「もう一回やるんだったら、美しい思い出を汚さないように」――日本のポップ・マエストロたちによる伝説のバンド、シネマ登場!

シネマ(Japan)   2007/12/11掲載
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 松尾清憲鈴木さえ子、一色進、小滝みつる、錦織幸也による、ウルトラ・ポップ・ロック・バンド、シネマがまさかの再結成を果たし、『MOTION PICTURE』(81年)以来、26年ぶりとなるオリジナル・フル・アルバム『CINEMA RETURNS』を12月5日に発表した。たった3枚のシングルと1枚のLPを残し、“伝説”として語り継がれた彼らに話を訊いた――。


 日本屈指のポップ・クリエイター集団であったにもかかわらず、シネマというのはリアル・タイムでは正当な評価を得る機会が少ないまま、活動を終えた不遇のバンドである。しかし、今振り返ってみるとそれは仕方のないことだったのかもしれない。ギミック重視の傾向にあった80年代ニューウェイヴ・シーンにおいて、彼らが鈴木慶一のプロデュースのもとに作り出したのは、90年代の渋谷系以降のポップ感覚を完全に先取りしたモダンな総天然色ポップだったのだから。

 「デフ・スクールとかセイラーとか、アートスクール系のバンドがみんな好きで、そういうのをやりたいみたいなのがあったんですよね」(松尾清憲)
 「偶然出会ったメンバーなのにね。そういう共通項があった」(一色進)
 「でも、今考えると日本にはあんまりなかったんですよね。ムーンライダーズがすでにそういうことをやってたけど、新しいバンドではね」(松尾)


 ニューウェイヴのさらに先を見据えたそのサウンドは一部のポップ愛好家から好評価を得たものの、アルバム『MOTION PICTURE』と3枚のシングルを残してシネマは81年に解散。ところが皮肉なことに、アルバムのCD化に伴って90年代以降は若い世代も取り込んで再評価の声が高まっていくこととなる。そして、2006年5月に新宿ロフトで行われたムーンライダーズの30周年記念イベントにおいて、夢の再結成ライヴが実現したのである。

 「ロフトでライヴをやるにあたって、ワンマンでやるよりゲストがいたほうがいい。で、ロフトで一番出演回数が多かった頃って、ニューウェイヴ時代なんだよ。そこでアッという間に思いついたのが、シネマとポータブル・ロック。で、さっそく連絡した」(鈴木慶一)
 「ちょうどその頃、小滝と道でバッタリ会ったり、あと(鈴木)左衛子さんと一色君に、僕のライヴにゲストで出てもらってシネマの曲をいくつか演奏したりとかしてたんですね。そうしたら、慶一さんからのメールですよ」(松尾)
 「そういう運命的なことがたくさん重なって、自然に」(鈴木左衛子/注:本人によると“ひらがな表記の平凡な感じが今まで気になっていたので、本当の表記を今回カミングアウトしてみました”とのこと)
 「でもその時は、新しくアルバムを作るとは思ってなくて、その後2枚組の復刻盤(『ゴールデン・ベスト』)を作ったあたりから、ひょっとしたら……って」(松尾)

 その手ごたえは、順調にアルバム制作へと発展。かくして、レコード会社もプロデューサーもディレクターも26年前と同じ(!)という前代未聞の新作『CINEMA RETURNS』が完成する運びとなったのである。



 「今回もシネマっていうイメージをすごい大事にしました。それしかない」(小滝みつる)
 「すでに全員力をつけてたんで、今回は全然違いますね。みんなそれぞれ一人でできますから。曲作りもアレンジも演奏も録音も」(松尾)
 「私とか器用貧乏だから(笑)、全部を総合的に見てなんでもやるタイプなんですけど、このバンドはそういう人が揃っていたんだっていうのが、今回結果的に表われてるなって思いましたね」(鈴木左衛子)

 メンバー全員が楽曲を提供しているのに加えて、今回は鈴木左衛子もヴォーカルを披露。制作面ではサーバーを使って曲のアイディアのやりとりをするなど、結果的には作品の舞台をさらに大きく広げたものとなった。

 「CINEMAをもう一回やるんだったら、自分の美しい思い出を汚さないように、みたいな思いはずっとあったんですよ。手が抜けないっていうか。前の方が良かったってのは絶対言われたくないもんね。今回そういうものを作れたという手ごたえはあります。足ごたえも、歯ごたえも(笑)」(一色)
 「26年前に体験したワン・アンド・オンリー感っていうのが、今回また別の形で経験できましたね」(錦織幸也)


 一段とスケール・アップしたワン・アンド・オンリー感。しかし、映画と音楽への深い愛情(特に“ポップなもの”に対する純粋な愛情)は変わることがない。そんな5人のポップ・マエストロが総監督の鈴木慶一と作り上げた一大ポップ巨編『CINEMA RETURNS』。聴けば必ずや、興奮と感動必至のスペクタクル・銀幕ポップが心のスクリーンに映し出されるはずである。

 「シネマは1枚目を出す時、場所がない感じがあったんだけど、今作ってもひじょうに特殊なものだったね。これはJ-POPと呼ばれるものの中に何十年もなかったものなんじゃないかな。ぜひイギリス人に聴かせたいね。イギリスにも今やこんなにブリティッシュ的なものはないから」(鈴木慶一)


取材・文/小暮秀夫(2007年11月)



シネマ『CINEMA RETURNS』発売記念ライヴ
2007年12月28日(金)
Shibuya DUO -Music Exchange http://www.duomusicexchange.com
開場 18:00 開演 19:00
出演:
CINEMA RETURNS(松尾清憲/鈴木左衛子/一色進/小滝みつる/錦織幸也)
前売 ¥5,500(税込) 当日 ¥5,800(税込)※1drink別 *未就学児童不可
※詳細/お問い合わせはキョードー東京(03-3498-9999)
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