シンガー・ソングライターのchayが11月13日に、前作『chayTEA』から約2年5ヵ月ぶりのアルバム『Lavender』をリリース。Crystal Kayとコラボした「あなたの知らない私たち」や「大切な色彩(いろ)」などのシングル曲、配信曲「ずっと きっと 叶う」などを含む全14曲を収録した本作。『chayTEA』から3歳年齢を重ねたchayの、心の成長や変化が楽曲として昇華された作品になっている。
――『Lavender』は、chayさんが心で思っていること、伝えたいことが詰まったアルバムということですが、chayさんの中では、どういうアルバムになりましたか?
「今作は、前作の『chayTEA』から約2年5ヵ月ぶりのアルバムになるのですが、今作を視野に入れて制作を始めたのが2年くらい前なので、かなり時間をかけながら作った1枚になります。これまでと同様に今回もバラエティに富んでいますが、楽曲を並べた時に、一つだけ共通点を見つけました。それは、20代後半に差し掛かる女性特有の漠然とした焦りや迷い、不安といった気持ちがテーマになっている曲が多いことです。実際に27〜29歳までの月日を経て書いてきた楽曲たちで、そうしようと思って書いていたわけじゃなかったのですが、自分が今そういう気持ちなんだということを、アルバムを通して気づくことができました」
――それを、どうして『Lavender』というタイトルに?
「このアルバムを自分らしい言葉で言い表せないかと模索していく中で、ラベンダーの花言葉に辿り着きました。“期待、疑い、繊細、沈黙、優美、許し合う愛”という振り幅の広いものでしたが、これがまさに今の自分の気持ちとリンクしたので、『Lavender』と付けました」
――そういう言葉は、ネットで調べたりするのですか?
「ファッション雑誌からヒントを得ることも多くて、たとえば1stアルバム『ハートクチュール』は、ファッション用語のオートクチュール(仕立て服)という言葉を私がモデルを務めている雑誌『CanCam』で見た時に、可愛い言葉だと思いもじって付けたんです。『Lavender』も、今ファッション業界では流行りのカラーでよく見かける言葉なので、そこからインスピレーションを受けたということもあると思います」
――音楽的には、前作はレトロ・ポップや歌謡曲からインスパイアを受けていましたが、今作は80年代のポップスのような印象がありました。
「私自身も両親からの影響で80年代の洋楽がとても好きで、幼いころからMTVやミュージック・ビデオ集を見て育ったんです。だからそういう要素は入っていると思います」
――とくに好きだったアーティストはいましたか?
「シンディ・ローパーが大好きで、10月にBunkamuraオーチャードホールで開催された来日公演も見に行きました。80'sのアーティストは、とにかくカラフルで、ポップで自由なんです。そういう世界観が好きで、当時は英語の意味まではわからなかったけど、とにかく楽しそうで自由に歌っている姿に魅了されました。歌手を目指すきっかけになったのもシンディ・ローパーの〈ガールズ・ジャスト・ワナ・ハブ・ファン〉のMVを見たことで、“なんて楽しそうに歌っているんだろう!”と思ったことを覚えています」
――今回のアルバムも、歌詞は切なかったり少しネガティヴ要素のあるものもあるけど、それでも音はポップだったり明るく歌っていて。chayさんが楽しそうに歌っている姿が想像されました。
「そこが“chayらしさ”と言うか。人間なのでネガティヴになることはあるけれど、基本的には私の曲を聴いて元気になってもらいたいとか、明るい気持ちで前向きになってほしいという思いで書いています」
――今作では、プロデューサーとして武部聡志さんを起用しています。前作の多保孝一さんから武部さんになって、どんな変化がありましたか?
「武部さんは音楽界の人間国宝のような方で、ピアニストでありながらすべての楽器に精通しています。だからディレクションや、楽器プレーヤーの方へのアドバイスがすべて的確で、判断がとにかく早いんです。生音にすごくこだわる方で、〈小さな手〉には12本もストリングスを入れてくださっています。ほとんどの曲を生バンドでレコーディングしてくださって、その時は私もスタジオに入って、一緒に仮歌を歌ったんです。そういう良質なポップスが生み出される現場に立ち会えたことは幸せなことだと思いました」
――武部さんとは、どんなやりとりを?
「その都度“どう思う?”“どういうアレンジにしたい?”と、聞いてくださって、すごく私の気持ちに寄り添ってくださいました。歌い手側のこだわりや気持ちをわかってくださるので、とてもやりやすかったです」
――歌入れではどんなディレクションが?
「私は音程の高いところを歌う時にマイクを離してしまう癖があって、そこは“直した方がいい”とアドバイスをいただきました。今回とくに変わったのは、マイクに口が付いてしまうくらいの近くで歌ったことです。言葉がより伝わる歌になったり、バラードなら耳元で囁いているように聴こえる感じになりました」
――1曲目の「伝えたいこと」はchayさんが作詞・作曲。少し淡々としたギターで始まりますが、サビではすごく広がりますね。
「この曲のアレンジは、私と同い年のYaffleさんにお願いしました。今流行りの洋楽のテイストをすごくわかっている方で、この曲はそういう曲にしたいイメージがあったので、お願いをしました」
――chayさんが伝えたいことは、最終的にはやはり“愛”ですか?
「この曲はラブソングとして捉えてもらってもいいですし、聴いてくださる方の家族や友だち、恋人、ペットなどに置き換えていただいてもらっても嬉しいです。大切な相手との時間は当たり前にあるものだと思っていたけど、いつそういう時間がなくなってしまうかもわからない。伝えられる時に気持ちを伝えておかないと届かないんだということを言いたくて作った曲です。と言うのも、私の大切なスタッフの方が急に亡くなってしまったことがあって、それがこの曲を作るきっかけになりました。自分の中で言えずに後悔したことを考えて、感謝やいろいろな気持ちがあったんですけど、総じて愛をもう少し伝えられたら良かったな、と」
――いろいろな愛を歌っているアルバムでもありますね。「砂漠の花」では、“愛とは許すこと”と歌っています。
「前作までは、“ときめき”や“運命の恋”など、“乙女心”や“恋”のワードが多かったんです。でも今回のアルバムには、“恋”というワードが出てこなくて、むしろ愛が多いなと出来上がってから気づきました(笑)。〈砂漠の花〉の中で“ときめくだけならばそれは恋、愛とは許すこと”と歌っていて、こういうフレーズが歌えるのも、恋から愛を歌うことに切り替わった、今の時期だからこそ歌えたものだなと思います」
――年齢を重ねると、恋よりも愛を感じる機会が多くなる。
「大切な人への無償の愛や、見返りを求めないものだったり。包み込んであげたいとか、広い意味での愛に変わった気がします」
――そういう意味で「小さな手」は、子どもを包み込む母親のような愛が歌われていますが、chayさんがそういう気持ちを歌うのが意外で。……まさか、お子さんが(笑)?
「いないですよ(笑)。でも、29歳になったんですけど、まわりの同級生の友だちはお母さんになった人が増えてきました。友だちの子どもに対する様子を見て、私もいずれこうなるのかな? と未来を想像したりしているうちに、私自身にもこういう気持ちが生まれました。これも今の時期ならではの気持ちかなと思います。まさかこういう気持ちが私の中に芽生えるとは、前作の頃には考えもしませんでした」
――楽曲としても、シンプルでとても広いイメージですね。
「最初に多保孝一さんが作ってくださったメロディがあって、それがとても壮大なものだったので、作詞家のjamさんの力を借りながら、大きなものにしたいと思いました」
――親から子へ思いが繋がって行くことを感じる曲です。chayさんが親から受け継ぎ、将来自分の子へと受け渡したいものは何ですか?
「そうだな……それこそ親から子へは無償の愛で、見返りを求めないもの。そういう真っ直ぐな愛はもちろんだし。今になって、そういう愛が、注がれていたんだと気づけますね。10代や20代前半の頃は自分のことばかりで、中学生の時は反抗期で親に叱られた経験もありますけど、それも愛が根底にあってのことだったんだなと今はありがたく思えます」
――「HIKARI」は、星を一人ひとりにたとえて歌っています。
「星って、人間の目で見えるものだけで2千億個あるらしいです。それもいろんな輝き方があって、大きな輝きもあれば小さな輝きもあって、強い光もあれば弱い光もあって、一つたりともまったく同じ輝きはない。人もみんな違うけど、それぞれの良さがあるんだということが言いたくて書きました。肩の力を抜いて気持ちを楽にして、進んでいってほしいなと思って」
――今作は「伝えたいこと」「HIKARI」「小さな手」など、メッセージ性を持った曲が多いアルバムですね。
「たしかにそうですね。今までは実体験を元にしたラブソングが多かったんですけど、出来上がってみたら本当にメッセージ性が強い曲が多いなと思いました。きっとこの2年で、伝えたいことがたくさん溜まっていたのだと思います」
――これも今の年齢だからこそなんでしょうか。
「たまに同世代の友だちとひさしぶりに集まってお話をした時に、やっぱりみんなちょっと過渡期と言うか。女性にとって、立ち止まって考え直す時期だと思うんです。お仕事のことでも、このままでいいのか、転職しようかとか辞めようかとか。結婚や出産のこともそうで、みんな一度立ち止まって悩んでいて、それを間近で見てきました。私自身は職業柄いろんな世代の方とお仕事をしているので、もしかしたら人よりそういう気持ちが少ないかもしれないと思っていたけど、いざアルバムを作ってみたら、私自身も一度立ち止まって考え直しているような歌詞がすごく多くなった印象です。時期は違うとしても、男性も女性もみんな必ず感じうる気持ちなのかなと思います。今の時代だからこそ、悩んでいる方にぜひ聴いていただきたいと思うアルバムになりました」
――それこそ「ずっと きっと 叶う」は、歌詞に19の自分とか25の自分と、年齢が出てきますね。
「十代は何も怖いものはなくて、夢に向かってがむしゃらに突き進んでいて。羞恥心もなく、人にバカにされそうなほど大きな夢でも平気で抱けていたし、そこに根拠のない自信もあった。どんどん年齢を重ねるごとに現実を知っていって、ちっぽけな自分になっていっていることを感じました。そこにもどかしさがあって、あの頃の無敵だった自分をもう一度思い出して、自分を奮い立たせて頑張ろうと思った時に作ったのが〈ずっと きっと 叶う〉です」
――29歳になった今は?
「今は一周回って、大きな夢を抱くことに対してもう怖さはないし、堂々と自信を持って言えます」
――大人になって、昔の夢を再び追い求めてもいい。このアルバムは、ある意味で応援歌でもあるし、人間は一人じゃないということも歌ってくれていますね。
「それはみんなに言っていると同時に、私自身にも言っていることです。私のファンの方は、同世代の女性が多くて。それこそ一緒に成長してきている気がしていて。デビューして出会った頃は大学生で、一緒に年齢を重ねてお母さんになって、お子さんと一緒にライヴに来てくれるようになった方も多いです。私も一緒に成長して、曲と一緒に歩んで行けたらいいなといつも思っています」
【衣装】
ツィードワンピース/31 Sons de mode
リブニット/LAGUNAMOON
ピアス/phoebe
バングル/kate spade new York
パンプス/スタイリスト私物
【衣装 問い合わせ先】
31 Sons de mode(ヒロタ)[Tel]03-6450-3522
ラグナムーン[Tel]03-5447-6535
Phoebe(フィービー プラス)[Tel]03-3477-4458
ケイト・スペード カスタマーサービス[Tel]050-5578-9152
取材・文/榑林史章
撮影/品田裕美