「メロウな感じで、ちょっと悪そうなグループが結構好きで(笑)、
ストリート系のヒップホップが好きですね。ドス黒い感じの」(深瀬)
──まず最初に、深瀬さんとヒップホップとの出会いは? 深瀬智聖(以下、深瀬) 「お姉ちゃんがめちゃヒップホップが好きで、その影響で聴きはじめました。一番最初はジブラさんの<Mr.DYNAMITE>を車でガンガンに聴かされて、それがすごく格好いいなと思って、それからお姉ちゃんにいろいろ教えてもらって。それが小6か中1ぐらいですね」
サイプレス上野(以下、上野) 「いやあ、ばっちりじゃないですか」
ロベルト吉野(以下、吉野) 「(深瀬さんの過去のツイートを見ながら)
ドスモッコスも聴くんですか?」
深瀬 「はい。私、出身が熊本なんで、地元の代表ですから、よく聴いてます。でも繋がりはなくて、お客さんとして観ていただけなんですけど」
──サ上とロ吉は熊本へは?
上野 「ライヴはないっすね。でも修学旅行で行きました」
深瀬 「そうなんですか! 私、アイドルになる前はバスガイドだったんで、修学旅行生の案内もしてたんですよ。また熊本にいらっしゃったときは案内しますね」
上野 「アイドルの観光案内……熱い(笑)!」
深瀬 「でも、そういう職業だったんで、基本的に早寝早起きの生活で、クラブとかはほとんど行ったことがなくて。だからバスガイドのときは、寮の部屋に籠もって日本語ラップをずっと聴いてました。最近は福岡のクラブ事情も厳しくて、夜中のイベントができないんですよね」
上野 「風営法での取り締まりが厳しくて。FREEZ君(
RAMB CAMP)のやってる博多の『BASE』ってクラブも、17時から0時までって営業時間になってて」
深瀬 「困ったモンですね!」
──風営法に苛立つアイドル! 素晴らしい!
上野 「一緒に<HOO! EI! HOO! '2012>作りますか(笑)」
深瀬 「みなさん遊べなくなっちゃいますよね。シーンがつまらなくなっちゃう!」
上野 「天使のような人だ(笑)。マインドが素晴らしい!」
──サ上とロ吉のライヴを観たことは?
深瀬 「残念ながら、まだないんです。ジブさんやライムスターが熊本に来たときは観にいきました。それから、まむしMC'sはよく観にいってましたね」
上野 「まむしMC's! 信頼できるなー(笑)」
深瀬 「地元のグループをよく観にいってましたね。それからメロウな感じで、ちょっと悪そうなグループが結構好きで(笑)、ストリート系のヒップホップが好きですね。ドス黒い感じの」
吉野 「ドス黒い(笑)!」
深瀬 「グラフィティとかネーム・シールがベタベタ貼ってあるような場所も好きで」
上野 「もし横浜に来たときは、ウチの近所のそういう所に招待しますよ(笑)」
──招待なの、それ(笑)。サ上とロ吉のアイドル遍歴は? 上野 「熱心にハマったことはなくて、デビュー当時の
広末涼子が好きだったぐらいですね。リリック帳に顔写真のシール貼ったり、ノベルティ・グッズを5,000円で友達から買ったり」
──世の中ではそれを熱心にハマってると言います(笑)。
上野 「電車の吊り広告とかポスターとか……まあ、深くは言いませんけど(笑)。でもアイドルにハマったのはそれぐらいですね。ただ、俺が子供の頃から住んでる横浜のドリームハイツって団地の友達が今になってどんどんアイドルにハマってますね。さすがアイドル戦国時代。だから、そろそろドリームにもLinQの波が来るかも知れないっす。でも、みんなアイドルにハマッてくの見ると面白いっすね。みんなどんどん熱くなって、頭おかしくなってて」
深瀬 「そうですね〜」
上野 「そうですねって……深瀬さんはみんなの頭おかしくしてる側ですよ(笑)」
深瀬 「あはは。でも、みなさん本当に熱くて!」
──綺麗だけどアイドルではない気も(笑)。 吉野 「あんまテレビとか観ないんで……。しいて言えば
SPEEDぐらいかな。スペイン坂でやってたラジオの公開収録観にいって、最前列で変な顔してメンバー笑わせたりしてました」
上野 「それじゃファンじゃなくてイタズラだ! ちなみに
バニラビーンズってアイドルなんですか?」
──なんという問題発言! アイドルだし、LinQと同じレーベルです。
上野 「T-Palette Records所属ですもんね。そうか、あの子たちもアイドルだったのか……」
──サ上とロ吉はバニビと共演する機会が多いし、仲良しだからそう感じるのかもね。
上野 「仲良くてファンから殺害予告されましたからね、俺は」
深瀬 「なんですか!? それ!」
上野 「バニビとイベントで一緒になって、彼女たちが口をつけたペットボトル奪って飲んだり、そういうギャグをやってたんですよ。そしたらファンの方に火が付いちゃって“上野を刺す”って予告をネットでされて。で『申し訳ナイト』主催者のミッツィー申し訳さんが、“じゃあ、上野が出る<申し訳>にバニビも呼ぼうよ”って、バニビのライヴの後に俺がDJするっていう狂気のマッチメイクが実現して」
──刺されるにはこれ以上ないドラマチックなタイム・テーブル。
上野 「で、俺のDJは謝罪から入るという(笑)。結局何もなく終わったんですけど、それを観にわざわざ
吉田豪さんが来てて“上野君が刺されないんなら帰るね”って颯爽と自転車で帰っていきました」
──上野君はアイドルと絡んで殺害予告されましたが、深瀬さんはこういうヒップホップ関連のツイートされると、Bボーイからの反響はありますか?
深瀬 「“熱い!”みたいな反響をいただきますね。“この曲も聴いてみてください”ってリプライもいただいたり、みなさん優しいですね」
上野 「俺らと反応が真逆じゃないですか(笑)」
──LinQ内ではヒップホップはどう受け止められてますか?
深瀬 「一ノ瀬みくちゃんっていう同い年のメンバーも結構好きで、私がジブさんの曲を口ずさんでると、そこに被せてきてくれたりするんですよね」
上野 「それじゃあこれから2MCとして活動するしかないですね」
深瀬 「でも、若いメンバーはあんまり聴かないって言ってるから、洗脳してる途中です」
上野 「(ニヤニヤしながら)いま話題の洗脳(笑)」
──タイムリー過ぎて書きづらいなあ。
深瀬 「私、オセロの中島さんに似てるってよく言われるんですよ!」
──自らそこに乗った! 無邪気すぎる(笑)!
深瀬 「最近、メンバーによく“今、ワイドショー出てたよね”とか言われるんです(笑)。早くテレビに戻ってきてほしいですね」
上野 「自分で振っといてなんだけど、面白すぎるでしょ、その返し(笑)。洗脳するときはどんな曲を聴かせるんですか?」
深瀬 「やっぱり、ジブさん、ライムスター、
DABOさん、ソウル・スクリームとかですね。ライヴ前にテンション上げるために“一点突破!”って歌ってたら、“また歌ってる〜”みたいな」
上野 「ライヴ前のかけ声とかあるんですか?」
深瀬 「ありますあります」
上野 「それを“一点突破!”にすればいいじゃないですか。“一点突破!”」
深瀬 「“いくぜヒップホッパー” ! それやりたい!」
上野 「
シャカゾンビの<共に行こう>もいいじゃないですか。“しかし夢を諦める訳にはいかないよ/自分の力を信じよう”って誰かが言ったら、全員で……」
深瀬&上野 「“共に行こう!”」
──どうかしてますね、ホント(笑)。
「アイドルは凄いですよね。
凄い過密な日程の中で振り付け覚えてライヴでは歌って踊ってエンターテインして。
ヒップホップ側の人間は見習うべきところがいっぱいあると思う」(上野)
──今はtengal6やrhymeberryみたいにラップをするアイドルもいますが。 深瀬 「羨ましいなって思いますね。私たちもラップ曲はちょっとやってみたいなって」
上野 「LinQの<きもち>はヒップホップ / R&Bのノリでしたね」
深瀬 「あの曲も、プロデューサーさんに、もっとベースを太くしてほしいってお願いしたら“中学生も歌うんだからそれは……”って止められて」
上野 「Bガール・マインドでの提案(笑)」
深瀬 「でも、ラップやるんなら本当に練習してからやりたいですね。安易には踏み込みたくない。やっぱりヒップホップが好きだから」
吉野 「素晴らしいですね。そのリスペクトしてる気持ちはホントにエラい」
上野 「俺はプロレスに対してそうなんですよ。<BUMP>のPVにレスラーの
葛西純選手に出ていただいたんですけど、サインを貰っただけで、連絡先とか絶対に交換できなくて」
深瀬 「その感じ、すごく分かります。私もあまりに好きすぎて、ヒップホップの一番好きなリリックとか、なかなか選べないんですよ」
上野&吉野 「おお〜」
深瀬 「ヒップホップについて何が一番とか、決められないんですよ。全部好きだし、みんなリスペクトしてるから。でも一番再生回数の多い曲だと、ソウル・スクリームの<蜂と蝶>と<コンパス>になるのかなあ……。それからライムスターの<リスペクト>も多いですね。最近だと、マッド・ブリッジっていう盛岡のグループをよく聴いてます」
上野 「コア過ぎる! ううむ……(指でフレームを作ってそこから深瀬さんを見ながら)見えてきたぞ!」
──プロデューサー目線(笑)。最近だとさくら学院「さくら百人一首」のラップ・パートをスチャダラパーのBoseさんがディレクションされましたが、サ上とロ吉がアイドルをプロデュースするとしたら、どんなアイドルを作りたいですか? 上野 「2MC1DJとかで、特にDJが完璧なスキルを持ってたりすると面白いかなって。最初はよくある感じで手振ったり振り付けで踊ったりしてるんだけど、いざとなるとスクラッチが半端じゃない、でもアイドル、とか面白そうですね。ポーズだけじゃなくて、凄くスキルフルだったりすると、みんなを驚かせられるかなって。大変な道のりかも知れませんが……是非!」
──あ、深瀬さんがやるんだ(笑)。
深瀬 「でも、DJできたりすると格好良いですよね。LinQのプロデューサーさんがDJもされる方なんで、遊びで教えてもらったりはするんですけど、まだしっかりはやったことないから、本格的にやってみようかな……」
吉野 「あと、地元の居酒屋で会えるようなアイドル」
上野 「それじゃただの美人店員だろ!」
『MUSIC EXPRES$』
「さくら果実/Sakura物語」
──ガールズ・バーだよね(笑)。お互いの作品についてどう思われましたか?
深瀬 「格好良かったですね。特に一番最後の<日本語ラップKILLA★>が好きで、何度も聴いて、何度も歌詞を読み返しました」
上野 「いやあ、よくあんなしんどい曲を(笑)」
──上野君の見てきた日本語ラップ・シーンの物語を10分近くラップする曲が一番好きとは……スゴすぎる!
上野 「報われたなあ。実家に報告しよう。“俺の曲も本もアイドルが知ってくれるようになったよ!”って(笑)。俺らの
『MUSIC EXPRES$』はパッと聴いて分かる部分と、何度も聴き直してもらうと響いてくる部分のあるアルバムになったんで、繰り返し聴いてもらいたいですね。俺はLinQの新譜で久々にアイドルらしいアイドルの曲を聴いたんですけど、音も曲もホントに良かった」
深瀬 「LinQは33人メンバーがいて、年齢も12歳から25歳までいるんですが、今回のシングルは可愛いチームの“LinQ Qty(キューティー)”が<さくら果実>を、セクシーなお姉さんチームの“LinQ Lady(レディ)”が<Sakura物語>を歌う両A面なんですね。
<さくら果実>はテクノ・ポップな感じで、歌詞もじっくり聴くと切ないラヴ・ソングって分かる曲で、
<Sakura物語>は和風ドラムンベースの大人っぽい格好良い感じになりました」
『LEGENDオブ日本語ラップ伝説』
上野 「俺は<申し訳ナイト>ってJ-POPをかけるイヴェントのDJでもあるので、LinQの曲は良いからどこかで使いたいなと。やっぱりアイドルは凄いですよね。みんな凄い過密な日程の中で振り付け覚えてライヴでは歌って踊ってエンターテインして。ホント知れば知るほど、ヒップホップ側の人間は見習うべきところがいっぱいあると思う」
深瀬 「嬉しいですね、アイドルのことをそんな風に見てくれてるなんて思わなかったから」
上野 「いやあ、見てますよ、ジットリとした目つきで(笑)」
──では、お互いへの期待も聞かせてください。
深瀬 「アイドル・シーンにも入ってきて欲しいですね!」
上野 「いいんですか! 『Friday』されてもいいですか!」
──また殺害予告されるよ(笑)。
対談翌日には『タマフル』のコーナー『DISCO954』に選曲&サイドキックでドキドキの生出演! サ上とロ吉とも1日ぶりの再会を果たしました。
深瀬 「サ上とロ吉さんの曲はこれからもずっと聴き続けるので、ずっと活動して作品を出し続けてほしいです」
上野 「俺たちも聴かせられるように頑張ります。俺たちからはDJやヒップホップをガッチリ取り込んだスタイルにチャレンジしてくれると嬉しいですね。これだけヒップホップが好きな人なら本当に信用できるから」
吉野 「“可愛くてドス黒い!”みたいなスタイルも見せてほしいですね」
深瀬 「ちょっとやんちゃな感じのアイドルですか? いいですね〜」
上野 「“バスじゃモロ最後部な奴ら(ジブラ<Mr.DYNAMITE>)”なイメージで」
深瀬 「素敵! それですね!」
上野 「いつも一番前だったバスガイド時代は出来なかったスタイルで(笑)」
深瀬 「アイドルらしくないモノをやるのも夢だし、いろいろ新しいことに挑戦したいですね。ヒップホップの人たちって自分の世界が強い人が多いから、アイドルが受け入れられるのかちょっと不安だけど、でも是非LinQも聴いてほしいですね」
『1997〜1998 COLLECTION』
(CD)
(LP)
──最後に、サ上とロ吉が深瀬さんにお勧めしたいアーティストは?
深瀬 「今も活動してるんですか?」
──トージンは「マッスル志願兵」という曲で“西鉄電車の痴漢を撲滅”ってラップしてるんで、LinQ「ハジメマシテ」の“西鉄バスでね!”という歌詞に繋がる部分もあったり。
深瀬 「そうなんですね。聴いてみます!」
上野 「完全に狂ったラップしてるんで注意して聴いてください(笑)」
との対談が行なわれた数日後の深瀬さんのTwitterでは……。
と、飽くなきヒップホップ探求心を見せ続ける深瀬さんであった……。
取材・文/高木“JET”晋一郎(2012年3月)
撮影/相澤心也
『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』写真提供/エドボル