――イントロに続く2曲目は、地元の横浜について歌う、ヒップホップで言ういわゆる“フッドもの”である「Yokohama La La La」。OZROSAURUS「AREA AREA」での「約何年経ったろう」というリリックの引用からはじまって、トラックも同じくDJ PMXが担当していて。2曲目からメロウで意表を突かれましたし、この場所に持ってくるあたりにメジャー・ファーストで原点に立ち返る感じが出てるな、と。
「吉野もLimited Express(has gone?)とやったり、刑⚡鉄(高橋‘JUDI’渓太とのメタル・ユニット)やったり、自由にやることが増えてますしね。昔から可愛がってくれてるけどLess Than TVとかバンドのライヴに呼ばれて行くと、実際どこかアウェイ感が初期はあったけど、いまはラッパーやヒップホップの連中が、バンドと同じイベントに出るのはまったく普通ですよね。“ういーっす”って自然な感じですよ。去年、〈ROCK IN JAPAN FESTIVAL〉にRHYMESTERの客演で俺個人で参加させてもらったんですけど、お客さんの受け入れ態勢ができているなって。もちろんRHYMESTERの強さや知名度もあるけど、もはや昔みたいに“ラップなんてさ……”みたいに軽んじられることはなくなってきましたよね。やっぱりMCバトルやフリースタイルの盛り上がりはその点では大きい。“なんで(フリースタイルで)あんな風に言葉を出せるの?”っていうシンプルな驚きがあるんですよね」
――SFモノの「PRINCE OF YOKOHAMA 2222」みたいなリリックを書く上で新しいトライをしてる曲があったりしますよね。その一方で、石野卓球がプロデュースした「ホラガイHOOK」なんかもある。
「まず、卓球さんから長尺のテクノが送られてきたんです。そのときはDJ MISTA SHARさんがプリプロを担当してくれていて、SHARさんと“これはどこにラップをハメればいいんですかね?”“サビはどうしますか?”“連呼系にしましょうか”なんて相談して、“来週までにリリックを書いてきます”って別れたんです。で、いざ録音しようという段階になって卓球さんからギターの音が入った、トラックが更新されたヴァージョンが送られてきて、さあ、また、どうしましょう、と(笑)。それでもなんとかプリプロのラップ入りのものができた。卓球さんに送るとき、どんな反応されるか超怖かったですよ。結果的に卓球さんもすごく気に入ってくれて、去年の〈RISING SUN ROCK FESTIVAL〉のDJでリリース前にかけてくれて。VJの人も俺らの絵まで作ってくれたみたいなんです。卓球さんがこの曲を気に入ってくれてすごい救われましたよ」
「LIBROくんが鎖GROUPや漢くんとやるようになってからよく会うようになって。アルバムを作るという話をしたら、“トラック聴かせるよ”ってこの曲のトラックをピンポイントで送ってくれてきれたんです。LIBROくんのメロウな感じのトラックがくると思っていたから意外だった。この曲は攻撃的じゃないですか。それで、〈RUN AND GUN pt.2〉のアイディアが浮かんで。BASIくんとHUNGERくんとはずっとやりたいと思ってたんですよ。不良文化が強いヒップホップのなかで、そういうスタイルではないやり方で、大阪、仙台、それぞれの地元の街で認められていますよね。オリジナルのやり方をやっている人たちだと思いますし、同じ気持ちを共有できるだろうなって。BASIくんからは、吉野が休業中にもかかわらず、“上野のライヴが観たいから”って大阪にわざわざ呼んでくれたりもしたんですよ。DJは高槻POSSEのpekoに頼んで。そしたら、pekoが、吉野が“レペゼン”って声ネタでやる2枚使いを完璧にコピーしてやり切ったんですよ。吉野は十八番を奪われちゃってさ(笑)」
――なははは。
「この曲では言いたいことがはっきりあったんですよ。というのも、ある時期からMCバトルの司会とかRAP STREAM(ヒップホップ・メディアのAmebreakが放送していたUST番組)のパーソナリティとか、その手の仕事が増えていったんですよ。そういう仕事があるのはありがたいんですけど、やりながら当初は“何かが違うぞ”っていう違和感もあった。司会者として、不良系、オタク系、いろんな人の話を聞きながら、“はい、そうですねー、なるほどー”って相槌打ったりしていて、“俺ってこういうタイプか?”って。自分を出すよりも人の話を聞く立場に立っていることに対しての疑問があった。それでも、俺は俺なりのやり方でやってきましたよっていうのを〈RUN AND GUN pt.2〉では歌ってる」
――「青春の決着」のトラックメイカーはZOT on the WAVEですね。
「前から川崎チームに良いプロデューサーがいるという噂は聞いてたし、いろんなアーティストのクレジットで名前を見ていて。〈人間交差点〉(RHYMESTERが主催するフェス)のときに、ヤンハス(YOUNG HASTLE)やKOWICHIといったSOUTH SIDE川崎チームがMVを撮ってて、“上野くんも出てくださいよー”って言われて、カメオ出演するタイミングですかさず“ZOT on the WAVEいないの?”って聞いて紹介してもらった。その後、たくさんのビートを送ってくれたんですよ。〈青春の決着〉で使ったトラックはエモい感じだったから、3連符でたたみかけるようなラップじゃなくて、どっしりしたフロウでやろうと思った。前々からこういう曲は作りたかったんですよ。いろんなフィールドでやる機会が増えて、ただただお客さんを飛び跳ねさせるだけじゃなくて、ちゃんと聴かせる曲が作りたくて。これまでは雰囲気を落とすのが怖くて、常に盛り上げていないと不安だったんだけど」
――場をしっとりさせるのが怖かった?
「うん、最近までそういうのがあった。でも、仲間と一緒にお店をやったりして俺らもいい大人ですから、そういう曲も作れないと。いや、もっと立派な大人になってるはずの歳なんですけどね(笑)。昨日もwhat's good(戸塚にあるサイプレス上野と地元DRMの仲間たちで運営するバー)に行ったら、店長(渡辺直樹 / かつてサ上と“DREAM RAPS”というグループで共に活動)にすげえ説教されて。〈Yokohama La La La〉のMV撮ったんですけど、吉野が酔っ払ってパブさん(DJ PMX)さんにちょっとご迷惑をお掛けしてしまったんですよ。それで俺はめちゃくちゃ吉野に怒って、軽く肘を入れてしまった。それについて店長が“吉野がたしかに悪いけど、手を出したら終わりなんだよ!”って、超泥酔しながら怒られるっていう。“早く帰りてーなー”って(笑)。SITEくん(Ghetto Hollywood)が監督してくれたんですけど、SITEくん、爆笑してましたね」