ヒップホップとしてかっこよくいられたら――C.O.S.A.『Girl Queen』

C.O.S.A.   2017/07/07掲載
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 ヒップホップ・レーベル「SUMMIT」の所属アーティストらによるポッセカット「Theme Songs」にも参加し、確かな存在感を披露した愛知県知立市在住のラッパー / ビートメイカーC.O.S.A.が、6曲入りのソロ音源『Girl Queen』をリリースする。共鳴するKID FRESINOとの『Somewhere』が全国区での注目を集めたのち、満を持して登場する待望のEPでは、豪華プロデューサー陣によるドラマティックなビートを背景に、熱い胸の内を吐露するかのようなリリックが響き渡る、太く、濃いストーリーを紡ぎ上げている。
photo by cherry chill will
――2015年の『Chiryu-Yonkers』以降、ソロ・タイトルとしては初の全国流通盤のリリースになりますね。リリシストとして生身のC.O.S.A.さんが出た、大変揺さぶられる音源でした。数多くのライヴや客演、そして昨夏の『Somewhere』、再発されたCampanellaとの『COSAPANELLA』などでC.O.S.A.さんと出会ったリスナーにとって、期待以上の作品だと思います。16歳からラッパーとしての活動をスタートして、数年空白の期間があったようですが……。
 「そうそう、当時はビートしか作っていなくて。クラブにも遊びにしか行っていない時期ですね。『COSAPANELLA』はちょうどその頃の音源です。月10本くらい名古屋でライヴをやっていて、地元のヒップホップを聴かない友達がしてるような“普通の遊び”を全然知らなかった。あと、ラップすることがなかったんですね。特に内面的なことではなくて、単純にビートを作ってるのが楽しかったのと、遊びたかった」
――今も知立市にお住まいなんですよね。ベッドタウンのようなイメージでしょうか。
 「そうですね、繁華街もあるから知立とか刈谷だけで生活は完結できるのかな。知立は普通の街なんですけどね(笑)。名古屋市内に行くのは、働きに行くというよりも遊びに行く感じで。三河地方にトヨタ系の工場がたくさんあるので働きに行くのはそっちになるのかな。俺の目線だとちょっとすさんでいるように取られちゃうかもしれないけど。ただみんな仕事はきっちりしてるかな。俺の周りでは田舎だからヤンキー漫画に出てくるような価値観がいまだにあるし、そういう奴が多いかもしれないですね。女は守るべき、男は働いて子供食わせて……って」
――この作品で……お子さんが産まれたのかな、と思ったんですけど。
 「違いますね、そういう設定ですね」
――女性に対する目線がこれまでの作品とは切り口が変わったなと思ったんです。これまではつらい思いをしてる女性が出てくることが多かったように思えて。
 「何か俺自身に変化があったとかではなく。昔から女友達が多くて、普通に旦那がいるやつも、いないやつもいて。『Chiryu-Yonkers』のあとに『Somewhere』があって、そういう曲を歌うチャンスがやっと来たというか。『Somewhere』はKID FRESINOとの共作だったので、あまり言葉として自分の意見は入れないようにしていたから。ソロでは、自分の想っていることを前面に出して。だからフィーチャリングも入れなかったんです」
――いままでと何かが変わったわけではなく。
 「生きていると毎日同じことを想うわけじゃなくて、憎たらしい時もあったりするじゃないですか。そういう一場面を曲として表現したかった。テーマに沿うというよりは、テーマをどう表現していくかに今回は重きを置いたんです。〈La Haine Pt.2〉とか〈WGD〉のようなストリート的な歌い方をしつつも、そういうラインを入れたりとか、どっかで回収していこうと決めていましたね」
photo by cherry chill will
――『Girl Queen』は、C.O.S.A.さんも含め、GRADIS NICERAMZA、V Don、理貴、Arμ-2と、曲ごとに異なるビートメイカー / プロデューサーを起用していて、リリックもビートも共にストーリー性を孕んだ内容になっています。
 「『Girl Queen』の構成は昔から考えていたもので、それを実現できました。『音もなく少女は』(ボストン・テラン著)っていう小説があって昔からすごく好きで、そのサントラを作りたいって5年くらい前から考えていて。当時はビートで作ろうと思っていたんだけど。そこから派生して“女の子”をテーマに作りました。こういうのは自分としては稀かもしれないです」
――通して聴いても、まとまりのある作品になっていますね。
 「100%納得できるもの、完璧なものができたと思ってます。リリックもこだわって書いたので、30回くらい聴いてもらってこそ気づく部分もあると思います。歌詞カードを付ける・付けないってあるけど、俺らの世代は全部付いてたし(笑)。いろんなスタンスの人がいて、隠したいところがあるから載せないっていう“言わない美学”はあるけど、自分がこうと決めたことは一期一句表すべきだし、誰かが気に入らねえって言ってきても、受け止めます。それも含めて、これまでは歌詞カードを全部付けてきましたね、俺の曲を聴いて傷つく人もいるはずだから」
――C.O.S.A.さんは、比喩としてだけでなく、集団の中でもとても“声”が大きい。仰ってることが、誰の耳にもまっすぐに届くと思います。
 「どうなんでしょうね(笑)。ソロでの作品は、メッセージでしかないので。それ以外では作らないって決めていて。どうやって表現していくかを、いつも更新していこうとしてはいます。いままで自分がやっていなかったこと、できなかったことに挑戦していく。だから、全てがノン・フィクションではないし、フィクションもたくさん入ってる。それこそ、俳優のロバート・デ・ニーロが役柄そのままマフィアだなんて誰も思っていないのと一緒で、NASがカマしてることだって100%真実な訳は無いでしょ。一枚のアルバムがすべてフィクションでもいいと思ってる。ただ、現実で感じたことを、どうヒップホップ的にかっこよく表現するか、ですね」
――7月8日には、音源(アルバム『MOST HATED』)でも共演していたFIGHT IT OUTのイベント〈BOYS DON'T CRY〉に出演されますね。
 「FIGHT IT OUTはたしか〈REFUGEE MARKET〉で一緒になったときかな、2年くらい前に知り合って。今年の年始も名古屋にPAYBACK BOYSと来てもらったり。わりと一緒にやってますね。“いつもと客層違うから、こういうのはやめとこ”とか、そういうのはそもそも無いですし。互いに敬意を持って接してる。〈La Haine Pt.2〉はFIGHT IT OUTに提供していた曲なんですけど、『Girl Queen』に入ってるのは綺麗にしたヴァージョンです(笑)」
――レギュラー・パーティとして出演されている〈MdM(MADE DAY MAIDER)〉についても教えて頂けますか。
 「奇数月にいっぺんの感じでやってますね。そんな大したパーティではないんだけど(笑)。リリパとかじゃないと俺らもあんまり告知とか頑張らないんで(笑)、平日だと10人くらいしかこないこともあったり。基本的にはCampanella主催のパーティです」
――知立や名古屋でご自身のパーティをやることは?
 「まったく無いですね。今はほとんど遊んでないし、クラブも自分が出る時以外は全然行ってなくて。今回のアルバムは“知立”って言葉も全然使ってない。名古屋にとっても知立にとっても、俺が外に出て戦ってるほうが、みんなの最終的なプラスになるって思っています。人それぞれだと思うけど“外に出ていきたい”って気持ちのほうが強いかな。一番最初に、名古屋の外に呼んでくれたのはSUMMITなんですよ。2014年の〈AVALANCHE〉に、俺とTOSHI蝮とCampanellaで。名古屋以外、三重とか岐阜も含めて(ライヴで)外に出たのがその時初めてだったんですよ。そん時に池袋BEDにいたGONZくんが〈GONZALES〉に呼んでくれて、そこでWDsoundsのMERCYくんに“〈NEWDECADE〉出ない?”って声かけてもらって。SORAくん(DOWN NORTH CAMP)が〈NEWDECADE〉の時に観てくれてて、〈REFUGEE MARKET〉に呼んでもらって……。SUMMITが呼んでくれたことで、どんどん連鎖して縁が繋がったんですね。みんなは知らないだろうけど、俺の始まりはそこだったんで、今回のアルバムはSUMMITから出すのが筋だと思ってます」
photo by cherry chill will
――“こういう風に在りたい”って理想像はお持ちでしょうか。
 「“ヒップホップとしてかっこよくいられたら”とは思います。売れるためにそこを弱めるとかではなく。物心ついた時からずーっと聴いてきているし、夢中なので。おこがましいようですけど、俺の価値観全て心底ヒップホップだと思ってます。心技体というか、見た目も大事だし、歌だけじゃなく、在りようとして」
――今後やりたいことは?
 「ビートを作りたいですね。あとは仕事を辞めたい(笑)。仕事から生まれる発想もあるし、働くことが嫌いな訳では無いんですけど、ただ音楽に費やす時間がもっと欲しいって意味で。……ケンドリック・ラマーの『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』を聴いたときに、やりたかったことをやられちゃったなあって。バンドで楽器弾ける人をちゃんと呼んでやるには予算もかかるし……。今は、ブッキングだったり制作の面でもSUMMITが協力してくれて曲作りに集中できてますけど、音楽とは別の理由で、何かが実現できなくなってしまうことは無くしていきたいなって。あと、この夏は毎週のようにどこかでライヴをやっているので、ぜひ遊びに来てほしいですね」
取材・文 / 服部真由子(2017年6月)
C.O.S.A. Live Schedule
www.summit2011.net/live-schedule/
FAIRLY SOCIAL PRESS presents
BOYS DON`T CRY#4


2017年7月8日(土)
東京 初台 WALL
開場 17:30 / 開演 18:30
前売 2,000円 / 当日 2,500円

出演
LIVE: FIGHT IT OUT / ISSUGI from D.N.C / PAYBACK BOYS / C.O.S.A. / ROCKCRIMAZ
DJ: MARCUS / KENONE / NICERICE




SUMMIT presents
AVALANCHE 7


2017年8月11日(金・祝)
東京 渋谷 WWW X
開場 16:00 / 開演 17:00
前売 3,310円 / 当日 4,000円(ドリンク代別)

出演
RELEASE LIVE: SUMMIT / C.O.S.A. / VaVa / TWINKLE+
LIVE: CreativeDrugStore / BLYY / DyyPRIDE / SIMI LAB ほか
DJ: RE-JI / PUNPEE ほか




MdM
C.O.S.A.“Girl Queen”Release Party


2017年9月8日(金)
愛知 名古屋 栄JB'S
3,000円(+ 1drink)

出演
C.O.S.A.
GUEST: JJJ / DJ CH.0 ほか


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