディ作って戻ってきたものに僕がもう一回歌詞をつけて成田に歌ってもらうっていう。いろいろなケースがあっていいと思うんだけど、作詞を僕がやることになっちゃったのは、僕が歌詞にうるさいからですね(笑)。リードシングルの〈Scary〉とか〈Light〉とか〈Beach〉とか、成田からいい曲ができてくるので、いい歌詞をつけたいなというのはありますね。ヴォーカリストとして歌ってる場面を考えた時にちゃんとそれが成立するような類の歌詞でありたいということですね」
――アルバムは全体的に内省的な曲が多いですよね。ライヴで盛り上がる定番曲となっている「Mayonaka No Parade」も、このアルバムに収録されたリミックス・ヴァージョンではそのトーンが抑えられていて。
横川「それはやっぱり我々が大人だからってことじゃないでしょうかね。今までの二つのヴァージョンを聞き合わせると青春が炸裂してる感じなので、ちょっと違う、抑え目のところでいきたいなと。ドローン・ミュージックとネオクラシカルみたいなところと、ビート・ミュージックの接点みたいな。若者にエールをおくる〈Mayonaka No Parade〉のメッセージが、(今回のようなサウンドに変わることで)その時代を遠く過ぎて落ち着いた大人たちにも届いてほしいというふうには思っています」
――フィジカルな面がそぎ落とされているのは音だけでなく、歌詞にも言えますよね。それはどうしてなのですか?
横川「たとえば花火を見るにしても、今、直接花火を見ているという経験もあれば、花火を見た記憶をどこかの夏に思い出すこともある。静かな日本家屋で日本酒などかたむけながら、“そういう花火も昔あったなあ”と思い出す。何を言ってるんでしょうか(笑)」
成田「いいと思うよ(笑)」
横川「僕はダンス・ミュージックにもそういう効用があると思っていて。しっかりビートの利いたいいサウンドなんだけど、脳内で体を動かしてる。ダンスの気持ちよさみたいなものを反芻するわけですよね。そこにリスニングの楽しみがあるとも思えるし、それぐらい音楽としても成熟していけるといいなと思ってますけど。歌詞は交通ものが多いんですよね。飛行機とか新幹線とか。〈Flight〉〈Landscape〉は旅行している時のいろいろな自然の風景。〈Beach〉も海岸。〈Fireworks〉は水と花火。自然と交通。内省的っていえば内省的かな。その時の直接の事件というよりは、それを受け取っている自分の感情とか。浮かんだり沈んだりしているんですよ。精神的に。海に浮かんだり沈んだり溺れたり(笑)」
成田「だいたい沈んでるよね(笑)」
横川「これは書いちゃマズいんだろうと思うんだけど、死とかね。それは強いですよ。死んでいくことに対するいろいろなテキストまわりをドラキュラにかぶせたり、溺れていくことにかぶせたりしているんだけど。僕が成田に歌詞を書く場合に絶対的な要素は恋愛。恋愛の感情を拡張していけるので、恋愛の中に死も含まれるし、もちろん今の時代なので、LGBTも入ってくるわけです。でもそれも具体的にシチュエーションを描くっていうよりは、その中でどういう感情が動いてるかとか、そういうことのほうが多いかな」
――若い時に気持ちいいビートと、年齢を重ねた時に気持ちいいビートは違ってきますよね。そのあたりのことについてはどう考えていますか?
横川「それは僕はビートの精度があがるんだと思っていて。よりいいリズムになるんだと思うんです。若いあいだは中高域がディストーションでつぶれていると“ギャーッ!”って盛り上がるので、だいぶビートの精度がごまかせるんですよ。たとえばEDMのシンセがビヨ〜ン、ワワワワワってなると若い子たちの快感精度が増幅されるんだけど、年とるとそういうぐあいにはいかない(笑)。感覚的に言うと、低音のかっこよさ、精度は年とったほうがあがりますよ」
成田「上(高音)に頼れないっていうかね。高い音が聞こえなくなってくるから(笑)」
横川「そういう意味ではダンス・ミュージックが進化してヒップホップからトラップになったりして、ビートはものすごい変化をしている。あとね、サウンドが全然厚くなくてもよくなっちゃってる現状はものすごく面白いね」
成田「僕ら、いいリズムってジャストだと思ってたけど、かならずしもそうじゃないというか。むしろどういう風に歪んでるほうが聴いてて気持ちよくなるか、みたいなところはけっこう真剣にやってるかも。あんまり縦が揃ってるものよりは、ちょっとよれてるようなリズムを無意識に作っていて。のっける歌もジャストというよりは、自分のリズムみたいなものを中に入れていくみたいな。自分の好きなものはなんだろうって考えた時にたとえば一つのキーでやってなくて転調するとか、メロディもドレミファソラシドの中に入ってない音が入っていたりとか、“あれ?”と思うようなところが好きなんで、自分が好きだったものを抽出して作っているみたいな感じかな」
横川「プロデューサーとして成田の声の分析をすると、日本のアーティストにしてはめずらしく声につやがあるというか、低いところはちゃんと出ている。だから単純にフォルムだけ比較すると、成田とジェイムス・ブレイクのシルエットは似ているところがある」
――アルバムを作り終えて、Blan(としては今後どの部分を追求していきたいと考えていますか?
成田「この中では〈Scary〉って曲が新しいんですけど、自分らなりのディスコみたいな。全然明るくないんですけど(笑)。これはやってても、しっくりきていますね」
横川「ユニットとしての可能性を見ると、まだ上り坂の途中なんで、ちゃんと作っていきたいなと思いますね。このアルバムはブックレットで天津君の画像を見ながら曲を聴いていくとまとまり感というか、40分の一つの旅を楽しめるんじゃないかなと思っていて。それでいちばん最後のアー写でビックリすると(笑)」
成田「怖いよね(笑)」
横川「冥界から来た、みたいな(笑)」
――日本のシティ・ポップだけでなく、最近は日本のニューウェイヴ、インディ・テクノポップ / エレポップ、環境音楽、ニューエイジ・ミュージックなどのオブスキュアな電子音楽のレコードを海外のマニアが血眼で掘っていて。4-D やSHINOBUのソノシートも今ではビックリするような高値で取引されているんですよ。Shinobuは、ポーランドのmecanicaが監修したジャパニーズ・カルト・ニューウェイヴ / ミニマルシンセ / ダークウェイヴのコンピ『NIHON NO WAVE』に収録されましたよね。そういう形で再評価されていることについてはどう思いますか?
Blan(
横川「問題はもはやそういうのが自分たちではできないっていうことだね。“昔の感じでやってよ”って求められることもときどきあるんですけど、やってもできないんですよ。4-Dが再始動した時に昔の曲をやろうとして作ったオケがまったく昔のものじゃなかったのに、あらためて自分でもあきれましたけど。サンプリングしてやろうとしてもできないんですよね。好まれるだろうチープなニュアンスみたいなのは。ヒューマン・リーグの人たちとかは今やってもあの感じになっちゃうだろうと思うけど。ある意味、完成している」
成田「新しいもの聴かなくなるんですよ。年齢とともにね。やってるほうはさすがに20代とかで止まっちゃうとあれだけど、30〜40代くらいで止まるんだと思う。そっから先は変わらない。自分の知ってる音楽しかできない」
横川「僕らはそういう体質じゃなかったものだから、どんどん変わってしまって、元ができないということになっているのだと思います」
成田「リハーサルで同じ曲を一生懸命何十回もやった経験がないからね。(リハを重ねて体に)染みついた曲とかになっちゃうと出て来るんだろうけど、次のことやってるからすぐ忘れちゃって」
横川「それ知ってる。ニューウェイヴの第1世代は練習しないんですよ。でも第2世代の有頂天とかはめっちゃリハやったの。今のPOLYSICSとかもすごいリハやってると思うけど、その結果揺るぎないライヴ・パフォーマンスができるようになる」
――最後に聞きたいんですが、4-D mode1の復活はありえるのでしょうか?
横川「小暮君はさ、Blan(のゲストで小西(健司)君がシンセをプチプチいわせてる時も、Schneider×Schneider(横川が小西とやっているユニット)のライヴに成田がニコニコして観に来ている時も全部見てるわけじゃない? でもそれぞれの音楽内容は著しく違う。僕は両方やってるものだから、お前は何者だということなんですけど、現状当分3人でやる予定はないですね。仲良しですよ。ただ、4-Dも僕からするとだけど、活動再開して一つちゃんと音楽内容としていいものができるのに3枚かかっている。『in -胤-』っていういいアルバムができて、そこからまた新しいスタイルを模索するというところで活動が止まってるわけです。だからBlan(は(ここまでくるのに)3年がかりだけど、僕からすると、フォームを見つけるのはやりやすかったなっていうか、整理がしやすい感じで。プロデューサー目線で言うと4-Dは3人がいい形でからみあって一つのパフォーマンス形態を得るのにちょっと難しいところにきてたなと思うんだけど、それを解消するにはそれぞれの経験が必要。もう一回集まれる時期があればいいなとは思うんだけど。アーティストの成熟の仕方としていえば、普通バンドはやめてソロでやっていくのが自然な形なのね。経済面は置いといて(笑)。経済面を考えればバンドで再編成なんだけど、実際に共同作業をやることによっていいものができていくための合致点みたいなコンセプトがはっきりあらわれないと、やっていく価値がない。懐メロではやっていけない。それでスタイルが次々に変わるというか、定着しない感じなんですけど」
成田「Blan(はようやく、やっと形ができてきたところですね」
取材・文/小暮秀夫
Information
Blan( レコ発ワンマン・ライヴ〈Blanc et Bleu〉
Front Act:D-DAY
2020年7月15日(水)
東京・高円寺 KOENJI HIGH
開場 19:00 / 19:30
前売 4,500円 / 当日 5,000円(税込 / 別途ドリンク代)
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