研ぎ澄まされた4人のアンサンブル――ライヴ・ベスト・アルバム『echoes』をリリースしたbohemianvoodoo

bohemianvoodoo   2017/06/27掲載
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 ドラマティックかつポップな旋律、ジャズ、ラテン、ファンクなどのテイストを自在に融合させたアンサンブルによって幅広い層のリスナーから支持を得ているインストゥルメンタル・バンド、bohemianvoodooが新作『echoes』をリリースした。前作『Aromatic』以来、約2年半ぶりとなる本作は、2015年以降のライヴ音源を収めたCD、2017年2月に開催された東京・品川Club eXでのワンマン・ライヴを収録したDVDによる2枚組。初期の名曲「Chill Out」、代表曲「Adria Blue」、新曲「石の教会」などを含む本作は、より研ぎ澄まされた4人のアンサンブルを体感できると同時に、バンドのキャリアを網羅したベスト盤として楽しむこともできそうだ。
 今回は木村イオリ(p,key)、Nassy(b)にインタビュー。本作『echoes』の制作を軸にしながら、9周年を迎えたbohemianvoodooの現状などについても聞いた。
――新作『echoes』は、2015年以降のライヴ音源を厳選したCD、2017年2月に行なわれた品川Club eXでの公演を収めたDVDの2枚組。ライヴをテーマにした作品を制作したのは、どうしてなんですか?
『echoes』
Nassy「数年前からライヴを収録した作品を作りたいと思ってたんです」
木村「最初にライヴ音源を録ったのは東京キネマ倶楽部(2015年10月)なんですけど、それ以降、ライヴのたびに6〜7曲くらい録っていて。全部で50〜60曲くらいあったんじゃないかな」
Nassy「そのなかから“これは”と思うテイクを収録したということですね」
木村「(選曲は)7、8割くらいは共通していたんですよ。あとはメンバーそれぞれの思いや意見をすり合わせて決めました。おおまかな流れはNassyが決めてくれたんです。CDの曲順はClub eXの音源、キネマ倶楽部の音源、club asiaの音源(2016年8月)という順番なんですが、全体を通して1本のライヴのように構成されています」
Nassy「そうですね。ライヴごとにサウンドやお客さんの雰囲気はぜんぜん違うんですけど、なるべく自然に聞こえるようにしたくて。テクニカルなことはほとんど話題にしてないんですけどね」
――演奏の精度よりもテンションを重視?
木村「あとは4人のグルーヴ感ですね。同じ曲でもライヴによってグルーヴはぜんぜん違うので、メンバーが“いい感じだな”と思えるものを選ぶようにして」
――“録音している”と思うと正確に演奏したいという意識が働くのでは?
Nassy「あまり意識しなかったかな(笑)。Club eXのときは映像を撮っていたから、さすがにちょっと意識してましたけど」
木村「まったく同じですね。Club eXはいままでの集大成的なライヴだったので」
Nassy「結成9周年の記念ライヴで、いままでの棚卸的なところもありましたからね。10周年に向けて、一度区切りをつけておきたいという気持ちもあって」
――『echoes』には初期の名曲「Chill Out」や代表曲「Adria Blue」、新曲の「石の教会」など、これまのキャリアを網羅する楽曲が収録されていて、ベスト・アルバム的な役割も果たしそうですね。
Nassy「うん、ホントにベスト盤だと思いますよ」
木村「とくに〈Adria Blue〉は、これまででいちばん多くの人に聴いてもらった曲ですからね。バンドの代名詞みたいな曲だと思います。ライヴでは細かいフレーズが違っていたり、あえて逸脱して遊んでるようなところもあって。アルバムとはかなり雰囲気が違うので、聴き比べてみてほしいです。ドラムの(山本)拓矢なんて、毎回のように機材を変えてきますから(笑)」
Nassy「そうだね(笑)」
――でも、楽曲の軸となるメロディはしっかり再現されていますね。
木村「そうですね。ほかのインスト・バンドと比べても、自分たちはそこまでアレンジを変えないほうかもしれないです。Club eXのときは、あえてアレンジを変えて臨んだ曲もありましたけど」
Nassy「イオリくんがイントロのアイディアを持ってきたり、メンバーそれぞれが意見を出し合ったり」
木村「変えないほうがいいところもあると思いますが、どの楽曲もまだまだ可能性がありますからね」
Nassy「バンド結成当初の曲なんて、いまは別の曲みたいになってますから(笑)。単純に演奏がうまくなってるし、表現の幅も広がってきて。頭で考えてることに対して、手が追い付いてきたというか……。とくにDVDに入っている〈Jet Setter〉という曲は、このライヴのときにようやく当時やろうとしていたイメージを実現できた感じもありますね」
木村「音源に入っているテイクはリズムのアレンジを変えているんです。もともとやろうとしていたことができなかったから」
Nassy「この曲、最近はウッド・ベースで演奏しているんですけど、結成当初はエレキ・ベースしか弾いてなかったんです。でも“4ビートのスウィング感を出すためにはウッド・ベースのほうがいいね”ということになって、弾き始めて。最初は借り物のベースだったんですけどね(笑)」
木村「Nassyがウッド・ベースを弾き始めたのは、2009年4月のライヴからですね」
Nassy「よく覚えてるな(笑)。いろんな圧力があって始めたんですけど――ファンの方から“ウッド・ベースもやったほうがいい”と言われたこともあるので――おかげですごく幅が広がりましたね。ウッド・ベースは(エレキ・ベースに比べて)バンドのなかの役割、弾き方が全然違うので」
木村「ウッド・ベースの〈Jet Setter〉が収録されるのも今回が初めてだよね」
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――ほかのメンバーのみなさんも当然、プレイヤーとしてのトライは続けてますよね。
木村「そうですね。僕も途中からオルガンやシンセサイザーを使い始めたり。新しい音色から楽曲のアイディアを思いついたり。“この曲を演奏するためには新しい音色が必要”ということもあるんですが、たしかに幅は広がってますね」
――音楽自体の幅も活動を重ねるごとに広がっていますよね。もともとジャズだけには括られないバンドだと思うのですが、音楽的なコンセプトも少しずつ変化しているんでしょうか?
Nassy「どうだろう? ジャズという言葉はここ数年、自分たちからは言ってないんですけどね」
木村「うん。CDショップでの売り場的にはジャズに入ることもあるだろうけど。僕自身はフュージョンだと思ってます」
Nassy「ジャンルでいうとそれしかないかなと。まあ僕以外のメンバーはしっかりジャズも通ってますけどね」
木村「メンバー全員、いろんな音楽を聴きますし、それを自分たちなりに解釈してアウトプットするというか。作曲者として載ってるのは僕とかbashiry(g)になるんですけど、メンバー全員で作っている感じなんです。Nassyしか聴いてない音楽もあるし、そういう要素も曲のなかに入ってくるので」
Nassy「そうかも。最近、高校生の頃に聴いてたファンクやソウルを聴き直して、“やっぱりいいな”って思ったりするんですよ」
木村「そのあたりの音楽はまちがいなくNassyが持ち込んでますね。僕はファンクやソウルをほとんど聴いてないですから。bashiryはちょっと聴くのかな?」
Nassy「たぶん」
――bashiryさんもいろいろな音楽の要素を含んだギタリストですよね。ジャズも入ってるし、ラテンの雰囲気もあるし。
Nassy「それはね、僕らもよくわからないんですよ。僕は15〜6年くらい一緒に演奏していますけど、いまだにあいつのギターが何なのかわからないから(笑)」
――(笑)。でも、まちがいなくバンドの顔ですよね。
Nassy「そうなんです。イオリくんが端正なピアノを弾いて、bashiryがよくわからないギターを弾いて。その掛け合いが、このバンドの楽しみのひとつだと思います」
木村「おもしろいんですよね、そこは。ギターとピアノって、そこまで相性がいい楽器ではないはずなんだけど、それがバンドの個性になっていて」
Nassy「ギターとキーボードがユニゾンするところなんて、一緒に演奏していて“いいな”と思います。フレーズを合わせるのは大変そうですけどね。“その音が違う”って細かく打ち合わせしてたり」
木村「それはあるね(笑)。ホーン・セクションを入れていた時期も、なぜかメインのメロディはギターか鍵盤だったんですよ。そこまで深く考えていたわけではないですけど、それがバンドの特徴になっているんだと思います」
――しかもここ数年は外部のミュージシャンをほとんど入れず、ほぼ4人だけで演奏していますよね。前作『Aromatic』にはゲスト・ヴォーカリストが参加していましたが、演奏は4人だけだったし。
木村「たしかにそうですね。今回のアルバムに関しては、完全に4人だけで演奏しているので。このバンドに限らず“音楽は足し算ではない”という考え方なんですよ、僕は。とくに今は、メンバー4人のバランスがすごくいいですから」
Nassy「そうだね。まあ、ほかのことがやりたくなったらやると思いますけどね」
木村「次のアルバムはストリングスが入っているかもしれないし。そのときはfox capture planにアレンジを発注しよう(笑)」
――(笑)。fox capture planをはじめ、ここ数年インスト・バンド同士の交流が盛んになっている印象もあります。
木村「そうですね。今年4月に新木場のStudio coastでインスト・バンドだけのフェス(〈Sing Your Song!!〉)もあったし、バンド同士の交流とともに、インスト音楽が好きな人が増えている実感もあって。まだ知らないだけで、こういう音楽が好きな人は潜在的にいると思うんですよね、国内、海外を問わず」
Nassy「若い世代にもインスト・バンドに興味を持って、“自分でやりたい”と思う人がけっこういて。そうやってシーンが広がってくれたらいいなと思いますね」
――bohemianvoodooは来年10周年。次はオリジナル・アルバムを期待してしまいます。
Nassy「そうなりますよね(笑)」
木村「もともとノンビリしてるバンドですから(笑)。まだ収録していない新曲もあるので、これから考えていきたいと思います。10周年についてもまだ何も決めてないんですよ」
Nassy「これからですね、それも」
木村「ここまで活動を続けられたのは支えてくれた人たちのおかげだし、(10周年に)何もしないことはないと思うので。これから話し合って少しずつ進めていきたいですね」
取材・文/森 朋之(2017年5月)
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