奇跡の来日を果たした、天才ブラッドフォード・コックス率いる
ディアハンター(Deerhunter)。そのライヴはアルバム以上に神懸かり的でミステリアス、まさにニューゲイザー、ニュー・サイケデリックを牽引するバンドだというのを証明してくれました。そして、ついに3作目
『マイクロキャッスル』で日本デビューします。まさか、天才と喋れるとは思っていなかったけど、けっこう普通にいい人でした。もっと神経質でパラノイアチックな人かと思ってました。彼は27歳、ぼくは44歳と17歳離れていますが、一緒にCD屋さんに行って、いろんなCD見ながら音楽の話をしたら、楽しいんだろうなと思わせてくれるような人でした。
――日本のライヴはどうでしたか。日本のファンはあなたのような本当の音楽好きが多いから、海外でやるよりやりやすかったのではないですか?
ブラッドフォード・コックス(以下同) 「みんなから僕と同じような波長をすごく感じた。でもイギリスやアメリカのライヴがやりにくいとは思わないよ」
――日本の好きなアーティストを教えてください。
「うーん、たくさんあるな」
――では一番好きな3つをあげてください。
――おっ、ジャジィなのも好きなんですね。
「ジャジィなのは好きじゃない、エクスペリメンタルな彼らの作品が好きだ。そして
ボアダムス」
「いや、ぜんぜん。もちろん、知ってはいたよ。なぜライヴを一緒にやったかというと、ブッキングされたからだよ。でも今回、彼らのことはすごく気に入ったよ。いいライヴ・バンドだ」
「なんでなんだろう、分かんないんだ。でも、すごく好きなんだ」
――『マイクロキャッスル』ではこうしたバンドの影響よりも、よりシューゲイザー的な音になっていると思うのですが、それはなぜなのでしょうか? ニューゲイザーと呼ばれることをどう思いますか?
「そうかな、ぼくはそう思わないけど。ぼくたちは自分たちが気に入る曲をやっているだけで、自分たちはニューゲイザーとか、呼ばれるものとはまったく関係ないと思っている」
――サイケデリックって呼ばれるのは?
「サイケデリックって呼ばれる方がしっくりくる」
――では、自分たちは新しいサイケデリックの流れを作っているんだと意識していますか?
「そういうことは全然考えていないんだ。自分たちの音楽はすごくパーソナルなものだと思っている。僕は音楽を時代とか、場所とかそうしたものと関係して考えたりしない」
――『マイクロキャッスル』もやはりそうしたパーソナルなアルバムなのでしょうか?
「そうだね。でも、自分からこの曲はこういう曲だというのは言いたくないんだ。そういうのはリスナーが好きに判断してくれたらいいと思う」
――そうなんですね。では初歩的な質問をしていいですか? なぜ、ディアハンターというバンド名にしたんでしょうか?
「ディアハンターってバンド名は大嫌いなんだ。一番最初のドラマーがつけたんだ」
――ではあなたのソロ・プロジェクト、アトラス・サウンドもあまり意味がないのでしょうか?
「使っていたマイクロフォンの名前だよ」
――えっ、アトラス・サウンドのレコーディングに使っていたというカラオケ・マシーンについていたやつですか?
「そうだよ」
「知っているよ。日本製だよね。僕が一番最初に買ったレコードはエコー&ザ・バニーメンの
『クロコダイルズ』だったんだ」
――サイケデリックですね。やっぱサイケが好きなんですね。
「サイケというか、サイケデリック・パンクだよね。サイケデリックだから買ったんじゃないよ。中古で安く、メンバーが木にもたれている変なジャケットのレコードだったから買ったんだ」
――でも一番最初にエコバニを買うなんて変わってますね。
「レコードではね。CDだとたぶん、
マドンナとかを買ったんじゃないかな、覚えてないんだけど」
――普通ですね。
「普通だよ」
取材・文/久保憲司(2009年6月)