“HIP HOPミーツallグッド何か”の現在地点――サイプレス上野とロベルト吉野『ドリーム銀座』

サイプレス上野とロベルト吉野   2018/12/11掲載
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 “HIP HOPミーツallグッド何か”――サイプレス上野とロベルト吉野が活動当初から掲げてきたコンセプトだ。今回このインタビューで、そのコンセプトがいかに発明されたかを知った。それは、ヒップホップをあまりにも愛し、あまりにも憎むがゆえに発明された、と言えるかもしれない。

 そしてメジャー・デビュー・フル・アルバム『ドリーム銀座』は、そんな“HIP HOPミーツallグッド何か”の現在地点と言えるだろう。ディープ・ハウス、ディスコあるいはブギー・ファンク、ブレイクビーツ、トラップもあれば、アーバンでメロウな曲ももちろんある。ファースト『ドリーム』(2007年)や『WONDER WHEEL』(2009年)のころのような伸びやかさに通じる部分も感じられる。メジャーからの初フル・アルバムという力みはない。

 インタビューに応じてくれたサイプレス上野は、アルバムの話はもちろん、近年のさまざまな現場での経験やちょっと昔の話もしてくれた。
――制作はどんな風に進めていきましたか?
 「俺個人でやる“自分業”が増えたのもあって、時間もないし(ロベルト)吉野とはスタジオで会って、“おう!”ぐらいの距離感で制作していきました。『コンドル』(2015年)のころは、吉野が活動休止から復帰したばかりだったから、あいつに仕事を与えようと思って、Cubase(音楽制作のソフトウェア)の使い方をおぼえさせようとしたんだけど、諦めた(笑)。小節数を増やすっていうBPMを計ったら3秒ぐらいで終わる作業なのに、吉野はパラになっているキックとかスネアのデータを1個ずつずらしていくっていう気の狂うような作業をやっていて。それを見てこいつにはもうやらせない方がいいなって(笑)」
――上野くんはこれまでも、サ上とロ吉作品の制作プロデューサーを担ってきたんですよね。
 「ずっと、ほぼほぼそうですね。あまりトラックのことは吉野とは共有していない。制作方法としては、リリックを書いてひとりで録音するという1枚目の『ドリーム』に近かったですね。『ドリーム』と2枚目の『WONDER WHEEL』(2009年)のあいだに、みんなが溜まれるヤサができて、『WONDER WHEEL』とかはそこに入り浸りながら作った。吉野やBEAT武士が録音に立ち会って、みんなで聴き直してああだこうだいいながらやってましたから」
――イントロに続く2曲目は、地元の横浜について歌う、ヒップホップで言ういわゆる“フッドもの”である「Yokohama La La La」。OZROSAURUS「AREA AREA」での「約何年経ったろう」というリリックの引用からはじまって、トラックも同じくDJ PMXが担当していて。2曲目からメロウで意表を突かれましたし、この場所に持ってくるあたりにメジャー・ファーストで原点に立ち返る感じが出てるな、と。
 「うん、たしかに立ち返るというのはあった。メジャー1発目の〈メリゴ feat.SKY-HI〉では楽曲としての華やかさがほしかったから、いまやスーパースターになった日高(光啓)という男に歌わせるというね(笑)。そういう広がりを意識しつつ、フル・アルバムを出すんだったらまずこういう地元の曲を出さないとなって。PMXさんは横浜のラスボスみたいな人じゃないですか。そのPMXさんが“一緒に曲をやろうよ”って言ってくれたから、ちょっと強気な、偉そうな言葉もハメたりして。こういう曲は横浜の友だちも喜ぶだろうし、横浜の地域性というか、オジロにしても、同い年のRudeBwoy Faceにしてもアルバムのなかに必ず横浜の曲が1曲は入りますからね」
――ところで、月並みな質問ですけど、テレビとかの露出も増えてやっぱり変わりましたか?
 「街を歩いてると若い子に“ああー、サ上だー”とかって指でさされたりして、“写真撮ってもらっていいですか?”って言われることは増えましたよ。それにしても、いまの若い子たちの写真撮るまでの時間はマジ短い! “写真いいっすか?”って言いながらもうすでに撮ってんじゃねえかよ!ってスピード感。まあいいんだけどさ。でも俺も大人だから電車の中では撮らせないよって。だから電車のなかで発見されると、わざわざ1回ホームに降りて撮りますからね。で、“閉まる前にはやく乗れよ!”って感じで急かして、ドアがプシューって閉まって俺はホームからそいつらを見送るというね(笑)」
――律儀ですねー。サ上とロ吉は活動初期から“HIP HOPミーツallグッド何か”を旗印に、いろんなジャンルや現場で活躍してきたじゃないですか。そのあたりの変化もあったりしますか?
 「吉野もLimited Express(has gone?)とやったり、刑⚡鉄(高橋‘JUDI’渓太とのメタル・ユニット)やったり、自由にやることが増えてますしね。昔から可愛がってくれてるけどLess Than TVとかバンドのライヴに呼ばれて行くと、実際どこかアウェイ感が初期はあったけど、いまはラッパーやヒップホップの連中が、バンドと同じイベントに出るのはまったく普通ですよね。“ういーっす”って自然な感じですよ。去年、〈ROCK IN JAPAN FESTIVAL〉にRHYMESTERの客演で俺個人で参加させてもらったんですけど、お客さんの受け入れ態勢ができているなって。もちろんRHYMESTERの強さや知名度もあるけど、もはや昔みたいに“ラップなんてさ……”みたいに軽んじられることはなくなってきましたよね。やっぱりMCバトルやフリースタイルの盛り上がりはその点では大きい。“なんで(フリースタイルで)あんな風に言葉を出せるの?”っていうシンプルな驚きがあるんですよね」
――しかも「フリースタイルダンジョン」の初代モンスターですからね。
 「そうっすね。G-Freak Factoryが群馬でやっている〈山人音楽祭〉に2016年にサ上とロ吉で呼ばれたんです。そういうフェスにMCバトルが出し物として組み込まれるようになりましたよね。そこでも“山人MCバトル”というのがあって、NAIKA MCとか崇勲も出てて。で、そのときに事件が勃発したんですよ。準決勝がはじまる前の休憩時間に興奮したMOROHAのアフロがステージに乱入してフリースタイルをはじめたんですけど、それにたいして俺がガチでキレちゃって。みんな主催側に呼ばれて真剣にMCバトルを戦っているのに、“なんでお前がこの場を仕切ってるの?”って。そしたら、“あんたは〜♪”みたいなフロウでやり返してきたからラップでディスりまくった。“お前は自分の音楽だけを信じてるとか言ってたけど、けっきょくCMに出たりしてるんじゃねえかよ”みたいなディスをしたりして」
――上野くんもCMやったりしているのに……。イヤな角度からのディスり方ですね(笑)。
 「そう、超イヤなディスをしまくった(笑)。“ナレーションとか全然いいけど違くない? そうやって自分演じて作って生きただろ。今の場所は違うよな、お前は”ってなりまして。最終的にお客さんもアフロの乱入は違うんじゃない?みたいな雰囲気になって。で、これには舞台裏の話があるんですよ。楽屋でアフロに“俺が悪ければ殴ってください”って言われて、それにたいして“MCバトルは人を殴るためにやってるわけじゃねえから、そこをはき違えるなよ”って俺はさらに説教した。そのやり取りを、NAMBA69として出演していた難波(章浩)さんなど名だたるバンドマンの方たちが見ていたんですよ。そこで俺は、やっぱりみんなMCバトルに興味があるんだなと、その浸透ぶりを実感したわけです」
――いや、最後の楽屋の話は少しヘンな盛り方しましたね(笑)。
 「揉めごとに興味があったのかな(笑)。まあこれは半分冗談としても、余談だけど、人気が出たといっても苦渋も舐めたりもしてますよ。2年ぐらい前、フリースタイルダンジョンのモンスターをやってるころか、その直後ぐらいに、音響系の専門学校の学生の企画でサ上とロ吉とBAD HOPが呼ばれた。で、そのときのライヴが信じられないぐらい盛り上がらなかった。え、マジっすか?!って感じ。たぶん、呼んだ人たちは俺らを好きだったけど、学生は音響を聴いていたのかな(笑)。もちろんT-PABLOWもフリースタイルダンジョンに出たりして、有名になっていっている時期です。だから、T-PABLOWも“いったいこれはなんなんすか?!”ってずーっと愚痴って超酔っぱらっちゃって。“上野さん、今日はもう飲みに行きましょう!”ってタクシーに押し込まれて危うく拉致られるところでした(笑)」
――この3、4年はいままで以上にMCバトルやフリースタイルをする機会が増えたと思うんですけど、そういう経験を通じて今回の作品に落とし込めるような、スキル的に得たことってありますか?
 「リリックの書き方は少し変わりました。フリースタイルはもちろん即興だけど、そうは言っても頭の中にストックしてあるネタがある。対戦相手によってケツはこうやって落としてやろうとか考えたりしている。例えば、“ageHaのデカさはお前には似合わないけど、俺には超似合う”とか。もちろん即興でやるから崩れることが多いけど、そういうフリースタイルの経験がリリックの書き方には影響した。8小節や16小節のヴァースを作るときに、先にオチを決めて逆算して書いたり、リリックノートに書き込んだ言葉をヴァースのオチに持っていくために組み合わせたりしましたね」
――SFモノの「PRINCE OF YOKOHAMA 2222」みたいなリリックを書く上で新しいトライをしてる曲があったりしますよね。その一方で、石野卓球がプロデュースした「ホラガイHOOK」なんかもある。
 「まず、卓球さんから長尺のテクノが送られてきたんです。そのときはDJ MISTA SHARさんがプリプロを担当してくれていて、SHARさんと“これはどこにラップをハメればいいんですかね?”“サビはどうしますか?”“連呼系にしましょうか”なんて相談して、“来週までにリリックを書いてきます”って別れたんです。で、いざ録音しようという段階になって卓球さんからギターの音が入った、トラックが更新されたヴァージョンが送られてきて、さあ、また、どうしましょう、と(笑)。それでもなんとかプリプロのラップ入りのものができた。卓球さんに送るとき、どんな反応されるか超怖かったですよ。結果的に卓球さんもすごく気に入ってくれて、去年の〈RISING SUN ROCK FESTIVAL〉のDJでリリース前にかけてくれて。VJの人も俺らの絵まで作ってくれたみたいなんです。卓球さんがこの曲を気に入ってくれてすごい救われましたよ」
――ディープ・ハウスからトラップに展開するYasterizeプロデュースの「ヒップホップ体操第三」があったり、STUTSのブレイクビーツの「新生契り」からmabanuaプロデュースの「ムーンライト」があったり、このあたりは“HIP HOPミーツallグッド何か”の真骨頂だなと思って聴いてました。
 「俺たちの世代って日本語ラップのゴールデンエラで、ヒップホップはこうあるべきっていう厳密な思想があったじゃないですか。でも、18、19歳ぐらいになっていろんな人のDJを聴くようになって、考え方も変わっていくようになる。キミドリクボタ(タケシ)さんはとにかくいろんな音楽をかけるし、スチャダラパーSHINCOさんも四つ打ちかけてる。“あれ? 先輩方は現場では意外にヒップホップかけないんだ”って衝撃を受けるわけです。さらに、エレクトロ・ブームもあって、ラジカセ魔とかヒップホップ最高会議的なイルセントリックファンクとかも知る。で、こういう自由な感じがいいなって考えるようになっていくんですよね」
――サ上とロ吉のメロウでアーバンなテイストは、横浜のPAN PACIFIC PLAYA周辺とのつながりもデカいんじゃないですか。というか、彼らと共通するセンスがありますよね。
 「それはデカいっすねー。横浜の長者町のBar MOVE(2018年4月に閉店)でやってた〈HEY MR.MELODY〉ってパーティによく遊びに行ってたのは大きいし、サ上とロ吉として呼ばれたりもしたから。同世代で俺ら以外にもこういう音楽をかけるヤツらいるんだって感銘を受けて、PPPとも仲良くなってどんどんつながっていった感じですからね。いまだにレコード買ってますしね」
――ここ最近は、下の世代や若い人から受けた刺激とかもあるんじゃないですか。
 「〈SUMMER BOMB〉で、Yo-Sea、kZm、JIN DOGGとか、いわゆる歌えるトラップのヤツらのライヴを観て衝撃を受けたりしましたね。kZmが“モッシュ・サークル作るから”ってステージから客に向けて呼びかけて、普通にピョーンとかダイヴしてお客さんの上で歌っちゃったりしてて超羨ましかった! しかも彼らはラップも上手いし、感銘を受けた。二木くんはわかると思うけど、恵比寿のMILKでヒップホップのイベントとかやってた時代、ダイヴなんてしたら頭から落ちちゃってたからね(笑)」
――ははは。過去DJ BAKURUMIPRIMALとの曲をMILKでやってダイヴが起こるみたいなことはあったと思いますけど、定着はしなかったですね。
 「そう。それだったのに、kZmのライヴとか観るとダイヴ文化が自然に生まれてて驚いた。え?! いまこんな風になってるの?って思った。俺はやっぱりライヴを観てもらうことが大好きなんでアルバムを作るときもライヴを想定して曲を作ってるところもあるので」
――「ヒップホップ体操第三」とか「上サイン」はそういう曲ですよね。
 「そう。だって、CD聴きながらひとりでヒップホップ体操やってたらあぶねえヤツでしょ(笑)」
――「RUN AND GUN pt.2」はLEON a.k.a.獅子(現Leon Fanourakis)DOLLARBILLとやった曲の第2弾ですね。BASIHUNGERという2人のラッパーを招いて、トラックはLIBROですね。
 「LIBROくんが鎖GROUPや漢くんとやるようになってからよく会うようになって。アルバムを作るという話をしたら、“トラック聴かせるよ”ってこの曲のトラックをピンポイントで送ってくれてきれたんです。LIBROくんのメロウな感じのトラックがくると思っていたから意外だった。この曲は攻撃的じゃないですか。それで、〈RUN AND GUN pt.2〉のアイディアが浮かんで。BASIくんとHUNGERくんとはずっとやりたいと思ってたんですよ。不良文化が強いヒップホップのなかで、そういうスタイルではないやり方で、大阪、仙台、それぞれの地元の街で認められていますよね。オリジナルのやり方をやっている人たちだと思いますし、同じ気持ちを共有できるだろうなって。BASIくんからは、吉野が休業中にもかかわらず、“上野のライヴが観たいから”って大阪にわざわざ呼んでくれたりもしたんですよ。DJは高槻POSSEのpekoに頼んで。そしたら、pekoが、吉野が“レペゼン”って声ネタでやる2枚使いを完璧にコピーしてやり切ったんですよ。吉野は十八番を奪われちゃってさ(笑)」
――なははは。
 「この曲では言いたいことがはっきりあったんですよ。というのも、ある時期からMCバトルの司会とかRAP STREAM(ヒップホップ・メディアのAmebreakが放送していたUST番組)のパーソナリティとか、その手の仕事が増えていったんですよ。そういう仕事があるのはありがたいんですけど、やりながら当初は“何かが違うぞ”っていう違和感もあった。司会者として、不良系、オタク系、いろんな人の話を聞きながら、“はい、そうですねー、なるほどー”って相槌打ったりしていて、“俺ってこういうタイプか?”って。自分を出すよりも人の話を聞く立場に立っていることに対しての疑問があった。それでも、俺は俺なりのやり方でやってきましたよっていうのを〈RUN AND GUN pt.2〉では歌ってる」
――「青春の決着」のトラックメイカーはZOT on the WAVEですね。
 「前から川崎チームに良いプロデューサーがいるという噂は聞いてたし、いろんなアーティストのクレジットで名前を見ていて。〈人間交差点〉(RHYMESTERが主催するフェス)のときに、ヤンハス(YOUNG HASTLE)やKOWICHIといったSOUTH SIDE川崎チームがMVを撮ってて、“上野くんも出てくださいよー”って言われて、カメオ出演するタイミングですかさず“ZOT on the WAVEいないの?”って聞いて紹介してもらった。その後、たくさんのビートを送ってくれたんですよ。〈青春の決着〉で使ったトラックはエモい感じだったから、3連符でたたみかけるようなラップじゃなくて、どっしりしたフロウでやろうと思った。前々からこういう曲は作りたかったんですよ。いろんなフィールドでやる機会が増えて、ただただお客さんを飛び跳ねさせるだけじゃなくて、ちゃんと聴かせる曲が作りたくて。これまでは雰囲気を落とすのが怖くて、常に盛り上げていないと不安だったんだけど」
――場をしっとりさせるのが怖かった?
 「うん、最近までそういうのがあった。でも、仲間と一緒にお店をやったりして俺らもいい大人ですから、そういう曲も作れないと。いや、もっと立派な大人になってるはずの歳なんですけどね(笑)。昨日もwhat's good(戸塚にあるサイプレス上野と地元DRMの仲間たちで運営するバー)に行ったら、店長(渡辺直樹 / かつてサ上と“DREAM RAPS”というグループで共に活動)にすげえ説教されて。〈Yokohama La La La〉のMV撮ったんですけど、吉野が酔っ払ってパブさん(DJ PMX)さんにちょっとご迷惑をお掛けしてしまったんですよ。それで俺はめちゃくちゃ吉野に怒って、軽く肘を入れてしまった。それについて店長が“吉野がたしかに悪いけど、手を出したら終わりなんだよ!”って、超泥酔しながら怒られるっていう。“早く帰りてーなー”って(笑)。SITEくん(Ghetto Hollywood)が監督してくれたんですけど、SITEくん、爆笑してましたね」
――ところで、自伝「ジャポニカヒップホップ練習帳」(2016年)を改めて読んだんですけど、とても面白かったです。ヒップホップへの愛憎の深さと“ナレッジ(knowledge)”っていう言葉を多用している、というのが印象に残った。
 「KRS・ワンかよ!ってぐらい、ナレッジが多め(笑)。まあ、いまもかもしれないけれど、昔はクラブの店長が、“ヒップホップ警察”じゃないけど、厳しかったじゃないですか。“お前こんなのかけてんじゃねえよ!”ってよく言われた。特に横浜のヒップホップのクラブは、2000年代初頭のシンセピロピロのヒップホップが全盛のときなんて、モロそういう雰囲気だったから」
――99年の曲だけど、ドレーの「ネクスト・エピソード」とか超ヒットしましたし、スウィズ・ビーツとかが全盛の時代に突入という感じですね。
 「横浜だし〈ネクスト・エピソード〉なんてかかったら大合唱ですよ。いや、俺たちもそういうヒップホップが好きだったし、ウェッサイ系の友だちもいたけど、ただ自分たちはそういう流れだけに沿いたかったわけじゃなかったから。俺らが自分たちのイベント〈建設的〉をはじめた、元町にあったLOGOSは特にヒップホップ以外かけるなんてもってのほかだった。週末はTAIJIさん、FRESHさんが作り上げた横浜の音にに加え、東京からHAZIMEさんとかMASTERKEYさんがゲスト出演する週末のパーティでLOGOSに行ってたんですよ。自分たちのライヴもなくて超ヒマだったから、毎週末いた。STERUSSに金を借りたりしてさ。まだ返してないけど。で、まあ建設的をLOGOSの平日にはじめるってなったときに、当然“ジャンルなに?”って訊かれますよね。“ALLMIX”なんて書いたら絶対殺されるから(笑)」
――わかります。音楽性の幅の広さを見せようとして、“ALLMIX”なんて言おうものならば、クラブ側からすれば、「客来ねえから!」って嫌がられる。
 「そう。それでどうすっかなーって考えて考えて、“HIP HOPミーツallグッド何か”って真剣に付けたんですよ。でもやっぱり、“お前、ふざけてんのか?”って言われるわけですよ。油井俊二(DREAM RAPSのDJ / 2017年4月24日永眠)は完璧にクボタ(タケシ)さんフォロワーだったから、いろんなジャンルの音楽をかけまくる。すると、店長に“上野、もっとあいつにヒップホップかけろって言ってこい!”って叱られて、それにたいして俺は“え? これもヒップホップじゃないんすか?”って返すという(笑)」
――ああ、なるほど。そうやって“HIP HOPミーツallグッド何か”ってコンセプトが生まれたんですね。そこからきた発明だった、と。
 「そうそうそう。これぞヒップホップ・ナレッジってやつですか(笑)。でも、だいぶ時代の状況も変わりましたよね。例えば、KID FRESINOSEIHOの組み合わせが普通に成立する時代でもあるでしょ。いまは建設的は休んでるけど、バンドも呼ぶし、DJがかけてるのは謎の四つ打ちとかノイズだったりするし、吉野の刑⚡鉄がバーカン前でやったりする。もちろん、ヒップホップのライヴもあって、神奈川つながりでNORIKIYOくんにライヴやってもらうこともあったりします。そういうカオス感をみんな普通に楽しんでくれるようにはなってきたと思いますね。フリースタイルダンジョンを観て来ましたって若い子がいても、みんな優しくするからいつの間にか常連になってモッシュしたりしてますよ」
――『大海賊』を出した1年前ぐらいのインタビューでは、しきりにMCバトル・シーンとヒップホップ・カルチャーの乖離について危惧するような発言をしていましたけど、この1年で変化はありましたか?
 「そんな変わってないとは思いますよ。先週の『The NIGHT』(AbemaTVのAbemaSPECIALチャンネルで放送されている番組)で宇多丸さん、K DUB(SHINE)さん、DABOさん、俺の4人でまさにそのあたりの話題になって口論にもなりましたよ。バトル・ヘッズをいまだに信用していない自分がいるんだけど、そういうことを言い過ぎると“ヒップホップうるさいおじさん”になっちゃうから気を付けないと。やっぱりヒップホップはユースカルチャーですから。そう言えば、この前、Zepp DiverCity TOKYOであった〈戦極MCBATTLE〉でDJ YANATAKEさんが〈メリゴ feat.SKY-HI〉をかけてくれたらしいんですよ。そしたら、すげえ盛り上がったみたいで。NONKEYくんがサイドMCに入って煽ってくれたのもあったと思うんですけど、本人不在でこんなに盛り上がるのかってぐらい盛り上がって。意外に俺らの音楽も聴いてくれてるんだって涙が出そうになりました(笑)」
取材・文 / 二木 信(2018年11月)
Live Schedule
ドリ銀インストアツアー
ミニライブ&MCバトル風撮影会


2018年12月19日(水)
神奈川 タワーレコード横浜ビブレ店
20:00〜
tower.jp/store/event/2018/12/135sauetoroyoshi

2019年1月19日(土)
大阪 タワーレコード梅田NU茶屋町店
イベントスペース
19:00〜
tower.jp/store/event/2019/01/096006

2019年1月20日(日)
愛知 タワーレコード名古屋パルコ店
パルコ西館1階イベントスペース
18:00〜
tower.jp/store/event/2019/01/015002saipuresuueno

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