【ダミアン・ジュラード interview】奥ゆかしさとミステリアスな美しさに酔う――シアトルの叙情派SSWダミアン・ジュラードの最新作

ダミアン・ジュラード   2010/05/25掲載
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【ダミアン・ジュラード interview】奥ゆかしさとミステリアスな美しさに酔う――シアトルの叙情派SSWダミアン・ジュラードの最新作
 80年代後半よりパンク/ハードコア・バンドに在籍、その後ソロに転向し、サブ・ポップ在籍時を含めすでに8枚のアルバムをリリースしているダミアン・ジュラードによる通算9作目の作品が『セイント・バートレット』である。1作ごとにその趣や風合いに変化が現れるダミアン作品だが、こまやかな音色のアンサンブルが音世界に広がりをもたらした本作を聴きながら私は、彼が暮らすシアトル近郊に広がる深い森を思う。雨に濡れて緑は鮮やかなのに、全体を覆う霧のベールが色のトーンを一段落として見せる、その奥ゆかしさやミステリアスな美しさに酔う。
――音楽にまつわる最も古い記憶を教えてください。
ダミアン・ジュラード(以下、同) 「〈ライオンは寝ている〉を聴いた時のことだね。まだ5歳くらいだったと思う。リトル・リチャードを初めて聴いたときのこともよく覚えてるんだ。小学校の廊下を一人で歩いていた時に、通り過ぎた用務室からその音楽が聞こえてきた。用務員の人は、ほうきを持ちなら、〈キープ・オン・ロッキン〉を聴きながら歌っていたんだよ。ラジオから流れていたその音楽にすごく心を奪われて、またショックを受けもした。僕は足を止めて、用務員の人に聞いたんだ。“これを歌っているのは誰?”って。彼はニコッとして“坊や、これはリトル・リチャードだよ!”と言った。そしてなぜか笑い出したんだ。思うに、僕が完全にその音楽に心を奪われて、呆然としていたのがおかしかったんだろうね。疑う余地もなく、リトル・リチャードは、未だに僕にその時と同じ大きな影響を与えているよ」
――バンド経験を経てソロに転向したわけですが、シンガー・ソングライターというスタイルに、当時のあなたはどんな可能性を見いだすことができましたか?
 「残念なことに、本当は他の人たちと一緒にプレイするのが好きなんだよね(笑)。他の人と一緒に何かをやるってのは、本当に何物にも変えがたい価値があるよ。でも、ソロを選んだ時は、これ以上バック・バンドとしての音楽家を続けたくないと思ったんだ。だから、ソロとして特に可能性を見出したって感じではなかった。最初は、何をやればいいのかも、まったく考えていなかったくらいで。今では、当時の自分の決断を不思議に思ったりするよね(笑)」
――シンガー・ソングライターとして、あなたが大きな影響を受けたミュージシャンを教えてください。よく名前が出されるニック・ドレイクティム・バックリィなどの音楽には、親しんで来たのでしょうか?
 「ニック・ドレイクやティム・バックリィについてはよく言われるんだけど、実はまったく影響を受けたとは思ってないんだ。プレスの人たちは、僕の音楽に彼らとの共通性を感じたんだろうけど。影響を受けたアーティストを挙げると、グレン・キャンベルとかジョン・デンヴァーだね。彼らには大きく影響された。後は、映画。古い映画が大好きなんだ」
――一連の作品を改めて聴き直すと、アルバムごとにサウンドは異なり、風合いも異なっているように感じます。自然の流れに任せて作り上げていった結果が、これだけのバラエティになっているのでしょうか?
 「曲それぞれには、それぞれの命があると思うんだ。僕は常に自分のことを、メッセンジャーだと思っている。だから、曲がどこへ僕を導こうとも、僕は必ずそれについていくんだ。その結果として、最終的にはすべてのアルバムはそれぞれ別の場所に辿り着くんだろうね。僕にとって、それが非常に重要なことなんだ。それって、僕がビートルズのアルバムが大好きな理由と同じなんだ。ビートルズがどこへ向かおうとしていたのか、また僕らをどこへ連れて行こうとしていたのか、全く予期できなかったっていう意味でね」
――本作には、いつになく、寒々しい空気や哀切を感じてしまうのですが、多くのミュージシャンがそうであるように、あなたもその時々の思いやムードを作品に反映させるタイプだとするならば、本作においてあなたが反映させたかったものは何でしょう?
 「このアルバムには、本当に多くの“感情”が存在するよね。でも、曲を書く時に、何かしらの感情を曲に反映させようと思ったことはないんだ。それは、決して僕にとってのゴールではないからね。僕は別の方法で感情を表わしがちなんだ。まったく喋らないとか、まったく食べないとかね」






取材・文/赤尾美香(2010年5月)
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