音楽は、生き方そのもの BUPPON『enDroll』

BUPPON   2019/03/20掲載
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 UMB広島予選を2008年、2012年と2度制覇しながら、2011年の1stアルバム『蓄積タイムラグ』と2017年の2nd『LIFE』をはじめとする自身の作品をリリース。さらにtha BOSSIN THE NAME OF HIPHOP』やKOJOEhere』、illmoreivy』といった話題作への参加で山口から強烈な存在を放ってきたラッパーのBUPPON。無骨さと繊細さを兼ね備えたワードセンスでぐっと対象に迫っていくローカル・シーン生え抜きのリリシストである彼がエグゼクティヴ・プロデューサーにKOJOE、ビートメイカーにillmoreを迎えた新作アルバム『enDroll』を完成させた。叩き上げのタフネスにしなやかさと洗練をまとい、大きな進化を遂げた彼はローカル・シーンを拠点に長い音楽の旅を続けながら果たしてどこへ向かうのだろうか。
――前作『LIFE』から約2年ぶりの新作『enDroll』についてお話をうかがう前に、まず、BUPPONさんが拠点としている山口のローカル・シーンについて教えてください。
 「山口にはヒップホップ好きがみんな集まるような場所がないんですね。山口県の県庁所在地である山口市もクラブが出来たりなくなったりを繰り返していて、いまはクラブがなかったりするし、それ以外の周南市や僕が住んでいる防府市、下関や広島側の岩国だったり、そういった街それぞれに小さなコミュニティが点々と存在している感じ。ヒップホップのレギュラー・パーティもあるにはあるんですけど、規模は小さいですし、自分が続けているイベントもある時期から趣旨が変わってきて。最初は自分が山口をレップして、一地方のローカル・ラッパーとしてアガっていくために、イベントもその一つの戦略として考えて運営していたんですけど、結構早い段階でそういう戦略をイベントに持ち込むのは止めて、会いたいラッパーやDJを呼んで、地元でヒップホップに興味がある子が集まれる楽しいイベントをやろうと肩肘張らずにいまも続けていますね」
――そんな山口の街で、日々生活しながら音楽とどう付き合っていくのか。
 「住んでいる場所であり、日々生活している場所が山口であることは変わらないんですけど、2011年に1st『蓄積タイムラグ』をリリースして以来、音楽にまつわる環境は作品ごとに変化していて。例えば、今回のアルバムは山口から東京にあるKOJOEくんのスタジオに通って録音していたんですけど、その1年ちょっとの間はその行き来を軸に、ライヴのオファーがあれば、各地に出かけていくという生活だったんですよ」
――今回のアルバム『enDroll』は、KOJOEくんという強力なエグゼクティヴ・プロデューサーとillmoreという若手ビートメイカーがバックアップした作品になりましたよね。どういったいきさつで、この作品に着手することになったんですか?
 「KOJOEくんとは3年くらい前に知り合って、その後もちょいちょいやり取りする仲だったんですけど、KOJOEくんは僕の音楽を聴いて何か思うところがあったのか、ある時、“BUPPONが自分でやってるレーベルから作品を出すことにこだわってるのか?”って訊かれて。もちろん、自分のレーベルなのでこだわりは持っているんですけど、“いままで他のレーベルから誘いがなかったから自分のところからリリースしてきただけです”って答えたら、KOJOEくんのアルバム『here』をリリースしたP-VINEの担当者さんが同じ山口県出身で、僕のことを気にかけてくれていたこともあって、“なんかのタイミングで東京に来て、一回話してみたら?”って。それで顔合わせの場を設けてもらって、P-VINEからのリリースが決まり、そんな話の流れのなかで、KOJOEくんがプロデュースすることやその時点で3曲ぶんのビートをもらっていたillmoreに全曲のビートをお願いすること、YUKSTA-ILLRITTONAGAN SERVERといった付き合いの深いラッパーをフィーチャーすることが決まっていったんです」
――いまの時代、ラップは自宅で録れたりもすると思うんですけど、アルバム制作のために山口から東京に通うことになった経緯は?
 「全てを自分で監修して、リリース・ツアーも組んだ前作『LIFE』で自分のセルフ・プロデュース能力に限界が見えて。出来ることはやったつもりだったし、セールス的にその前の作品は超えたんですけど、思ったほど広がらなかったので、早く出さなきゃいけないことは分かっていたんですけど、次の作品はどうすればいいのか考えあぐねていて。だからこそ、KOJOEくんの申し出にも乗れたということもありましたし、いままでも作品を作る環境はその都度違って、2009年に最初に出した12inchシングル〈SYNCHRONICITY〉と2011年の『蓄積タイムラグ』は自宅で自分の弟と一緒に録りましたし、2013年のEP『明後日』は友達との繋がりから大阪、前作『LIFE』は福岡で録ってみたり。山口には満足にレコーディング出来る環境がなく、場所を変えながら制作してきたので、今回はKOJOEくんのスタジオがある東京篇かなって。ヒップホップの世界では、誰かにアルバムのプロデュースを任せるのは一般的なことではないと思うんですけど、KOJOEくんは尊敬している人だし、あの人も僕のことをよく分かってくれているので、試しにやってみようという感じで今回のレコーディングはスタートしました」
――いままでとは異なる制作体制のもと、どのように制作を進めていったんですか?
 「自分とKOJOEくん、illmoreの3人がチームになって、まず、僕がビートを選び、そして、KOJOEくんもビートを選んで。例えば、僕が5曲選んだとしたら、KOJOEくんが“この曲とこの曲は似てるから、どちらか1曲でいい”とか、“やったことないだろうから、こういうビートはどう?”とか、そういうやり取りをしながら、僕とKOJOEくんが半々くらいでビートを選んだのかな。ラップに関しては、経験を重ねていけば、それなりに形にはなるので、自分の場合、極端に言えば、リリックの内容にしかこだわりがなかったんですね。ただ、あまりに内容に重きを置きすぎてきたので、KOJOEくんは僕にないアプローチの幅やハメ方、見せ方を提案してくれて。今回のアルバムでは制作を進めながら、自分に無理ない範囲でそれを実践して身につけていきましたね」
――そして、ビートメイカーのillmoreですが、自身のアルバム『ivy』でも披露していた彼のビートは洗練されていて聴きやすく、メロディックな作風が特徴ですが、このアルバムではもっと深みがあって重厚なビートを提供しています。
 「彼のアルバム『ivy』は世間が求めるillmoreを形にした作品ですよね。彼との繋がりは僕の方からコンタクトを取ったのが最初で、向こうも僕のことを知ってくれていたんですけど、ビートをお願いしたら、“BUPPONさんのことを想像してトラックを作りました”って送ってきたくれたのが、『ivy』とは違うハードでドープなアンダーグラウンドなビートだったんですよ。だから、彼が所属しているレーベル、Chilly Sourceのエモい作風には収まりきらない側面があるんだなと思って、ビートに関して、こちらからオーダーすることはなくて、KOJOEくんが“とにかくお前がいま一番ヤバいと思ってるビートだけ集めて送ってくれ”とだけ言ってましたね」
――そして、前作以上にサウンドとラップのアプローチの幅を広げつつ、リリックも現場で映える攻撃的なものから内面をディープに掘り下げたエモーショナルなものまで、感情の起伏に富んだものになっています。
 「僕はライヴをする時にハードなサイドからエモーショナルなサイドまで、振り幅がかなりあって、かつてはそのどちらかに振り切った方がいいとアドバイスされたこともあるんですけど、自分は喜怒哀楽が全て備わった、その人そのものであるような音楽をやりたいんですよね。そして、そのライヴにおいて、ハードなサイドからエモーショナルなサイドへの橋渡しになるのが2014年に配信でリリースした〈白状〉という曲で。現場ではテレビドラマ『聖者の行進』のサウンドトラックを下敷きにラップしているんですけど、そのライヴを見たKOJOEくんから“あの曲は今回のアルバムに入れたほうがいい”と言われたんですよ」
――相当にヘヴィな家庭環境にまつわる曲ですもんね。
 「だから、リリックはそのままに、ビートを新しくして、〈独唱〉というタイトルでアルバムに収録したんです。今回のリリックに関しては、山口で作って、東京に持っていったものと東京のスタジオで一から作ったものがあって。例えば、KOJOEくんをフィーチャーした〈is ur love〉なんかは、自分の父親との話なんですけど、2人でお互いの家の話をしていたら、“お前の親父の話は結構ヤバいから、それを曲にしたらダメなの?”って言われて、KOJOEくんにあれこれ聞かれて、それをメモを取って、そのメモを元に作った曲なんですよね」
――では、リリックに関してもKOJOEくんからディレクションが入った、と。
 「そうですね。回りくどいからここは変えた方がいいとか、訂正や修正を加えた箇所もあったりしますね」
――そして、「Time 2 Quit」もそうですし、今回の作品は死であったり、何かの終わりを意識させる言葉が散りばめられているように感じました。
 「そうかもしれないですね。自分は1曲1曲トピックを変えて書いているので、作品全体のテーマとして死や終わりを意識して書いているつもりはないんですけど、何かを捉えて感じたものを出来るだけそのままの純度が高い言葉に変換したいんですね。だから、時にはすごい難しい表現になることもありますし、ずばっとそのままシンプルに歌っていることもあって、それはビートへのハメ方と描きたい情景の兼ね合いから一番合う言葉をチョイスした結果でしかなくて。ただ、いまからアルバムを出そうとしている人間が“引き際”を意味する〈Time 2 Quit〉を歌っちゃってるのもね(笑)」
――そういえば、今回、フィーチャーしているYUKSTA-ILLのアルバム『NEO TOKAI ON THE LINE』にもラッパーの引き際を歌った「CLOSED DEAL」という曲がありましたよね。
 「そうですね。YUKくんもそうだと思うんですけど、この歳まで音楽をやってきたからこそ歌えることというか、〈Time 2 Quit〉に関しては、この気持ちが理解出来る人に聴いて欲しいというか。自分も音楽を続けていく難しさを感じながら色んなことを考えるんですけど、周りを見回してみても“えっ、あいつが?”って思うやつが辞めちゃったり、見かけなくなったり、気づけば、周りから“さん”付けでしか呼ばれなくなっちゃったな、とか。まぁ、でも、そう感じるのが自分にとってリアルな部分なので、そういう歌があってもいいんじゃないかなって」
――そういう困難な状況下にあっても、いまだにBUPPONくんを音楽に駆り立てるものって何だと思いますか。
 「音楽を通じて色んな人に出会えることがまずあります。自分のことを人に話す時って、その人との距離感や濃度にとって伝わり方が変わってくると思うんですけど、自分の作品には全てを詰め込んでいるので、それを聴いてもらえば、多くを語らなくても分かってもらえるというか、話が早いんですよね。それから僕は見たものを表現出来るからヒップホップをやっているのか。ヒップホップをやっているから見たものを言葉で拾っているのか。たまにどっちか分からなくなる時があるんですけど、それがどうであれ、その過程は苦しかったとしても、単純に見たものを形に出来る作業というのは充実感があるし、ヒップホップで食えてる食えてないに関係なく、そういう作業が日常になってしまっているので、生き方そのものなんでしょうね」
(ここでプロデューサーのKOJOE登場)
KOJOE 「(笑)どうも。BUPPONはちゃんとインタビューに答えてますか?」
 「なんですか、その急な威圧感は(笑)」
――はははは。日本ではプロデューサーを立てたラッパーのアルバムは珍しいと思うんですけど、KOJOEくんがBUPPONくんをプロデュースして作品を出したかったのはどういう理由だったんですか。
KOJOE 「このド田舎の彷徨える子羊をどうにか……というのは冗談で(笑)、単純な話、俺は彼の音楽が好きなんですよ。もっと売れなきゃ絶対におかしいと思っているし、ラッパーの哲学として、"別に売れなくても俺はやりたいことをやっているから、それが正しい"という思いもよく分かるけど、それによって埋もれてしまう格好いいラッパーたちを沢山見てきて、それがすげえもったいないなって。もちろん、音楽は音楽だけど、これはビジネスでもあって、男ならやっぱり勝ちたいじゃないですか。そこで数字が付いているもの全てが偉いとは思わないですよ。その人それぞれで価値観は違うから、例えば、売れ線のダサいことをやってもそれで金を稼いで成り上がって、“俺は勝ってる”と心の底から思えば、それは勝ちだろうし。でも、BUPPONはそうじゃなく、自分の納得がいく本当に格好いいと思えるものを世に出さなかったら、いくら稼いでも一生幸せにはなれない人種なんですよね。俺はそういうやつに勝って欲しいし、売れて欲しいんですよね」
 「俺としてはKOJOEくんとの制作がホント楽しかったんですよ。長く音楽をやってきて、音楽がこんな楽しいものなんだという、今回のレコーディングはそういう貴重な体験でもありましたね」
KOJOE 「お前、俺のことが好きなんだろ?」
 「それはこっちのセリフですよ(笑)」
取材・文 / 小野田 雄(2019年2月)
Event Schedule
Gerardparman presents
BULLSEYE


2019年4月6日(土)
福岡県北九州市小倉 O Three+
前売 2,500円 / 当日 3,000円(税込 / 別途ドリンク代)

SPECIAL GUEST: BUPPON / illmore / MAD JAG / BNKR街道
RELEASE LIVE: ベゲfastman人
FRESH LIVE: 4レンジャイ(智大 + JABU + 舞待 + Gerardparman)
twitter.com/gerardparman92

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