前作
『生命力』の大ヒットを受けて行なわれた日本武道館公演2daysも見事、成功に収め、その後、リリースした3枚のシングルも、ことごとくスマッシュ・ヒットを記録するなど、いまや日本を代表するロック・バンドの座に登りつめた感のある
チャットモンチー。そんな彼女たちが遂に1年4ヵ月ぶりとなる3rdアルバム
『告白』を発表! 今回の特集では、アルバムのロング・インタビュー、盟(迷)友・
浜野謙太(
SAKEROCK)との対談、著名アーティストのコメントからなる3部構成で、彼女たちの多面的な魅力を紹介したいと思います。
「今はカラフルに、いろんな曲線を描いて
バンドを楽しみたいと思うんです」(福岡)
――『告白』というタイトルが印象的ですが、アルバムを作るときにテーマは決まっているのでしょうか。
橋本 「今回は“大人っぽい”というざっくりとしたテーマがあって、歌詞もそういう目線で選びました。私たち、いつも幼く見られがちだけど、実年齢は25、6歳なので。これまでの印象を変えて、現在の自分たちに近いアルバムを作りたかったんです」
福岡 「大人っぽくしようと意識したというより、自然とそうなってる部分も多かったので、これが素だということでしょうね」
――お互いの歌詞について話し合うことはあるんですか?
高橋 「ないんですよね〜。そこはお互い、ぜんぜん聞かないし、聞かれない。あんまり詞に感情移入しすぎるのもよくないと思うんです。だからこそ音に出せるというか、作詞者以外の2人が歌詞に対してあくまで客観的であることが大切なんだと思います」
福岡 「全員が寄り添ってしまうと同じ線を3人でなぞって、ただの太い線になっちゃう。太い線の説得力もおもしろいと思うけど、今はもっとカラフルに、いろんな曲線を描いてバンドを楽しみたいと思うんです」
――じゃあ「この画を描くのにその色!?」っていう意外な展開もアリですか?
3人 「アリです!」
――今回のアルバムで、これは予想外の仕上がりになったなあと思う曲は?
高橋 「<ハイビスカスは冬に咲く>ですね。自分のなかではしっとりしたイメージがあったけど、えっちゃん(橋本)がつけてきたのはテンポのクルクル変わる速い曲だったからビックリしました。シュールな歌詞だから明るくて楽しい曲になるなんて予想外だったけど、見方を変えると曲の雰囲気もガラッと変わるからおもしろいんですよね」
――この曲はパーカッションの音色が賑やかですね。
高橋 「コンガの音を入れるのが念願だったんで、よし、この曲でやっと入れられるぞ! と思って楽しんで作りました。沖縄で作った曲なので、沖縄のムードも出てるんじゃないかな」
――沖縄にはレコーディング合宿で行かれたんですか?
高橋 「ライヴで行ったんですけど、その後スタジオにも入って。環境が変わると書く曲も変わるし、メロディもアレンジも変わってくるから、できあがってくる曲が幸せですよね」
福岡 「<長い目で見てよ>も沖縄で開放的になって、普段言わんようなことを言ってやろうと思って書いた曲。“長い目で見てよ”っていうのは私だけの気持ちだと思ってたんだけど、2人が“みんなで言っちゃえばいいじゃん!”って言ってくれたから、初めて3人で歌ってみました」
――沖縄の影響大ですね。
高橋 「まさに新境地でした。2日くらいオフをもらって、みんなで海に行ったりして」
橋本 「ちょうど海開きのシーズンで。でも4月だから海に入ると寒くて」
福岡 「でも泳いでるうちに慣れるんよな」
高橋 「そうそう、海に飛び込んだりして、すごい楽しかった。こんな状況だったら絶対、いい曲書けますよね(笑)」
――じゃあ今度は、雪の降りしきる中で生まれた曲も聴いてみたい気がしますけど(笑)。
福岡 「それは寒すぎて書く気なくなるかも……(笑)」
高橋 「でも部屋の中はあったかいから〈石狩鍋〉って曲ができるかも」
橋本 「それ、いいなあ」
高橋 「ほんと環境の影響は大きいですね。徳島にいたときと上京してからの歌詞も違うし、置かれてる状況や見えてくるものが違えば歌も変わる」
「聴いた人がきっと“YES”と言ってくれる告白になったと
思います」(橋本)
――制作環境としては今回、いしわたり淳治さんのほかに、
亀田誠治さんもプロデューサーとして初参加されていますが。
橋本 「淳治さんはデビュー前からずっと一緒だから、いつもメンバー目線で、チャットモンチーの一員になってくれる。でも亀田さんはチャットモンチーができあがってから出会った人だから、先生のような立場で見守ってくれる感じでした。私たちのやりたいことを、やりたいようにやっていいんだと教えてくれた。だから亀田さんと制作することで、セルフ・プロデュースも学べたと思う」
高橋 「亀田さんはすごくバンドの個性を伸ばしてくれる方。亀田さんがプロデュースしてる他のバンドの曲を聴いても、そう思います」
――そしてセルフ・プロデュースも2曲あり、とくに「あいまいな感情」はダウン・テンポのアンニュイな曲で、ちょっと意外なアレンジだなと思いました。
高橋 「もともと私たちは、言葉では説明できないあいまいな気持ちを歌った曲もすごく好きで、この曲は徳島にいるとき、よくライヴで演奏していたんです。今回アルバムに入れるにあたって、ずっとみんなで愛してきた曲だから、セルフ・プロデュースでやろうって決めたんです」
――自分たちでやることに意味がある曲だったと。
高橋 「バラードの<染まるよ>でシングルを切ったときから、素の部分をどんどん出していけるようになったと思うんです」
――「LOVE is SOUP」の脱力感とか、今までにない雰囲気ですもんね。
橋本 「この曲はアルバムの“箸休め”的存在にしようっていうのがテーマにあって。でも、気を抜いて作ると他の曲に引けを取っちゃうから、気合を入れてないように見せかけて、めっちゃ気合が入ってる(笑)。最後は阿波踊りのビートを鍋とかフライパンとかで叩くっていう淳治さんのアドバイスを取り入れてみたり、料理を作ってるように鼻歌っぽく歌ってみたりしました」
――ラヴ・ソングの定義がどんどん広がってますよね。「Last Love Letter」もラブレターなのに“わたしに傷つけられてはいませんか?”というフレーズにドキッとします。
福岡 「私が今書けるラブレターはこれしかないなと思って。私が一番ラブレターを出したいのは、今好きな人じゃなくて、今まで関わってきた人。だから今までの人たちに“最後の”という意味を込めた“Last”なんです」
――それはふっきりたい想いがあったとか?
福岡 「ううん、その逆で、すごく感謝してるから。たとえば今好きな人がいたり、その人を幸せにしたいっていう気持ちがあるのも、今まで関わってくれた人たちがいたからで、その人たちにほんまに愛をもって感謝できるようになったのが最近のことなんです。それをラブレターにしたいなって思った」
――そういうところに“大人”感が出てるのかもしれないですね。
高橋 「確かに私たちは部活が続いていく感じでバンドを楽しんできたし、それがずっと続くと思ってた。でも、やっぱり大人になっていく感覚もある。もう今は、ただ楽しいだけっていうときじゃないんですよね。今までは自分が30歳になることなんて全く考えもしなかったけど、今年27歳になると思うと“あ、これ、もしかしたらホントに30歳になるんかも”って思うんです(笑)」
――なるんですよ、本当に(笑)! でも、だからこそ、30歳への道のりをチャットモンチーがどう奏でるのか、楽しみですけど。
高橋 「そうですよね〜。ああでも、これ以上迫り来たらえらいことになるな」
福岡 「もっとコドモっぽく見られたいとか思って、逆行したり(笑)」
高橋 「歌詞にめっちゃ“教室”が出まくるみたいな(笑)」
――“下駄箱にラブレター”とか(笑)。では最後に、この『告白』がチャットモンチーにとってどんな告白になったのか、お聞かせください。
高橋 「言いたいことが言えました!」
橋本 「私は、これを聴いた人がきっと“YES”と言ってくれる告白になったと思います」
福岡 「そうですね。これは本当に3人がちゃんと告白できたアルバム。私たちは音楽に対して絶対にウソをついてこなかったから、絶対断られないだろうっていう自信があります」
――強気な告白! そういう気持ちで告白したいものです。
高橋 「そうですよ。告白っていうのは、いつでも潔いものです」
取材・文/廿楽玲子(2009年2月)
撮影/相澤心也