昨年はデビュー20周年。そのアニバーサリー・イヤーを経て、年末のツアーではキューンレコードへの移籍を発表。その第一弾となるシングル
「オルタナ・ガールフレンド」が完成した。しっとりとノスタルジックなおもむきのあった前作「うたかた」から一転、静から動へ転じるような意外なアプローチに彼女の音楽活動が新章に突入したことも伝わる。歌詞にもある“スウィート革命家”よろしくパンキッシュに弾ける
CHARAを支える、NAOTO(
ORANGE RANGE)のギターとKenKen(
RIZE)のベースも絶妙なコンビネーションの一曲だ。
――昨年は周年イヤーでしたが、その一年を経て、レコード会社移籍第1弾のシングルが「オルタナ・ガールフレンド」ということで。
「<オルタナ・ガールフレンド>っていうタイトルは、前から、カタカナのこの言葉が可愛いなと思って使いたかったの。ミディアムとかスローも得意だけど、私はいろんな音楽に影響を受けたし、今回のジャケットのデザイン(Chara自身がたくさんのフェイスマスクをまとっている)からもわかるように、私の中にもいろんな多面性があるじゃないですか。愛する人から影響を受けたものも含めて、ミクスチャーだし、全部自分の中に持って来ちゃうっていうね」
――今作では、その多面性を見せたかった?
「うん。前のアルバム
『うたかた』は、どこにも属さない私というか、一人で制作したデモテープのようなサウンドで、はかなく消えゆく恋みたいな感じのものを作ったじゃないですか。そういう悲し気なものは、周りになんて言われようが出す必要があって。それを作って、平らになったところで、<Very Special>っていうツアーで、スタッフも含めて、たくさんの愛をもらって、その地面がすごく良く耕されている感じだったのね。そんな風に地面がフワフワしているときに“恋と革命”って思ったんですよね」
――“恋と革命”?
「うん。私が歌にするときは愛とか恋とかそれしかないし、生涯ガーリーでいたいってことでもあるし。最近よく感じることなんだけど、今、ミュージシャンが生きにくい時代じゃないですか。私は、ミュージシャンがメジャーデビューして、ある日突然売れてっていう時代もよく知ってる。もっと上の先輩はそういう時代をもっと知ってる。今も、すごくいいミュージシャンってたくさんいるけど、そういういいミュージシャンが売れることが少なくなっちゃった気がしてて。自分を信じてやり続けることって、どんな仕事でも大変なんだけど、それをちゃんとやりたい。特に、今の日本、311以降って、鏡の国のアリスの反対の世界みたいに感じていて。半主流だったとしても、まずは身近なところから革命を起こしたいなって」
――歌詞に“スウィート革命家”とか“ゲリラ”とか出て来るのは、そんなメッセージがこめられていたんですね。サウンドは?
「私のデモ・テープにもいろんなタイプがあるんですけど、この曲は、アカペラでレコーダーに入ってたのね。それを制作の担当の人が聴いて、“これ、なんか気になる”って言ったんですよ。 “よし! じゃ、アレンジしちゃお!”と、聴かせたら気に入ってくれて。最初、4曲くらい聴かせたのかな。私にとってはテンポが速い曲なんですね。でも、スタッフも変わることだし、ちょっと違うのをやりたくなるじゃない? この曲、打ち込みを外すと実は80’sのパンクロックなんですよ。だけど途中からファンクみたいな感じになる」
――ベースを担当したKenKen(Rize)の影響ですか?
「そうだね……これはKenKenに弾いてもらうには可愛すぎるかなと思ったけど、彼は意外とファンクとか好きだから、うまく融合できないかなと思って。若手の中では彼は飛びぬけた感覚を持っているから一緒にやっててラク。クリックどうのこうのではなく、“感じて”っていうところが上手いから。そういう意味で信頼している」
――ギターはORANGE RANGEのNAOTOくんですよね。
「NAOTOくんのイメージってORANGE RANGEだけど、彼って意外とイギリスのロックとか好きなんですよね。人もマイルドだし、レコーディングでもいろいろ頼みやすい(笑)。KenKenもそうだけど、NAOTOくんってORANGE RANGEじゃないイメージもたくさんあるから、そういうのをお互いが引き出しあうっていいですよね。今も新曲をたくさん作っているけど、これからもっといろいろできたらいいなぁ」
――その序章がこの「オルタナ・ガールフレンド」ってことですよね。ここからのプランって、もう頭の中にはあるんですか?
「次の作品はまだ図しかないけど、やっぱり、繋がってますよね。前は線だったんです。パラレル・パーフェクト。交わらない平行線っていうのをやりたくて。それが今度はウィーンって○と○になって、その重なったところが今回の感じなんだよね。次元がちょっと変わるっていう感じがある。8月1日にも『プラネット』っていうシングルがリリースされるけど、さっき話していた、○と○の図形をタイトルにしたかったの。言葉じゃなく。“それじゃダメですか?”って聞いたら、“ダメです”っていうことになって(笑)。トラックダウンの日にムムムっと書き出したら“プラネット”って響きが出てきたの。実は“プラ”の付く言葉っていっぱいあるんだよね。プラトニックとかプラスとかプライドとか。そのプラネットって言ったときの響きが良かった。惑星って意味だったりもして孤独な感じもするでしょ」
――今作のカップリングには「大切をきずくもの」のライヴ・バージョンが収録されているんですね。
「うん。これは、今年の2月にいつものライヴ・メンバーの編成じゃなくて、
鳥山雄司さんっていうギタリストの先輩と、ウッドベース、バンドネオンっていう編成で、上野の東京文化会館っていうクラシックのホールでやったライヴのときのもので。この曲も結構好きで、息子が産まれた時に不安になって、遺書として書いたんですよ。私はそうやって、自分の思いを曲にして、生きて繋いでってるんですよね。“きずくもの”には、 “築き上げて行く”っていう意味と、“気付く”っていうのもあって、意味として両方大事だからひらがなにしたんですよ」
――このシングルからまたCharaさんの革命がはじまるわけですよね。楽しみです。
「うん。今の日本には必要だよね。“救世主、誰?”って。未来のために、今の大人がそれぞれの責任を持って、それぞれの仕事で。私は音楽だから。他の人のことがやらないようなことをやるのがアーティストだからさ。“なんだこんな大人もいるのか!”っていうことをやりたいですよね」
取材・文/大橋美貴子(2012年5月)