“遅れてきたテナー・サックスの逸材”ボブ・キンドレッドに訊く

ボブ・キンドレッド   2007/06/25掲載
はてなブックマークに追加
 ジャズ・テナー・サックス奏者のボブ・キンドレッドは今年67歳になる大ベテラン。前作『ブルー・ムーン』(2005年)で、64歳にして日本デビューを果たした遅咲きのテナーマンに、新作『ボレロとブルースの夜』(写真)の聴きどころを語ってもらった――。



 3年前に『ブルー・ムーン』を発表し、64歳にしてようやく本邦デビューを飾ったボブ・キンドレッド。この“遅れてきたテナー・サックスの逸材”が新作『ボレロとブルースの夜』で取り上げたテーマは、美しい亜熱帯の夜を思わせる濃厚なキューバン・ボレロだ。


 「プロデューサーの原さん(ヴィーナスレコード)と前作で共演したジョン・ディ・マルティーノ(p)との話しの中から、ぜひ僕のテナーで美しいキューバン・ボレロを聴きたいっていう提案があったんだ。僕も“それはやりがいがあるレコーディングだ”って思ったね」

 前作のジョージ・ムラーツ(b)とベン・ライリー(ds)に代え、ベースにボリス・コズロフを、そしてドラムスにはキップ・ハンラハンのユニット“ディープ・ルンバ”でも知られるホラシオ・“エル・ネグロ”・ヘルナンデスを起用した。

 「メンバーは前回同様ジョンのピアノを中心に、このアルバムの雰囲気に適した人を選んだんだ。まずベースには力強くてダークな感じが欲しかったからロシア出身の名手、ボリス・コズロフに頼んだ。そして、ドラムスは現代キューバを代表するイキのいいホラシオ“エル・ネグロ”ヘルナンデスに声をかけた。彼はジャズとキューバン・リズムを融合させた非常にクリエイティヴな人間なんだ。彼のプレイはメロディックなラテンの血が通っていて素晴らしいね」
 強者のサイドメンが奏でるキューバとメキシコのボレロを、キンドレッドのふくよかなテナー・サックスがブルース色に染め上げる。ラテン音楽とブルース、ジャズの幸福な出会いが、夜の香気に満ちたムードたっぷりの作品を生んだ。

 「出来上がったアルバムを聴いてみると、ジャズのブルース・フィーリングとボレロのセクシーなフィーリングが素晴らしいバランスでマッチングしていて大満足だよ」

 ところで今年67歳になる大ベテランのキンドレッドだが、一楽団員としての演奏やインディーズでの地道な活動が長く、そのキャリアはあまり知られていない。彼のバックグラウンドを聞いてみた。

 「僕はアルト・サックスも好きだしクラリネットも演奏する。実はデューク・エリントンの音楽の大ファンなんだよ。だからエリントン・サウンドをテナー1本で再現するような音楽をクリエイトしたいと思っているんだ。たとえて言うなら、僕はバリトン・サックス奏者のハリー・カーネイ(エリントン楽団を支えた名プレイヤー)のテナー版かもしれない」

――影響を受けたプレイヤーをあげるとすると?
 「好きなテナー・サックス奏者はたくさんいる。レスター・ヤングからコールマン・ホーキンススタン・ゲッツベン・ウェブスター……、あげていくときりがない。でも、一番影響を受けたのはなんとテナーではなくアルト・サックスのジョニー・ホッジスフィル・ウッズなんだ。本当に彼らの演奏は感動的だよ」
 深みのある音色とブルージーなフレージング、そしてメロディアスな歌心。なるほどキンドレッドの演奏には、先にあげた偉人たちの精神が脈々と受け継がれている。最後に彼のポリシーをたずねると、これまた古きよき時代を知るベテランならではの答えが返ってきた。

 「僕の目指すスタイルは常にひとつさ。それは、聴く人にいかにいろいろな感動を与えられるか、感動してもらえるかが一番にある。テクニックはそのための物で技巧だけに走るのは禁物だね」


取材協力/ヴィーナスレコード


構成/吉井 孝(2007年6月)
最新 CDJ PUSH
※ 掲載情報に間違い、不足がございますか?
└ 間違い、不足等がございましたら、こちらからお知らせください。
※ 当サイトに掲載している記事や情報はご提供可能です。
└ ニュースやレビュー等の記事、あるいはCD・DVD等のカタログ情報、いずれもご提供可能です。
   詳しくはこちらをご覧ください。
[インタビュー] 人気ピアノYouTuberふたりによる ピアノ女子対談! 朝香智子×kiki ピアノ[インタビュー] ジャック・アントノフ   テイラー・スウィフト、サブリナ・カーペンターらを手がける人気プロデューサーに訊く
[インタビュー] 松井秀太郎  トランペットで歌うニューヨーク録音のアルバムが完成! 2025年にはホール・ツアーも[インタビュー] 90年代愛がとまらない! 平成リバイバルアーティストTnaka×短冊CD専門DJディスク百合おん
[インタビュー] ろう者の両親と、コーダの一人息子— 呉美保監督×吉沢亮のタッグによる “普遍的な家族の物語”[インタビュー] 田中彩子  デビュー10周年を迎え「これまでの私のベスト」な選曲のリサイタルを開催
[インタビュー] 宮本笑里  “ヴァイオリンで愛を奏でる”11年ぶりのベスト・アルバムを発表[インタビュー] YOYOKA    世界が注目する14歳のドラマーが語る、アメリカでの音楽活動と「Layfic Tone®」のヘッドフォン
[インタビュー] 松尾清憲 ソロ・デビュー40周年 めくるめくポップ・ワールド全開の新作[インタビュー] AATA  過去と現在の自分を全肯定してあげたい 10年間の集大成となる自信の一枚が完成
[インタビュー] ソウル&ファンク・ユニットMen Spyder 初のEPを発表[インタビュー] KMC 全曲O.N.Oによるビート THA BLUE HERBプロデュースの新作
https://www.cdjournal.com/main/cdjpush/tamagawa-daifuku/2000000812
https://www.cdjournal.com/main/special/showa_shonen/798/f
e-onkyo musicではじめる ハイカラ ハイレゾ生活
Kaede 深夜のつぶやき
弊社サイトでは、CD、DVD、楽曲ダウンロード、グッズの販売は行っておりません。
JASRAC許諾番号:9009376005Y31015