――新作『プレイズ・ジミ・ヘンドリックス』は、ベーシストによるジミ・ヘンドリックス・トリビュートということで、なかなか大胆な企画ですよね。
ブライアン・ブロンバーグ(以下、同)「このアルバムを作ることにしたのは、アメリカでレコード会社を経営しているジョン・ダイアモンドと、新作のエクゼクティヴ・プロデューサーでもあるキングレコードの森川氏という、お互いにまったくつながりのない二人の業界人から、まったく同じ企画を持ちかけられたのがきっかけだったんだ。たしかに僕は昔からジミ・ヘンドリックスのファンだったし、彼へのトリビュート作品を考えたことは今までに何度もあった。でも、真の意味で初めて人種の壁を越えて世界中に影響を与えた偉大なアーティストであるジミのトリビュートなんて、ギタリストでもおいそれとは手を出さないのに、ベーシストの僕にやれるわけがないだろうと思っていた。にもかかわらず、関係のない人たちから同じことを勧められたということは、これは真面目に考えるべきなんじゃないかと思ったんだ」
――2004年の『ベース・アクワーズ』同様、ドラムス以外のすべてのパートをベースで演奏することにしたのはなぜですか。 「正直なところ時間や予算の都合もあったけれど、僕はそれが最も挑戦しがいのある、最も得るところの大きな方法だと思ったんだ。ひとりでスタジオにこもって作業したおかげで、ジミの音楽に込められた精神と1対1の、とても親密な対話ができた。これは何ものにも代えがたい、貴重な体験だったよ。有名なギタリストをたくさんゲストに迎えれば、よりよいアルバムになったかもしれないし、商業的にもより大きな成功が見込めたかもしれないけれど、このアルバムでやりたいことがふたつあった。ひとつは、自分がジミの音楽に対して感じた親密な気持ちを表現することで、もうひとつは、自分が持っているいろいろなベースをいろいろな方法で駆使すること。このふたつに挑戦することで、ベーシストである僕が尊敬するアーティストの音楽を解釈して演奏することに意味が出てくると思ったんだ。完成した作品を自分で聴いてみて、その試みは上手くいったと思っているし、演奏もひとりの人間が多重録音しましたっていう感じじゃなく、メンバーの心がひとつになったバンドのような雰囲気が出ていると自負しているよ」
――曲のアレンジや使用楽器はどんなふうに考えたのですか。
「頭の中で曲を鳴らして、曲の流れを思い描きながら、どんなサウンドがふさわしいか考えた。曲の性格がアレンジを特定する場合もあるけれど、僕としては今も言ったように、できるかぎりクリエイティヴな方法でいろいろなベースのサウンドを活かすように努力したんだ。ジミがギターで弾いていたフレーズは絶対に真似しないようにしてね。そもそも彼の音楽は、インストゥルメンタルという形で取り上げるのがものすごく難しい。なぜかと言うと、彼の音楽は楽曲自体よりもむしろ、彼自身が演奏することに意味があるからなんだ。しかも、ジミの歌はメロディのある“歌”というよりも、むしろ“語り”に近くて、彼は物語を“語って”伝えていたようなところがある。だから、実際の作業を始めてみて、いやあ参った、こんなに難しいなんて……って思うこともあったけれど、とにかく自分じゃなきゃ作れないようなアルバムにするために努力したよ」
――その努力は日本のリスナーにもきっと伝わると思います。
「ありがとう。日本のファンは音楽を深い部分まで聴いて、その音楽を作っている人のことも深く知ろうとしてくれるところが素晴らしいと思う。単に好き嫌いだけで判断するんじゃなくてね。だから、このアルバムを聴いても、僕の意図するところをきっと理解してくれると信じている。もちろん、パーティ気分で聴いても盛り上がれるアルバムだから、より幅広い音楽ファンに聴いてもらいたいな」
取材・文/坂本 信(2010年6月)