ベティ・ライトに提供した「Clean Up Woman」(1971年)は大ヒットしたが、自身のヒット曲はほとんどない。下ネタ替え歌&ラップのオルター・エゴ、ブロウフライのほうが知られているくらい。しかしながら、そのちょっぴり哀愁漂うキャリアと、聴くほどに味が沁み出る名曲群は、地味さと裏表の可憐な魅力に満ちている。
そんなクラレンスがTK系のレーベルに残した7インチをみっちり詰め込んだ、画期的なコンピCD『MASTERPIECE - CLARENCE REID 45S COLLECTION FROM T.K. 1969-1980(COMPILED BY DAISUKE KURODA)』がリリースされた。選曲と監修はTKにも詳しいDJの黒田大介。同日に『“SOUNDS FUNKY!” - JAMES BROWN 45S COLLECTION FROM T.K.』も同時リリースされる。
the Shark「40年か、35年ぐらい前ですかね。シングルを集めはじめたわけです。TKものは“安いから”と理由で買ってたら、だんだんと増えてくるんですけど、すごくいいとは思わないんです。でも、悪いとも思わない。そうして集めてるうちに、何年かかけてジワジワと“じつはものすごくいいんじゃね?”と思えてきて、見つけたら買うようになりました。
the Shark「スラングが混ぜこぜに出てくるから、わかるのは“ワレメ!”とか“クイコミ!”程度ですよ(笑)。なんだこれは、と思いました。のちに同じ人だってわかるんだけど、このCDを聴くとおわかりになる通り、クラレンス・リード名義の曲は大半が本当にまじめなんです。こんな真摯なソウルを作る人とスケベな漫談をやる人が同一人物とは思えなかったんですよね」
the Shark「先ほどもお話ししたように、いきなりドスン、ではなかったですね。ジワジワとくる感じ。あと、集めてるうちに“なんだかいっぱい出してるぞ”ってことになるんです。LPじゃなくて7インチ。まだウェブがなかったんで、手当たり次第に買ってるうちに、だんだんと彼が首尾一貫していいを曲作ってるってことが見えてきまして」
――アルバムにはない7インチならではの味なんですね。
the Shark「LPは4枚出してるんですけれども、時流に合わせて1枚ごとにうっすらとしたコンセプトがあるんですよ。たとえば3枚目の、横顔のやつ(1973年の『Running Water』)はニュー・ソウルっぽかったり、アトコで最初に出した『Dancin' With Nobody But You Babe』(1969年)はソウル・パーティ向きなノリがあったりね。LPはLPでそれぞれの個性があって、ひとつの作品って感じなんです。で、シングルを見ていくと、スローもあるし、このCDのタイトルにもなった〈Masterpiece〉なんか、ファンクも入れつつサビの部分はきれいに作ってたりとか。これは普通じゃないぞ、と思いはじめました」
――インターネットがなかったころは何で情報収集していましたか?
the Shark「足です。ディスクユニオン回ったり。今も同じですけど(笑)。僕が始めたころはTKは人気なかったんで、格別に安かったんです」
黒田「個人輸入はしてなかったんですか?」
the Shark「してたしてた。でも、手間や送料はかけたくないんです、TKのレコードには(笑)。そこらへんに落ちてたんですよ、昔は。そのころこの手を集めてた人は、日本に2人しかいなかった。僕とPenguin Joeこと永井博画伯。それはあとから知ったんですけどね」
黒田「永井さん、TK大好きですもんね」
the Shark「そもそもマイアミものは海外で買った記憶があんまりないんですよ。ほかの人がまとめて買って“これ、いらない”って手離しちゃった盤が多かったんじゃないですかね。魅力がすぐダイレクトに来るようなものじゃないから」
黒田「思います。ボクは入口がファンクで、ソウルから入ったthe Sharkさんとは違うんですよ。〈Nobody But You Babe〉とかはレア・グルーヴのクラシックなんで、そこからクラレンス・リードを知って……もちろんブロウフライも。ディープ・ファンクってムーヴメントがあったじゃないですか。そのころローカルファンクの7インチを集めてたら、ドライヴとかアルストンのものもちょこちょこ入ってきて、モノとして興味を惹かれたんです。レーベルは緑か紫か赤で、スリーヴもかわいいし、“なんで穴が開いてんだろう?”とか。TKはだいたい開いてるんですよね」
黒田「TKって面白いんですよ。ローカル・レーベルなんだけど、けっこう大きな会社で、変なものからストレートなものまで出してて。12インチなんてとくにピンとこないのが多くて(笑)。TKディスコのコンピ(『the SOUND OF T.K.DISCO 12" Choice for Boogie Generation』)を作ったときにほぼ全部聴きましたけど、コンピに使えないような曲が多いなか、たまに宝石がある。知れば知るほど魅力的に感じるレーベルなんですけど、なかでもクラレンス・リードは自分にとってはリトル・ビーヴァーと双璧ですね、ソングライターとして」
――たしかにいい曲を作っていますよね。まとめて聴いてあらためて思いました。
黒田「はい。ボクも今回びっくりしました」
the Shark「並べるとかなり説得力あると思います。アルバムは先ほど言ったようにうっすらコンセプトがありますけど、7インチだとそういうのを取っ払って、10年間の一貫した流れを実感できますよね」
the Shark「J.P.ロビンソンはまだ軽いほうで、まずウィリー・ジョンソン。そしてジョン・ルートマン・ヘンリーやウィリー&アンソニー、パーク・バジャー(ミスター・パーコレーター)などがいます。ただ、そういうものほど売れてないんだろうね、むしろ。だから、本当の意味でのマイアミ・ソウルっていうのは、クラレンス・リードとかリトル・ビーヴァーになるんじゃないでしょうかね」
黒田「たしかに。ベティ・ライトもそうですよね」
――今回のコンピレーション、1500円で2枚組、45曲も聴けるんですよね。
the Shark「クラレンス・リードの7インチをこれだけ集めたコンピは世界初と言っていいと思いますね」
the Shark「ソウルフルさと、うっすらとしたファンキーさですかね。南部としてはインパクトが強くないゆるやかな味はマイアミならではなんだけど、それでいてやっぱりアメリカ南部の音楽であることも感じさせてくれるところかなと思います。あと、クラレンスの場合はちょっと哀愁を帯びたメロディがときどき出てくるんで、あれがなかなかどうして心に残るといいますか」
黒田「リトル・ビーヴァーとはまた違った哀愁ですよね。ちょっと控えめで」
――わかります。めちゃくちゃ歌がうまいわけでもないと思うんですが、得がたい味がありますよね。
the Shark「激しく歌うわけでもなし。だから昔からのソウル・ファンからの注目度が低いんですけどね。盲点だったから集めたところもあります」
黒田「クラレンスってバックは固定されてたんでしたっけ。てか、まぁスタジオのメンツですよね」
the Shark「ヘタすりゃKC(ハリー・ウェイン・ケイシー)も入ってたかもしれない。チョコレートクレイ(ベーシストのジョージ“チョコレート”ペリーとギタリスト、クレイ・クーパー)でやってたかもしれないし。モータウンと一緒で、パーソナルは謎のままですね」
the Shark「最初にまじめって言いましたけど、案外そうでもなかったのかなって話もあるんですよ。一時期クラレンスのガールフレンドだったと言われてるヴァネッサ・ケンドリックっていう歌手が、イギリス人の取材に“もうあんな人とは二度とやりたくない”と言ってたと。というのも、レコーディングの最中にずっとセクハラされてたらしいんです。ブロウフライな面もちゃんとあった人だったようですね(笑)」
黒田大介選曲・監修コンピレーション2タイトル 『“SOUNDS FUNKY!” - JAMES BROWN 45S COLLECTION FROM T.K.』 『MASTERPIECE - CLARENCE REID 45S COLLECTION FROM T.K. 1969-1980』 リリース記念イベント