1stアルバム
『ザ・ムーヴィー』も、愛らしさの中に知的なウィットが見え隠れする素敵な作品だったが、2年ぶりとなる2作目
『アロー』では、リズム的にもひねりを効かせ、持ち味である弦楽アンサンブルの魅力がより立体的に。ドリーミィであると同時にオルタナ的。世界でひとつの
クレア&リーズンズ“らしさ”が際立つサウンドスケープを展開している。以前来日した折り、新宿高島屋でのウィンドウショッピングを楽しんだこともあるクレアらしく、ジャケットでかぶっている帽子はヨージ・ヤマモト。「友達からの借り物だけどね」と笑う茶目っ気がまた、ひらめきに富んだソングライターでもある彼女らしい。
――新作では、リズム面での新境地が多々聞かれますよね。歌詞の書き方も、少し変わって聞こえます。
クレア・マルダー(以下同)「そうなの! まずグルーヴを作って、そこにメロディやハーモニーを加えていく手法を、今回は多く取ったから。タイム感、ある種のリズムを感じさせるアルバムにしたかったのよね。たとえそれが予想外のリズムでもね」
――「You Got Time」では同じフレーズを繰り返し歌うことで、効果を上げています。
「呪文みたいでしょ。同じ言葉を何度も繰り返すことで、物事が実現することって、あるものなのよ。音楽的に言うと、歌詞は同じなのに、演奏がどんどん広がってドカ〜ン、みたいな展開が好きなの」
――多彩に展開する「Our Team Is Grand」は、“音楽の旅”のようです。
「“旅”に聞こえたならうれしい。というのも、歌の主人公はミツバチだから。彼らの苦闘の旅をイメージさせるような演奏にしたかった」
――それにしても、なぜミツバチの歌を(笑)?
「私の母が養蜂をやっているせいで、ミツバチって素晴らしいなと、以前から感嘆してたの。ミツバチのおかげで、私たち人間は花や作物に受粉してもらえる。生き残りをかけた彼らの奮闘ぶりって、すごいわよ。冬になると、働きバチが巣の中の女王バチを取り囲んで、羽根を震わせて暖めるの。摂氏40度を保つなんて、驚きだと思わない?」
――「This is the Story」の歌詞もおもしろいですよね。“話についての話”という一節が、入れ子細工の箱みたいで。
「その解釈、気に入ったわ(笑)。そこまで意識してはいなかったけど、話には必ず“裏”がある、ということについての歌なのは確か」
――曲の終盤、
ラヴェルの「ボレロ」がちらりと聞こえるのは、フランス出身であるご主人、オリヴィエのアイディアですか?
「そう。オリヴィエはラヴェルが大のお気に入りなの。編曲にどこかお茶目さを盛り込むのが、オリヴィエ流。音楽でも実生活でも、とにかくユーモラスな人だから」
――ということは、クレア&リーズンズの演奏に感じられる、ある種の“催眠性”には、オリヴィエの影響が多々ある?
「あはは。オリヴィエの世界で迷子になるのって、素敵よね。そうね……こと作曲と編曲に関しては、オリヴィエほど思慮深い人はいない。あらゆる角度からその曲を検討して、最高の仕上げをほどこすの。曲の流れをそこなうことなく、歌の言わんとすることを、より深めてもくれる」
――「Kyoto Nights」と「Perdue a Paris」では、パリと京都、2つの街が登場しますね。
「パリでは(歌詞にある通り)、しょっちゅう迷子になるの。街そのものが巨大な迷路みたいだし、私がまた、地図が大嫌いときている。迷子になるのが好きだし(笑)。京都に関して言えば、あの静謐な雰囲気に恋してしまった。幸福の象徴として歌詞に登場させてみたのは、そういうわけ」
――かと思えば、「Murder,They Want Murder」のように、ダークなユーモア漂う歌詞もある。人間観察から歌詞が生まれることって、ありますか?
「〈Murder…〉は、あくまで私の狂った頭の産物。小さな町が噂や間違った情報にふりまわされて、おかしくなっていく歌なの。たしかに人間観察から歌詞のヒントを得ることが多いけど、その後は思うにまかせて、物語をこしらえていく場合が多い。小説を書くみたいにね」
取材・文 / 真保みゆき(2009年11月)