保守化が進行し、商業ポップが全盛を迎えつつあるイギリスにおいて、真に革新的な音楽の創造を目論む若き野心家たち。それが、このマンチェスター出身の3人組、
デルフィックだ。眩い光を放つようなシンセのシークエンス、90年代以降のクラブ・ミュージックからヒントを得たダンス・ビート、そして強烈な陶酔感を生むドラマティックなメロディが混然一体となったサウンドは、近年のエレクトロ・ロック勢とは明らかに一線を画する、新しい魅力に溢れている。先日発売されたデビュー作
『アコライト』は、全英初登場8位という成功を早くも獲得。マンチェスターの輝かしい伝統を継ぐ存在となり得る彼らが、退屈な英国シーンに揺さぶりをかける。
――バンド結成時のヴィジョンは?
マット・コックセッジ(g/以下、マット) 「自分たちが本当に興奮できるものを作りたかったんだ。それに、周りとは違う音楽が作りたいとも考えてたね。僕らの音楽は、ラジオ向けの退屈な音楽に対する反動だと思う。それに、ソウルに欠けたダンス・ミュージックやエナジーのないロックに対する反動でもあるね。つまり、つまらない音楽への反発ってことさ」
――ここ数年、イギリスでは、インディ・ロックとエレクトロのクロスオーヴァーが盛んでした。それはどう思ってました?
リチャード・ボードマン(syn/以下、リック) 「好きだったよ。でも、あれは僕たちよりもエレクトロ寄りだったよね。ここ数年、ああいう音楽は本当にビッグだった。でも、僕らはベルリンのミニマル・テクノとかから、もっと影響を受けてる。だから、あのクロスオーヴァー現象とは、意識的に距離を置こうとしたんだよ」
――実際、『アコライト』は、最近のエレクトロ・ロックとは明らかに違うし、新しい何かを切り開こうという意志に満ちていると思います。
リック 「うん。それにアルバムに関しては、一枚の作品として、まとまりのあるものを作るのも重要だった。全体に流れのある、旅のような作品にしたかったんだよ」
――『アコライト』はアルバムのタイトルであると同時に、本作の真ん中に収録されている曲の名前でもあります。この曲がアルバムの中心的な役割を果たすもの、と考えていいのでしょうか?
リック 「その解釈は満点(笑)」
マット 「このアルバムは〈アコライト〉を中心に作られたんだ。だから、これが絶対にタイトルじゃなきゃいけなかった。あの曲が中心にあって、それまでの曲はあの曲に向かって盛り上げていく感じだし、その後は終わりに向かって盛り立てていく構成だからね」
――この『アコライト』という言葉には、どんな意味を込めたんですか?
マット 「信じる者っていう、すごく楽観的な意味なんだ。それが、このアルバムで一番重要なアイディアだからね。ここでは物事がポジティヴに変わっていくことを信じてるんだ。青臭いくらいに楽観的なんだけど、“それでもいいんだ”と言ってる。物事をよくしたいと思うのは決して悪いことではない、ってね」
――でも、本作は単に楽観的なだけではないですよね。前向きさとメランコリアが同居していて、そのぶつかり合いがカタルシスを生んでいます。まるで変化への期待を持ちつつも、少しばかりの不安を心のうちに抱えているような。
マット 「まさにその通り。その二つの感情のぶつかり合いを表現したんだ。またも正確に言い当ててくれたね」
――ロマンティックな感覚も特徴の一つですよね。
マット 「そうだね。たとえば早朝の誰もいない道とか、霧に覆われた丘とか、そういうものが持つロマンティックなイメージを捉えたかったんだ。でも、それはマンチェスターの街を反映してもいると思う。暗くて雨が多いけど、そこに美しさもあるから」
――やはりマンチェスター出身であることの影響は大きいですか?
リック 「影響は避けられないね。マンチェスターはダンス・ミュージックを世界で一番受け入れた街だし。僕らがダンス・ミュージックをやるのも理にかなっていると思う。それに、マンチェスター出身の偉大なバンドはたくさんいるよね。
スミス、
ニュー・オーダー、
ストーン・ローゼズ……。彼らよりもいいバンドになりたいんだ。もしストーク出身だったとしたら、いい競争相手がいないから、ストークで一番のバンドになろうとしても、あんまり意味がないよね?」
ジェイムス・クック(b、vo) 「でも、
ロビー・ウィリアムスはストーク出身だぜ(笑)。彼は悪くないじゃん」
リック 「(笑)。とにかくマンチェスターには偉大なバンドがたくさんいたから、健康な競争心を持ちやすい。そういった意味でも、マンチェスターからは影響を受けているよ」
――わかりました。今日は以上です。ありがとうございました。
マット 「ありがとう。最後に伝えたいんだけど、君は本当に僕らのアルバムをよく理解してくれてるね。これまでインタビューした誰よりも。僕たちのやりたいことを本当によくわかってたから、嬉しかったよ」
取材・文/小林祥晴(2009年11月)